第64話
第63話のおさらい
朝の通学の途中、響は北瀬戸公園の一本の木の根元にスコップで穴を掘っていた。
学校。
響の母に朝早く家を出たと聞いていた涼太郎は、響が一体何をしていたのかと問いかける。
響は罠を仕掛けていたと淡々と返す。
津久井と七瀬は番組枠の決定権を持つ編成との会議に出席。
会議には番組の内容から放送の曜日、時間割を決定する権限を持つ編成局の部長と局長が参加していた。
民放でトップの視聴率を持つ一ツ橋テレビの編成のトップはイコール全メディアの頂点だという七瀬。
肝心の響の許諾を受けていないにも関わらず、津久井の堂々たる嘘の説明によって「響ドキュメント」は津久井の当初の思惑通りに特番の枠の獲得に向けて話が動いていた。
響ドキュメント企画に手応えを感じている津久井は、編成局の上層二人に向けて、自分は編成のステップを飛ばして社長になるのだと自信たっぷりに主張する。
続く制作班の会議では響の学校が始まったので平日の撮影は無くしていく方向に意見が集約され始める。
津久井は響がプールに浮かべた浮き輪の上で文庫本を読んでいる映像を見て気づかれていると悟り、もう暫く、カメラを一人増やして密着すると方針を示す。
素直に従う制作班の面々。
響は自分以外に誰もいない北瀬戸公園のベンチで一人文庫本を広げていた。
突如上がる、きゃあ、という悲鳴。
響は悲鳴の上がった方向に歩いていくとそこには尻から地面の落とし穴に落ちた七瀬がいた。
響は、何をしているのかと短く問いかけ、木に立てかけてあったスコップを手に取って威圧するように七瀬を見下ろす。
そこに津久井が堂々と姿を見せて近づいていく。
何者かの接近に気付いた響は津久井と目を合わせる。
そんな響と津久井の対峙する光景を、同行したもう一人のカメラマン、楓子が藪の中からハンディカムで着々と撮影していた。
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第64話
涼太郎が一人、廊下で窓際に立ち外を見ているのを通りすがりのリカが発見する。
リカが涼太郎に向けて、放課後に一人は珍しい、響は? と問うと、今日は絶対ついてくるなって、と答える涼太郎。
北瀬戸公園でスコップを持った響と津久井が対峙している。
七瀬は穴に尻から落ちた姿勢のまま、何ででてきたの、と響の前に現れた津久井を見る。
(! 私を助けに。それは絶対ないし。)
「響さんこれは一体……」
津久井は明らかにカメラを意識した口調で響に話しかける。
七瀬は不安げに津久井を見つめている。
響は津久井から目を逸らさず、スコップを持つ手に力を入れる。
「ウチのスタッフが何か不手際を……」
津久井は胸を開くように両腕を左右に広げながら問いかける。
津久井が言い終わる前に、響はゆっくりとスコップを振り上げて剣先の腹の部分を津久井の左腕に打ち付ける。
目の前で起こっている出来事に驚愕し、表情を歪める七瀬。
「アンタが黒幕ね。」
響はスコップの持ち手に両手を載せて悠然と構えた姿勢のまま津久井を見下ろす。
(殴んなら黒幕かどうかの確認してからだろ。さっすが……)
津久井は地面に倒れて、響に打たれた箇所を手で押さえたまま不敵に笑う。
七瀬は、ひっ、と小さく悲鳴を上げて穴から立ち上がり、その場から逃げるように駆け出していく。
七瀬は藪に身を潜めて撮影している楓子に、怖かった、と縋りつく。
七瀬を視線で追っていた響の視界に捉えられた楓子は七瀬に体を揺らされながら、ちょ、と声を上げる。
まだいたの、と呟く響。
そこまでして私を隠し撮りして何がしたい、と倒れたままの津久井に響が問いかける。
(……あのアホ。)
七瀬の失態を横目で確認しながら胸元につけていたマイクを摘む。
(これ以上撮っても仕方ないな。)
津久井は立ち上がり、鮎喰響、と声をかける。
響は津久井の方に体を向ける。
「お前のドキュメンタリー番組を作ってる。」
端的に響の疑問に答える津久井。
……初耳よ、と驚きの表情を浮かべて響が呟く。
津久井は不敵に笑いながら、安心しろ、ほとんどのシーンは撮り終えて、あとはタレントを集めてスタジオ収録だけだ、と言い放ち、おつかれ様、と拍手する。
藪で響と津久井のやりとりを見ているだけだった七瀬と楓子に、津久井は帰っていい、と声をかける。
七瀬は、あの子怖い、と言って楓子に早く帰ることを促す。
楓子は戸惑いながらも七瀬と共にその場を早足で離れていく。
「以上で密着は終了だ。」
津久井は響を真正面に見据えたまま堂々と宣言する。
そして、さきほどスコップで津久井を殴ったシーンは「天才児理解不能の凶行」のようなナレーションをつけてラストに使わせてもらう、と続ける。
止めなさい、とシンプルに命令する響。
「鮎喰響」
津久井は響の言い分を全く無視して自分勝手な主張を始める。
「お前は本物の天才だ。才能は世に出なきゃいけない。」
私の人生を勝手に決めるな、と響が津久井を睨む。
それはこっちのセリフだ、と津久井は一歩も退かない。
お前は世に出るべきと俺が判断した、とさらに勝手な主張を展開する津久井。
「一ツ橋テレビプロデューサーの俺の判断に素人のお前が口出すんじゃねえよ。」
嫌なら力ずくで止めてみな、と言う津久井に向けて、響は再度スコップを振りかぶる。
津久井の身勝手なショービジネス論
津久井は、手のひらでスコップの柄の部分を受け止める。
予想外だったのか、少し驚く響。
「その気になりゃ16歳の女の力なんてたかが知れてるよ。」
スコップの柄を両手で握り、津久井は響を振り回す。
響は、きゃっ、と悲鳴を上げて地面に横倒しになる。
「響」
響から奪い取ったスコップの剣先を地面に突き立てる津久井。
「お前はこれから表に出てスタートして脚光を浴びてもらう。」
どうしても嫌だということも出来るが、そしたらどうなると思う? と津久井は響に問いかける。
目の前で勝手な持論を展開し続ける男を睨みつけ、何が、と響が問う。
「別の誰かがスター扱いされる。」
津久井はショービジネスでは天才扱いされるスター役、ライバル役、脇役と配役が決まっていて、適役がいなくてもそれっぽい奴がスターの役を行うことになる、と自分の世界観を展開する。
「だったら俺は、本物が見たい。」
津久井は真剣な表情を響に向ける。
そして、向いてるから、他に人がいない、流行り、そういう全ての理屈を言い訳にする圧倒的な本物だと響を評価する。
響は黙って津久井の言葉を聞いている。
親か育ちか、前世で徳を積んだのかは知らないが、文才に見合うスター性を持っている、と言う津久井。
「天才ってのは文字通り天からもらった能力だろう。正しく使え。」
「大衆に響を憧れさせてやってくれ。」
跪いた姿勢のまま、響は津久井を見上げている。
津久井は、収録は11月25日、気が向いたら来てくれ、と言い、スコップをその場に置いて踵を返す。
響は置かれたスコップの柄を握る。
津久井は、そうそう、と言い、素早く振り向きながら、スコップを振り上げて肉薄していた響の腹を蹴る。
言葉も出せずにその場にしゃがみこんだ響に、やられた分はやり返す、と勝ち誇る津久井。
放映は12月24日、家族とでも自分の勇姿を堪能してくれ、と津久井は悠然とその場を引き上げる。
響は視線を地面に落としたまま、その場に蹲る。
そして、公園に一人取り残されるのだった。
修学旅行
一夜明けて学校。
黒板には大きく修学旅行の文字が書いてある。
修学旅行
京都・奈良 9/22~
時間厳守!!
クラスでは6人グループで机をくっつけて話し合いをしている。
同じグループになった響と涼太郎は他のメンバーの他愛も無い会話を聞いている。
「俺は寺好きだけどな、」
寺は全部一緒だと主張し、盛り上がる女の子たちの会話に乗るように、しおりを見ている涼太郎が発言する。
「なんかさご利益ありそうで。」
途端に女の子たちの態度が変わる。
「分かるー! パワースポット的なね!」
「リョータ君一緒に伊勢神宮に行こっか。」
それ三重ね、と冷静につっこむ涼太郎。
ざけんな女子! と他の男子から声が上がる。
響の隣の女の子が、鮎喰さんは京都好き? とおずおずと尋ねる。
響は、好き、と笑顔で答える。
「舞妓さんの服とか着てみたい。」
涼太郎を中心に盛り上がっていた女子たちが好反応を返す。
「あー! それはマジでいい!」
「鮎喰さん天才!」
女子のみんなで舞妓体験行こうよ、と盛り上がる女の子達に、いいね、楽しみ、と響が穏やかに笑う。
そんな響の様子に違和感を覚えた涼太郎が問いかける。
「響 昨日何かあったのか?」
響は、ぽかんとした表情で涼太郎の言葉を聞いた後、ううん何も? と口元に笑顔を浮かべたままさらっと答える。
しかし涼太郎はそんな響の態度に違和感を覚えたのか、冷静に響を見つめ続ける。
その間も、グループは留学旅行の話題で盛り上がる。
京都へ
新幹線が走る。
京都で響たちは楽しんでいた。
清水寺、京都の街並み、舞妓体験。
女子が舞妓に、男子は新選組の衣装を着て、揃って記念撮影をする。
夜。北瀬戸高校の宿泊先。
女子の寝室で枕投げが行われている。
響のバッグで携帯が鳴る。
私の電話だ、と枕投げをしている女子の輪から響が外れる。
そのタイミングで女子たちが会話する。
「なんかさー鮎喰さんてとっつきにくい子って思ってたけど。」
「ねえ なんつーか柔らかいよね。」
「旅行終わったらさ、ウチらのグループ誘おっか。」
「いいんじゃない? 本以外の広い世界教えてあげよ。」
響は彼女たちとは少し離れた所で電話に出る。
相手は花井だった。
一ツ橋テレビの制作部から電話があり、響のドキュメント番組用の資料提供を申し込まれたと言う花井。
響は全く動じる事無く、ああそれ知ってるよ、と軽く対応する。
「大丈夫 適当に相手しといて。」
え…? と意味が良く分からない様子の花井。
「どうせ潰れるから。」
響の一言に戸惑う花井。
大丈夫大丈夫、と繰り返し、適当にやっちゃってと響は軽く答える。
花井はただただ戸惑い、響のテンションの高さを指摘する。
響はただ、うん、とだけ答える。
(収録は11月25日だから――)
津久井の顔を思い出す響。
「楽しみな事ができたから。」
そう言う響の目は座っており、かつてない迫力を醸している。
感想
津久井はあまりにも響を舐め過ぎた。
こうなると、一体どんな無茶苦茶な事をやって反撃するのかが俄然楽しみになってくる。
是非、ラストのコマの響の表情は雑誌か単行本で確認しましょう。
だってこれがこの第64話におけるもっとも肝要なコマだから。
大げさかもしれないけど、このラストのコマの、かつて見せたことの無い響の表情一つで前の話から次の話へのブリッジになってると言っても良いくらい。
かつてない凄絶な表情であり、津久井の命があるのかなと危ぶむレベル(笑)。
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ちなみに、響が津久井にスコップを奪われて「きゃっ」と女の子らしい悲鳴を上げるところとか、結構レアな響が見られる。
こんな作り笑顔、取り繕った態度の響を見たことがありますか?(笑)
今号のスペリオールは面白い。当サイトでも追っている「血の轍(サイト内血の轍関連記事ページに飛びます)」も読んでるならおすすめです。
響が男なら津久井を物理的にリンチしていてもおかしくない。
多分、少なくとも社会人生命は閉じるだろうことは容易に察することが出来る。
収録現場及び番組自体が無茶苦茶になって津久井は上から大目玉という表現が生ぬるいくらいの叱責を食らうだろう。
いやぁ~。柳本先生最高だわ。ラストのコマの引きが強すぎる。
52話からここまで、読者は響が津久井にやられっ放しなのを見てきてかなり溜め込んでる。
それが恐らくは次の65話、もしくはその次くらいで巨大なカタルシスとなって読者を襲うことになるだろう。
楽しみ過ぎるわマジで。
しかし、一体何をやるんだろうな~。
11月25日のスタジオ収録の現場に行くってことなんだろうけど、その時点で響の正体はテレビ局中にバレるだろう。
どう考えても響の旗色は悪い。
スタジオを壊しまくるのもいいけど、結局マスコミはそれさえもネタに出来るのであって、もしそうなったら響の負けだろう。
全く想像がつかない。ただただ次のスペリオールの発売日が楽しみ。
響は怒りが頂点に達するとテンションが上がって、周囲の人から見たら付き合いやすくなるってのも面白い。
さすがに響と向き合ってきた年数が長い涼太郎は響に違和感を覚えていた。
しかし、違和感だけで、響が怒りを秘めているとまでは知らない。
つまり、響自身、16、7年の人生において、未だかつてなったことの無いモードになっているということだ。
帝国ホテルでの授賞式ではちょっと顔を撮られそうになっただけでカメラマンのカメラを蹴り飛ばし、フードを脱がされそうになったら周囲にカメラがあることなんて全く意に介さずにカメラマンに蹴りをくらわせた。
それは放出すればすぐに冷静になる瞬間的なものだった。
しかしここまで怒り心頭の響が一体どうなるのか。
スタジオ収録の現場でどんなバーサーカーモードが見られるのかな(笑)。
以上、響 小説家になる方法第64話のネタバレ感想と考察でした。
第65話の詳細は以下をクリックしてくださいね。
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