第37話 凡人
新人賞受賞後の山本
花代子が自分の部屋でテレビのニュースを見ている。
寝る前にメールチェックをすると新着があることに気づく。
題名は新人賞の一次選考の結果。
文面に落選の文字があるのを見て花代子はがっくりと俯く。
喫茶メルヘン。
「週刊文衆の記者の家に乗り込んで……」
花井が額に指を当てて俯いたまま黙る。
記事にしないと約束したのか、と問うリカに、響は、そんなに悪い奴じゃなかった、と答える。
警察沙汰にならなかったなら良しとする、と俯いた状態から体を起こした花井は続けて今後の予定を説明し始める。
来月1月15日に芥川賞直木賞の受賞者が発表され、帝国ホテルで記者会見。1か月後の2月に授賞式。
花井は、自分の知る限り記者会見も授賞式も出なかった作家はいないが、女性作家がストーカーに遭った過去もあり、15歳ということを考慮して響は欠席も許されるだろうと説明する。
出るわよ、と即答する響。
え? と意外そうな花井。
「賞はもらうけど顔は出さないっていうのは失礼でしょ。」
響はケーキを口に運ぶ。
(正論……)
花井は反論できず、また俯いて頭を抱える。
マスコミに顔はバレる、という花井に、変装するとか? と返し、受賞したら考える、と響は涼しい顔で答える。
まだ1か月あるし、と気を取り直した花井は、学校の子は響が小説を書いていることを知っているのかと響に問う。
響は、言ってない、と答える。
どこからバレるかわからないから言わない方がいいかもね、という花井の言葉に響は、なるほど、と納得する。
そこに通りかかった花代子とガラス越しに響たちと目が合う。
花代子が店内の響たちに駆け寄る。
「どうして喫茶店にいるんですかっ?」
リカは、部活サボってごめんね、と花代子に笑顔を向ける。
花代子の目が合い、花井は、その節はありがとう、とお礼を言う。
たしか編集の人ですよね、なぜここに響が? という花代子の疑問に、えーと、と答えに窮する花井。
リカは、私の打ち合わせをしてる時に響は花代子と同じように通りかかったのだとスムーズに説明する。
二人とも仲直りしたんですね、と笑顔の花代子。
これ以上打ち合わせが出来ないことを悟った花井がおもむろに席を立とうとすると、花代子が何かを思い出し花井に話かける。
「あのっ、私の小説読んでもらえませんか。」
はい? と戸惑う花井。
小説をNF文庫の新人賞に応募していると話す花代子に、リカが、出してたんだ、と反応する。
花代子は一次選考に通ったら報告しようと思っていたが、二回応募して二回とも一次で落選なので悪いところをプロの編集者に教えて欲しいという。
花井は笑顔で、分かりました、と答える。
「あなたには制服の借りもあるし。」
響の連絡先を知りたくて、学校内に潜入するための変装用に花代子に制服を借りていた花井は花代子の頼みを断れなかった。
花代子は花井とリカのスマホにデータを送り、ガラケーの響には花代子のスマホを渡す。
花代子の作品を読む三人。
(編集者の人が、目の前で私の小説読んでる。)
三人を眺める花代子。
(女子高生が夜の公園で傷だらけの男の子拾って、実はその子がバンパイア。)
読みながらリカが内容をまとめる。
(二人の共同生活のお話か。)
ありがとうございます、読ませていただきました、と花井。
緊張気味で、はいっ、と答える花代子。
花井は、文章は荒いし構成も起承転結を意識して、と小説の技術的な感想を述べたあと、小説をきちんと完成させて新人賞に応募したことが十分すごいとフォローする。
今は色んなことを経験して自分の世界を広げる段階、その上で楽しんで小説を書き続けてください、と笑顔の花井。
花代子は安堵した表情で、はい、と返事をする。
リカは花代子が活動熱心で文芸部部長として嬉しい、と花代子に笑いかける。
響は真剣な表情で「花代子はバンパイアが好きなの?」と花代子に問いかける。
続けて、前にもバンパイアの話を描いていた、と確認する響。
花代子は、ロマンチックで儚くて好き、と笑顔で答える。
響は、人の作品を評価とかしたことがないから、と前置きし、バンパイアにロマンを感じない、と話を開始する。
バンパイアは人の血を吸う以上、感染症や寄生虫が心配で、血を吸われた人もバンパイアと化すならばそれは感染症を持っていることだという響。
そんなロマンのない、と言う花代子に響は、うん、と答える。
表面的なロマンしか感じられない。リアリティがなく、小説というよりバンパイアのファンブックのようだと続ける。
呆然と響を見つめる花代子。
それが悪いということではないが、これは好きなものを好きに書いただけ。
言葉にするのは難しい、と前置きし、響は「少なくとも、コレは自己表現のレベルじゃない。」と言い放つ。
ショックで固まる花代子。
喫茶店からとぼとぼと帰っていく花代子の背中を見送る三人。
厳しく言うのも優しさかもね、プロになれるオリジナリティは持っていないし、と呟く花井。
これで小説書くのやめたりしないといいけど…、と続ける。
同じ学校、文芸部でかたや新人賞一次落ち、かたや初投稿で入選。しかも芥川賞直木賞ダブル受賞の女子高生になるかもしれない。
「才能ってやつは本当 慈悲がない…」と花井。
「かよちゃんは大丈夫だよ。ああ見えて芯が強いトコあるから。」とリカ。
無言の響。
それ以来文芸部に来なくなった花代子だったが、10日後に、書き直してきた、と勢いよく部室のドアを開ける花代子。
来たねー、と笑顔で迎えるリカ。
花代子は、家で書き直していた、と部活をさぼっていたことを謝る。
いーよいーよ、と笑顔のリカ。
響に言われてバンパイアのことをきちんと書いたという花代子に、本当に素直な子だと思うリカ。
二人分のプリントした原稿をリカと響それぞれに渡す。
面白くなってる、とリカが褒める。
やはりオリジナリティはない。
プロになることはないかもしれないが、小説が好きで、楽しく文章を書いている。
(こういう素直さは羨ましいな。)
響も、面白くなってる、と一言褒める。
ホント? と素直に喜ぶ花代子。
うん、それでね花代子、と響が鞄の中に手を入れてとったものを出す。
「私も書いてきた。」
直筆の原稿用紙の束を胸元で掲げる。
え、とあっけにとられるリカと花代子。
響は、言葉で伝えるのが難しいから私なりのパバンパイアのロマンを小説にしてみた、と花代子に原稿を手渡す。
受けとった原稿を読む花代子の隣で原稿をのぞくリカ。
時間経過。
(ワンセンテンスでセンスの違いがわかる。同じ題材でここまでカッコよく…)
驚愕するリカ。
(悪魔かこの子……)
さすがの花代子もここまで力量の差を見せつけられたら……、とリカは寂しそうな表情をする。
響ちゃん、と口火を切る花代子。
「これパクッてもいい!?」
その表情は喜びに紅潮している。
どーぞ、と即答する響。わーい、と喜ぶ花代子。いや…とつっこむリカが突っ込むも特に動きは無し。
「え? それでいいの?」と拍子抜けした様子のリカ。
(純粋…っていうか、この子単なる…)
バンパイアの主人公がすごく好きだ、と満面の笑みで答えて、私もこういう子書いてみたい、と無邪気な花代子。
俯き、手を額に当てて考え込む仕草を見せたは、まぁ、二人がいいなら、と納得してみせる。
「一応言っとくけどパクッたの投稿しちゃダメだよ。」
あはは、と笑い、しませんと即答する花代子。
「バカじゃないんですから。」
無言のリカと響。
感想
花代子は凡人だけど、同時に美点をもっている。
響に厳しく小説を評価してもらっても感情的に怒ったりしなかったこと。
そして、注意されたことにも素直にアナウンサーの言聞いて実行する『素直さ』。
この調子で修正と添削を繰り返せば出版レベルに達するかどうかは怪しいが、クオリティは高まっていくと思う、というよりそう信じたい。
でも「パクッていい?」と堂々と聞いてしまえるあたり、そこまでオリジナリティに執着している訳でもないのかな。
花代子は本当に普通の高校生女子だが、ここまで素直だとそれも中々いないような……。
もっと自意識や我があっても良いと思うんだけど……(笑)。
ただでさえ響やリカのような異才が登場する物語。
彼女らのような高校生ばかりが頻出する物語ではリアリティを著しく欠いてしまうし、こういう子がいた方が面白い。
以上、響 小説家になる方法 第37話 凡人のネタバレ感想と考察でした。
次回、38話の詳細は以下をクリックしてくださいね。
コメントを残す