第43話 逃走中
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響、記者会見から逃げる
駅のホームのベンチで電車を待っているリカ達。
(……やっちゃった。)
リカがスマホで、響がカメラマンに蹴りをくらわせている様子の配信を見ている。
ディスティニーランドを堪能して、楽しかったという花代子。
うさぎの耳のような飾りのついたカチューシャを見て外せというタカヤ。
涼太郎はスマホに見入っているリカに何を見ているのか問う。
リカは涼太郎にサッカー中継と答える。
「日本負けちゃったよ。」
へー、という涼太郎。
響はどうして帰った? という花代子にリカは、さあねえ、としれっと答える。
記者会見の場では響が仰向けに倒れたカメラマンを見下ろしている。
その周囲を囲む呆然としたマスコミたち。
「蹴った……」
TVカメラを構えている男がつぶやく。
その一言をきっかけに、堰を切ったようにマスコミから一斉に響に質問が飛ぶ。
「響ちゃん今 間違いなく蹴ったよね!」
「頭掴まれたのそんなに嫌だった!?」
「カメラの前で暴行したことになるけど!」
「とりあえず顔出して謝罪するべきじゃ。」
花井は響とマイクを突き出して来るマスコミの間に立ち、響を守っている。
(とにかく、ここを出ないと。)
(どうやって…)
花井が必死に考える。
(出入口は逆側にひとつだけ。周りはマスコミに囲まれててとても辿り着けない。)
廊下にもマスコミがいることに思い当たり、無理して出るべきか考えていると、響が、ふみ、と呼ぶ。
「今日はありがと。」
響は片手を顔の横に上げる。
「私 先に帰るね。」
壇上に上がり、背もたれを掴んでイスを持ちあがる。
花井の脳裏に木蓮新人賞受賞会見場で田中をイスで殴りつけた記憶が蘇る。
響きが椅子をもって駆け出す。
花井が呆然と響の向かう先を見ていると、響は窓に向かって走っていく。
(まさか、)
響は窓に向けて思いっきりイスを振り下ろす。
「痛った…」
窓は割れず、響は痺れた手を見つめている。
花井もマスコミも響の行動に釘付けになっている。
あ、と窓を開ける鍵を見つけた響は、鍵を回して開いた窓枠に足をかけて花井たちに向けて片手を上げる。
「じゃーね。」
響きが窓を乗り越え、外の建物の上に降り立つ。
建物の上を進み、はしごを登る。
マスコミが響を追いかけようと外に向かう。
「花井さん、」
取り残され、呆然と窓を見ている花井に豊増幸の編集者である久美が色々察したような表情で声をかける。
あ、と我に返って久美を見る花井。
「申しわけありません 会見滅茶苦茶にして…」
いやまあ、なんていうのか、と前置きする久美。
「お疲れさま…」
花井は、はい…、とその場にへたり込む。
約束は守る響
記者会見を行っている帝国プラザホテルの地下1階のバー。
扉には本日貸し切りの看板がかかっている。
携帯で響が記者会見の場からいなくなったことを聞いた男。
「あの…響さん。帰られたそうです。」
バーに集まった作家たちが険しい表情で男の報告を聞いている。
不快さを隠さない作家たち。
記者会見が始まって間もないが途中で帰ったのかと問う作家。
「会見中 質問した記者にマイク投げつけて、カメラマン蹴とばして、窓から脱走したそうです。」
その場に集まった作家が皆一様に唖然とする。
もしかしたら会見後のこちらのことは知らなかったのかもしれません、というホテルマンに「知ってるよ」と鬼島が答える。
「俺が伝えてある。」
「記者会見後 ホテルの地下のバーで選考委員の作家との会食があるってな」
したり顔で語りだした、とふざけてヘッドロックをされたり、持っているグラスに酒を注がれる鬼島。
「ですから響は来ると思いますよ。コート返す約束もしてあるし。」
バーの扉が開く。
「こんばんは。」
コートのフードを取って、響きが笑顔で挨拶する。
響は、その場にいる作家全員の名前を呼んでいく。
「私の小説読んでくれてありがとう。」
「面白いと思ってくれたら嬉しいし、つまらなかったら残念だけど仕方ない。」
「また小説は書くから。次も読んでくれると嬉しいわ。」
鬼島に、助かった、とコードを返す響。
「今、逃亡中なの。」
響は自分のダッフルコートを着ている。
「急いでるからもう行くね。」
「じゃーね。」
顔の横に片手を上げて挨拶し、扉を開けて出て行く響と入れ替わりにマスコミがバーにやってくる。
響を知らないか、というマスコミは鬼島の持っているコートを指さす。
「鬼島先生の持ってるダウン! ちょうどそういうの着てるんです!」
響が着てたコートだと気づいて作家たちに響の居場所を問うマスコミ。
響はその喧噪を背に、地下街を悠然と歩いている。
豊増幸が電話で娘と話している。
あと30分程度で着くから寝なさいという幸に拒否の意を示す娘。
娘はテーブルの上の手作りのホールケーキの前で突っ伏して幸と電話している。
芥川賞を取った『屍と花』が5万部、800万円が入ってくると報告する幸。
娘は800万!? と驚いている。
居酒屋で向き合って飲んでいる作家と編集。
編集が前のめりになって作家を励ましている。
二階堂は、路上を歩きながら電話で社長に正社員の件お願いしますと伝えている。
山本の『豚小屋の豚』を褒める編集者。
次で作風が完成する、次回作が早く読みたい、と笑顔で山本を励ます。
無表情の山本は「ありがとうございました」と頭を下げる。
北瀬戸駅。
踏切の警報音が鳴っている。
山本は降りている遮断機の前立って目を閉じて空を仰ぐ。
ふう、と一息つくと遮断機を掴む。
電車が通り過ぎていき、遮断機が上がる。
山本の隣にはいつの間にかメガネの少女――響が立っていた。
感想
やはり響を知る者たちの抱えていた予感の通り、無茶苦茶になってしまった。
しかしマスコミの包囲を脱出したのは流石は響、と言える方法だった。
さながらアクション映画のような逃走っぷりに唖然となる出版関係者やマスコミたちが痛快。
その後、選考委員の小説家たちに挨拶するために鬼島に約束した通り地下のバーに寄る律義さも良い。
その挨拶の仕方も堂々としている。
短い挨拶の中で、その場に集まっている一流の小説家たちをきちんと尊敬していることがわかり恰好良い。
こんな人間いないよなぁ、と思いつつ、憧れる。
クレイジーだけどめちゃくちゃ面白いから、少なくとも遠くから見ている分には最高の存在だと思う。
小説家に限定しないから、現実に現れて欲しい。
既存の才ある者の存在を一掃してしまうような、強大な影響力を持つ化け物が。
以上、響 小説家になる方法 第43話 作者のネタバレ感想と考察でした。
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平手友梨奈ちゃんが響を演じることになりましたが、どう感じましたか?
コメントありがとうございます!
良くこんなキャスティングになったなと思いましたよ。もちろん良い意味で。
正直、実写映画化が発表される前は、実写で演じるならもっとルックスが地味な子かなと色々妄想してました。
平手さんは響同様、若くして注目されているアーティストなので、響の役に内面からハマるのではないかと期待してます。
何しろ、アイドルにそんなに詳しくない自分でも名前や顔を知ってるわけですから。
あと、作者の柳本先生も平手さんが響を演じることに関して太鼓判を押してます。
だから平手さんが響を演じてくれることにも実写化に関しても、とても楽しみです。
劇場には初日に観に行く予定です!