第57話 傷心
第56話のおさらい
東京ビックサイトで行われている大規模な同人誌即売会。
そこで長蛇の列の先にあるサークルで同人誌を販売している霧雨アメ。
同人誌は瞬く間に売れていく。
翌日、ナリサワファームで月島とテーブルを挟み対峙している霧雨。
『漆黒のヴァンパイアと眠る月』のイラストを依頼されていた霧雨はラフ原画を月島に見せる。
微妙な表情の月島は、イメージをすり合わせるために作者に会って欲しいと霧雨に懇願する。
北瀬戸駅に着き、喫茶店に入った月島と霧雨を待っていたのは花代子だった。
憧れの霧雨アメに会えて喜ぶ花代子。
響から裁量は任されているという花代子にラフ画像を見せる霧雨だったが、花代子の反応が思わしくないのを見て、仕事が詰まっている自分の都合で勝手に描いた、これで進めたい、さもなければイラストから下りると脅す霧雨の背後に響が立つ。
原画を手に取り厳しい表情の響は霧雨が小説を読んでいないことを喝破する。
それでも、自分の絵には力があって、イラストを担当するだけで売れる、と自分の絵の価値を響に説く。
おもむろに霧雨のラフ画像の描かれた紙を破る響。
えっ、と間抜けな声を出す花代子。
呆然となる月島と霧雨。
響は霧雨に、冷徹に描き直しを要求する。
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響 小説家になる方法 第57話 傷心のネタバレ感想
ビンタ
ビリビリに破かれた霧雨のラフ画がテーブルに無造作に置かれている。
花代子と、青くなった月島が口を開けてそれを眺めている。
月島さん、と霧雨がおもむろに声を出す。
月島は霧雨に視線を移し、絶句している。
霧雨は、僕は降ります、と帰り支度を始めている。
大事にする気はないが、ラフの作業代は請求する、と凄む霧雨。
「後でメールします。」
霧雨が去り際の挨拶する。
響のビンタがパァン、と霧雨にクリーンヒットする。
「あなた頭おかしいんじゃないの。」
霧雨は響に向き直る。
「……は?」
今自分の身に起きたこと、言われた事が信じられない様子の霧雨。
響は鋭い眼光で霧雨を睨みつける。
「描き直せって言ってるのよ。」
いや…、と呆然となっている月島。
花代子は片手を振り上げ、そーだそーだ! と響に同調している。
しかし霧雨に睨まれ勢いが消沈する。
霧雨が響に正面から相対し、睨む。
突然、足を一回ドン、と踏み鳴らし、同時にバッ、と手を振り上げる。
揃ってビビる月島と花代子。
響は全く意に介さず、霧雨を真っ直ぐ見据える。
響の一切動じていない様子に狼狽える霧雨。
「月島さんなんなんだコイツ!」
イスに座ったまま、えーとえーと、と説明に窮している月島。
「こっちのセリフよ。」
響は霧雨を睨んだまま問う。
「なんなのあなた。」
そばにある椅子を引く響。
水を持ってきたおじさんの店員に注文をする。
騒ぎに全く動じていないおじさん店員は何事もなくその場を離れる。
再び霧雨を睨む響。
「座りなさい。」
霧雨はリュックを背負い、その場にじっと立って響を見ている。
響は『眠る月』の原稿がデータなどでこの場で読めるかを月島と花代子に問いかける。
慌てて探す花代子と月島。
『漆黒のヴァンパイアと眠る月』の原稿が画面に表示された状態のスマホがテーブルに置かれる。
霧雨はその場に立ったまま、響たちから顔を背けている。
座るように促す響。後ろから蹴り飛ばされたいのか、と続ける。
「……どこまでも非常識な奴ね。」
棘のある言葉で追い打ちをかける。
「君にだけは言われたくない。」
人の絵を破り、殴って、と響を睨む霧雨。
「そう思うならやり返しなさい。」
響は霧雨の言葉に即応する。
「自分を晒すのが作家でしょ。」
霧雨は、全く動じていない響を、相手にしていられない、と言わんばかりの表情で見る。
踵を返し、出口のドアを開ける。
響は、その霧雨の背中を思いっきり足の裏で蹴る。
暗躍する者
駆け寄る花代子。動けない月島。
「痛って…」と霧雨が呻く。
「響ちゃんどうどうどう!」
花代子が響の首を後ろから抱きしめる。
「ちょっと落ち着いて…」
響に挑みかからんばかりの様子の霧雨を両手を挙げて制する月島。
外は雨が降っている。
「お前……本当、なんなんだ!」
霧雨が問う。
「ケンカを売ったのはアンタが先。」
響は、花代子に背後から首を抱かれたまま霧雨を真っ直ぐ見据える。
霧雨は表情に驚きを浮かべる。
「人の小説をでたらめにいじって、私が傷つかないとでも思ったの。」
響を見つめたまま、言葉を失う霧雨。
一瞬の間をおいて霧雨が言葉を返す。
「…だから、それは悪かったけど。」
「けど、じゃない。」
全く勢いを止めることなく霧雨を追求する響。
「あなたは悪よ。」
喫茶店の入り口で響達が起こしている騒動を、電柱の影からハンディカムで撮影している女性――七瀬。
(………なにこの子……)
ビデオのフォーカスは響を中心に捉えている。
黒雲が散り、雨がやむ。
津久井と、まさかの七瀬再登場
市ヶ谷駅。
駅の階段の前で相対している霧雨と月島。
月島は、おずおずと、お疲れさまでした、と挨拶をする。
続けて、切り出しにくそうに『漆黒のヴァンパイアと眠る月』のイラストに関して口にする。
月島を見ず、そっぽを向いていた霧雨は、駅構内へと歩き始める。
その霧雨の背中に、まだ連絡する、と言うのが精一杯の月島。
霧雨が行ってしまうと、ひとつ、深いため息をつく。
そして、スマホを取り出し電話をかける。
月島は電話先の相手に、響と霧雨が会ったと切り出し、霧雨がイラストを降りることになりそうだと報告する。
電話先の相手――津久井の目の前にはノートパソコンがあり、画面には響が霧雨に蹴りを入れているシーンが映し出されている。
なにがあったんですか? と白々しく問う津久井。
月島は騒動があったことを伝え、響と霧雨を会わせるべきではなかったと言う。
NF文庫編集部では小説家とイラストレーターを会わせる方針だが、例外はある。
津久井がどうしてもというから……、と軽く津久井を責める月島。
「いや申し訳ない。まさかそんなことになるとは。」
白々しく答える津久井を、すぐそばで立っている七瀬が不安げな表情で見つめている。
いくら社外秘だったとしても『漆黒のヴァンパイアと眠る月』のアニメ化の話を霧雨に伝えても良かったのでは、と月島。
それを知っていたら全力を出してくれただろう、と続ける。
同意し、もう言ってもいい、と言う津久井。
今更ですよっ! と語気を強める月島。
「アメさん怒って無言で帰っちゃって!」
「そうですか、次のイラストレーター探します?」
津久井は事も無げに返す。
そうなると思います、と答えた月島にキャッチホンが入る。
それじゃあ、と電話を切った津久井に七瀬が問いかける。
「今の電話から察するに、『響』が揉めそうなシチュエーション、津久井さんが作ったんですか…」
津久井は口元に笑みを浮かべ、七瀬を見たまま黙っている。
「響さんが自然に振る舞えないから絶対見つからないようにって言ってましたけど、ひょっとして、」
七瀬は恐れ慄いた表情を浮かべている。
「…ドキュメンタリー作るのに本人の許可とってないんですか…?」
津久井は笑みを崩すことなく、やはり黙ったまま七瀬を見ている。
(……嘘でしょ。)
絶句する七瀬。
響のジャッジ
マンション。
303号室。表札には「村田」と表記されている。
月に照らされた部屋で、霧雨は作業机の前に座っている。
(人の小説でたらめにいじって、私が傷つかないとでも思ったの?)
思い出す響の言葉。
スマホが鳴り、電話に出る。
「『眠る月』は読んだ?」
霧雨は驚き、スマホを耳から離して画面を見て誰からの着信かを確認する。
「あなたの番号は月島から聞いた。」
一瞬の間の後、読んでないよ、と答える霧雨。
「そう。」
あっさりと返事する響。
「読んで。」
端的に要求する。
霧雨は、どんな絵を描いているか知らない癖にどうして自分にこだわるのかを問う。
「言ったでしょ。あなたは悪だから。」
即答する響。
「改心するか、絵描きを辞めるかしてもらう。」
「あなたみたいな人に小説をいじられる作家さんがかわいそう。」
黙って聞いていた霧雨が話し出す。
自分は業界トップクラスのイラストレーターで、自分に描いてもらえるなら5割の力でも構わない作家がいくらでもいる、と諭すような調子で続ける。
「誰それ。」
響の問いかけに、答えに詰まる霧雨。
「本当に何割とか言う人いたの? あなたが勝手に解釈したんじゃなくて?」
霧雨は言葉を失う。
「モノを創るのに何割とか言う奴が本当にいたのなら、そいつは作家じゃないから相手にしなくていい。」
響の言葉をじっと聞いていた霧雨は、少しの間の後「そうかもな」と響に同意し、条件を出す。
『漆黒のヴァンパイアと眠る月』を読んで面白かったら全力で描くが、つまらなかったら断る。
いいよ、と即答する響。
「…カッコいいな君は。」
感心すら滲ませた様子の霧雨。
霧雨が、読んだらこの電話の番号に、と電話を切ろうとすると電話が花代子に代わる。
「アステカ君は絶対絶対クール系の銀髪長身にして下さいっ!」
「目の色は赤でっ。」
「千鶴ちゃんは絶対胸おっきくしないでっ! そういう子じゃないんですっ!」
ブランコに座って、霧雨に夢中で矢継ぎ早に要望を言う花代子。
霧雨は嫌な雰囲気を出すことなく、今から読むから、と答える。
響もブランコに座り「読むって言ってるから任せなさいよ」と隣の花代子を諫める。
感想
霧雨アメはさすが業界トップなだけあって、響の放ったクリエーター魂を揺さぶる言葉に反応せずにはいられなかったようだ。
全力でモノを創る、という心意気はクリエイターとしての最低限の心構えであり、また、良心と言える。
響はそれが霧雨にあるのかどうかをジャッジしようとしている。
言葉通り、本気で「会心するか、絵描きを辞めてもらうか」を決めようとしている。
霧雨の態度を悪であると斬って捨ててみせた響にとっては実績など関係ない。
見ているのはあくまで仕事の姿勢なのだと思う。
きちんと霧雨に力を発揮するチャンスを与えているのは優しいな、と感じた。
これは響が相手を一人の人間として、きちんと向き合っているということではないだろうか。
殴られ、蹴られと散々の霧雨も不思議なほど素直に響の言葉に従っている。
業界トップの実力を持ち、実績を残している霧雨にとって、響との出会いは、いつしか仕事がひっきりなしに来るようになって奢り高ぶっていたところに浴びせられた痛烈なビンタだったのだろう。
今後、霧雨が良い仕事をして花代子も月島も、響も霧雨の実力を認める、みたいな雨降って地固まるといった展開が予想される。
ただ、津久井が暗躍していたとは……。
それも、53話で徹底的に追い込んだ七瀬を使って映像を撮らせていたとは……。
七瀬が津久井に詰められている様子は上記リンクをクリック。本人に許可を得ないドキュメンタリーを構築していく津久井にドン引きの七瀬が意外だった。
一応、マスコミとしてやってはいけないことは分かっているわけだ。
今後、津久井が何を仕掛けてくるのか。
『響』の正体が世間にバレてしまうのか。
楽しみすぎる。
以上、響 小説家になる方法 第57話のネタバレ感想でした。
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