第56話 壁
第55話のおさらい
祖父江秋人が閉店している涼太郎のブックカフェに入店する。
もう閉店だとそりの合わない秋人を追い返そうとする涼太郎。
秋人は動じる事無くコービーを注文する。
響の正面に座った秋人はリカがどいういう進路を選んでも一人暮らしすることになるからそれを機に北欧に夫婦で住もうかと考えているが、響も来ないか、と問う。
よろしくお願いします、と即答する響。
呆気にとられる涼太郎。
冗談だ、という秋人がこれがここに来た理由だと笑顔で続ける。
自分のことが嫌いな涼太郎をからかいに来ている、と秋人。
秋人は、帰れという涼太郎を無視して響に書いていた小説の内容を尋ねる。
教えてくれない、という涼太郎。
しかし響は秋人を手招きして耳元で何やら囁く。
放心状態の涼太郎に「ナイショだって」と涼太郎をからかう響と秋人。
今度は秋人が響を手招きし、耳元で芥川直木を才能で獲った感想を問う。
ホテルではNF文庫大賞新人賞の授賞式が行われている。
参加していた子安は響から借りているハンカチを返そうとするも響が授賞式にまるで興味が無いことを知って呆然となる。
一方、秋人からの問いに別に何も、と返す響。
自分をバカにしているのか、と秋人に詰め寄る。
ホテルの会場では子安は一人飲んでいた。
新人作家の頃に感じたあがりを決め込んだ勝ち組作家の醜い表情に対して抱いた敵意、闘争心を思い出した子安は、新人賞を受賞した島野が子安の作品を褒め、友好的なアプローチをとっているのにも拘わらず審査員特別賞の『漆黒のヴァンパイアと眠る月』の方が上で、島野の小説はラクガキだと冷たく言い放つ。
呆気のとられたあと、敵意と闘争心を宿した目で子安を睨む島野。
正面から睨み返す子安。
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響 小説家になる方法 第56話 ネタバレ感想
売れっ子同人作家霧雨アメ
東京ビックサイト。
同人誌即売会「ビッグキャッスル」の会場は人でごった返している。
販売している売り子が呼び込み、買い手は500円を支払う。
2列で並んでください、という注意や、コピー誌完売しました、という声が聞こえる。
盛況な会場の外では長蛇の列を成している。
「あの…霧雨(きりう)アメさんでしょうか。」
列の先頭にいる女性がおずおずと尋ねる。
「私大ファンで、あ、握手…」
テーブルの内側にいる男が「ありがとうございます」と女性が差し出した手を握る。
売り子交代します、と女性に背後から声をかけられ、霧雨はルカさんお帰り、と笑顔で迎える。
サークル周回に時間がかかって、と謝るルカ。
いーよ、と霧雨はルカと売り子を交代する。
アメは一冊ダンボールから自らの同人誌を手に取り、自分の同人誌を求めて押し寄せる客を見つめている。
売れっ子イラストレーター霧雨アメ
ナリサワファーム。
アメは月島と同じテーブルに向かい合って座っている。
イベント翌日にすみません、と挨拶する月島に、霧雨は、大丈夫です、と笑顔で答える。
午前完売ですか! と笑顔の月島に、霧雨は、2000冊用意したが12時前には売り切れて並んでくれた人に申し訳なかった、と自信に満ちた表情で答える。
場所もシャッター前をもらった、とさらっと語る霧雨に、ええー、と月島は大仰なリアクションで驚き、天下をとりましたね、と褒める。
緩衝帯のつもりで配置されたんだと思いますよ、と笑顔で謙虚に返す霧雨。
月島は霧雨から新刊を渡されて、ハルコ本なんですね、かわいー、と喜ぶ。
霧雨は、時間がなくて落書き本になったけど、こんな本に並んでもらって申し訳ない、と笑顔を崩さない。
あとで読ませていただきます、と締め、本題に入る月島。
アメにイラストを担当してもらう『漆黒のヴァンパイアと眠る月』を読んだかどうかを尋ねる。
無言で月島を見る霧雨。
忙しいのは分かっているが力を入れている作品で、子安の『異世界建国ライフ』のイラストの実績もある霧雨に頼みたいという月島。
今日までにというわけではないですから、と慌てて付け加える月島に、霧雨は、ラフを描いてきました、と絵の描かれた紙をテーブルに滑らせる。
口を開けて驚く月島。
小説は面白かった、イラスト担当させてもらえて光栄ですと笑顔の霧雨。
「とりあえず主要キャラのアステカと千鶴を固めてみました。」
「作品が良いとキャラも自然にできあがって、こちらで進めようと思うんですが。」
えーっと、とテンションが落ち気味になる月島。
「すごい…良いと思います。千鶴ちゃん可愛くって。」
ありがとうございます、と礼を言う霧雨。
「僕的にもこれしかないってキャラができたので。じゃあこちらで進めますね。」
えーっと、と人差し指を合わせて何かを言いづらそうな様子の月島。
「お仕事早くて助かるんですけど…」
後でデータを送るからそれを作者さんに転送してくれ、と原画をバッグにしまう霧雨。
編集部の方針で、一度作者と会ってイメージを共有して欲しい、とアメに言い辛そうな様子で伝える月島。
「なのでメールでもお伝えした通り、今日これから作者の『ひびき』さんと会ってもらいたいのですが……」
こっちに来てるわけではないんですよね、と霧雨が月島に問う。
高校生で来れないので、遠いところすいませんが、これから一緒に神奈川に、とテーブルを見ながら霧雨にお願いする月島。
霧雨は一瞬の沈黙のあと、分かりました、と了解する。
月島とアメが歩いていると、エレベーターの前で、霧雨さん、と声をかけられる。
霧雨は「編集長」と返す。
編集長が一緒にいた営業の井酒(いさか)を紹介する。
名刺交換をする井酒と霧雨。
異世界建国ライフのアニメが好評で文庫が重版がかかった、と拳を握る井酒。
他社のラブラブライクのアニメ化にも触れて、大ブレイクだと褒めちぎる。
霧雨は、自分はあくまでイラストレーターで、原作にめぐまれた、と謙遜する。
とんでもない、と再び霧雨のイラストを褒める井酒。
編集長にどこに行くのかを尋ねられた月島は『漆黒のヴァンパイア』の作者さんと打ち合わせですと答える。
先生が担当してくれるんですか、と嬉しそうな様子の井酒。
「ありがたいことに」と言う言葉とは裏腹にどこかテンションが上がり切らない様子の月島。
霧雨は、頑張らせてもらいます、と頭を下げる。
花代子と霧雨アメ
北瀬戸駅。
かよちゃんこんにちは、と月島、そして続いて霧雨も喫茶店に入っていく。
はいっ! と緊張した様子でイスから勢いよく立ち上がる花代子。
霧雨を紹介する月島。
はじめまして、と名刺を用意する霧雨。
花代子は、うわぁ~、と頬を紅潮させて感嘆の声を漏らす。
絵が好きで、ツイッターも見ていて、とひたすらファンであることを伝えてくる花代子に礼を言うアメ。
「こちらこそ『漆黒のヴァンパイアと眠る月』面白く読ませてもらいました。」
いえ、この子は、と表情が固くなる月島。
えっと…、と口籠る花代子。
えーと、と何かを言い辛そうな花代子を、霧雨は不思議そうに見つめている。
同じテーブルについた3人。
代理…、と霧雨がつぶやく。
すいません、と申し訳なさそうに謝る花代子。
そうですか、と渋々納得する霧雨に、響から全部決めて良いと言われていると伝える花代子。
響について霧雨に尋ねられた花代子は涼しいから外で本が読みたいから雨が降ったら来ると言っていたと伝える。
絶句する霧雨。
空に雲がたちこめ、雨が降り始める。
霧雨に提示されたキャラのラフを見て、生原画だと感動して眺めている花代子に、それで進めて行こうと思う、と言う霧雨。
えーと、と考えている様子の花代子に、霧雨は、申し訳ない、とおもむろに頭を下げる。
打ち合わせをしてからキャラを決めたかったがスケジュールの関係で作業をした。
仕事が忙しいので、これで進めようと思う、と言う霧雨。
え、と戸惑っている花代子。
もう一度花代子に謝り、これ以上時間がとれない、これで納得できないなら僕は降りざるをえないかな、と話している霧雨の背後にいつの間にか響が立っている。
響は霧雨の背後から手を伸ばし、原画を手に取る。
月島と花代子が響に気づく。
霧雨が、自分の原画を眺めている響を見ている。
険しい表情で原画を見ている響。
響と霧雨アメ
君が作者の「ひびき」さん? と名刺を差し出す霧雨。
「はじめまして 今回イラストを担当する霧雨です。」
アメを睨みつける響。
響の厳しい視線をまるで意に介さず、霧雨は、それが『漆黒のヴァンパイア』のキャラクターだと伝える。
「どうかな? 個人的にはかなり手応え感じているんだ。」
少しイメージと違うかもしれないけど違和感は最初だけ、今回はそれでいかせてもらう、と笑顔で強引に話を進めようとする。
「あなた小説読んでないでしょ。」
ズバリと言う響。
霧雨は無言でその場に立ち尽くしている。
同じく無言の花代子と月島。
小説は二人にあげらから別に良いが、花代子と月島はそれでいいのか、と問う響。
無言の月島。
嫌です、と即答する花代子。
霧雨の表情に焦りが浮かぶ。
「だって私のアステカ君はそんな子供っぽくないし、千鶴ちゃんはもっと底意地悪い子だし。」
正直に意見を言う花代子。
月島が、再度お願いできないでしょうか、とアメに懇願する。
霧雨はライトノベル2本抱えていて、どうしてもというから受けた仕事が新人賞の特別賞。
小説を読まず、プロットだけ見てキャラを描いたのは申し訳ないが、限られた仕事量を100万部売れている小説と新人の小説に同じ量は割けないと言い訳する霧雨。
霧雨の言葉を聞いている響の目が鋭くなる。
「異世界建国ライフ」「ラブラブライク」の連続ヒットしていて、即売会では列をたくさん伸ばせるようにとシャッター前に配置される売れっ子なので、イラストを担当すれば名前だけである程度本の発行部数が出ると霧雨は自分の価値を語る。
響が今持っているイラスト原画もオークションに出せば何10万て値がつく。
今後響の小説が5万10万と売れればそれなりのリソースを割くから今回はそのキャラクターで納得してください、と霧雨は響に堂々と言い放つ。
響はおもむろに原画を破く。
「私の前に、あなた自身が納得したものを持ってきて。」
えっ、と固まる花代子。
声も出さずに引き攣った表情のまま固まる月島。
響を呆然と見つめる霧雨。
アメの原画をさらにビリビリに破く響。
「シャッターだソースだそんな話はしてないの。」
破いた原画をその場に捨てる。
「描き直し。」
感想
「作品はあげたんだから自由にしていいよ」とは言っても、やはり自分の作品がぞんざいに扱われることを良しとしていないのが響の様子からよくわかる。
次回、どんな風に霧雨が響にやりこめられ、どんな仕事をすることになるのかが楽しみ。
ちなみに、この「霧雨アメ」というキャラクターは間違いなく柳本先生ご自身の売れっ子同人作家としての経験を活かして作られたキャラクラーである。
過去、涼宮ハルヒの憂鬱の二次創作作品を大ヒットさせた柳本先生に対して、霧雨アメというキャラクターは「ハルコ」の二次創作を行って大ヒットしていることが共通点として挙げられる。
このあたりのキャラ設定から、霧雨アメは柳本先生の憧れ、あるいは自己投影なのかな、と思ったけど、実は、そう思わされるのは柳本先生の仕掛けた罠ではないかと思う。
自分はむしろ逆で、柳本先生はこれをネタにしているのではないかととらえている。
「自己投影とか恥ずいことやってんじゃねーよ」という読者の批判が来たら、それを内心あざ笑えるように創ってあるキャラではないか。
柳本先生と霧雨アメはよく考えれば全然違う。
霧雨は同人誌で(恐らく)漫画を描くが、あくまで肩書きはイラストレーターであり、それに対して柳本先生は漫画家を名乗ることはおこがましい、としながらも漫画を描くことをこよなく愛している。
イラストレーターは優れた画力が必要だが、柳本先生はご自身が認めるように絵自体はそこまで上手ではない。
つまりは霧雨アメは柳本先生とは全然異なるキャラである。
極めつけは、メタな感想になってしまうが、響との邂逅がこうした形だということは、おそらくは次号に響にやりこめられるということだ。
作者の自己投影が入っているキャラが変に愛されるようなキャラだったり、無双の活躍ぶりを見せたりした場合、読んでて辛いものがある。
しかし響の場合はそうはいかない。
テーマはあくまで「響という飛び抜けた天才を描くこと」だから、イラストという別の畑で一線で活躍している才能のある人間もひれ伏すような展開になるのだと思う。
柳本先生の脳裏には既に、やりこめられた霧雨アメの図がありありと描かれているに違いない。
柳本光晴先生の過去の同人時代に関する詳細は以下をクリックしてくださいね。
以上、響 小説家になる方法 第56話 壁のネタバレ感想と考察でした。
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