第65話 恋敵
第64話のおさらい
公園で津久井と相対する響。
楓子のまわしているカメラを意識した丁寧な口調で響に話しかける津久井。
響は持っているスコップを振り上げ、津久井の腕を殴打する。
響の堀った穴にはまったまま二人を見ていた七瀬はカメラを撮っていた楓子の元に逃げ出す。
そこで響は自身がまだ撮られていたことに気付き、目的が何なのかを津久井に問う。
津久井は響のドキュメンタリー番組の撮影を行っていたことを響に明かす。
初耳だと呆然とする響。
既に撮れ高は完璧であり、あとはタレントを集めたスタジオ収録を残すのみだと響に告げる津久井。
響は止めなさいと言う言葉と当然のように全く意に介さず、力づくで止めてみろと響を煽る。
響の振ったスコップの柄をキャッチし、奪い取る津久井。
津久井は天才は世に出なければならないという自分勝手な論理を響の前で臆することなく披露し、不敵にも11月25日のスタジオ収録の場に来いと響に告げる。
スコップを置き、その場を去ろうとした津久井に、スコップを拾って向かっていく響。
しかし回し蹴りを腹に食らうという反撃で響の脚はストップし、響はその場に跪く。
一人公園に取り残される響。
後日、響のクラスは修学旅行のグループで話し合いをしていた。
どこかテンションが高く、親しみやすい響の様子に涼太郎は違和感を覚える。
修学旅行先でも響は周囲の人間とこれまでにない程仲良く接する。
夜、宿泊所で響の携帯が鳴る。
花井から、響ドキュメントで使う響の資料を提供して欲しいという一ツ橋テレビからの電話だったことを聞かされても響は大丈夫、適当にやってくれ、と軽快な姿勢で花井に返事をする。
響のテンションの高さに若干の違和感を覚え、問いかける花井。
「楽しみなことができたから。」
花井に響は凄絶な表情で答えるのだった。
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第65話
修学旅行の夜。
響のクラスの女子たちが車座になって、その中心にお菓子をおいて男談議に花を咲かせている。
学校の男を品評し、あり得ないと盛り上がる中、場の話題次第に、文句のつけようのないイケメンが近くにいる、と、名前を出さずとも暗に涼太郎の事に移行していく。
その話題をじっと聞いている黒髪の女の子。
涼太郎は窓際の椅子に腰かけ、満月を見ていた。
田山が酒でも呑むか、と涼太郎に缶を渡す。
身体は大人なのに酒も煙草も買えない、と愚痴る田山に、涼太郎は、好きな女一人養えない、子供だよ、と答える。
田山は、前から思ってたんだけど、と前置きし、あの子のどこに惚れてるのかと問いかける。
涼太郎は、好きな女の魅力は一晩中でも話続けられる、と煙に巻く。
お前がもてるのも分かる、と言いながら缶を開ける田山。
涼太郎が女に生まれていたら口説いていた、と続ける。
「女に生まれても俺は響に惚れてるよ。」
「満月に――」
涼太郎と田山は缶を合わせて乾杯する。
女子の部屋では、響に話題が移っていた。
響は既に寝ており、涼太郎と付き合っているのかという女子たちの質問には何の反応も示さない。
そんな響を見て呆れる女子たちは、再び涼太郎の話題に入る。
告白してくる女子を悉く振っている涼太郎はハードルが高いと会話が弾む。
黒髪の女の子は、リョータ君は除外でいーんじゃん? と場を涼太郎の話題から他へと誘導する。
再び男の品評会で盛り上がる女子たち。
無謀にも響に食って掛かる黒髪の女の子
翌日。
響は大量の鹿を相手に鹿せんべいをあげている。
涼太郎はもっと鹿せんべいを買って来ると響の側を離れる。
涼太郎が離れた後、こっそり鹿せんべいを味見して吐き出す響。
そこにおさげの女の子がピースしながらやって来る。
「鮎喰さん楽しんでるー?」
響は女の子の方を見ながら、うん、と素直に返事をする。
女の子は響は意外と親しみがある、と評し、よかったら旅行が終わった後もつるまないかともちかける。
「いや、いい。」
鹿と戯れながら、即座に女の子の提案を拒絶する響。
冷や水をかけられた女の子は、そっか、とだけ返事をし、次の話題に入る。
「鮎喰さんてリョータ君と付き合ってんの?」
響は、ううん、と鹿と遊びながら即答する。
女の子は笑顔で、涼太郎を狙ってるから応援してくれないか、と手を合わせる。
響は鹿を撫でながら、自分には関係ないから好きにしろ、とだけ答える。
中々諦めない女の子は涼太郎の好きなタイプを響に問う。
響は、うーん、と一言唸った後、私かな、とだけ答える。
その間、響はずっと鹿と戯れ続け、女の子の方を一瞥すらしない。
響のあまりの対応に唖然とする女の子。
「え? バカにしてる?」
「全然」
女の子は自分が他のミーハーな女の子とは一線を画すほどに涼太郎の事が好きだと響に伝えるが、響は、悪いけど、と前置きしつつ、あなたの話全然興味ない、と答えて止めの一言を発する。
「そもそも私、あなたの名前も知らないし。」
ショックに固まる女の子。
「そっかつまり、ケンカ売ってんだ。」
鹿から全く視線を外さない響にそう言い捨てて、女の子はその場を去っていく。
響相手だとイジメがイジメにならない
夜。
響は自分の荷物の中に着替えが無いことに気づく。
周りを見回すと、昼間、涼太郎の事で会話したおさげの女の子が響を見ながらニヤニヤしている。
響は女の子につかつかと近づいていく。
女の子は、私に何かご用? と笑いながら響に問いかける。
「私に興味ないんじゃ、」
言い終わる前に響がその顔面に蹴りをかます。
続けて、容赦なく、何度も打撃を加える響。
周りの女の子は突然の響の凶行に戸惑うのみ。
男性教師が腕を組んで立っている。
その前にはソファに並んで座る響とおさげの女の子。
泣きじゃくる女の子に対して、響は何とも思っていない表情で目の前に立つ教師を見上げている。
響に対して、原因は何だ? と問いかける教師。
響は、この女が自分の着替えをとった、と主張する。
おさげの女の子は、知らないっていってんじゃん、と応戦する。
笹木が取ったって何か根拠でもあるのか、と冷静に響に問いかける教師。
響は少し黙って考えた後、ねえ、と隣のおさげの女の子に話しかける。
「返さないならこの後先生の目が離れた瞬間また蹴りまくるよ?」
無表情で言い放つ響に教師もおさげの女の子も目を見張る。
無言で圧力をかける響。
そんな響に屈した女の子は、誰が取ったとか知らないけど押し入れで誰かの服は見かけた、と響と目を合わせずに答える。
「じゃあね。」
響は立ち上がり、教師の制止を無視してその場を悠然と去っていく。
おさげの女の子は響に対してさらに敵対意識を燃やすのだった。
新幹線で京都から家路につく響達。
笹木よりも11月の「イベント」に夢中な響
時は流れて10月。
北瀬戸高校では文化祭が開催されていた。
蝶ネクタイにベスト姿でコーヒーを差し出す涼太郎。
リカは着ぐるみ姿で他の着ぐるみと会話し、花代子はタカヤから食べ物を食べさせてもらうなど、皆思い思いに文化祭を楽しんでいる。
響は一人、外で「イケメン喫茶2-4」と書かれた看板を肩にかけたまま座って、読んでいる。
スカートのポケットに手を突っ込み、どこか険しい目をした笹木が、お疲れ、と響に向かって話しかける。
本から顔を上げ、無言で笹木を見つめたあと、えーと、女、と答える響。
「笹木よ!」
突っ込んだ後、少しだけ沈黙する笹木。
しかしすぐに話し始める。
「修学旅行で色々あったからさ、仲直りしようと思って……」
はあ、と気のない返事をする響。
でさ、あのさ、と言い出しにくそうにした後、涼太郎との橋渡しをして欲しいと切り出す笹木。
自分でもみっともないと思ってるが涼太郎との接点が響しかない、と正直に言う笹木を、響は無言で見つめる。
笹木は響から顔を逸らしつつも、響の隣に腰かける。
「……1年前かな。下校の時に夕立がきて、」
唐突に自分の話を始める笹木。
涼太郎が傘を云々言い出したところで響が一言口を挟む。
「その話って私に関係あるの?」
響の予想外の反応に、笹木は口を噤む。
「あのね、今私は来月に楽しみなイベントがあって、悪いけど本当に、あなたの色恋に興味持てないの。」
これ以上なく正直に自身の心情を吐露する響。
笹木はショックを受けるが、すぐに何でもない風を装う。
高校生になってハブしたくないけど、と言って立ち上がる笹木。
「あーつってもアンタもうハブられてるようなもんか。」
響にけんもほろろに断られたお返しとばかりに、強がりながら笹木が捨て台詞を吐く。
「今も文化祭だってのに一人看板もちだもんねー。」
とっくに本を読み始めていた響は、手でしっしっ、とうるさそうに笹木を追い払う仕草をする。
すごすごと響の元から退散する笹木。
(最悪。クソ自己中。本読みすぎて自分の事スゲー人間とか思い込んでる。人間あーなったら終わりだわ。)
笹木の心の中で響に対して毒づく声は続く。
(来月にイベント? どーせああいうキモい本好きが集まるとかのクソみたいなイベントでしょ。)
火花を散らす花井と津久井
「収録は11月25日。」
ホテルのロビーで津久井と花井がイスに座り、テーブルを挟んで会話している。
津久井は花井に響の担当編集として出演を依頼していた。
花井はそれには答えず、ドキュメンタリー自体の制作に関して響の許可はあるのかと問う。
津久井は、取ってます、と即答し、響本人に確認していないのかと問い返す。
「『知らないとことで勝手に番組作られてる 助けてよー』なんて泣きついてきました?」
やはり花井は津久井の質問に答えない。
「響からは『この番組はどうせ潰れる』と聞いてます。」
全く動じる事の無い花井。
ほう、と感心したように受ける津久井。
収録日に響ちゃんがひと暴れしてくれるのか、楽しみだ、と余裕の表情を見せる。
真っ直ぐに津久井を見据える花井。
「せっかくなので、収録は私も伺わせて頂きます。」
礼を言う津久井。
花井は、一つだけ言わせてもらうと、と前置きし、響の事はよく知ってるつもりだと切り出す。
「あの子が潰れると言ったからにはこの番組は必ず潰れるわよ。」
それは無理だ、と即応する津久井。
「俺がやるって言ってんだから。」
感想
やっぱ響の即断即決、即行動は見ていて気持ちいい。
女だろうがクズならば迷わずぶっ飛ばすのは単純にスカッとする。
この行動をDQNだの野蛮だのと批判だけするような読者は、もうとっくに響の購読者から脱落していると思う。
イジメ露見後、数コマで散々に叩きのめすのには笑った。
他の、事情を一切知らない女の子が周りに居ようが全くお構いなしなのが響らしさ全開だよなぁと思う。
新人賞の授賞式で、あるいは芥川賞直木賞の授賞式の場でも、誰が見ているとか関係なしに大暴れした響にとって、クラスメートの視線もくそも無いのだろう。
関係ないけど、今、不当なイジメを受けている人はこれやってみたいだろうな。
どうせ卒業すればクラスの連中とは大半が切れるわけだから、鬱憤は発散しておくべきだ。
証拠の保全はしっかりした上で、自分の存在を守るために一撃でも食らわせておく方が良い。
でないと、何故何も反撃しなかったのか、と後悔する羽目になる。
正面切ってやらなくても、陰湿に立ち回ることを意識すれば、自分をリスクに晒すことなく、イジメをやってる奴を一泡吹かせる方法って一つや二つはあると思うんだが……。
笹木のような、好きな男を手に入れるために笹木のような工作をする女は普通にいる。
ただ、なんでお前の色恋の為に動かにゃならん、と思った女子は少なくないはず。
そして、女子の間で爪弾きになるのを恐れて不本意にも協力する羽目になった女子もいるだろう。
そういう人にとっては、響が笹木を斬り捨てた言葉と行動にはとてもスカッとするんじゃないかと思うけどどうだろうか。
結局、響って単に正直なだけなんだよね。
興味無いものには興味無いってはっきり言うし、失礼な振る舞いを受けたら我慢せずに即反撃する。
見てて面白い。好きな理由はこれでOKだと思う。
そして、ラストに出て来た花井と津久井の火花散る会談の緊張感よ。
花井は響が番組をぶっ壊すと信じている。
響のかつてない怒りモードに触れた事から、花井にはそれを強く予感しているのだろう。
津久井が一体どんな風にやり込められるのかが気になる……。
第50話くらいからここまで、大分、響が津久井にやられっ放しの状況を引っ張って来た。
ここまで積み上げてきたその鬱憤が、一体どう解消され、読者にドでかいカタルシスを齎してくれるのかが楽しみで仕方ない。
以上、響 小説家になる方法第65話の感想と考察でした。
前回、第66話の詳細は以下をクリックしてくださいね。
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