第50話 謝罪
花代子の出来心で響の小説がNF文庫新人賞の大賞になってしまい、響と花代子はナリサワファームへ謝罪に行くことに。
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ナリサワファームへ
リカから手持ちの1000円札が差し出される。
「6千円あれば東京まで二人往復できるっしょ。」
ありがとう、明日返す、と響。
ごめんなさい…、としおらしくしている花代子。
リカは二人に、来週、編集の人が来てくれるなら今日行かなくても良かったのでは? と問う。
響は謝罪するならこちらから出向かなければならないし、早い方がいいとリカに答える。
確かにね、と納得するリカ。
花代子と響がそれぞれ、行ってきます、また明日、とナリサワファームへと向かう。
取り残されたリカをはじめとした文芸部部員。
響の書いた小説を花代子がこっそり投稿したら大賞を取ってしまったことに驚く部員たち。
リカはさりげなく、タイミングとか良かったのかな、と響をさりげなくフォローする。
そっかー、タイミングか、と響の実力からうまく矛先がズレる。
サキは一言、化け物……とつぶやく。
神保町駅を降りた響と花代子。
ビルを見上げて、おっきい、と呆然とした様子の花代子。
「ここがNF文庫のナリサワファーム…」
入り口にアニメの看板がライトアップされている。
「このビル丸ごとナリサワ…? ここ勝手に入っちゃっていいのかな…」
ビルを見上げてつぶやく花代子を置いてずんずんビルの中に入っていく響を花代子が慌てて追いかけていく。
ビル内のあちこちを眺め、うわー、と花代子は何度も感嘆を漏らす。
(私ひょっとして、とんでもないことをしでかしたのでは…)
ロビーのような場所で編集に、ようこそナリサワファームへ、と迎えられた響と花代子。
どっちが花代子ちゃん? という編集に向かって、はい、と緊張した面持ちの花代子が挙手する。
響は辺りを見回している。
月島初子と名乗ったNF文庫の編集者は、中々連絡が取れなかったから会えてよかった、と花代子の手を握る。
そっちの子は友達? と響のことにも触れる月島。
高校生がひとりで東京の出版社に来るのは怖いよね、と響が同行していることに勝手に理由付けて納得する。
笑顔の月島は、はりきって響と花代子を会議室に誘導する。
移動中も響はアニメのディスプレイなどを珍しそうに見回している。
会議室までの道中、『漆黒のヴァンパイアと眠る月』を褒める月島。
でね、と前置きし、月島は、一ツ橋テレビとのコラボでアニメ化の話がある、と力強く切り出す。
3年前からある企画だが、該当作品がなく、『漆黒のヴァンパイアと眠る月』を読んだ編集部が揃って、シリーズ化前提でのアニメ化を決定したのだという。
年内にあと2本書いてほしい、と月島から矢継ぎ早に言われ、花代子は何も言えず立ち尽くしている。
「同じ小説でも、純文とは随分違うのね。」
響がライトノベル一色の社内を見回して感想を言う。
人気ラノベ作家子安登場
ブースでは編集者が小太りで眼鏡をかけた男、子安と会話している。
シリーズ累計200万を超えると聞かされ、実感がないと答える子安。
編集者は、デビュー作のシリーズでここまでブレイクする作家はそうそういない、と子安を褒める。
「元々作家になりたくて仕方ないっつータイプでもなかったんで、売れてるって言われてもそうなんだーってカンジなんスよね。」
子安の言葉に、編集が、子安さんが新人賞に投稿したきっかけってなんだったんですか? と問う。
大学4年の時に就職活動中にラノベを読んで自分でも書けそうだと書いて投稿、つまり就活の一環だと答える子安。
「ええっ!? すごいですね、そんなあっさりですか。」
(でたよ就活パターン。)
「いやだからマジで売れてるとか実感ないんスよね。俺、小説も頭使わないで思いつきで書いてんで、なんかテキトーにキーボード叩いてたから貯金増えてるみたいな。」
10万課金したのに、とスマホを操作している子安。
ご飯に行きましょうか、と立ち上がる編集。
(照れ隠しなのかしらないけど、投稿の理由がなんとなくとか就活でとかって言う作家さん多いんだよな。別に素直にラノベ大好きでって言ってくれていいのに。)
編集と子安が廊下を歩いていると、廊下に立っていた月島が、子安先生お疲れさまです、と挨拶する。
響と花代子を見た子安が女子高生だ、と色めき立つ。
子安たちに花代子と響を紹介する月島。
花代子は子安紡先生? と喜びの表情になっている。
「うわー私『異世界建国ライフ』読んでますー。」
へーありがとー、と礼をいう子安。
「よかったら握手しよっか。」
花代子に向けて手を差し出す。
「受賞おめでとう。」
握手する子安と花代子。
「うわー…」
表情が固まる花代子。
(ベタベタしてる…)
「やばいなー俺今女子高生と握手してるよ。」
後ろにいる編集者に問いかける子安。
「大丈夫これ犯罪入ってない?」
いやあ、手スベスベしてるね、と握手していない方の手で花代子の手をさする。
ありがとうございますっ、と勢いよく子安から手を離す花代子。
あ、もういい? と子安は今度は、よろしくー、と響に手を差し出す。
響から洗礼を受ける子安! 衝撃の現場を目撃する津久井
別室。
一ツ橋テレビのプロデューサー、スーツにヒゲ、サングラスの男、津久井が椅子に座っている。
(スターを作りたい…)
折角の女子高生作家だ、と『漆黒のヴァンパイアと眠る月』の作者の使い道を考えている津久井。
(彼女をスターに仕立て上げられれば話題性だけでも売れる。それこそ、『お伽の庭』の響みたいな――)
オタク相手だから関口花代子をアイドル作家に出来れば編成を動かしてアニメの枠を超えられる、と淡々と野望を思い描く。
遅いな、と腕時計を見る津久井は部屋を出る。
歩きながら考えを巡らす。
(まずは最低限のビジュアル。それとなによりキャラクター。)
(女子高生作家ってだけでもそれなりには話題になるだろうけど、それなりじゃ弱いんだよな。)
(つってもラノベ作家も色々見てきたけど、オドオドしてたりブヒブヒ言ってるようなのばっかなんだよな。)
(ヴィジュアルそこそこあって、スター的存在感があって、アイドル性のある作家…)
(いねえな。)
津久井が響たちに近づいていく。
突然、響が子安の顔面を正拳突きする。
その光景を唖然と見る津久井、花代子、月島、子安の編集者。
子安は、どさ、と廊下に倒れ、メガネが落ちる。
あ…、と響が僅かに焦りの表情を浮かべて倒れている子安に向けてしゃがみこむ。
ひっ、と戦慄する子安。
「ごめんなさい、あまりに気持ち悪くてつい。」
焦りを浮かべた表情のまま言い訳をする響。
さすがに今のは私が悪かった、と自らのハンカチで子安の鼻血を拭う。
「痛い?」
子安に優しく問いかける響。
響と子安を中心に月島と子安の担当編集者は、ただただ何も言えず、何も出来ずに見ている。
花代子は近づいてきたヒゲにサングラスの男、津久井を見ている。
津久井は響と子安を見下ろしながら問いかける。
「君が、『漆黒のヴァンパイアと眠る月』の作者か?」
子安の鼻にハンカチをあてたまま津久井を見上げる響。
「うん。」
えっ? と月島が驚いて花代子を見る。花代子は月島から目を逸らしている。
「はじめまして、僕は一ツ橋テレビプロデューサーの津久井です。」
(作家じゃなくてもここまで存在感のあるやつはいない。あとはこの子に、)
「ちょっといいかな、君はどうして新人賞に投稿したのかな。」
(アイドル性があれば――)
「友達が勝手に応募して……」
響は、津久井を見上げたまま答える。
感想
謝罪するためには直接相手のホームに出向く。それも早めに、なんてことを知っていて当たり前のものとして動ける響には常識がきちんと備わっていることがわかる。
父母の躾の賜物なのか、書物から得たのかわからないが、高校生としては出来過ぎているくらい礼儀をわきまえているなぁと感じた。
自分が高校生の時だったら間違いなくこんな判断を自分で行う事なんて出来ない。
しかし子安を気持ち悪いから、という理由で正拳で殴りつける響に笑った。
その後の言い訳でさらに言葉の暴力加えてて子安が本当にかわいそう。
手がベタベタしてるのに自分から積極的に思春期の女の子の手を握った罰ということで(笑)。
子安の扱いや津久井のオタク作家を評する言葉から、柳本光晴先生が典型的なオタクが嫌いなんろうなと感じる。
典型的なオタクには不潔なイメージがあるし、好意的に思わなくて普通なのだが、ここまで笑えないオタクを描くのは物語上の必要性が一番だろうけど、心の底に強い嫌悪を持っているからでもあるのではないか。
オタク層を大事にしようとするストーリーテラーは登場するオタクに笑えたり頭が良かったりと肯定的な一面を追加したりする。
津久井はやり手のビジネスマン臭を漂わせているが、今後、身バレしたくない響にとっては敵となるだろう。
今後の響と津久井の攻防が楽しみだ。
以上、響 小説家になる方法 第50話のネタバレ感想でした。
次回、第51話の詳細は以下をクリックしてくださいね。
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