柳本光晴先生は漫画「響 小説家になる方法」で2017年マンガ大賞に輝いた実力派の漫画家です。
そのキャリアは同人活動から始まります。
このページでは、柳本光晴先生の同人から商業までの経歴、代表作などをまとめました。
目次
柳本光晴先生の経歴
柳本光晴(やなもとみつはる)
同人活動ペンネームはミハル(miharu)。
男性。
8月25日生まれ。
徳島出身。
東京在住(調布→吉祥寺→中野→高田馬場(予定))。
18歳で徳島から東京に出て、おそらくですが東京都調布市にある電気通信大学に通っていたようです。
東京に出てきてまず調布に住むのはごく自然ですね。
電通大の漫画研究会に所属し、コミケに出展するようになります。
2002年から同人活動が確認できるので、2017年現在は30代のおそらく中盤くらいになるかと思われます。
代表作は「響 小説家になる方法(2014~)」「女の子が死ぬ話(2013~2014)」「きっと可愛い女の子だから(2011、2014)」。
同人作家ミハル(miharu)サークル名TTT時代
柳本光晴先生は18歳の時に初同人誌を作り、同人作家として漫画家のキャリアを開始します。
3年間全く売れず、合計5年くらいはまともに売れなかったそうです。
しかし、その時の流行を題材の選定に活かし、漫画の技術も向上させていくことで徐々に売れっ子の同人作家へと成長していきます。
柳本光晴先生のヒット作である「ハルヒかわいい」は計3冊出て、6万部を売り上げたそうです。
これは同人業界において大ヒットと言えます。
そうなると商業誌からも声をかけられるようになり、成人漫画を描くようになります。
成人漫画を描かれていたことを黒歴史にしてしまいたいそうです。
同人作品として、主に、人気アニメ涼宮ハルヒの憂鬱の主人公ハルヒをとりあげた「ハルヒかわいい」シリーズや人気ゲームFateや月姫。
そして、他にも、大きく振りかぶって、咲―saki、東方Project、ハヤテのごとく!、天元突破グレンラガン、よろず(アニメ)、まほろまてぃっく、らき☆すた、もやしもんなどを題材として作品を生み出しました。
そして、そういった二次創作だけではなく、柳本光晴先生のオリジナルの作品もあります。
以下、同人委託販売のとらのあなのwebサイトを参考に、同人作品の年表をまとめました。
2002年
まほろぱにっく(まほろまてぃっく【漫画】)
2003年
アルクェイドの日(月姫【ゲーム】)
2005年
CUTIE(Fate【ゲーム】)
2006年
feti(Fate【ゲーム】)
ユキんこLOVER(涼宮ハルヒの憂鬱【小説】)
ユキんこのフェティシズム論(涼宮ハルヒの憂鬱【小説】)
朝倉もしも(涼宮ハルヒの憂鬱【小説】)
2007年
よろずfetishism(よろず【アニメ】)
モモカン味(おおきく振りかぶって【漫画】)
ヨーコ風味(天元突破グレンラガン【アニメ】)
マリアさんご指名です!(おおきく振りかぶって【漫画】)
ゆかりファクタ(らき☆すた【漫画】)
よろずfetishism 2(よろず【アニメ】)
ハルヒかわいい(涼宮ハルヒの憂鬱【小説】)
遥さんがうんざりしながらします。(もやしもん【漫画】)
2008年
ハルヒかわいい 2(涼宮ハルヒの憂鬱【小説】)
ハルヒかわいい 3(涼宮ハルヒの憂鬱【小説】)
クリスマスはあなたと(東方Project【ゲーム】)
2009年
あなたを好きな女の子(涼宮ハルヒの憂鬱【小説】)
ひきこもりお嬢様のべたべた(ハヤテのごとく!【漫画】)
2010年
フリージアの少女(涼宮ハルヒの憂鬱【小説】)
恋々(咲-saki【漫画】)
よろずフェチ寝取られ(よろず【アニメ】)
埼玉ブルース(おおきく振りかぶって【漫画】)
2011年
日菜子さん(オリジナル)
2012年
ひな家(オリジナル)
2002年から2012年までの10年もの間、2004年の一年を除いて毎年委託販売を依頼しています。
ここから、継続的な創作意欲と、一般商業へと軸足を移していった時期が2012年以降なのだとわかります。
作風としては同人二次創作らしく自分の好きなものを描いているのにプラスして、その時代の人気作やシチュエーションにも色々挑戦しているように感じました。
例えば、2010年にはそれまで描いてこなかった寝取られものを描くなど、時代のニーズはきちんと読みつつ、自分の好きな作品を描いているという印象です。
好きなことをやりながらも、決してマニアックにはならず、読者の喜ぶものを志向しているように感じます。
本来は好き勝手描ける同人時代から決して独りよがりの作品にならならず、常に読者の事を念頭においた創作の姿勢が、2013年以降の一般商業での成功につながったのではないでしょうか。
ちなみに、2011年以降のオリジナル作品の絵を見ると、響 小説家になる方法の絵柄の原型が既にこの頃には完成していたことが分かります。
商業へ
柳本光晴先生は2013年頃に本格的に一般商業誌に移る前から、同人作品を制作しながらそれと並行して、ビッグガンガンなどの一般誌、そして18禁漫画雑誌に原稿を載せており、精力的な作家活動を行っています。
美少女PCゲームを紹介する雑誌であるメガストアの姉妹紙であるコミックメガストアなどで作品を掲載したりして、2012年を最後に同人作品は少なくとも委託していません。
一般商業誌への連載で忙しい柳本光晴先生は、おそらく現在は同人作品、18禁作品は描いていないと思われます。
そして、2013年、双葉社の月刊アクションにて一般商業作品が連載となります。
女の子が死ぬ話
満を持して一般商業デビュー作となる「女の子が死ぬ話」を月刊アクションで2013年~2014年まで連載。
2014年に単行本全1巻を発売。
きっと可愛い女の子だから
前作「女の子が死ぬ話」の連載終了後、2011年にビッグガンガンに掲載した短編4編、2014年に月刊アクションに掲載した短編1編を「きっと可愛い女の子だから」の一冊にまとめて出版。
2014年に単行本全1巻を発売。
響 小説家になる方法
小学館の青年誌ビッグコミックスペリオールにて「響 小説家になる方法」を2014年から連載開始。
連載当初に考えていた展開は響が新人賞受賞式で暴れるところまでだそうです。
掲載紙スペリオールの担当編集者はドラマ化もされたヒット作「医龍」を立ち上げたヤリ手。
かといって柳本先生にガチガチに指示をするということもなく、自由に描かせてもらっているそうです。
その担当さんは2016年に別の方と交代します。
連載開始から人気を獲得し、とはいかず、2015年に「このマンガがすごい!」の12位にランキングしたことをきっかけに重版がかかるようになり、じわじわと人気を上昇させていきます。
そして2017年にはマンガ大賞を受賞します。
人柄
ご自身の漫画に関して、絵は下手という自覚があるようですが、話作りには自信があるように思えます。
「女の子が死ぬ話」を連載していた時も、雑誌を読むとどうしても他の連載陣との比較してしまって自身の絵が稚拙であるという現実を突きつけられてしまうため、雑誌はおろか単行本作業の時もチェックするだけでじっくりとは見返したりはしなかったそうです。
しかし、その後、響を連載し始めた時期に絵に対する恥ずかしさも消えて、読み直して「良い漫画だな」と思えるようになったそうです。
絵が好きな人は別にお金がもらえなくても、例えばpixivやツイッターなどに載せたりしますが、柳本先生は仕事以外では描かないと言っています。
ただ、その後、絵が下手だと自覚してしまうと絵で魅せる気持ちがなくなるから、絵で魅せるために、逆に絵が上手いという自負を持つべきとも考えたりもしているようです。
優秀なアシスタントさんに恵まれたようで、編集さんなどの間で評判が良いという3巻の表紙絵の色はアシスタントさんが塗ったそうです。
ちなみに、柳本先生がアシスタントを雇う条件としては、仕事中に会話ができる事。
人が近くにいたら黙っていられないそうです。
響 小説家になる方法を連載するスペリオールの担当編集者から連載の話をメールでもらったことが意外だったとのこと。自分の漫画家としてのフィールドとして想定されていたのは電撃などのオタク市場だと考えていたそうです。
芥川賞直木賞の会見に、取材の為に一人で行ったはいいものの怖くなって帰ってしまったそうで、響本編で描かれている芥川賞直木賞の受賞会見の様子は想像で描いているそうです。
目が悪く、初単行本の印税で記念に形に残るものとしてメガネを買ったそうです。
インテリアや雑貨に凝っているそうで、部屋を借りる際もインテリアを考慮したこだわりのある選定をするようです。
ベスパPX200というバイクが愛車。
秋本治先生を尊敬しており、ペンネームを決める際に、秋本先生からであれば「うんこ食べぞう」という名前であっても喜んで名乗るとのこと(笑)。
ご自身のマンガはこちら葛飾区亀有公園前派出所の影響を強く受けているといいます。
作品の特徴
同人作品を多数描いてきたこともあり、女の子の描写が巧みです。
出て来る男の子キャラは頼りがいのあるイケメンタイプです。
オリジナリティのある絵柄で、人によって好き嫌いがあるかと思いますが、仕草や内面で可愛さを表現することに長けています。
話の作りも巧みで、意外性がある展開は読者を飽きさせることがありません。
例えば、「女の子が死ぬ話」で千穂というキャラが主人公の遥を罵倒してきた女の子を殴るシーンがありますが、結構印象的です。このタイミングでやるか、という感じ。
そうした話作りの意外さ、演出面での斬新さは次作の「響 小説家になる方法」にも受け継がれているといえるでしょう。
可愛い女の子の描写
『きっと可愛い女の子だから』は短編集ですが、柳本光晴先生の女の子の描写、話作りの巧みさが遺憾なく発揮されているといえるでしょう。
全部で5編の短編ですが、それぞれの話にタイプの異なる可愛い女の子が描かれています。
「関口さん」ではメガネをかけて教室で周りをシャットアウトするかのように読書している地味な、しかしちょっと危険な妄想にとりつかれた女の子。
「教師と生徒の正しい恋愛」では男子生徒に告白された女性教師。
「保健室にて」では同じクラスの男の子と付き合っている女の子。
「図書館LOVER」では学校の図書室で読書する男子生徒に惚れたメガネで長髪の無口な女の子と、その恋を応援するギャル風の女の子。
「ギャル子さん」では勉強の出来る男子学生からマンツーマンで教えてもらうギャル風の女の子。
いずれも魅力的な女の子です。
個人的に一番好きなのは「ギャル子さん」の島田ちゃんですね。ラストがほっとして、微笑ましくて。
女の子が死ぬ話をきれいにまとめる
『女の子が死ぬ話』では絞られたキャラクターで話をうまく展開させ、約300ページと少々ページ数が多めですが、1巻で見事にまとめています。
重いテーマです。
しかし暗いわけではなく、楽しく読めますし、構成がしっかりしていて最後までスムーズに最後まで読み通せます。
題名の通り、女の子が死ぬ話なのでラストが悲しいのですが、最後の幼少時のエピソードに少し救われるので読後感は悪くありません。
鮎喰響の特異性
女の子を描くのが上手な柳本光晴先生ですが、特に「響 小説家になる方法」の主人公『鮎喰響(アクイヒビキ)』は柳本光晴先生のここまでの来歴で描かれてきた女性キャラクターの中で最も奇抜な存在だと思います。
「響 小説家になる方法」は、小説の賞に、密かに書いた小説『お伽の庭』を投稿した15歳の女子高生『鮎喰響』がその作品の飛び抜けた文学性を認められて停滞した文学界に衝撃を与え、ひいては世の中を揺るがしていく物語です。
響は、飛び抜けた天才を描きたい、という柳本光晴先生の衝動により生まれました。
外見は真面目で大人しい女の子です。
しかし、初対面の不良チックな男子学生の指を折ったり、わざと本棚を倒したり、気に入らないヤツを蹴ったり殴ったり、果ては式典の最中にある人間をパイプ椅子で殴ったりとその行動は予測がつきません。
通常、ひんしゅくを買う行為の連続なのですが、響はほぼ咎められません。
小説の実力を認めて響に一目置いている人はもちろん、そもそも響が小説が書いていてそれが社会に認められるものだということを全く知らない人間からも、響と相対した人間は何の感慨も抱かずにはいられません。彼女があまりに普通とは違うことが分かってしまうからです。
考え方、態度、行動の独特さは、当然ながら作者である柳本光晴先生が考案したものです。
一人の漫画家によって考えられたキャラクターですが、コマの中で生き生きと一人の天才として振舞う響にはとても魅力があります。
本が好きという設定でありながら平気で本棚を倒したりすることや、そもそも傍若無人ともとれる振る舞いを批判する読者もいますが、天才をこう表現するのを自分は面白いと思います。
響は柳本光晴先生だからこそ描けたキャラクターだと感じます。
響 小説家になる方法の物語の面白さ
そして、物語の展開が、とにかく先が気になります。
『きっと可愛い女の子だから』『女の子が死ぬ話』で発揮された話を構築する力が『響 小説家になる方法』でも遺憾なく発揮されています。
1話から既にとても先が気になる展開です。
響が送った手描きの原稿が若き敏腕編集者に拾われてその実力を認められ、入部予定の文芸部の部室でたむろしている不良っぽい男子学生が威圧してきたら一歩も引かずに撃退してしまうなど、飛び抜けた才能をもった響の異質な人間性が良く描かれています。
この1話が書かれた時点で先が気にならない人はこのマンガを読み続ける必要はないでしょう。
それくらい完成された1話だと思います。
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