第99話 対峙
目次
- 1 第98話のおさらい
- 2 第99話 対峙
- 2.1 喧嘩 一触即発状態で互いに向かい合う響と鏑木。 図書館にて起きた異常事態を前に、生徒たちが騒ぎ始め、ついには教師を呼びに行く生徒も現れる。 鏑木はこの状況をマズイと感じていた。 響の携帯が鳴る。 臨戦態勢を保ったまま響が電話に出ると、相手は花井だった。 花井は図書館での騒動を敷地外から見ていた幾田から連絡を受け、この状況を無事に収めるべく響に電話していたのだった。 花井は慌てた様子で、響が今目の前にしている人物は漫画家であること、彼女を学校外に出して欲しいことを端的に伝える。 さらに何かを伝えようとする花井だったが、響はそれだけ聞ければ十分とばかりに携帯を閉じてしまう。 花井は響への伝達手段を失い、もう片方の手で耳に当てていた幾田からの状況報告をただ無言で聞いていた。 花井から響に電話を切られたと聞いた幾田は、事態が収まったかと問いかける。 しかし現場におらず、状況が全くわからない花井には答えようがない。 花井はそもそもコミカライズの話自体は断ったにも関わらず、なぜ鏑木と幾田が学校にいるのかと幾田に問い返す。 スポンサーリンク (adsbygoogle = window.adsbygoogle || []).push({}); それを聞き、慌てる幾田。 しかし自分が出ていくわけにもいかず、頼みの綱として動いてもらった花井も響に電話を切られてしまい、何も出来ない。 学校に不法侵入し、生徒、それも響に暴行したとして鏑木本人はもちろんその担当者である自分も終わってしまう。 幾田は事態を注視しつつ、鏑木に何もせずに出てきて欲しいとただ祈るのみだった。 響が思い切りスイングしてきた椅子を鏑木は右手で受け止める。 その椅子を放り投げた鏑木の一瞬のスキをついて響が鏑木に殴りかかろべき距離を詰めていく。 しかし鏑木は近づいてきた響の腹に前蹴りを食らわせていた。 そして痛みに屈んだ響の肩を持ち、床に押し倒す。 黙って聞け、と響に言い聞かせようとする鏑木だったが、響から下腹部に膝蹴りを食らって響を放したところで響に顔を殴られる。 スポンサーリンク (adsbygoogle = window.adsbygoogle || []).push({}); 生徒たちは目の前で繰り広げられる喧嘩にただ呆気にとられていた。 幾田もただ立っているのみ。 二人は立ち上がり、再び互いに見合っていた。 そこに教師がやってくる。 さすがに潮時だと感じた鏑木は急いで窓から外に脱出する。 追いかける男性教師。 状況の一部始終を見ている幾田は、捕まったら終わりだ、と戦々恐々としていた。 今にも鏑木が捕まりそうになるその瞬間、鏑木は素早く振り向き男性教師の鼻面目がけて拳をつき出す。 見事に男性教師をノックアウトした鏑木は塀を乗り越えると幾田に、逃げるよ! と声をかけて走り始める。 図書館に取り残された女性教師、生徒たちはその場に立ち尽くしていた。 気を取り直した女性教師に、今の人は誰だったの、と問われた響は、こっちが聞きたいと返すのみ。 響の携帯は鳴り続けていた。 スポンサーリンク (adsbygoogle = window.adsbygoogle || []).push({}); ネーム
- 2.2 覚悟を決める鏑木と幾田 学校帰り、響は涼太郎と歩きながら花井と電話していた。 今日、響が相手をしたのは『カナタの刀』の作者で鏑木紫だという花井からの説明を受けて、なんか聞いたことある気もする、と響。 花井が一度断ったという『お伽の庭』の漫画化の話を聞き、響はそういえば、と、以前漫画の編集から直接それを聞いていたことを思い出し花井に報告する。 響は、今は小説と映画に集中したいからそっとしておいてと花井に伝える。 後は自分が何とかすると花井。 一方、鏑木たちを運ぶ電車は終点の新宿に着いていた。 しかし鏑木も幾田も降りようとしない。 ネームを読む事に集中している幾田を相手に、鏑木は一方的に語り始める。 スポンサーリンク (adsbygoogle = window.adsbygoogle || []).push({}); 漫画はキャラとイベントが命にもかかわらず、そのいずれを描くにも才能がない漫画家が逃げるのが情景や心理の描写であること。 それらの作品はいずれもつまらないこと。 そして、自分ならば情景や心理の描写も面白くできるのではないかということだった。 『お伽の庭』であれば情景描写でエンタメができるのではないか、という鏑木。 しかし鏑木は、おそらく自分と同じようなことを思って描かれたであろう天才のひどい作品を目にしてきたので、果たして自分がそれらの先人と同じようなミスを犯してはいないかと幾田に問いかける。 ネームに集中する幾田の表情はいつしか緩んでいた。 風景だけのコマにもかかわらず、こんな面白さははじめてだと幾田は感想を述べる。 それだけ聞ければ十分とばかりに鏑木は幾田からノートを受け取ると、後はよろしく、と歩いていく。 いや、と難色を示す幾田に対して鏑木は、自分は面白い漫画を描くことが仕事であり、それ以外は全て編集の仕事という主張を譲らない。 幾田は、その通りだと認めつつも、響の気持ちを無視することは出来ないと食い下がる。 「だから知ったこっちゃねーんだよ。私の漫画は面白かったんだろ。お前は黙って雑誌に載せることだけ考えろ。」 「……ですね。」 幾田は鏑木の言葉に覚悟を決めるのだった。 スポンサーリンク (adsbygoogle = window.adsbygoogle || []).push({}); 感想 鏑木紫も天才
第98話のおさらい
響は来々軒で店長と柴田に最後の挨拶をしていた。
柴田が仕上げていた自分の高校生活について書いた小説の感想を述べる。
店長は響に、働きたくなったらまた来い、と送り出すのだった。
小論社編集部では、デスクを3つ組み合わせた島が作られていた。
花井を初代編集長とする新雑誌『雛菊』は、選任編集を花井、営業から異動してきて海老原、花井の上司だった坪井の少人数で、あとは『木蓮』の編集が兼任する体制で始動するのだった。
花井はアイスクリーム屋で働く西ヶ谷の元に来ていた。
花井は西ヶ谷を外に呼び出し、『雛菊』の創刊が来週には公式に発表されること、そして西ヶ谷が『雛菊』創刊連載の一つになること、もちろん原稿料が出ることを伝える。
西ヶ谷と別れた後、花井は書店内の文芸の売り場が増えていることに気づく。
ブームとして終息していくか、それとも根付くか、ここがスタートだ、と決意を新たにするのだった。
しかし花井は響が人生を決める大切な時期にあることを考慮して、新雑誌の名前や西ヶ谷が連載することを響に伝えていなかった。
新雑誌のトップは当然のことながら響の新作だと考えている花井は、大切な時期に仕事を任せようとしていることを自覚し、せめて響が集中できる環境作りをしていくことを誓うのだった。
北瀬戸高校図書館で、響は黙々と勉強に取り組んでいた。
その様子を生徒が遠巻きに見つめている中、堂々と響の対面の席に腰を下ろす女性が現れる。
それは『お伽の庭』のコミカライズを熱望しているという、漫画家の鏑木紫だった。
その異様な光景を、小論社のコミック編集幾田が学校の敷地の外から見守っていた。
「あのババア、マジで行きやがった………」
幾田は鏑木に響から『お伽の庭』のコミカライズの許諾を取り付けることができなかったことを謝罪していた。
しかし鏑木は、もう描いてる、と決して納得しない。
鏑木は天才なら分かり合えるはずと自分が響との直接交渉に臨むことを決めるのだった。
敷地の外から図書館の窓際で机に向かっている響を発見した鏑木は、止めようとする幾田を無視して学校内に侵入する。
そして難なく響の前に座ることに成功していたのだった。
勉強に集中している響を観察しながら、鏑木は響がテレビで見るより小柄で華奢であると同時に、すごく雰囲気のある子だと感じていた。
(これが響か。)
鏑木は早速響に『お伽の庭』に感動したこと、そして漫画版『お伽の庭』を描かせて欲しいことを伝える。
しかし響は鏑木を完全に無視して勉強を続けていた。
鏑木は折りたたんだ紙、原作許諾書を取り出し、響にサインを迫る。
しかし徹底的に無視されたことで、鏑木は半ばムキになって響の手を掴むと、名前欄に強引にサインさせようとする。
鏑木の華面に裏拳を叩き込んで、拒否の意思を示す響。
「痛てえなコラ!」
鏑木は響を椅子ごと蹴り飛ばす。
生徒たちと幾田は呆気にとられていた。
しまった、という表情を浮かべる鏑木。
響はゆっくりと立ち上がると、自分の椅子の足を持って鏑木と対峙する。
前回、第98話の詳細は以下をクリックしてくださいね。
第99話 対峙
喧嘩
一触即発状態で互いに向かい合う響と鏑木。
図書館にて起きた異常事態を前に、生徒たちが騒ぎ始め、ついには教師を呼びに行く生徒も現れる。
鏑木はこの状況をマズイと感じていた。
響の携帯が鳴る。
臨戦態勢を保ったまま響が電話に出ると、相手は花井だった。
花井は図書館での騒動を敷地外から見ていた幾田から連絡を受け、この状況を無事に収めるべく響に電話していたのだった。
花井は慌てた様子で、響が今目の前にしている人物は漫画家であること、彼女を学校外に出して欲しいことを端的に伝える。
さらに何かを伝えようとする花井だったが、響はそれだけ聞ければ十分とばかりに携帯を閉じてしまう。
花井は響への伝達手段を失い、もう片方の手で耳に当てていた幾田からの状況報告をただ無言で聞いていた。
花井から響に電話を切られたと聞いた幾田は、事態が収まったかと問いかける。
しかし現場におらず、状況が全くわからない花井には答えようがない。
花井はそもそもコミカライズの話自体は断ったにも関わらず、なぜ鏑木と幾田が学校にいるのかと幾田に問い返す。
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それを聞き、慌てる幾田。
しかし自分が出ていくわけにもいかず、頼みの綱として動いてもらった花井も響に電話を切られてしまい、何も出来ない。
学校に不法侵入し、生徒、それも響に暴行したとして鏑木本人はもちろんその担当者である自分も終わってしまう。
幾田は事態を注視しつつ、鏑木に何もせずに出てきて欲しいとただ祈るのみだった。
響が思い切りスイングしてきた椅子を鏑木は右手で受け止める。
その椅子を放り投げた鏑木の一瞬のスキをついて響が鏑木に殴りかかろべき距離を詰めていく。
しかし鏑木は近づいてきた響の腹に前蹴りを食らわせていた。
そして痛みに屈んだ響の肩を持ち、床に押し倒す。
黙って聞け、と響に言い聞かせようとする鏑木だったが、響から下腹部に膝蹴りを食らって響を放したところで響に顔を殴られる。
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生徒たちは目の前で繰り広げられる喧嘩にただ呆気にとられていた。
幾田もただ立っているのみ。
二人は立ち上がり、再び互いに見合っていた。
そこに教師がやってくる。
さすがに潮時だと感じた鏑木は急いで窓から外に脱出する。
追いかける男性教師。
状況の一部始終を見ている幾田は、捕まったら終わりだ、と戦々恐々としていた。
今にも鏑木が捕まりそうになるその瞬間、鏑木は素早く振り向き男性教師の鼻面目がけて拳をつき出す。
見事に男性教師をノックアウトした鏑木は塀を乗り越えると幾田に、逃げるよ! と声をかけて走り始める。
図書館に取り残された女性教師、生徒たちはその場に立ち尽くしていた。
気を取り直した女性教師に、今の人は誰だったの、と問われた響は、こっちが聞きたいと返すのみ。
響の携帯は鳴り続けていた。
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ネーム
北瀬戸駅。
無事逃げおおせた鏑木と幾田は、やってきた電車に乗って一息ついていた。
余計なことは何も語らず行動だけ、カッコよかった、と呑気に響と会った感想を述べる鏑木。
私と比べたら可哀想だが、女としてはまだ子供だと続ける。
幾田は俯いて顔を手で覆い、鏑木の話に何も反応しない。
鏑木は自分の話を無視し続ける幾田に、イラつくから相槌くらいしろと注意する。
その言葉で幾田はようやく言葉を発する。
「…響の行動しだいで、俺たちは終わりですよ。」
鏑木は逮捕、自分は左遷かクビと冷静に分析する。
そして以前、作品の取材のために美術館のセキュリティを知るべく深夜に侵入したことを挙げて、法に触れることは二度とするなと伝えたことを鏑木に確認する。
言われたけど承知はしてない、と悪びれもせずに返す鏑木。
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それを受けて幾田は、最悪自分は何とでもなるが、『カナタの刀』で2000万部作家となった鏑木紫が無駄に社会的生命を途絶えさせてしまうようなことをするなと語気を強める。
笑顔で自分を見つめてくる鏑木に、幾田は、ハイと言ってください、と返事を促す。
鏑木はそれに応じず、迷惑をかけたかわりにおみやげが二つある、と話を変える。
それは響に強引に『鮎喰』とだけ書かせた原作使用許諾書と、家から持参してきた漫画版『お伽の庭』の1話目のネームを描いたノートだった。
それを受け取り、幾田は、そもそもこれがつまらなかったらこの話は全部終わりだと感じていた。
ノートの表紙を開く。
まず風景のコマから始まることに、幾田は最悪だと感じずにはいられなかった。
鏑木はネームを読む事に集中し始めた幾田を笑顔で見つめる。
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覚悟を決める鏑木と幾田
学校帰り、響は涼太郎と歩きながら花井と電話していた。
今日、響が相手をしたのは『カナタの刀』の作者で鏑木紫だという花井からの説明を受けて、なんか聞いたことある気もする、と響。
花井が一度断ったという『お伽の庭』の漫画化の話を聞き、響はそういえば、と、以前漫画の編集から直接それを聞いていたことを思い出し花井に報告する。
響は、今は小説と映画に集中したいからそっとしておいてと花井に伝える。
後は自分が何とかすると花井。
一方、鏑木たちを運ぶ電車は終点の新宿に着いていた。
しかし鏑木も幾田も降りようとしない。
ネームを読む事に集中している幾田を相手に、鏑木は一方的に語り始める。
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漫画はキャラとイベントが命にもかかわらず、そのいずれを描くにも才能がない漫画家が逃げるのが情景や心理の描写であること。
それらの作品はいずれもつまらないこと。
そして、自分ならば情景や心理の描写も面白くできるのではないかということだった。
『お伽の庭』であれば情景描写でエンタメができるのではないか、という鏑木。
しかし鏑木は、おそらく自分と同じようなことを思って描かれたであろう天才のひどい作品を目にしてきたので、果たして自分がそれらの先人と同じようなミスを犯してはいないかと幾田に問いかける。
ネームに集中する幾田の表情はいつしか緩んでいた。
風景だけのコマにもかかわらず、こんな面白さははじめてだと幾田は感想を述べる。
それだけ聞ければ十分とばかりに鏑木は幾田からノートを受け取ると、後はよろしく、と歩いていく。
いや、と難色を示す幾田に対して鏑木は、自分は面白い漫画を描くことが仕事であり、それ以外は全て編集の仕事という主張を譲らない。
幾田は、その通りだと認めつつも、響の気持ちを無視することは出来ないと食い下がる。
「だから知ったこっちゃねーんだよ。私の漫画は面白かったんだろ。お前は黙って雑誌に載せることだけ考えろ。」
「……ですね。」
幾田は鏑木の言葉に覚悟を決めるのだった。
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感想
鏑木紫も天才
鏑木紫ヤバイな。
ブルドーザーみたいに自分の道を切り拓いていくその姿に正直憧れすら抱いてしまう。
自分の主張をただ愚直に押し通そうとするだけではなく、客観的に自分の行動が間違っていないかを他人に確認する冷静さも持ち合わせている。
仕事できる人って感じ。
結果を出すから傲慢なところがあっても、無茶をしようとも、幾田はついていくんだろうな。
単に担当編集者だからというだけでついていけるレベルではないと思う。
危ないけど、でも間近で見ていたいという幾田の気持ち。わからんでもない(笑)。
しかし自分の立場を失うリスクがあるのに、こうも簡単に相手のテリトリーに侵入することを決断できるのはすごいわ……。あくまでフィクションだけど……。
鏑木の『お伽の庭』漫画版に対する執念が伝わってくる。
もちろん鏑木には『お伽の庭』が好きだから漫画化したいという気持ちもあるだろう。
でもそれ以上に、『お伽の庭』のコミカライズという仕事を通じて自分の表現をより極めていきたいというのが正確なところなのかなと思った。
かっこいいと思うんだけど、やはり他人の気持ちを無視してまで強行していいことではないだろう。
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相手のところに乗り込むという展開というと、響がテレビ局に乗り込んだ話を連想する。でもそれとは全然訳が違う。
響の場合は自分をテレビで取り上げるなと前々から主張していたにも関わらず、津久井の強引な仕事によって収録が強行されたのを止めるためであり、まだ理があった。
もっと言えば、もともとは津久井に収録の現場に招かれていたわけだし……。
しかし鏑木は違う。
響が拒否した案件を強引に承認させるためという、100%自己都合による行動だ。
自分の都合を響に押し付けている点では津久井に近いといえる。
そういえば津久井も仕事ができる人だったっけ……。
しかしさすがの津久井も不法侵入など犯罪のリスクはとってこなかった。それ比べると鏑木は彼以上に自分の欲望に対してあまりに忠実だ。
いい感じにさらに上位の敵が出てきたと思う。
それに鏑木は天才であることに強烈な自負も持っていた。
そこも響とは大きく違う点だ。
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確かに揺るぎない自信を持つのに見合った実力はあるかもしれない。
でもそれと相手の都合を無視するのとは別だ。
響は自分の作品のために誰かに犠牲を強いることはなかった。
自分の作品の取材のためには手段を選んでこなかったんだなぁ。
美術館のセキュリティを取材する為に侵入するとかぶっ飛び過ぎだろ……。
実力があればある程度のわがままも許されてしまうが、響からはそういった特別扱いを望む態度はかけらも見受けられない。
響と同様に鏑木も天才だ。
でもこの二人のタイプは全く違う。
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あと前回はそこまで引っかからなかったが、容姿にも迫力がある。
体格がいいのもあるけど、恰好がちょっと異様に感じた。
外出時にするような格好ではない気がする……。
近場ならまだありなのかもしれないけど、交渉の場に赴くような恰好としては正直どうなの、と思う。
でもそういう、恰好にこだわらないようなところもいちいち天才って感じがする。
女として揺るぎない自信があるっぽいんだよなあ。
どういう格好をしていようが自分の魅力が一切減じることはないというその心意気や良し。
私なんか、と卑屈になるよりはこの程度の根拠のない自信があった方が健全に生きられるのかなあなんて思った。
以上、響 小説家になる方法第99話のネタバレを含む感想と考察でした。
第100話に続きます。
図書館にて起きた異常事態を前に、生徒たちが騒ぎ始め、ついには教師を呼びに行く生徒も現れる。
鏑木はこの状況をマズイと感じていた。
響の携帯が鳴る。
臨戦態勢を保ったまま響が電話に出ると、相手は花井だった。
花井は図書館での騒動を敷地外から見ていた幾田から連絡を受け、この状況を無事に収めるべく響に電話していたのだった。
花井は慌てた様子で、響が今目の前にしている人物は漫画家であること、彼女を学校外に出して欲しいことを端的に伝える。
さらに何かを伝えようとする花井だったが、響はそれだけ聞ければ十分とばかりに携帯を閉じてしまう。
花井は響への伝達手段を失い、もう片方の手で耳に当てていた幾田からの状況報告をただ無言で聞いていた。
花井から響に電話を切られたと聞いた幾田は、事態が収まったかと問いかける。
しかし現場におらず、状況が全くわからない花井には答えようがない。
花井はそもそもコミカライズの話自体は断ったにも関わらず、なぜ鏑木と幾田が学校にいるのかと幾田に問い返す。
それを聞き、慌てる幾田。
しかし自分が出ていくわけにもいかず、頼みの綱として動いてもらった花井も響に電話を切られてしまい、何も出来ない。
学校に不法侵入し、生徒、それも響に暴行したとして鏑木本人はもちろんその担当者である自分も終わってしまう。
幾田は事態を注視しつつ、鏑木に何もせずに出てきて欲しいとただ祈るのみだった。
響が思い切りスイングしてきた椅子を鏑木は右手で受け止める。
その椅子を放り投げた鏑木の一瞬のスキをついて響が鏑木に殴りかかろべき距離を詰めていく。
しかし鏑木は近づいてきた響の腹に前蹴りを食らわせていた。
そして痛みに屈んだ響の肩を持ち、床に押し倒す。
黙って聞け、と響に言い聞かせようとする鏑木だったが、響から下腹部に膝蹴りを食らって響を放したところで響に顔を殴られる。
生徒たちは目の前で繰り広げられる喧嘩にただ呆気にとられていた。
幾田もただ立っているのみ。
二人は立ち上がり、再び互いに見合っていた。
そこに教師がやってくる。
さすがに潮時だと感じた鏑木は急いで窓から外に脱出する。
追いかける男性教師。
状況の一部始終を見ている幾田は、捕まったら終わりだ、と戦々恐々としていた。
今にも鏑木が捕まりそうになるその瞬間、鏑木は素早く振り向き男性教師の鼻面目がけて拳をつき出す。
見事に男性教師をノックアウトした鏑木は塀を乗り越えると幾田に、逃げるよ! と声をかけて走り始める。
図書館に取り残された女性教師、生徒たちはその場に立ち尽くしていた。
気を取り直した女性教師に、今の人は誰だったの、と問われた響は、こっちが聞きたいと返すのみ。
響の携帯は鳴り続けていた。
ネーム
北瀬戸駅。
無事逃げおおせた鏑木と幾田は、やってきた電車に乗って一息ついていた。
余計なことは何も語らず行動だけ、カッコよかった、と呑気に響と会った感想を述べる鏑木。
私と比べたら可哀想だが、女としてはまだ子供だと続ける。
幾田は俯いて顔を手で覆い、鏑木の話に何も反応しない。
鏑木は自分の話を無視し続ける幾田に、イラつくから相槌くらいしろと注意する。
その言葉で幾田はようやく言葉を発する。
「…響の行動しだいで、俺たちは終わりですよ。」
鏑木は逮捕、自分は左遷かクビと冷静に分析する。
そして以前、作品の取材のために美術館のセキュリティを知るべく深夜に侵入したことを挙げて、法に触れることは二度とするなと伝えたことを鏑木に確認する。
言われたけど承知はしてない、と悪びれもせずに返す鏑木。
それを受けて幾田は、最悪自分は何とでもなるが、『カナタの刀』で2000万部作家となった鏑木紫が無駄に社会的生命を途絶えさせてしまうようなことをするなと語気を強める。
笑顔で自分を見つめてくる鏑木に、幾田は、ハイと言ってください、と返事を促す。
鏑木はそれに応じず、迷惑をかけたかわりにおみやげが二つある、と話を変える。
それは響に強引に『鮎喰』とだけ書かせた原作使用許諾書と、家から持参してきた漫画版『お伽の庭』の1話目のネームを描いたノートだった。
それを受け取り、幾田は、そもそもこれがつまらなかったらこの話は全部終わりだと感じていた。
ノートの表紙を開く。
まず風景のコマから始まることに、幾田は最悪だと感じずにはいられなかった。
鏑木はネームを読む事に集中し始めた幾田を笑顔で見つめる。
覚悟を決める鏑木と幾田
学校帰り、響は涼太郎と歩きながら花井と電話していた。
今日、響が相手をしたのは『カナタの刀』の作者で鏑木紫だという花井からの説明を受けて、なんか聞いたことある気もする、と響。
花井が一度断ったという『お伽の庭』の漫画化の話を聞き、響はそういえば、と、以前漫画の編集から直接それを聞いていたことを思い出し花井に報告する。
響は、今は小説と映画に集中したいからそっとしておいてと花井に伝える。
後は自分が何とかすると花井。
一方、鏑木たちを運ぶ電車は終点の新宿に着いていた。
しかし鏑木も幾田も降りようとしない。
ネームを読む事に集中している幾田を相手に、鏑木は一方的に語り始める。
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漫画はキャラとイベントが命にもかかわらず、そのいずれを描くにも才能がない漫画家が逃げるのが情景や心理の描写であること。
それらの作品はいずれもつまらないこと。
そして、自分ならば情景や心理の描写も面白くできるのではないかということだった。
『お伽の庭』であれば情景描写でエンタメができるのではないか、という鏑木。
しかし鏑木は、おそらく自分と同じようなことを思って描かれたであろう天才のひどい作品を目にしてきたので、果たして自分がそれらの先人と同じようなミスを犯してはいないかと幾田に問いかける。
ネームに集中する幾田の表情はいつしか緩んでいた。
風景だけのコマにもかかわらず、こんな面白さははじめてだと幾田は感想を述べる。
それだけ聞ければ十分とばかりに鏑木は幾田からノートを受け取ると、後はよろしく、と歩いていく。
いや、と難色を示す幾田に対して鏑木は、自分は面白い漫画を描くことが仕事であり、それ以外は全て編集の仕事という主張を譲らない。
幾田は、その通りだと認めつつも、響の気持ちを無視することは出来ないと食い下がる。
「だから知ったこっちゃねーんだよ。私の漫画は面白かったんだろ。お前は黙って雑誌に載せることだけ考えろ。」
「……ですね。」
幾田は鏑木の言葉に覚悟を決めるのだった。
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感想
鏑木紫も天才
鏑木紫ヤバイな。
ブルドーザーみたいに自分の道を切り拓いていくその姿に正直憧れすら抱いてしまう。
自分の主張をただ愚直に押し通そうとするだけではなく、客観的に自分の行動が間違っていないかを他人に確認する冷静さも持ち合わせている。
仕事できる人って感じ。
結果を出すから傲慢なところがあっても、無茶をしようとも、幾田はついていくんだろうな。
単に担当編集者だからというだけでついていけるレベルではないと思う。
危ないけど、でも間近で見ていたいという幾田の気持ち。わからんでもない(笑)。
しかし自分の立場を失うリスクがあるのに、こうも簡単に相手のテリトリーに侵入することを決断できるのはすごいわ……。あくまでフィクションだけど……。
鏑木の『お伽の庭』漫画版に対する執念が伝わってくる。
もちろん鏑木には『お伽の庭』が好きだから漫画化したいという気持ちもあるだろう。
でもそれ以上に、『お伽の庭』のコミカライズという仕事を通じて自分の表現をより極めていきたいというのが正確なところなのかなと思った。
かっこいいと思うんだけど、やはり他人の気持ちを無視してまで強行していいことではないだろう。
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相手のところに乗り込むという展開というと、響がテレビ局に乗り込んだ話を連想する。でもそれとは全然訳が違う。
響の場合は自分をテレビで取り上げるなと前々から主張していたにも関わらず、津久井の強引な仕事によって収録が強行されたのを止めるためであり、まだ理があった。
もっと言えば、もともとは津久井に収録の現場に招かれていたわけだし……。
しかし鏑木は違う。
響が拒否した案件を強引に承認させるためという、100%自己都合による行動だ。
自分の都合を響に押し付けている点では津久井に近いといえる。
そういえば津久井も仕事ができる人だったっけ……。
しかしさすがの津久井も不法侵入など犯罪のリスクはとってこなかった。それ比べると鏑木は彼以上に自分の欲望に対してあまりに忠実だ。
いい感じにさらに上位の敵が出てきたと思う。
それに鏑木は天才であることに強烈な自負も持っていた。
そこも響とは大きく違う点だ。
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確かに揺るぎない自信を持つのに見合った実力はあるかもしれない。
でもそれと相手の都合を無視するのとは別だ。
響は自分の作品のために誰かに犠牲を強いることはなかった。
自分の作品の取材のためには手段を選んでこなかったんだなぁ。
美術館のセキュリティを取材する為に侵入するとかぶっ飛び過ぎだろ……。
実力があればある程度のわがままも許されてしまうが、響からはそういった特別扱いを望む態度はかけらも見受けられない。
響と同様に鏑木も天才だ。
でもこの二人のタイプは全く違う。
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あと前回はそこまで引っかからなかったが、容姿にも迫力がある。
体格がいいのもあるけど、恰好がちょっと異様に感じた。
外出時にするような格好ではない気がする……。
近場ならまだありなのかもしれないけど、交渉の場に赴くような恰好としては正直どうなの、と思う。
でもそういう、恰好にこだわらないようなところもいちいち天才って感じがする。
女として揺るぎない自信があるっぽいんだよなあ。
どういう格好をしていようが自分の魅力が一切減じることはないというその心意気や良し。
私なんか、と卑屈になるよりはこの程度の根拠のない自信があった方が健全に生きられるのかなあなんて思った。
以上、響 小説家になる方法第99話のネタバレを含む感想と考察でした。
第100話に続きます。
今日、響が相手をしたのは『カナタの刀』の作者で鏑木紫だという花井からの説明を受けて、なんか聞いたことある気もする、と響。
花井が一度断ったという『お伽の庭』の漫画化の話を聞き、響はそういえば、と、以前漫画の編集から直接それを聞いていたことを思い出し花井に報告する。
響は、今は小説と映画に集中したいからそっとしておいてと花井に伝える。
後は自分が何とかすると花井。
一方、鏑木たちを運ぶ電車は終点の新宿に着いていた。
しかし鏑木も幾田も降りようとしない。
ネームを読む事に集中している幾田を相手に、鏑木は一方的に語り始める。
漫画はキャラとイベントが命にもかかわらず、そのいずれを描くにも才能がない漫画家が逃げるのが情景や心理の描写であること。
それらの作品はいずれもつまらないこと。
そして、自分ならば情景や心理の描写も面白くできるのではないかということだった。
『お伽の庭』であれば情景描写でエンタメができるのではないか、という鏑木。
しかし鏑木は、おそらく自分と同じようなことを思って描かれたであろう天才のひどい作品を目にしてきたので、果たして自分がそれらの先人と同じようなミスを犯してはいないかと幾田に問いかける。
ネームに集中する幾田の表情はいつしか緩んでいた。
風景だけのコマにもかかわらず、こんな面白さははじめてだと幾田は感想を述べる。
それだけ聞ければ十分とばかりに鏑木は幾田からノートを受け取ると、後はよろしく、と歩いていく。
いや、と難色を示す幾田に対して鏑木は、自分は面白い漫画を描くことが仕事であり、それ以外は全て編集の仕事という主張を譲らない。
幾田は、その通りだと認めつつも、響の気持ちを無視することは出来ないと食い下がる。
「だから知ったこっちゃねーんだよ。私の漫画は面白かったんだろ。お前は黙って雑誌に載せることだけ考えろ。」
「……ですね。」
幾田は鏑木の言葉に覚悟を決めるのだった。
感想
鏑木紫も天才
鏑木紫ヤバイな。
ブルドーザーみたいに自分の道を切り拓いていくその姿に正直憧れすら抱いてしまう。
自分の主張をただ愚直に押し通そうとするだけではなく、客観的に自分の行動が間違っていないかを他人に確認する冷静さも持ち合わせている。
仕事できる人って感じ。
結果を出すから傲慢なところがあっても、無茶をしようとも、幾田はついていくんだろうな。
単に担当編集者だからというだけでついていけるレベルではないと思う。
危ないけど、でも間近で見ていたいという幾田の気持ち。わからんでもない(笑)。
しかし自分の立場を失うリスクがあるのに、こうも簡単に相手のテリトリーに侵入することを決断できるのはすごいわ……。あくまでフィクションだけど……。
鏑木の『お伽の庭』漫画版に対する執念が伝わってくる。
もちろん鏑木には『お伽の庭』が好きだから漫画化したいという気持ちもあるだろう。
でもそれ以上に、『お伽の庭』のコミカライズという仕事を通じて自分の表現をより極めていきたいというのが正確なところなのかなと思った。
かっこいいと思うんだけど、やはり他人の気持ちを無視してまで強行していいことではないだろう。
相手のところに乗り込むという展開というと、響がテレビ局に乗り込んだ話を連想する。でもそれとは全然訳が違う。
響の場合は自分をテレビで取り上げるなと前々から主張していたにも関わらず、津久井の強引な仕事によって収録が強行されたのを止めるためであり、まだ理があった。
もっと言えば、もともとは津久井に収録の現場に招かれていたわけだし……。
しかし鏑木は違う。
響が拒否した案件を強引に承認させるためという、100%自己都合による行動だ。
自分の都合を響に押し付けている点では津久井に近いといえる。
そういえば津久井も仕事ができる人だったっけ……。
しかしさすがの津久井も不法侵入など犯罪のリスクはとってこなかった。それ比べると鏑木は彼以上に自分の欲望に対してあまりに忠実だ。
いい感じにさらに上位の敵が出てきたと思う。
それに鏑木は天才であることに強烈な自負も持っていた。
そこも響とは大きく違う点だ。
確かに揺るぎない自信を持つのに見合った実力はあるかもしれない。
でもそれと相手の都合を無視するのとは別だ。
響は自分の作品のために誰かに犠牲を強いることはなかった。
自分の作品の取材のためには手段を選んでこなかったんだなぁ。
美術館のセキュリティを取材する為に侵入するとかぶっ飛び過ぎだろ……。
実力があればある程度のわがままも許されてしまうが、響からはそういった特別扱いを望む態度はかけらも見受けられない。
響と同様に鏑木も天才だ。
でもこの二人のタイプは全く違う。
あと前回はそこまで引っかからなかったが、容姿にも迫力がある。
体格がいいのもあるけど、恰好がちょっと異様に感じた。
外出時にするような格好ではない気がする……。
近場ならまだありなのかもしれないけど、交渉の場に赴くような恰好としては正直どうなの、と思う。
でもそういう、恰好にこだわらないようなところもいちいち天才って感じがする。
女として揺るぎない自信があるっぽいんだよなあ。
どういう格好をしていようが自分の魅力が一切減じることはないというその心意気や良し。
私なんか、と卑屈になるよりはこの程度の根拠のない自信があった方が健全に生きられるのかなあなんて思った。
以上、響 小説家になる方法第99話のネタバレを含む感想と考察でした。
第100話に続きます。
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