第35話 記者
ついに見つかった響
小論社。
社内の電話という電話が鳴り響き、各デスクの社員達が響の問い合わせ、取材願いの電話対応に追われている。
「お疲れさまです。大坪です。」
その喧噪から少し離れたところで大坪が電話をしている。
「今ちょっと大丈夫ですか?」
電話先の相手に、響が芥川賞直木賞に同時にノミネートされて編集部が電話対応でごった返していると説明する。
響は15歳で「ああいう子」だから、取材は一切お断りなので、田中さんは響の学校に関しても漏らさないでください、と続ける。
少しの間の後、え……? と電話口で固まる田中。
その反応を受けて、え? と固まる大坪。
住宅街で着信が鳴る。
響が電話に出るとかけてきたのは花井だった。
響に関する取材は一切断ると言ったが、週刊大衆の記者に響の学校がバレた、と焦った様子の花井。
花井と電話をしている響を一眼レフカメラで撮りまくる記者。
響は全く動じることなく「なるほど」と一言納得する。
「アホが…いえ田中さんが、響と新人賞の同期ってことで取材がきたみたいで、そこで学校名言っちゃったって!」
花井の隣にいる大坪の電話先から田中の謝罪の声と、コスプレして派手に世に出るつもりなのかと、という言い訳。
週刊誌の記者は動きが早いから明日にも学校に張り込みされるかも、と言う花井の声を聞いている響は記者に写真を撮られるままになっている。
響は目を鋭くして一言、わかった、なんとかする、と花井に向かって言う。
「しなくていい! お願いだから何もしないで!!」と必死に響を止める花井。
相手は記者であり、響もこれまでとは立場が違うのだと説明する。
もし来ても話をせず、写真も撮られないで、と続ける。
もうムリ、と響が端的に答える。
響は花井に、記者なら大人で社会人だから日本語が通じる、普通に話して帰ってもらう、と宣言する。
花井は、一つだけ約束して、と前置きして響に忠告する。
「絶対に手をあげないで。」
花井はさらに言葉を続けようとするが、はいはい、と言って電話を切る響。
電話を終え、記者に視線を移した響に向けて最後に1回シャッターが切られる。
記者とバトル
記者は、はじめまして、と笑顔で挨拶する。
「君、この写真の響さんですよね?」
片手には新人賞受賞式でのコスプレした響の写真がある。
記者は話を聞きたいと言ってICレコーダーのスイッチを入れる。
「芥川賞。直木賞に50年ぶりのダブルノミネート。しかもまだ15歳の女の子!」
「この報せを聞いた時、どう思いました?」
記者を正面から睨む響。
「私は自分のことを他人に好き勝手書かれたくない。」
「今撮った写真を消して帰って。」
記者は、編集部に聞いたけど取材NGなんですよね、そっかー…と呟くように言う。
響は、それを聞いて口元に笑顔を浮かべる。
じゃあ一つだけ! とシャッターを切る記者。
「小説を書き始めたきっかけは?」
響の顔から笑顔が消える。
考える時間が必要なら待つから気にしないで、と見当はずれの事を言う記者。
門限があるなら家で話を聞いても構わない、と続ける。
響の、記者を睨む目が鋭くなる。
一言二言でいいんですけど、と言う記者は、それでも黙っている響に、質問の角度を変える、と宣言する。
「響ちゃんは今、彼氏います?」
シャッターを切る記者。
今時の女子高生だしいるよね? 相手は? どんな子? と矢継ぎ早に質問する記者。
響が黙っていると、ちょっとしていない? 女子高生なのに? と意外、と言わんばかりの表情をする。
「ごめんね、悪いこと聞いちゃって…やっぱ今は小説が恋人?」
響の表情が固まる。
「……まずは会話が通じるところからか。」
ぽつりと呟く。
(怒れー怒れー。)
カメラを構えて口元に笑顔を浮かべる記者。
新人賞受賞式でパイプ椅子を振り回したことを知っていた記者はコメントが取れなくても暴力をふるってくれれば写真と併せてネタになる、と考える。
響が記者を睨む。
響の暴力を誘発するため、良かったらおじさんの息子紹介しましょうか? まだ七歳だけど、と響を挑発する記者。
(15歳の女の子の力なんかたかが知れてる。)
響は、記者の手から一眼レフカメラを取り上げ、傍らの車道に投げる。
タイミングよく通りかかったトラックによってカメラが破壊される。
あとに残された光景を呆然と見つめる記者。
メチャクチャに壊れたカメラを見て、すぐに響を見ようとする記者だが、視界に響の姿は無い。
はは…、と笑う記者。
場所を変えて記者とのバトル
北瀬戸駅。
記者――須田が編集長に電話で報告している。
明日の夕方には記事に出来ると報告しながら来た電車に乗り込む須田。
自分のマンションに帰って来た須田は響のことを考えながら投下を歩いている。
「カメラ壊されたからって諦めるとても思ったのかなあ。」
自分の部屋の前に来た須田。扉に鍵を差し込む。
「まあオレらマスコミに粗探しされるのは天才の宿命と思ってください。才能税だ。」
「才能だけ披露して羨望だけ集めようってのは、ワガママがすぎるよ。」
扉を開く。
「明日は実際に手をあげてくれると助かるなあ。紙面が派手になる。」
突如、何者かに背中を蹴られる須田。
完全に虚をつかれ、うつ伏せに倒れる須田。
何が起こったのか分からない様子の記者は振り返る。
「こんばんは。」
そこにいたのは響だった。
「……響?」
驚愕している須田。
なんでここに? と呆気にとられながら響を見る。
「一人暮らし? 散らかってるわね。」
ずかずかと須田の隣を通って部屋に入っていく響。
何勝手に、と響を止めようとする須田を響が睨む。
須田は響を掴もうと手を伸ばしたまま、ふと思い立ち、止まる。
(相手は女子高生でここはオレの自宅…)
須田は、騒ぎになって警察が来たら立場が悪いのは自分だと考える。
響は奥の部屋に入っていく。
須田は、信じられないという表情で響を見るが、無理やり笑顔を浮かべる。
尾行するのは慣れてるがされるのは初めてだ、降参です、と言う。
手元でこっそりICレコーダーのスイッチを入れる。
須田は、響を記事にするのは諦めるし、もう会わないから一つ教えて、と指を立てる。
「芥川賞・直木賞にダブルノミネートされたご感想、響さんの言葉で聞かせてもらえません?」
貼り付けたような笑顔で響に問いかける。
「これ息子さん?」
幼い男の子の写真が入った写真立てを持つ響。
「一人暮らしみたいだから。別居? それとも離婚?」
須田の顔から笑顔が消える。
「……勝手に触らないでくれます?」
名前を問う響。写真立ての裏に名前を見つける。
「勇太くんか。いい名前ね。」
「勇太くんはどこに住んでるの?」
「……子供は関係ないだろ。」
須田の表情が険しくなる。
「私だってお父さんとお母さんの子供よ。」
即応する響。
あ…? と固まり、沈黙する須田。
それを見て響が口元に笑顔を浮かべる。
「やっと会話が通じそうね。」
感想
響の尾行能力高過ぎる。
そもそも住宅街で記者のカメラを壊した直後に記者の視界から消えたのも人間業じゃない。
相変わらず大胆な行動だけど、響にしか使えない手だよなぁと思う。
記者の須田は響が自分の部屋に乗り込んできた時、響に向けて伸ばした手を止めた。
相手が女子高生で、揉めたら加害者扱いになるのは自分だと思ったからだった。
響は、多分そこまで計算していたわけではないと思う。
後先考えずに尾行したのは、ここで記者の記事を止めなければいけない、という焦りからだったはず。
しかし、そもそも公衆の面前で平気で他人を殴ったり、倒れた人に向けて本棚を倒してみたり、パイプ椅子振り回したりするような人間に「後先考える」という言葉は無いよなぁ。
実際、現実ではたとえここまでやっても記者には記事にされてしまうだろう。
むしろセンセーショナルな記事になってしまう。
ここからどうやって記事になるのを防ぐのか。
以上、響 小説家になる方法 第35話 記者 のネタバレ感想でした。
36話の詳細は上記リンクをクリック。
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