第46話 「説」
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『お伽の庭』、出版。
芥川賞直木賞受賞記者会見か2日後の1月17日。
小論社のビルの前に立っている響の父と母。
ビルの一室で小論社の社長、木蓮編集長、出版局長、ライセンス部長、花井と響の両親が『お伽の庭』の出版契約についてテーブルを挟んで話し合う。
結果、響の受け取る印税額は「本体価格×10%」から、響父の希望する印税放棄にほぼ近い「本体価格×0.001%」となり、生じた差額分の印税は小論社名義で慈善団体に寄付を行うということに決定する。
2月9日の授賞式では花井が代理で表彰台に上がる。
芥川賞直木賞の合計200万の賞金は響が止めた電車の賠償分で180万、イスで傷付けたホテルのガラス弁償で2万、残りの18万を響の母が管理することに。
2月10日、『お伽の庭』が発売。
書店の店頭に塔のように積み上げられた『お伽の庭』。
響の才能に触れて作家をやめた中原、木蓮新人賞を一緒に獲得した田中、芥川賞に落ちた山本、響のクラスメートの女の子が皆それぞれ『お伽の庭』を手に取っている。
4月。桜が咲き誇る中、北瀬戸高校で入学式が行われている。
入学式を終えて会場から教室へ向かう新入生たち。
1年3組で部活をどこに決めたのかと女の子が話している。
「アタシ文芸部!」
「マジで? 私も文芸部!」
「マジで!? やっべーアタシら運命じゃん?」
手を取り合って盛り上がる女の子二人。
ショートカットの女の子が「ここの文芸部超ヤバいの」と問いかける。
長髪を二つに分けてそれぞれを縛った女の子が「ぶっちゃけそれ目当て」と机を叩く。
「ここの文芸部 祖父江リカがいんだよね!」
そうそう、と手を叩き合って盛り上がる二人。
長髪の女の子は祖父江秋人が好きだと言い、リカと仲良くなれば紹介してもらえるかも、と興奮している。
その様子をみてショートカットの女の子がガチの小説好きなんだ、と言う。
ヤンキーのシロー君
男子生徒が「部活強制かよ かったりーなあ」と冊子を見ている。
「シロー君はどこ入る? またサッカーとか?」
シローと呼ばれた男子学生が、高校入ってまで体育会系はやだ、と拒否する。
「文科系の楽そーなトコならどこでもいいんじゃん? 文芸部とかさ」
似合わない、と笑う男子生徒にウシジマくんとか読むよ、とおどけてみせるシロー。
そこに、「お前サッカー部だったの?」と他の男子生徒が会話に入って来る。
サッカー部の見学一緒に行かないか、という男子生徒にシローは、いかない、と答える。
「見学くらいいいじゃん、周りサッカー部行きそうなヤツいなくてさ。」
笑顔で食い下がる男子生徒。
「つーかよ」
一人ってのも心細いし…と喋っている途中の男子学生の口をシローが乱暴に掴む。
「今俺のことお前っつった?」
「誰に向かって口きいてんだコラ。」
目を見開いて脅すシロー。
最初に話していた男子生徒が、謝っといた方がいいよ、と言う。
「シロー君、中学ン時フツーに先輩とかシメてたし。」
ワリぃ、と謝る男子学生。
あ? と凄み、口を掴む手に力を入れて男子学生を床に跪かせる。
男子生徒は慌てて、ごめんと謝りなおす。
クラスメートだし仲良くしよう、と手を離すシロー。
「立場わきまえた上でさあ。」
おかっぱの女の子
本当に文芸部に入るのかと問うシローと最初に話していた男子学生の問いに、シローは「そーだなあ」と言いながら近くの机で本を読んでいるおかっぱの女子生徒から文庫本を奪う。
「ちょっと借りるよ。」
女子生徒の机に腰かけ、「ハイ読んだ」と片手で開いた文庫本を眺める。
「この人なに? ヒタクの人?」
『火宅の人』という本のタイトルを見ながら「これを愛読書ってことにする」とシローが言う。
「わーすげー小学生のまま高校生なったみてーのいるー」とショートカットの女の子が笑う。
「超ひくー」とショートカットの女の子に同意する長髪の女の子。
文庫本を奪われたおかっぱの女の子がシローの左頬をビンタする。
へー…、とおかっぱの女の子を見るシロー。
長髪の女の子が、おー、と感心したような声をあげる。
ショートカットの女の子は笑顔を浮かべている。
おかっぱの女の子はシローの手から本を奪い返す
女の子に名前を問うシロー。
女の子は暫く黙ってシローを見たあと何も言わずに立ち去る。
「このことは覚えておくから」とシローは背中を向けている女の子に言う。
ウチらもそろそろ行こっか、と長髪がショートカットに言う。
おっけー、と同意するショートカットの女の子。
おかっぱの女の子は本を開いたまま廊下を歩いている。
(やっちゃった。)
女の子は顔を本の前に持っていくように俯く。
(高校に入ったらちゃんと人と話そうと思ってたのに、どうしても緊張して、口より手が…)
(いやでも さっきのはあの人がおかしいでしょ。人の本取り上げてあんなのイジメじゃない。私悪くないよ正義だよ。)
(でも、普通は、返してって言うよね…)
(私が、おかしいのかな……)
女の子はふと脇を見ると、校庭のベンチに腰掛けて本を読んでいるメガネの女子生徒に目が行き、思わずその場に止まる。
(ベンチで一人、本読んでる人がいる… あの人も一年かな。小柄だし。)
(……よし。)
意を決して、おかっぱの女の子は開いた本を持ったまま、メガネの女の子が座っているベンチに向かって歩いていく。
響とおかっぱの女の子
隣に座るおかっぱの女の子。
女の子は開いた本に視線を向けたまま、どうやって隣のメガネの女性学生に話しかけようか暫く逡巡する。
(こうやってぐじぐじ考えてるからダメなんだ。
(高校生になったら普通に友達作るって決めたんだ。)
(なんでもいいから、小説好きな女子高生同士の共通の話題…)
一度目を瞑って、隣を見る。
「そういえば伝説しってる?」
廊下でショートカットの女の子が長髪を二つに分けて縛った女の子に声をかける。
「響と祖父江リカ同じ学校説」
都市伝説ね、と返す長髪の女の子。
ショートカットの女の子は続けて『響』が「鬼島仁の隠し子説」「CG説」を持ち出す。
「つーか響って信じてる?」と長髪の女の子が問いかける。
信じるって? と不思議そうなショートカットの女の子。
長髪の女の子は「響いない説」が私の中の主流だと答える。
「『お伽の庭』読んだ?」と話題が『お伽の庭』に移る。
「最強に面白かったっしょ!」と長髪の女の子。
ショートカットの女の子も「私アレで小説ハマったし」と笑顔で返す。
テレビや雑誌で響特集が組まれているにも関わらず本人は全く表に出ず、コメントすらないことから文芸界による仕掛けを疑う長髪の女の子。
ショートカットの女の子は記者会見もやらせかと問う。
「そーそーマスコミもグルで、私リアルに「CG説」ありえると思うもん。」
「あー言われてみたら響の動き固かったようーな…」
ベンチで隣に座るメガネの女の子におかっぱの女の子が意を決して問いかける。
「響って信じる?」
感想
よりによって響本人に聞いてしまったおかっぱの女の子。
コミュニケーションに苦手意識を感じているが大胆な行動もとれる、ちょっと響に似たところを感じる。
決定的に違うのは思い悩むことか。
響なら決して人に話しかける事に逡巡しないしビンタしたあと後悔することもない。
これはおそらく響と自我の強い文学少女との対比のためのキャラとなるのではないか。
おかっぱの女の子もかなり変人だが響と比べてしまうと遥かに常識人だと分かる。
結局、おかっぱの女の子は響の異能を強調するための当て馬のようなキャラになってしまうのか、それとも魅力的な立ち位置を確保していくのか。
先行きが楽しみなキャラだと思う。
そしてシローは話の通じるタカヤより困ったヤンキーだと思う。
しかし結局、響に成敗される未来が見える。
何しろおかっぱの女の子にすら殴られたのだから。
こういうむかつくキャラは物語にカタルシスは生むための存在だと思う。
どうかうまく物語を盛り上げていってほしい。
響の印税は結局響父のいらないという要望はそのまま通らなかったものの、0.001%という驚異的な低さに修正された。
普通10%のままもらって全額親が管理すれば良いと思うんだけど、自らの教育方針を固く曲げない響父はともかく、それに一切反対しない響母もすごいと思う。
響母が口にしたのは響が止めた電車の賠償の話で少しお金がいるということだけ。
やはりぶっ飛んでいる響が育った環境もぶっ飛んでいたということか。
まだ響と響父の二人の会話はないので二人の空気感が一体どういうものかわからないけど、響がその独特の感性を養ってこれた理由は響父との関係が大きいのかもしれない。
響母は響をあるがまま受け入れてきたことは想像できる。
響父は響と同じく、こうだと思っているものは絶対他人に譲らない強い信念を持っている。
これが遺伝なのか教育によるものなのかはわからない。
今のところは、気質は教育できるものではないと思うからどちらかと言えば遺伝っぽく感じる。
今後、響父と響の会話シーンが出て来るのを待ちたい。
以上、響 小説家になる方法 第46話 「説」のネタバレ感想と考察でした。
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