第55話 ハンカチ
第54話のおさらい
身体測定で花代子と測定結果を見せ合う響。
二者面談で担任の小島と将来の進路の話になり、進路が決まっていない響は小島にそのうち決めるから信じろ、と言う。
納得する小島。
一ツ橋テレビでは、津久井が編成局の藤野に響に関して報告していた。
津久井は響の原作でアニメをやるので、その宣伝のために特番を組んで欲しいと提案する。
響のマスコミ完全NGを心配し、響から了承をとったのかを問う藤野。
津久井は全く響との交渉を行っていないにも関わらず自信たっぷりに、はい、と即答する。
涼太郎のブックカフェでは響が小説を執筆している。
涼太郎が店に閉店の看板をかけたにも関わらず入ってくる客。
それは祖父江秋人だった。
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響 小説家になる方法 第55話 ネタバレ感想
涼太郎を煽りまくる秋人
入り口のドアに「closed」の看板をかけていたにも拘わらず入店してきた祖父江秋人。
秋人は、自分とそりが合わない涼太郎に慇懃にブレンドを頼みつつ響の正面に座る。
もう閉店してる、と遠回しに拒否する涼太郎。
「みたいだね悪いねホント」と動じる事無く強引に注文をする秋人。
涼太郎はムカつきながらもコービーを入れにカウンターへ歩いていく。
驚いた様子で秋人を見つめる響。秋人は響と目を合わせる。
「こんばんは響ちゃん。文化祭以来だね。」
ポケットに手をつっこんだまま響に挨拶する。
こんばんは、と挨拶を返し、なぜここに来たのか問う響。
リカが進路で悩んでおり、どういう進路を選ぶにせよ一人暮らしをするという。
親離れだと理解した秋人は来年の春から夫婦で地中海に半年、その後北欧に飽きるまで住もうかと考えているという。
「そこで響ちゃん。よかったら一緒に行かない?」
響を北欧に誘う秋人。
ドン、とお茶漬けの入ったお茶碗が勢いよくテーブルに打ち付けられる。
「お待たせしました」と無表情の涼太郎。
ありがとう、と秋人は出されたお茶漬けを素直に食べる。
「うんおいしい。涼太郎君豆変えた? フレンチ?」
ブレンドコーヒーを頼んでいたはずだったがそれは指摘しない。
涼太郎は「永谷園です。」と秋人を見ずに答える。
響に顔を近づける涼太郎。
「響、あのおっさんは相手にするな。頭のおかしい人だ。」
「どうかな響ちゃん。」
秋人は涼太郎の言葉を無視して響に北欧行きに関して答えを促す。
「じゃあ、よろしくお願いします。」
表情を変えずに即答する響。
涼太郎が一瞬呆気にとられた後、本気で言ってるのか? と響に問う。
「まさか」
即答する響に驚く涼太郎。
「祖父江さんも本気じゃないわよ。」
響の言葉に笑う秋人。
「ありえないでしょ、人様の家の高校生の娘さんを海外に連れ出すなんて。」
涼太郎の表情が硬直する。
「響ちゃんこれが僕がここに来る理由。」と秋人が親指で涼太郎を指す。
これ? と問う響。
「僕は彼のこと嫌いだから、時々からかいに来てるんだ。」
涼太郎は怒りを抑えて秋人に「食べ終わったなら帰ってくれませんか?」と静かに告げる。
涼太郎を一瞥すらせず、言葉を無視する秋人。
「ところで今なんの小説書いてたの?」
「無駄です 教えてくれません。」
涼太郎が答える。
響が秋人を手招きする。
その様子に「え…」と驚く涼太郎。
響に近づいた秋人に、響はそっと耳うちする。
「……へえ。」と真剣な表情の秋人を見て涼太郎が放心する。
響に向けて人差し指を向けて涼太郎を見る秋人。
「ナイショだって。」
からかわれていたことに気付いた涼太郎は言葉を失う。
あっはっは、と笑う秋人。ふふ、と笑う響。
「涼太郎って祖父江さんのこと苦手なのね。」
悪戯っぽい笑顔を浮かべる響。
「別に」
呆れた様子の涼太郎。
「というかどうして祖父江さんなんだ。響はいつも年上の人にも呼び捨てだろ。」
「だってリカのお父さんだから。」
即答する響。
涼太郎は若干余裕の無い表情で「ああ……」としか答えられない。
そんな涼太郎の様子にくすくす笑う響。
「そうだ響ちゃんに聞きたいことあったんだ。」
響を手招きする秋人。
涼太郎はもう秋人のペースに巻き込まれまいとそっぽを向いて無視を決め込む。
「才能だけで芥川直木をとったのってどんな気分?」
秋人が響の耳元で問いかける。
秋人の顔を見る響。
笑顔で響を見返す秋人。
涼太郎はそっぽを向いたまま、今の二人のやりとりに気づいていない。
響に打ちのめされる子安
場面転換。ホテル。
ドレスアップした参加者たちがいるホールの正面には「NF文庫対象新人賞授賞式」のパネルが掲げられている。
正装している子安に近づいていく編集者。
あのメガネの子は担当に確認したらやはり来ていない、と子安に報告する。
「まあいいですよ全然。ハンカチ返したいなーって思っただけなんで。」
子安は響に鼻血を拭ってもらったハンカチを見つめる。
「つーか今日平日だし高校生は来れないよね可哀想に。学生もいるんだしこういうのは休日にしないと。」
「あの子は多分、今日がNF文庫新人賞の授賞式ってことも知らないだろうって…」
編集者の言葉に子安は言葉を失い、目を軽く見開く。
式は出ないし、担当は直接の連絡先も知らないし、そもそも賞はいらないと言ってた、と話す編集者の言葉に、愕然となった子安は「……そうですか。」と俯いて呟く。
場面は涼太郎のブックカフェに戻る。
響に秋人が耳打ちをしている。
「長い時間をかけた積み重ねもなく、努力もなく、純粋に才能だけで、意識なく他の作家を十把一絡げに蹂躙した気分は?」
涼太郎は離れた場所でイスに腰かけて、二人から視線を外している。
響は一瞬考えて「特に何も」と答える。
「蹂躙されたとかどうとかもし思ってる人がいるのなら、その人がこれからどうするかって話でしょ。」
「私がそこでなにかを思う必要はない。」
秋人は、そうだね、と相槌を打つ。
「ただもし私に直接ケンカを売ってくるのなら買うけど。」
「それで祖父江さん、」
自らの右掌に、バシィ、と本の背表紙を打ち付ける。
「あなたは私にケンカをうってるの?」
秋人は慌てて、ノーノーノー、と両手を響の前に突き出す。
「ちょっとしたいたずら心で聞いてみただけ!」
涼太郎がイスから立ち上がり、テーブルの前で両手で握り拳を作っている。
(やっちまえ響。)
子安が作家になって先輩作家と会って感じた初期衝動
ホテルのパーティー会場。
子安がグラスを傾けている。
(この会場には3種類の作家がいる。)
周囲を見回す。
(今日受賞した新人作家。)
(デビュー済みの中堅作家。)
(そして、あがりの奴ら。)
(作品がブレイクしてアニメだゲームだになって、億って貯金があってでかい買い物もせず将来の安泰が確定してる。)
(そういう、人生あがりの作家。)
(新人の頃、上から他の作家を見下ろしてるあのにやけヅラが気持ち悪くて、いつかオレの小説で全員ぶっ飛ばしてやるって思ったもんだ。)
子安はかつての自分を思い出しながら、掌中の響のハンカチを見つめて笑う。
「だからって、普通本当にぶっ飛ばすか……」
(いつからオレは、あんなにも薄気味悪くにやけるようになってたんだ。)
編集者が子安に声をかけて、大賞を受賞した島野君です、とメガネをかけたスーツ姿の若い男を紹介する。
「あのっ初めまして島野徹夜です。」
緊張した様子で挨拶する島野。子安の顔をまともに見ることが出来ない。
「あの…異世界建国ライフすごい面白いです。」
(すごい…本物の子安紡だ。僕もついに作家になったんだ。)
島野を見る子安。
「島野君は『漆黒のヴァンパイアと眠る月』は読んだ?」
「漆黒…?」
顎に手を当てて考える島野。
「ああ それって審査員特別賞の。」
「いえ…見てないです。一応僕大賞なんで。なんちゃって……」
子安は冗談を言った島野に対して全く笑うことなく、真剣な目を向ける。
「読んだほうがいい。」
そう言って、グラスを持ち上げる。
「君の小説が落書きに見えるほど面白いから。」
島野の表情が子安を見たまま固まる。
「君が大賞になったのは『漆黒』の子が辞退したから繰り上がりで、正直君はまだデビューできるレベルじゃない。しばらくは下積み続くのを覚悟して。」
初対面にもかかわらず、一切の遠慮なく冷徹に言い放つ子安を、半ば呆然として見つめる島野。
(そう、オレ相手にいちいち緊張するな。)
島野の目に子安に対する敵意と闘争心が灯る。
(新人はその顔でいいし、)
島野から向けられた攻撃的な目を冷たく見下ろす子安。
(俺はこれでいい。)
感想
いやぁ~、意外!
子安、かっこいいじゃん!
初登場時のラノベ作家になったキッカケを話している様子や、花代子にセクハラまがいの握手をして、響に殴られたところでは完全に間抜けなキャラかと思っていた。
しかし響に理不尽に殴られた後、『漆黒のヴァンパイアと眠る月』を読んでからの子安のシリアスさはまがりなりにも200万部売り上げた作家としての迫力を感じさせるものになっていった。
そして今回の話の子安よ。これ、正直かっこいいと思う。
>(いつからオレは、あんなにも薄気味悪くにやけるようになってたんだ。)
かつて自分が新人の時に感じた、にやついてあがりを決め込んだ奴らに対する闘争心は、売れたことによっていつの間にか衰え、それどころか自分がかつて忌み嫌っていた作家の醜い顔をしていたことに気付いたのだろう。
新人である島野を潰そうとするならむしろニコニコして懐柔して作家としての承認欲求を満たした方がいい。
そうすれば満足して書かなくなったり、そうならなくても少なくとも敵にはならない。
つまり損はないわけだ。
しかし、子安は響に殴られて以来、自分が作家としてのスタートした時に感じた気持ちを思い出した。
恐らく、それを新人にも伝えようとしていた。
初対面にもかかわらず大賞を獲った作家の作品をけなし、自分への敵意を煽ったのは、8割方は自分のためだが、残りは新人作家島野のためと言って良いだろう。
しかし、まさかこんなハードボイルドな一面を見せてくるとは……。
ただのキモオタキャラだと思ったらとんでもなかった。
柳本光晴先生は、こういう奥行きのあるキャラクターを描くのが巧いな~と思う。
子安が引き締まったのも、やはりこの漫画の主人公である響の影響であることは明白。
響は生きてただ他人と接するだけで、感じ取れる心を持っている人ならば人生が変わってしまうほどの強い影響力を持っていることを意味している。
初対面でいきなり殴りつけられ、その理由が「気持ち悪くてつい殴ってしまった」。
そしてそんな破天荒なメガネ女が書いた『漆黒のヴァンパイアと眠る月』は、ラノベの枠に収まりきらないとんでもない優れた作品だった。
おまけに賞を受け取ることを一切拒否するという潔さ。
その全てが子安を触発したと言って良いだろう。
最後のコマの子安は確かに威厳があった。
先輩作家は新人作家に対してかくあるべきということだろう。
こうして切磋琢磨することを望む。実に男らしい子安の今後の登場が楽しみ。
以上、響 小説家になる方法 第55話 ハンカチのネタバレ感想と考察でした。
次回、第56話に続きます。
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