第90話 勝とう
第89話のおさらい
オジサンの一撃により、レウウィスの仮面がバラバラの破片と化したことを喜ぶエマたち。
レウウィスは見事に自分の仮面を破壊したエマたちとの戦いにワクワクしていた。
ペペがレウウィスに向けて放った手榴弾の外装が開き、その中から閃光弾が現れる。
放たれた閃光はレウウィスの不意を突きその視界を奪う。
仮面を破壊してもすぐに次の攻撃、視界を奪うことに取り掛かれというのはルーカスの指示通りの行動だった。
閃光弾による効果は視覚を奪うにとどまらない。他にも様々な感覚をレウウィスから奪い去るものだった。。
突如視界を奪われ困惑するレウウィスだったが、窮地にありながらも、その内心ではどこか冷静さを失わない。
エマたちは、仮面を無くし、さらに閃光弾で動きを止めたレウウィスの急所を狙う。
レウウィスはバランスを崩し、地面に手をついて顔を伏せる。
それを好機と見たエマたちがレウウィスをを狙う。
しかし次の瞬間レウウィスは地面にある仮面の破片を周囲に向かて大量に投げるのだった。
エマたちがレウウィスの投げた破片を回避したり防御したりする中で、ペペだけが交わしきれずに呻き声を上げる。
その声を感知したレウウィスは、一瞬でペペと間合いを詰める。
そして爪をペペの左肩に一閃する。
深々と肩を切り裂かれて地面に倒れるペペ。
エマたちはペペが傷から血を吹き出し始めてから、レウウィスによる攻撃に気付くのだった。
その場にいた誰もがレウウィスの高速移動による動きを読めない。
ナイジェルが、視界を奪っていたはずのレウウィスが何故ペペを攻撃出来たのか困惑する中、レイはすぐにレウウィスが聴覚で自分の感覚を補っていたことに気づいていた。
確実に閃光弾でレウウィスの虚を衝いた。しかしレウウィスが奪われた視覚を一瞬で聴覚によって補う機転を見せたことにレイは戦慄する。
オジサンは呆然としているレイを尻目にいち早く移動して再狙撃に向けて動いていた。
オジサンの狙撃による銃弾が近付いてくる中、レウウィスは銃弾に素早く反応し、それを腕で受ける。
そして貫通した弾を歯でキャッチしてみせる。
レウウィスから地面の破片による散弾銃のような攻撃を受けるオジサンだったが、伏せることで何とか躱していく。
そしれレウウィスはナイジェルが潜伏していた家の壁に向けて突きを行う。
外壁に徐々に亀裂が走っていき、それはナイジェルの待機していた窓辺にまで達していた。
崩落に巻き込まれないように急いで退避するナイジェル。
その頃、エマ、ペペ、ナイジェル、レイ、オジサンは一軒の家で合流していた。
レウウィスは自身に死の危険が迫り、生きている実感を得られたことに狂喜する。
「私は今生きている 生きている 生きている」
快哉を叫ぶレウウィス。
「生きているのだ素晴らしい!!」
ペペの応急処置を行ったレイは、エマに、これ以上の治療は不可能であり、ここにペペを置いていくと告げる。
悲痛な表情を浮かべるエマ。
ナイジェルもまた、当初立てた作戦通り進行していたにも関わらず自分たちがここまで追いつめられていることを悔しがっていた。
オジサンが一同に向けて呟く。
「万策尽きたぞ どうする? どう奴を斃す?」
第90話 勝ち目
狼狽えるナイジェルとオジサン
レウウィスは隠れたエマたちを探すために街を行く。
一堂に会したエマたちだったが、その一室では緊張感だけが支配していた。
ナイジェルは床の上の意識を失っているペペを前ににして、一人なんとかしなきゃと気をはやらせている。
レウウィスの仮面を破壊し、閃光弾で視覚を奪ったが、その感覚も時間の経過とともに回復していく。
ナイジェルはこのチャンスをどう活かすか考えた末に、態勢を立て直して違う場所からレウウィスの顔面を狙撃しようと提案する。
しかしすぐにオジサンがさっき自分がやったからムダだと却下する。
みんなでやればと追い縋るナイジェルに、オジサンは思いつめた表情で、できると思うか? と繰り返す。
その言葉にナイジェルは意気消沈してしまう。
オジサンは自ら口にしたように、レウウィスがやはりとても自分たちの手に負えない化物だと改めて自覚していた。
このまま戦闘を継続すればかつての自分たちのようにほぼ全滅してしまう。
吐き気を覚えたオジサンは、レウウィスが感覚を無くしている今、逃げるしかないと結論する。
その言葉にナイジェルはルーカスから言い含められていた最終手段の発動の時ではないかと考えていた。
それを提案しようとエマの名を呼ぶナイジェル。
”全員”
ナイジェルが何を言いたいのか見通していたように一言、ダメ、と返すエマ。
「今逃げたら全員を助けることができない」
はっとするナイジェル。
オジサンもエマの発した”全員”という単語に反応する。
エマは文字通り、それがこの猟場にいる全員のことなのだと言い、全員で生きてここを出るのだと答える。
オジサンが、全滅するなら一刻も早く一人でも多く逃げるべきだと抗弁すると、エマは逃げたとしても追ってこられる状態で逃げたのでは結局は全滅するかもしれないと言い返す。
そしてナイジェルに、ルーカスから聞いた最後の手段の発動に関してまだその段階ではないと念を押す。
ほぼ手札を切ってきたにも関わらずレウウィスには敵わないことが分かった今、この手段しかないはずだというナイジェルにエマは確信を持って答える。
「まだ手はある きっとある」
どんな? というナイジェルの問いかけに、エマは諦めないで考えようと呼びかけるのみ。
エマの言う突破口はおろか、もう考える時間すらないとオジサン。
今すぐ逃げなければ逃げるチャンスすら失ってしまうと語気を強める。
エマはその言葉に頷きつつも、ここで逃げたら誰かを犠牲に生き残る道へと逆戻りだとオジサンの目を真っ直ぐ見据える。
「怖いよね 私も怖い あの鬼も自分の判断も けどもう皆 私達皆 これ以上誰も失いたくない…でしょう?」
希望
オジサンはエマの言葉に何も言い返すことが出来ない。
エマはこのゴールディポンドで得た情報から人間の世界への渡り方が分かっている今、全員で勝って”今度こそ”この密猟場出ようとオジサンに詰め寄る。
(今度こそ…)
その言葉がオジサンの気持ちを動かす。
「うぜぇ」
エマの頭をはたくオジサン。
「触角チビがしゃあしゃあと」
エマに背を向ける。
「わかったよエマ お前に従おう」
その予想外の反応にレイが呆気にとられる。
エマは笑顔になって、オジサンに名前を聞き始める。
うっとおしがるオジサンを全く意に介さず、名前を聞くエマにオジサンは観念したように答える。
「無事レウウィスを斃してGPを出られたら教えてやるよ」
ナイジェルが、結局レウウィスをどう斃すのかと話を戻す。
レイはエマの言う通り何か策はあるはずと答える。
そして、レウウィスはどんなにヤバくても所詮は生物だと前置きし、傷付けられるし感覚も狂う、死のある生物であり、その再生能力や身体機能も桁が外れているだけなのだと説明する。
「恐怖で目を曇らせずにもう一度冷静に考えよう 奴も殺せるはずなんだ」
エマの疑問
レイの言葉を受けてエマは一つ気になっていたことを思い出す。
「どうしてあの鬼あの時に――」
それをきっかけに話し合いが進む。
その様子をレウウィスのペット、パルウゥスが窓の外からじっと見ているのにエマが気付く。
キイイイイイイイイ
大声で鳴くパルウゥス。
次の瞬間、エマ達のいる一室がレウウィスの一撃により破壊される。
一瞬退避行動をとっていたエマたちはギリギリで直撃を受けずに済んでいた。
すぐにレウウィスが壁に空けた穴から部屋に侵入する。
「さぁどこかな? エマ」
楽しそうに呟くレウウィス。
廊下を駆けながらエマは背後のレウウィスの様子を観察する。
その様子から、まだレウウィスの目の感覚は回復していないと見ていた。
逃げる一行の最後尾からエマが全員に呼びかける。
「それじゃみんな この作戦で行こう」
(今度こそ終わらせる)
エマの言葉を合図に散開する一行。
(これで勝つんだ!!)
感想
エマのリーダーシップ
エマのリーダーシップすげぇ。
リーダーかくあるべし、と感じた回だった。
レウウィスの怖さをトラウマレベルで体感しているはずオジサンを説得してしまうとか、ホントすごいなこの子は……。
具体的な策は全く提示していないのにも関わらず、エマの放った、今度こそ勝とうというワードはオジサンの心を動かした。
説得の何たるかを分かってると言って良い。
オジサンの気持ちになり、その心の奥底で望んでいることを汲んで、それをはっきりと堂々と直言した。
共感能力が高い+堂々と意見できるからこそできる技だと思う。
そのどちらを欠いても説得は実現しなかった。
あと、説得の直前に、人間の世界への渡り方が分かっている、と絶妙なタイミングで大きな希望を提示したのも上手い。
エマのその言葉にレイがビックリしてたな(笑)。
希望があると知ったなら、やすやすとは死ねない。
どうしても、レウウィスを斃して全員で人間の世界へ行くという希望を見てしまう。
部屋の中を絶望が支配していたのに、希望を示してその雰囲気をひっくり返したエマ。
そしてレウウィスたちとの戦いから感じた、ある一つの引っ掛かりから策を練り始める。
オジサンがエマに従うと言った通り、エマは立派なリーダーだと言える。
エマに名前を問われて、レウウィスを斃してゴールディポンドから逃げられたら教えるとデレた。
この瞬間、そもそも以前、鬼にさらわれる前にもオジサンはエマを認めかけていたが、今回ここにきてそれが完全に為ったと言える。
それはそうと、このオジサンが本名を教えるという件、オジサン死亡のフラグにならなければいいけど……。
死ぬ間際に本名を言う演出とかマジで悲しいからやめてよ~。
冷静なレイ
絶望のあまり逃走モードに入っていたオジサンとナイジェルに対して、レイはきちんと戦闘モードを保っていた。
ここまでの戦いで、レウウィスは強大な力を持っているものの、銃撃すればきちんと傷はつくし、電気も効くし、それによって感覚も狂わせることができる。
全く攻撃が通用しないわけではない。つまり斃せないということではない。
この認識が無いと、とてもレウウィスのようなヤバい奴に立ち向かえないわな。
心の中でレウウィスに対する恐怖だけを加速させるということは、より敵の存在を強大にしていくだけ。
それによって導き出される答えは、まともな頭をしていたならばオジサンの言うように逃げるか、ナイジェルのように、おそらくはイチかバチかの策である最終手段に縋ることくらい。
まともに戦おうとはとても考えないだろう。
「奴も殺せるはずなんだ」
レイのこの一言により、オジサンもナイジェルも落ち着けた。
そしてその流れでエマによる、そう言えば……、という気付きの一言を引き出すわけだ。
やはりレイの存在はデカい。
地に足をつけて前向きに現状を考えられるのはエマたちにとってとても大きな力なんだとわかる。
少なくとも彼は、きちんとこの猟場編を生き残ってくれる……はず。
というか、そもそも誰も死なないっぽいよなぁ。
安否が不明だったザックでさえバイヨンに殺されずに済んでいた。
深手は負ったぽいけどきちんと生きていた。
ジリアンやオリバーに関しても一命はとりとめたようだし、ノウスによってボコボコにされたサンディも生きている。
ソーニャとポーラも死んだ描写はないし……。
別にバンバン人を殺してくれとまでは言わないけど、ちょっとね……。
実はこの戦いが始まる直前はレジスタンス全員死ぬと思ってたからちょっと拍子抜けした部分も否めない。
あ、ヴァイオレットだけ生き残るとか考えてたかも。
策とは?
エマの提示した疑問から発した作戦会議の結果、どうやら一行の対レウウィスの意思は固まったようだ。
十分に実現性があり、レウウィス打倒に説得力のある作戦に違いない。
エマの疑問は、どうやらレウウィスのある瞬間の様子が気になってのことらしい。
これまでの話の中でその瞬間の描写はあったのだろうか。
レウウィスとの戦いをざっと読み返してみたけど、違和感なんてなかった。
レウウィスがやたらと人間の言葉に耳を傾ける=油断しているという点くらいしか彼の隙らしい隙を見い出せない……。
それにエマは、どうしてあの時、と瞬間を限定しているから、レウウィスのずっととっている態度のことではないんだろうな。
どうしてナイジェルのいた一軒家を選んでその外壁に一撃食らわせる事が出来たかとか?
エマの疑問は、この戦いが始まってから気付いたことだと思う。
それも、その疑問を立脚点として作戦が出来たくらいに、一行にとってエマの気付きは重要だったようだ。
猿みたいなペット、パルウゥスを捕まえて脅すとか?
猿捕まえるの大変だろうし、戦いの間に気付いた違和感とはとても思えないからそれも却下だな……。
来週が気になる。
以上、約束のネバーランドのネタバレを含む感想と考察でした。
第91話に続きます。
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