第69話 会わせたい人
目次
第68話のおさらい
エマと男の子は、他の子供を殺させまいと懸命に動いていた。
必死になって行動し、結果、何人もの子供たちを誘導して鬼から逃がす。
そして、狩りの終了を告げる音楽が鳴る。
鬼は館へと向かい、子供たちは皆疲労困憊の身体を引きずるようにして街へと帰る。
終わった事に気付くエマ。
広場では、ケガをした子供たちが続々と救急箱を持つ男の子の前に集い、薬を受け取っている。
薬を受け取るケガ人たちを見て、エマは左腕を負傷したテオの事を思い出す。
エマは街の中を走りまわり、途中で別行動をするために別れたテオ達の姿を探す。
必死に探し回るエマ。
そして、地面にちょこんと座っているテオらしき後姿を発見する。
地面に跪いているテオに、エマは恐る恐る、モニカとジェイクは? と尋ねる。
テオはジェイクとモニカの身に起きた悲劇を涙ながらに語る。
鬼が自分たちの前に常に立ちふさがり、必死に逃げても追いつかれてしまった事。
エマの身を案じて教わった言葉を言えなかった事。
自分が鬼の振り下ろした斧でやられそうになった時、ジェイクが身を挺して庇ってくれた事。
ジェイクを犠牲にモニカと共に逃げたがすぐに追いつかれ、モニカも犠牲になった事。
エマは泣き崩れるテオに何も言葉をかける事が出来ないまま呆然と立ち尽くす。
鬼達は狩った子供達の肉で舌鼓を打つのだった。
その夜。
膝に顔を埋めて塞ぎ込んでいたエマにテオが声をかける。
「こんなもんだよ」という男の子は、エマに救えた命もあったと励ます。
エマはその言葉を聞きながら、テオの話の続きを思い出していた。
鬼はわざとテオに斧を握らせ、エマに自分を殺しに来いと言ったという。
その鬼はレウウィス太公と名乗った。
(「君も私を狩りに来給え」)
悔しさに顔を歪ませるエマ。
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風車小屋
夜。
エマは階段に座り込み、膝に顔を埋めている。
自分の目の届く範囲は救う、と意気込みながらも結局救えなかった自分を許せない様子のエマ。
(何か『目の前の…手の届く人達は…』だ!!)
テオをメッセンジャーにしたレウウィス太公の、自分を狩りに来いというメッセージがエマの脳裏に響く。
子供たちは各々武器を持っていた。
そしてエマは、シェルターから持ち出した銃が手元にある事から、子供達による抵抗もまた鬼たちにとっては遊びのスパイスに過ぎないことを悟る。
エマは、鬼にとっての遊びに過ぎない狩りという行為の為にジェイクとモニカが殺されてしまった事を思い、憎しみと怒りを滾らせる。
歯ぎしりするエマに、オイ、と何度も声をかける”男の子”。
返事をしないエマの頭をはたき、襟を掴んで持ち上げる。
「オラ立ちな 朝はオレがあんたに付き合った」
「今度はあんたがオレに付き合ってもらうよ」
不思議そうな顔で”男の子”を見上げたエマは、ついて来い、と言われて風車小屋に案内される。
「あんたに会わせたい人がいる」
(風車?)
エマは建物を見上げる。
風車小屋はゴゥンゴゥンと音を立ている。
扉をノックする”男の子”。
「アダム オレだよ 開けて」
建物の中に入ったエマと”男の子”。
扉の鍵を外した、アダムと呼ばれた大きな体格の男がエマをじっと見つめる。
エマは、”男の子”にすぐ目の前の部屋に案内される。
「連れてきたよ」
レジスタンス
部屋の中には8人の若者が、エマ達を待っていたかのようにテーブルを囲んでいる。
8人の視線が一斉にエマ達に向けられる。
エマは若者の中に、広場で怪我の治療を呼びかけていた二人がいる事に気付く。
「紹介するよ」
”男の子”がエマに呼びかける。
「オレの仲間」
”男の子”は部屋の中の若者を紹介していく。
救護担当のサンディ、ザック。
機械類担当のナイジェル。
サブリーダーのソーニャ。
食料担当のペペ、ジリアン、ポーラ。
「そしてオレ ヴァイオレットと……」
「ヴァ… !」
”男の子”の言葉に驚くエマ。
「やっぱりあなた女の子!」
エマを横目でニヤリと見つめるヴァイオレット。
その光景をナイジェルが笑いながら楽しそうに見つめる。
そしてヴァイオレットはラストの一人を紹介する。
「オリバー オレ達のリーダー」
よろしく、とエマの元まで近付き固く握手するオリバー。
ヴァイオレットを含めたこの場にいるエマを除いた9人は、エマと同じく”真実”を知っており、ゴールディ・ポンドで人間の生活を回しているのだ、とヴァイオレットがエマに説明する。
「この猟場で何か月…中には何年も生き残ってきた9人だよ」
エマは、目の前のメンバーをぽかんとした様子で見つめる。
グランドヴァレー農園出身者
ジリアンがエマに名前とどこから来たのかを問いかける。
エマは、エマです、と名乗り、GF農園から脱走してきたのだと続ける。
「あの…みなさんも”脱走者”で……?」
おそるおそる訊ねるエマ。
いや、と否定するヴァイオレット。
オリバーが服をはだけて胸元のナンバーを見せる。
「俺達は皆ここに生きたまま出荷された」
他のメンバーも皆胸元のナンバーを見せる。
他の”新人”と同じよ、とポーラ。
「全員バイヨン卿ご用達の”グランド=ヴァレー”農園出身」
エマは、シェルターの資料に書いてあった、4つある高級農園の内の一つだと気付く。
(グレイスフィールドとも、オジサンのグローリーベルとも違う…)
そして、エマの脳裏に、バイヨン卿ご用達? と疑問が浮かぶ。
それを察したかのように、オリバーが説明する。
ゴールディ・ポンドにいるのはほぼ全員GV農園の食用児なのだという。
このことから、バイヨン卿の息がかかっているのはGV農園だけらしい、と説明を続ける。
「他の農園の出身者は君を含めても3人だけだ」
GF出身はあなたが初めてよ、とポーラ。
ましてや”脱走者”なんて、とジリアンが続く。
「ここは君が今朝見た通りだ」
数日おきに、朝、鬼達が気まぐれに人間を狩る庭であり、彼らにとっては全てが”遊び”だ、とオリバー。
「嬉々として狩り減った分を”補充” その繰り返し」
目的
ナイジェルが武器のぎっしり詰まった箱をテーブルに載せる。
それは? と戸惑い気味に訪ねるエマに、ナイジェルは銃を一丁掲げて見せる。
「怪物が人間に与えるオモチャさ」
「どうせ殺せないのをいいことにわざわざ支給してくるのよ」
ソーニャが説明する。
オリバーは、これまでこの武器を手にした多くの仲間が戦いの末に死んでいった、と手に持ったハンドガンを見つめながら言う。
また、その一方で、現実を受け入れられずに武器を手に取る事もなく命を落とす子供も大勢いるのだと続ける。
「密猟者に…猟場に…何人も何人も何人も殺されてきた」
歯を食いしばるオリバー。
「それでも! 耐えて甘んじて生き延びてきた それは」
オリバーはエマを見つめる。
「俺達の手でこの猟場を終わらせるためだ」
その迫力に圧倒されるエマ。
「密猟者を殺す! 一匹残らず!!」
殺意を漲らせるオリバー。
秘密の猟場だからこそ敵も数も限られている、とザック。
猟場の外の怪物たちは密猟場の存在を知らないし、知られてはいけない、とソーニャ。
つまり、密猟者が増援を呼ぶことはなく、異変が感知されるのにも時間的な猶予があると続ける。
「密猟者を殺し皆で人間の集落へ逃げる」
オリバーが作戦の目的をシンプルに明言する。
「………」
じっと聞いているエマ。
(”人間の集落”?)
初めて聞く存在に引っかかりを覚える。
もう犠牲も逃げ回るのもうんざりだ、と語るオリバーの口調にさらに熱が籠っていく。
「俺達は近く”決行”する!」
「君の力も貸してくれ」
オリバーがエマを見つめる。
「”真実”を知ってなお立ち向かう君の――」
他の仲間たちは笑顔でエマをじっと見つめる。
本当に会わせたかった人
わかった、と即答するエマ。
「私もこの密猟場を終わらせたい」
「でも…一つ教えて」
エマがオリバーたちに訊ねる。
「なぜみんなそんな色々知っているの?」
農園から密猟場に直送されたにも関わらず、”農園”、”鬼”、外界の事を知っている事に疑問を抱いていたエマが問いかける。
「”彼”から聞いたんだ」
オリバーが答える。
彼? とオウム返しするエマ。
「俺達はあくまで”彼”の手足」
ザックがオリバーに続く。
その頃、風車小屋に杖をついた人物が近付いていた。
唯一の大人、とペペ。
”彼”のことは内緒よ、とジリアン。
”彼”はいない人間だから、とポーラ。
部屋に何者が到着する。
「言っただろ」
ヴァイオレットがエマに告げる。
「会わせたい人がいるって」
部屋の入口に立つ人物と、顔を合わせるエマ。
「初めまして 僕はルーカス」
杖をつき、顔に大きな傷を持った青年がエマを見つめる。
(え ルーカス?)
エマは目の前の人物の名乗りに驚き、目を丸くする。
(まさかひょっとしてオジサンの――)
ペンを持っているね? とルーカスがエマに訊ねる。
「話をしよう W・ミネルヴァについて」
感想
ヴァイオレットごめん
ようやく名前が出てきた”男の子”。
なんと女の子でした。
一切、男だと信じて疑ってなかったわ。
読みが浅すぎて自分を笑うしかない。
女の子である可能性くらいは思い浮かべていたかった。
性別不明ならどちらの可能性も考慮すべきだ。
いまさら前の記事を修正するのもなんだし、そのままにしておくことを許して欲しい。
でも、ヴァイオレット本人は、ヴァイオレットを女の子だと知って驚くエマをニヤっと見つめてたし別にいいよね。
ボーイッシュだし、態度も冷静で勇敢そのもので全く気付かなかったなー。
元々の性格というのが一番大きいだろうけど、ゴールディ・ポンドでの過酷な日常を生き抜いてきた影響もあるのかも?
逞しくならないと生きていけない環境だから。
GV農園出身の仲間
頼りがいのありそうな仲間たちだと思う。
ヴァイオレット以外はエマより年上のように見える。
エマが若干気後れしているような様子はちょっと新鮮だった。
それもすぐ解消されたけどね。
ヴァイオレットは担当を言ってなかったけど、エマを連れてきたことから推測できるのはスカウト担当かな?
新入りの動きを注視して、見込みのありそうな子供なら仲間に引き込む役目?
皆、風貌から個性が見えてキャラデザインの秀逸さを感じる。
これから鬼と戦う展開になっていくんだろうけど、皆生き残って欲しいね。
でも多分、誰か犠牲になるんだろうな。そんな易しい相手ではない。
鬼の殲滅が目標
つまりは子供たちと鬼との戦争。
果たしてどんな展開になるのだろうか。
レウウィス太公を見る限り、鬼の動きは人間の動体視力でまとも対応できるものではないと思う。
理性の無い鬼のように銃を向けられても真っ直ぐ向かってくることはまずない。
そして、真正面から銃を撃ってもその素早い動きを捉えられず、照準がまともに合わないだろう。
知恵がものを言う戦いになるんだろうな。
弱点が目であることはおそらくルーカス経由で子供たちは全員知っているのではないか。
なので、そこをどうやって狙うか、が重要になってくる。
どうやって戦うのかが楽しみだ。
まさかの人物
ここにノーマンはいなかったか……。
そりゃ、そんな都合が良いわけないよね。
「GF出身はあなたが初めてよ」というポーラの言葉でほぼ完全にゴールディ・ポンドにノーマンがいる可能性は皆無に近い事が分かった。
生き残ってる可能性がある? と思っていただけに、自分の中ではまた死亡してしまった感じで辛い。残念。
しかし十分驚きの展開だと思う。
まさか全滅していたと思っていたオジサンの仲間が一人であっても生き残っていたとは。
ぜひオジサンに会わせてやりたい。
きっと、オジサンの心を苛んできた呪縛が少しは癒される事だろう。
エマもきっとルーカスという名前を聞いてオジサンの仲間だと気づいてすぐに、”オジサンに会わせたい”と思っていただろう。
次回、ようやくオジサンの名前が分かりそうだ。
以上、約束のネバーランド第69話のネタバレを含む感想と考察でした。
第70話に続きます。
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