第144話 助けて
目次
第143話 抹殺のおさらい
首領が求めたもの
食用児全員で人間の世界に行くこと。
そして、それを最後に人間の世界と鬼の世界行き来を完全に不可能にすること。
要求される”ごほうび”なる代償を絶対に断ってはいけないことを覚悟して、エマは首領に二つの”約束”を結ぶよう求める。
「その望み叶えてあげる」
ニヤリと笑う首領。
続けて、”ごほうび”の内容を告げる。
「じゃあぼくがぼしい”ごほうび”はきみの――」
呆然とするエマ。
空と海で昼夜が入れ替わる。
「え」
新しい痕跡
ドンたちがアイシェの秘密を知ってから3日が経過していた。
3日前にソンジュとムジカらしき足跡を発見していた一行は、彼らに近づいている感触を得ていた。
ドンとギルダは、ソンジュとムジカの痕跡を見つけたことをハヤトに報告していたが、ノーマンたちが仇であることを考慮して、アイシェが人語を解することまでは話していなかった。
そしてアイシェもまた、以前と同じく口にするのは鬼の言葉のみ。
ハヤトが新しい足跡らしきものを見つける。
しかしそれは3日前に見たソンジュとムジカらしき足跡とは違っていた。
ここ3日、一行はソンジュとムジカの足跡を見つけることが出来ずにいたのだった。
それでも近辺にソンジュとムジカがいると信じて、ドンたちはノーマンからもらった地図を頼りに地道に捜索を続ける。
しかし、アイシェのお供のオオカミの一吠えで事態は急展開を迎える。
その地面には一見、足跡はついていない。
しかしギルダは、無数の落葉の中に足跡ほどのスペースがあることに着目する。
形、大きさや歩幅などから、ドンとギルダはムジカのものだと確認するのだった。
ドンたちの様子に、アイシェがピクッと反応する。
この足跡が今朝、ないしは昨夜についたものだとアイシェの隣で呟くギルダ。
(匂いもまだ残ってる)
アイシェもまたドンやギルダたちと同様の感触を得ていた。
足跡が続いているのを発見し、活気づくドンたち。
その背後でハヤトは彼らを見下ろすように立っていた。
(邪血見つけた 見つけましたよボス…!)
”楽園”を出発する前に、ハヤトは発信機を渡されていた。
それは邪血に接近していることがわかった時点で、一定の間隔を置いてボタンを押すだけで、逐一ジンたちに自分たちの居場所を知らせるものだった。
そうすることでドンたちに知られることなく、ジンたちに邪血を包囲させ、ジンと彼が率いるラムダの力を持つ戦士たちによって葬る計画だった。
ハヤトは心の中でドンやギルダに騙すような真似をしていることを謝罪する。
しかし彼は、この行動は食用児全員の未来のためであると信じて疑っていなかった。
(ボスの命令 邪血は殺さなければならないのです!!)
発見
ムジカは馬型の鬼に小川の水をあげていた。
ソンジュにも休むよう勧める。
ソンジュはそれを断り、この場を出発することをムジカに催促しようとして、ふと何者かの接近に気づく。
「そこの木の裏 何者だ いるのはわかっている 大人しく出て来い」
槍を構えるソンジュ。
木の裏から出てきたのは笑顔だが、少し緊張した面持ちのドンとギルダだった。
「ギルダ… ドン…?」
ムジカが呟いたのをきっかけにドンとギルダはムジカ達に駆け寄る。
涙を浮かべてムジカに抱き着き、再会を喜ぶギルダ。
その様子を見て満面の笑みを浮かべるドン。
ギルダとムジカは互いに、会いたかった、と言葉を交換し合う。
「元気だった? 大きくなったわね二人共 どうしたの?」
ムジカとギルダ、ソンジュとドンが親し気に会話を交わす様子を、アイシェとハヤトが少し離れたところから見ていた。
ハヤトは発信機を渡された際、邪血をその目で見た瞬間に3回続けてボタンを押すよう言われていた。
その通りにハヤトが3回ボタンを押す。
アイシェはすぐさま付近の戦士たちの気配が動いたことに気づく。
そして鬼語でソンジュとムジカに向けて叫び、それを知らせる。
しかしラムダの戦士たちはあっという間にソンジュとムジカを包囲するのだった。
ハヤトはアイシェの首元にナイフを突きつけて彼女の動きを止めていた。
すみません、とジンはドンとギルダに樹上から声をかける。
「邪血の鬼は俺達が始末します」
次の瞬間、ジンの背後にソンジュが立っていた。
驚き、背後を振り返るジン。
ソンジュは静かにジンを見下ろす。
その場にいるムジカを除いた全員が、今、目の前で起こってたことに驚愕していた。
(何だこいつ いつの間に…)
首元に槍の穂先を突き付けられ、ジンは逃げるどころか振り返ることすらできない。
「始末する?」
口元を歪めるソンジュ。
「誰が? 誰を?」
第143話 抹殺の振り返り感想
”ごほうび”の内容
今回は明かされなかった。
しかし、”約束”を結ぶには”ごほうび”が必要であること、そしてそれを断ってはいけないことを覚悟していたエマがここまで呆然としているのだから、それはよほどエマにとって大切なものだった?
空と海の昼夜が逆転していたけど、これはそれくらい長くエマが言葉を失っているということなのか。
自分の命すら差し出せる心境だったユリウスでさえ差し出すのを躊躇う”ごほうび”。
エマにもそれを同等の受け入れがたい要求が突き付けられていることは間違いないだろう。
シンプルに、エマの命……、というのは芸がなさすぎる。
エマだけ鬼の世界に残る……。これも必然性がない。
鬼との戦いに疲れ、楽になりたがっていたユリウスに、一生人間と鬼との間を取り持つ役割を押し付けるような、そんな心理的な忌避を催す、嫌~な要求のはず。
全員人間の世界に行ってもいいけど、エマは仲間たちの前から去らなければいけない、という感じじゃないのかな……。
エマにとって家族が一番大事だろうし……。
次回はソンジュ無双である可能性が濃厚なので、まだ首領の”ごほうび”の内容はわからないかな?
答えが分かるまで楽しみにしておきたい。
ついに見つけた
もう1話くらい消費するのかなと思っていたけど、早々にドン、ギルダとソンジュとムジカを再会させた。
このスピード感いいね。
ソンジュが発揮した超スピードは、どこかレウウィス大公を髣髴とさせる。
ひょっとしたら同等の強さなんじゃないかな……。
邪血であることから既にソンジュとムジカが他の鬼とは異なることは明らかなんだけど、何か他にも二人には明らかに大きな秘密があるのを感じる。
ずっと気になっているのは、ソンジュが信奉しているという宗教だ。
確かソンジュが食用児を食べないのは、その教義に従っているからだったはず。
まずその宗教というのが物語にどう絡むのかが気になる。どこかで出てくるのかな……。
そして逆に、ソンジュは食用に養殖された人間ではなく、自然に生まれた人間であれば食べるということでもある。
どうも、ソンジュは過去に人間を食べたことはあるっぽいんだよなぁ……。
”約束”が結ばれる1000年前の話なのか……?
鬼の年齢はイマイチわからないけど、ソンジュが1000年以上生きているということなら納得できる話だ。
ムジカは若く見える。1000年前には生まれていなかったとすれば、ソンジュとはずっと一緒にいたわけではない気がする。
ソンジュがムジカに助けられて邪血の仲間入りをし、それ以来、従者としてムジカを守っている、みたいな想像をした。
邪血になれば人間を食べなくても形質は保てる。
でもソンジュが自然な人間であれば食べる、ということは、鬼が人間を美味いと感じる感覚はそのままなのだろう。
やはりソンジュが人間を食べない理由は宗教にある。
物語にどう絡んでくるか楽しみ。
ラムダの戦士との戦い
この感じだとソンジュ無双だろうなー。
ソンジュは彼らを殺してしまうのだろうか。
不思議と、そうはならないような気がしているんだが……。
エマたちを殺さずに救った、ソンジュの行動原理がジンたちラムダの戦士にも適用されるんじゃないかな。
エマたちと出会った時と違い、ソンジュはジンたちから明らかな殺意を向けられている。
だから、ジンたちは怪我くらいはするのかもしれない。
でも死にはしない気がする。
食用児側の戦力としてラムダの力は重要だろうし、ここで無駄に失って欲しくないところだ。
そしてアイシェの鬼語での叫び。
アイシェの存在はソンジュとムジカにはどう映るのだろう。
アイシェは人間とも心を通わせる鬼がいることをその身を以て知っている。
ドンやギルダと人語で会話する前は、ひょっとしたら今も、可能であれば人間よりむしろ鬼と行動を共にしたいと思ってたりすんじゃないかな……。
さすがに野良鬼は無理だけど、知性がある鬼の中には自分を受け入れてくれる仲間がいるんじゃないか、と。
アイシェは、ドンやギルダと親し気に言葉を交わすソンジュとムジカのことが非常に気になっている。
今後どう絡んでいくか楽しみだ。
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第144話 助けて
戦い
実は何者かからの追跡を受けていたことに気付いていたソンジュとムジカは、3日前からわざと痕跡を残し、追手の正体をあぶり出そうとしていた。
しかし中々近づいてこないので、様子を見つつも、追手ならいつものように返り討ちにしようとしていたのだった。
ジンの背後に回りこんだソンジュは槍を首元につきつけ、退けば許すと脅す。
それと同時に、周りの兵が何人も意識を失い倒れていく。
それはソンジュの早業によるものだった。
ジンは自分が圧倒的な窮地に立たされていることを自覚していた。
しかし、この任務には全食用児の未来がかかっているという信念のもと、ジンはソンジュの槍を手で掴むと、兵たちに自分ごと殺すよう命じる。
「(気をつけろ!! そいつらはラムダのイレギュラーだ!!)」
アイシェが鬼語で叫ぶ。
ソンジュは前後左右を武装した兵に囲まれていた。
兵のパンチが樹木をなぎ倒す。
兵はソンジュに怖気づくことなく、彼に接近していく。
しかし突如、兵の一人が悲鳴を上げると、他の兵も同じように頭を抱えて、その場に倒れる。
「発作…」
ジンは呆然としていた。
なぜこんなに早く、と信じられない様子のハヤト。
ムジカは倒れた兵の内の一人に駆け寄ると、息をしていないことを確認する。
そして治療のためにギルダに薬草袋を持ってくるよう指示するのだった。
さらにドンや、ソンジュにまで治療を手伝えというムジカ。
急がなければ手遅れになる、と、兵を助けることに乗り気ではないソンジュを急かすのだった。
ハヤトは、兵たちが苦しんでいるのはラムダの発作なので、薬を飲ませなければならないと言って、ジンに対して、兵たちの治療のために降参を促す。
ノーマンの嘘に気づくギルダ
ジン、ハヤト、兵たちをロープで拘束するソンジュたち。
ムジカから説明を求められ、ギルダはこれまでの流れを丁寧に説明する。
そうしてこれまでの流れを自分で確認するように話す内に、ギルダはノーマンがソンジュとムジカを本当に殺す気だったことに気づく。
楽園を出発する前、ドンとギルダはノーマンから、ソンジュとムジカを味方にするために保護して来て欲しいと送り出されていた。
しかしノーマンにとっては鬼は全てが絶滅の対象で、エマを待つつもりは無かったこと、そして彼が自分たちに言ったことの全てが嘘だったことを悟ったギルダは涙を流していた。
そして、そんなノーマンの妹である自分が頼めた義理ではないがと前置きし、このままでは取り返しがつかない事態になってしまうとソンジュとムジカに縋るようにして助けを求めるのだった。
エマの帰還
レイが昼と夜の世界から戻ってきてからレイから3時間後、エマは楽園に帰還していた。
エマはレイから現在の状況報告を受け、”約束”が結べたのかという問いに対して笑顔で肯定する。
レイから”ごほうび”について訊ねられるが、それも大丈夫だった、後で話すと明るく答えるエマ。
レイは、それよりもトーマとラニオンが見つけたある情報により、ノーマンが王や貴族のみならず王都にいる鬼全てを殺すつもりだと判明したため、自分たちも急いで楽園を今すぐ出ることにしたと説明するのだった。
ムジカはギルダの願いを承諾し、自分とソンジュも王都へ向かうことを決めていた。
ギルダは、ソンジュとムジカはずっと王たちに追われていたのでは、と問う。
しかしそれに対し、ムジカは落ち着いた様子で返事をする。
「私も戦争を止めたい それに何より私達 友達でしょ」
「……まぁ確かにここで王都も悪くねぇ」
ソンジュはあっさりとムジカの方針を受け入れていた。
エマとレイ、そしてドン、ギルダ、アイシェに新たに加わったソンジュとムジカは王都を目指すのだった。
第144話 助けての感想
”ごほうび”
”約束”は結んだようだが、”ごほうび”の内容は結局まだわからないまま。
ストーリーが進むにつれて明らかになっていくだろう。
今回の話ではレイがそれを深く追求することはなかったが、それが重要な内容であることは間違いない。
きっと、レイだけではなく家族みんなが驚愕するようなものだと思う。
エマの表情がそこまで暗いわけではないことから、エマ個人で処理できる内容だったのだろう。
おそらく家族にもう会えないとかそういう類の精神的にクる奴じゃないかな。
しかしエマは”ごほうび”について、強い覚悟があったはずだ。
事前に”ごほうび”は決して断ってはいけないことが分かっていたのだから、”ごほうび”の内容をエマ自身だけが背負うような形にできる何らかの事前工作、知恵があったというオチをを期待したい。
運否天賦だとちょっと残念だな……。
ただ、もしそういう知恵を使っていたあとして、自分にはそのカラクリが全く見当がつかない。
エマとレイで、何か仕掛けていたことを期待したい。
仲間
エマたちに新たに加わったソンジュとムジカ。
手練れのソンジュは戦力として心強い。
しかしムジカの存在が鬼としては異質過ぎて、ソンジュ以上に彼女がこの争いのキーパーソンであることは間違いないだろうなと思った。
彼女は、自分たちを殺しに来た相手にさえ情けをかけた。
それだけでも違和感があるのだが、そもそも、なぜ人間を助けようとする?
邪血と人間の関わりが気になる。
そして彼らと一緒に王都に行ったところで、果たして、戦いを止められるのだろうか。
次回が楽しみ。
以上、約束のネバーランド第144話のネタバレを含む感想と考察でした。
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