第48話 二つの世界
第47話のおさらい
「外」はどうなっているのか、30年で何があった? とソンジュに問うエマ。
これまで経験してきたことがエマの脳裏に蘇る。
ソンジュは必死のエマとはかけ離れた冷静な態度で、淡々と短く「何も」と答える。
世界はずっとこのままだというソンジュに、レイはここが地球ではない可能性を問う。
しかしそれも否定するソンジュ。
レイは、では暦が違うのかと続けざまにソンジュに問うが、それも違うという。
混乱するエマとレイに、世界がずっと広かった頃の話だとして昔話を始める。
かつて鬼と人間は捕食する者、捕食される者という関係だった。
人間は鬼を恐れた者は崇拝し、逆に憎んだ人間は鬼と戦った。
次第に人間と鬼の全面戦争の様相を呈していき、やがて疲弊していく両陣営。
そんな時、人間から提案が成される。
『人間は”鬼”を狩らない』
『”鬼”も人間を狩らない』
『お互いに世界を棲み分けよう』
全ての始まりはこの”約束”だと言うソンジュ。
この”約束”により世界は人間世界と鬼の世界に隔絶され、今エマ達のような食用児がいるのは鬼の世界なのだと言う。
ソンジュは、農園とは『”鬼”は人間を狩らない』という約束に基づき、鬼の世界に残された人間を管理、養殖している機関であり、エマ達のいたGF農園は最上位なのだと続ける。
さらに、人間と鬼の取り決めから1000年という月日が経っていると付け加える。
次々と明かされる真実に、エマとレイは当初思い描いていた予想を遥かに上回る事態に驚きを見せるが顔を見合わせて喜ぶ。
鬼がいない、人間の世界が別にある。
人間の世界と行き来は出来ないというソンジュに自信に満ちた様子で、大丈夫見つけるから、と答えるエマ。
1000年もの間、エマ達の使っていた服や家具といった人間用の日用品は鬼が作り続けることはない。
人間の世界から持ち込まれたものであり、それは人間の世界と鬼の世界を行き来している存在があるということ。
それがミネルヴァなのだと見当をつけたエマとレイは、ミネルヴァ探しの目標に間違いがなかったことを確信する。
「脱獄だ」
レイは鬼の世界から人間の世界への脱獄を宣言するのだった。
第48話
「”06-32へ行け” ”追手”」
鬼がレイが大木に彫り込んだ他の子供たちへのメッセージを見ている。
猟犬タイプの鬼に、何です? と問われて、81194が彫った仲間たちへのメッセージだと答える鬼。
06―32とは、と問われ、わからん、ととりあえず追跡を諦めた様子の鬼。
続けて、レイの「他の子どもは全員死んだ」という言葉を考察する。
「ただやはり仲間は生きている」
「死体も上がらん」
「まさかと思うが未だ全員生きているのかもしれん」
(だがどこにだ? どこに?)
(この森の一体どこに奴らはいる!?)
地下通路を行く
地下通路を歩くソンジュ、ムジカ、エマ達。
ソンジュは後ろを歩くエマ達に、大丈夫、この道はみつからない、と説明する。
ソンジュが作ったという老いて死んだ吸血樹の地下道跡を繋いで作った、いわば迷路であり、出入口はソンジュとムジカしか知らないという。
「私も迷うわ」
ムジカは笑いながら付け加える。
「農園(やつら)はこの森に詳しくはない」
「この道を進んでこの森を抜ければいい」
「あっ これ水のイソギンチャク――!」
子供たちが道の脇に生えている植物を見てはしゃいでいる。
よく知ってるな、とソンジュが返す。
ムジカ達はこの森に住んでるの? と子供に問われたムジカ。
「住んではいないわ 旅をしているだけよ」
ムジカは笑顔で続ける。
「旅をして各地を転々としているの」
「なんで?」
ドミニクが何気なくソンジュに向けて問いかける。
少し間を置くソンジュ。
「……さぁなんでかな」
その口元は笑ったようにぐいっと上に引き上げられている。
子供達に情報共有するエマとレイ
ソンジュやムジカの後方を歩くエマ達。
「人間と鬼の”約束”……」
ドンが驚愕の表情を浮かべて呟く。
ギルダは、ミネルヴァのモールスに”約束”とあった、と冷静に指摘。
そういう意味だったのか、とドンが返す。
多分、と短く同意するエマ。
「でも『地球だけど人間の世界じゃない』ってどういうことだ?」
「『世界を分けた』って……」
後から後から疑問が湧く子供たち。
エマは、30年前にあった何かによって世界が現在の状況になったと思っていたが、ソンジュの話から、そもそも1000年前から人間の国、年、社会は存在しなかったとまとめる。
「1000年前の”約束”で世界が二つに分けられた…」
ギルダが呟くように言う。
(人間の世界と鬼の世界……)
「ソンジュの話では『道が閉じた』『扉が閉じた』『昔行けた場所に行けなくなった』ってことらしいけど……」
エマはソンジュの言葉をそのまま使って、その場に考察の材料を提供する。
もしそうならここはその切り離された鬼側の世界、とドン。
「今まで俺達が読んで”世界”だと思っていたのはここじゃなかった……別にあったってわけか」
ドンの言葉を受けて、険しい表情の子供たち。
「だから私達が最終的に目指すのは」
エマが子供たちに振り向いて言葉をかける。
「この世界から抜け出すこと」
「その方法を恐らくミネルヴァさんが知っている…」
アンナが続ける。
そういうこと、と受けるエマ。
ミネルヴァに会い、二つの世界を渡る方法を知る。
2年以内に準備・態勢を整えて農場に残したフィル達を助け出して人間の世界に行く。
「そのためにB06-32へ向かう」
エマは笑みを浮かべ、確信を持って言う。
鬼のいない世界があったんだな、とドン。
思わぬ希望ね、とアンナ。
二人とも笑顔を浮かべている。
「……でも そんなすんなりいくかな……」
確かに、と神妙な表情のギルダ。
「そもそも無理だって言われたんでしょう?」
「もう行き来はできない それも含めて”約束だって”」
「連れ出す人数だって少なくないしミネルヴァさんが何か知っているとしてもそうすんなりとは……」
「すんなりいくとは思ってないよ」
心配しているギルダに答えるエマ。
「行き来の件もそうだしまずは鬼社会で生き抜かなきゃいけないことにだって変わりはない」
じっとエマを見つめるギルダ。
「でも希望に形が見えてきた」
エマが力強い笑顔を浮かべながら続ける。
「出たとこ勝負で出て来たけど…とにかくそれしかなかったけど道が見えた」
「誰一人死なせない またみんなで暮らす 笑って…一緒に…!」
そのための道が見えた、と両拳を握って胸の前で掲げるエマ。
「何だってする 無理でもやる 険しさなんて関係ない」
「行こうみんなで鬼のいない世界へ」
エマの言葉に笑顔を浮かべる子供たち。
「そのためにB06-32へ ミネルヴァさんの元へ」
ドンもエマと同じように笑顔で拳を握る。
少し離れてしまった前方との距離を走って詰めるエマ達。
心配
さて、私からも一ついいかしら、とギルダがエマに対して前置きする。
エマに伝えたくて昨日からずっとうずうずしていたと続けるギルダ。
何だろう、という表情をギルダに向けるエマ。
「具合が悪くなったら早よ言わんかい」
ギルダは異様な迫力でエマに詰め寄る。
「ギ……ギルダ?」
迫力に押されっ放しのエマ。
「いい? 倒れるまで我慢とか絶対ダメ!」
ギルダはエマの両肩を掴んで詰め寄る。
「返事は?」
ギルダの迫力にエマはただ、はいっ! と答える。
ギルダは、大体エマはいつだって無茶がすぎるのよ! とエマの頬をつまんで脇に引っ張る。
「耳切るのだって当初の計画になかったし勇敢なのはいいけど死んだら終わりじゃ 無茶しすぎんな!!」
ギルダの剣幕に謝るしかないエマ。
頬を引っ張られているので、ごめんなひゃい、と言うのが精一杯なエマは、でも、と言い訳を続けようとする。
「『でも』じゃない」
ギルダはエマの頬に両手を添えたまま有無を言わせぬ迫力で詰め寄る。
言葉を失い、その場にへたり込むエマ。
「言われてる言われてる」
少し先行したところからレイがエマとギルダを見ながら呟く。
(いいぞギルダ もっと言え)
「レイもだよ」
レイの傍らの子供がレイに向けて言う。
ん? と目を合わせるレイ。
「オトリになってたって聞いた」
「あのトカゲみたいな鬼も一人でやっつけようとするし」
「追手相手に鬼ごっことか正気!?」
「正気じゃない」
子供たちが口々にレイに説教を始める。
「レイは目を離すとすぐ死のうとするからな」
「またかよ」
ラニオンとトーマがレイに見せつけるように呆れた様子でやりとりをする。
いや待て待て待て、俺は、と言い訳をしようとするレイ。
ソンジュに聞いてみよう、と子供に問われたソンジュが即答する。
「あれは10:0で死んでた」
ほらぁ―――とレイに向けて言う子供。
オーイ! と突っ込むレイに向かって正面からジェミマが抱き着く。
「死なない! 死なないから…!」
泣かせたー、とドミニクがレイを指を差す。
「……心配したんだよ」
レイのお腹に顔を埋めたままジェミマが呟く。
はっ、とするレイ。
ドンがレイに諭すように話始める。
「エマとレイが俺達のこと心配してくれてるのと同じように今回俺達みんなすげぇ心配したんだよ」
ギルダはエマの両肩に手を置いて俯いている。
呆然とドンの言葉を聞くエマ。
ドンとギルダも泣きそうだった、と付け加える子供。
「助けがいるならそう言って」
ギルダが俯いたまま続ける。
「辛かったら言って 我慢しないで」
レイに抱き着いたままのジェミマ。
トーマとラニオンは目を閉じ、口をへの字にして、腕組みをしてギルダの言葉を聞いている。
「私達だって頑張るから…何とかするから…」
「危なかったらまず自分が逃げて……お願い」
「お願いだから自分を大切にして」
ギルダはエマの両手をとり、目を合わせる。
「私達のことを大切に思ってくれるのは嬉しいけどエマ達だって同じように大切な家族なのよ?」
エマはギルダの言葉を、自分を真っ直ぐ見つめるギルダの目をじっと見ながら聞いている。
「だから…お願い」
レイはいつしか神妙な表情になっている。
涙を浮かべているジェミマの頭に手を置くレイ。
笑顔を浮かべるドン達をエマは笑顔で見ると、目の前のギルダをそっと抱きしめる。
「うん……ありがとう ごめんねみんな」
ソンジュとムジカは子供達から少し先行して地下通路を進んでいる。
いい子達ね、とムジカが子供たちに振り返りながら隣のソンジュに話しかける。
ソンジュは、そうだな、と一言答える。
「〇〇〇〇〇〇?」
(ならどうして全てを教えてあげないの?)
ムジカがソンジュに問いかける。
「『全て』って?」
「あの子達の困難…”約束”を破るなら〇〇を敵に回すことになる」
ムジカはソンジュの問いに答える。
「ああ…教えずともじきに知る…それに〇〇は疾うに食用児の敵だ」
ムジカの問いにソンジュが答える。
感想
エマとレイがソンジュから前回得た、それまであやふやだった世界の形を決定づける貴重な情報をついに他の子供達と共有した。
鬼の社会であるという絶望の裏返しとして、人間の社会があることが希望であることも確認した一同。
何のためにミネルヴァに会うのか、その目標が明確になり、「B06-32」に向かう意欲が増した。
目標が定まって良かった。
そして、無茶をするエマとレイにドンやギルダを始めとした子供たちが心配する気持ちを伝えた。
そもそも脱獄という大仕事をやり遂げたあとで、厳しい見通しの中で逃走劇を演じる。多少の無茶は仕方ないとしても子供が働き過ぎ。
エマとレイは一行を引っ張るという責任感に溢れている。
それゆえに無茶してしまうのはしかたないのは分かるけど、今回のやりとりがきっかけで良い方向に進むといいなぁと思う。
ドミニクから何気なく旅をしているを問われたソンジュに意味深な笑顔で「なんでかな」と返すその理由は何なのか?
ソンジュとムジカのやりとりで出てきた「敵に回すことになる」、そして「既に食用児の敵」という存在とは一体?
世界の謎は少し解けた。しかしまだまだ謎は多い。
約束のネバーランド第48話二つの世界のネタバレ感想と考察でした。
次回49話に続きます。
始めまして
謎が解けましたね。
鬼界から脱獄?ミネルヴァさんが助けてくれるの?
GF以外にも人間牧場が…
その子供達は?
鬼達の食料用に差し出された人間達は?
犯罪者とか?
コメントありがとうございます。
世界観がまたひとつ明らかになりました。
人間側と鬼側に世界が分かれていたことは絶望でもあり希望でもあったんですよね。
今後も脱獄モノとして描かれていくことを期待してます。
そして、バトル物にならないことを祈ってますw