第70話 かくれんぼ
目次
第69話のおさらい
自分の回りにいる人間は救いたいと心から思っていたエマ。
ジェイクとモニカの死に責任を感じ、そして彼らを殺したレウウィス太公に対する憎しみと怒りを滾らせる。
そんなエマに、約束通り今度は俺に付き合え、と”男の子”が風車小屋に案内する。
風車小屋の中の部屋で、8人の男女がエマを待ち構えていた。
オレの仲間、と”男の子”が仲間達を紹介していく。
救護担当のサンディ、ザック。
機械類担当のナイジェル。
サブリーダー、ソーニャ。
食料担当、ペペ、ジリアン、ポーラ。
そして自分の事をヴァイオレットと名乗る。
その名前で、これまで”男の子”だと思っていたヴァイオレットが女の子だと気付くエマ。
最後に紹介されたリーダー、オリバーはエマの元に歩み寄り握手を求める。
ヴァイオレットは、この猟場で何か月、何年も生き残ってきた9人だと説明を続ける。
ジリアンから名前とどこから来たのかを問われ、エマは素直に答える。
そしてエマは、ここにいる面々は自分と同じ脱走者かと問う。
問われた面々は、脱走ではなくグランドヴァレー農園から生きたまま出荷されたのだと答える。
彼らの情報から、エマは、バイヨン卿の猟場に出荷されるのはグランドヴァレー農園の食用児である事を知る。
つまりバイヨン卿の息がかかっている農園であるらしい、と暗に他の農園には影響力が無いのではないかという予測を交えてオリバーが説明を続ける。
GF農園出身者はもちろん、脱走者は初めてだと指摘を受けるエマ。
オリバーはこの場所で鬼によって行われているのは遊びなのだと主張。
ナイジェルが銃器の詰まった箱をテーブルに乗せる。
ソーニャが、鬼が刺激を得るためにわざわざ子供に支給するのだ、とエマに説明する。
オリバーは、これまで多くの仲間が武器を手にしながらも死んでいき、武器を持たなかった者もまた同様に死んでいったと淡々と続ける。
それでも耐えてきたのは猟場を終わらせるためだと啖呵を切るオリバー。
猟場は言わば違法であり、他の鬼には知られていない事から異変に気付かれることも、増援も無いとソーニャ。
オリバーはエマに、密猟者を殺し、街の全員で人間の集落へと逃走する作戦を近く決行する、とエマに今後の目的を伝える。
エマは仲間に入るのを了承しつつも、脱走者でもないのになぜ色々知っているのか、と疑問を投げかける。
オリバーは、自分たちに知識を与えてくれた人物がいることをエマに告げる。
その時、ちょうど風車小屋を訪ねて来た人物。
それは全員死んだと聞いていたオジサンの仲間の一人、ルーカスだった。
ルーカスはエマにミネルヴァについての話を語り始める。
第70話 かくれんぼ
オジサンの生存を喜ぶルーカス
エマとルーカスを残し、他の9人は部屋を出て行く。
ゴールディポンドで生きていたルーカスと対峙するエマ。
(ルーカス?)
エマの記憶。
オジサンが言った「ルーカスお前は黙ってろ!!」という言葉。
オジサンがシェルターの壁に書いた人名の羅列の中にあった「LUCAS」という名前。
(生きてた?)
エマは部屋の中央に進むルーカスを目で追う。
(あのルーカス!?)
あのっ、と堰を切ったようにエマから言葉が溢れ出す。
「出身はグローリーベルですか!?」
「ひょっとしてB06-32から来て…オジサンの―――」
ルーカスはエマに背を向けたまま一瞬の間の後。
「その服…やっぱり君もB06-32から来たのか」
じゃあ、と言葉を継ごうとするエマ。
「わかってた…」
ルーカスはエマの言葉の前に口を開く。
杖を持つ左手が震える。
「そうだ一番に知りたくてでも聞くのが怖くて…もう13年も経ってしまったから…」
エマに振り向くルーカス。
「あいつは生きてるのか……?」
エマは表情を緩めて、ルーカスの目を見てうなずく。
「そうか…」
ルーカスは今にも泣きそうな、そして同時に心底ほっとした表情を浮かべて俯く。
「よかった…! よかったぁ…!」
謎の子供に救われていたルーカス
テーブルを挟んで、椅子に相対して座る二人。
ルーカスは自分の感情を露わにし、取り乱した様子を謝る。
いえそんな、とエマは笑う。
「よかったです オジサンにも知らせたい」
エマは明るい表情でルーカスを見る。
「絶対喜びます」
エマは、オジサンは他の仲間は全員亡くしてしまったと思っている、と心配そうな表情をしながら続ける。
それを黙って聞いていたルーカスは重い口を開く。
「生き残ったのは僕だけだ」
エマから目を逸らすように視線を動かすルーカス。
「僕もあの時自分は死んだと思っていたよ」
13年前、辿り着いたゴールディポンド=猟場で鬼から追われる二人。
(「行け!!」)
立ち止まったルーカスが走り去る若き日のオジサンの背中に向かって叫ぶ。
(そうだ行け! お前だけでも人間の世界に行ってくれ 僕達の分まで…!)
オジサンだけは密猟者に追わせることなく逃がす、と囮として動き始めるルーカス。
オジサンとルーカスを追っていたのはレウウィス太公だった。
(お前は希望だ 僕達全員の――)
倒れた仲間たちを想うルーカス。
時間が経過し、ルーカスは失くした右腕からしとどに血を流し、ふらつきながらも逃げていた。
レウウィス太公はルーカスから捥いだ右腕を手に、地面にしっかりと残った血痕を確認しながらゆっくりとルーカスを追っていく。
(ここまでか…!)
ルーカスは木の陰に腰を下ろし、歯を食いしばりながら目を閉じる。
そんなルーカスの前に見慣れない子供が立っている。
ルーカスの様子を少しの間眺めた後、口元を引き締めて深く頷く。
(「こっち!!」)
謎の子供のその後
ルーカスは、それまで一度も見た事のない知らない子だった、とその時の状況を振り返る。
そして、その子は怪物に見つからないよう、絶対に見つからない場所でずっとかくれんぼをしているのだ、とその子の言葉を思い出していく。
「本当に見つからなかった…僕も その子が隠して…匿ってくれたんだ」
「密猟者の中では多分僕もあいつと逃げたことになっている」
以来13年、現在いる風車を拠点として「いない人間」として隠れ続けてきたのだとルーカスは説明する。
ルーカスの生存を知る者はエマ、アダム、部屋を出て行った9人のみだと続ける。
助けてくれたという子について問いかけるエマに、ルーカスは残念そうな表情で、5年ほど前に病気で死んだと答える。
以来8年、ルーカスは負傷しているしペンも無いという状況だが、一か八かシェルターに向けて逃走を図り、オジサンに無事を知らせようと思ったのだと説明する。
「でもそう考えるたびによぎるんだ」
「密猟者に殺された仲間の無念」
殺されてしまった仲間達。
「わけもわからず逃げ惑う他の子供達に悲鳴」
定期的に出荷されてきた何も知らない子供達。
「あの子の恐怖」
ルーカスを匿ってくれた子供。
「僕はこの猟場を終わらせたい」
ルーカスは顔に怒りを滲ませる。
「密猟者をゆるせない…!」
そしてルーカスは自分と同じ想いを持つ子供達を地道に集めて、自分の持つ技術や情報を伝えて共有してきたのだと続ける。
「それにここを去るわけにはいかなかった」
「あいつを呼び戻す時のためにもここを潰しておかなければ…」
ルーカスの独り言の様な言葉を聞き不思議そうな表情をするエマ。
ミネルヴァの残した手がかり
「見つけたんだ」
ミネルヴァが食用児をA08-63に導いた理由が分かったというルーカス。
自分があの子に助けられて初めに匿われた場所、と言って、ルーカスは壁のレンガを押す。
ルーカスの押したレンガだけがへこむと歯車が噛み合った音が壁の内部から聞こえて、中央の柱の内部に螺旋階段が現れる。
風車と森に繋がる抜け道があり、その先に鍵のかかった入れない”扉”があったのだと言うルーカス。
エマは”鍵”という言葉に反応する。
「ひょっとして――」
椅子から立ち上がる。
ルーカスは、ああ、と同意する。
「鍵は君の持つそのペンだ」
エマは右手に持ったペンを見つめている。
「13年…こんな機会がめぐってこようとは」
これで”扉”の中が確かめられるとルーカス。
(ペンを持ってこの場所へ)
エマはミネルヴァの導きを思い出す。
「行こう」
ルーカスがエマに声をかける。
「案内するよ ミネルヴァさんの”扉”へ」
「ミネルヴァさんの真意へ」
エマは緊張した面持ちでルーカスを見つめる。
覚悟を決めるレイとオジサン
その頃、レイとオジサン。
フクロウらしき泣き声が聞こえる夜の森。
レイは木の間に渡された足場の上で荒く息をついている。
「一日がかりでようやく撒けたか」
「油断はするな 密猟者(やつら)そう簡単に諦めない」
オジサンがレイに釘を刺す。
(密猟者? 狩猟場?)
油断を否定し、エマを早く連れ戻さないと、と焦るレイ。
そして、今どこだ? と座標を確認しようとしてペンをエマが持っている事に気付く。
一人でもゴールディポンドに、と言うレイに、オジサンは、ここだよ、と自身のペン型端末を起動させてみせる。
中空に出力されたスクリーンはA08-63の座標を示している。
「もう既にゴールディポンドだ」
「ここが? 既にゴールディポンド?」
レイは森の中に広がる目の前の大穴を前に疑問を口にする。
(いや…確かに水…池? らしきものもあるけど…ここの一体どこが……)
驚いているレイに、言ったろ? と声をかけるオジサン。
「秘密の猟場なんだ」
緊張した様子のオジサン。
まさか、と何かを察するレイ。
「シェルターと同じだ 猟場は土の中にある」
地中…? とレイは大穴を見つめる。
捕まれば入れるがそれではダメだというオジサン。
触角――エマを取り戻すためには敵に知られず、隠れて潜入する必要があると続ける。
入口はあり、そして敵が使う通り口もまたあるというオジサン。
そして、まだ使えるとしたらかつて自分が逃げてきた道もあるかもしれないと付け加える。
(…入れば地獄 次生きて出られる保証はない――だが)
「いいだろう 入るぞゴールディポンド…!」
銃を携え、緊張した面持ちのオジサン。そしてレイ。
感想
ルーカスとオジサン感動の再会はあるか
オジサンが逃げ切って生きていた事を知ったルーカスが本当に嬉しそうなのが印象的だった。
13年も気になっていた事がとりあえず最悪の結果ではなかった安心感がすごいだろうな。
今回、久々にオジサン・レイのサイドも描かれた。
二人はエマを助けにゴールディポンドへと潜入するわけだが、オジサンにとってはルーカスという思いがけない出会いが待っていることになる。
果たして無事に出会うことが出来るのか。
密猟者全滅を目指す作戦
9人の中のリーダーであるオリバーの話では、近々、鬼を全滅させるための作戦行動に出るという話だった。
その作戦にオジサンとレイが参加するという流れになるのか。
作戦は次の狩りの時間だとしても、それまでに数日は間があるはず。
その間にオジサンとレイは街を発見出来るのかどうか。
でもそれだと、結局密猟者に捕まったのと変わらないような気もするな……。
出荷されてきた子供達と同じように、結局は街に行くんだから……。
でも、その存在を鬼に認知されてるかどうかというのは生存確率を上げる上でかなり違ってくるだろう。
伏兵としてオリバー達のオペレーションに参加する事になったらまともな戦いになるかもしれないと思った。
ただ、鬼たちは子供達が組織を作ることは想定してそうな気がする。
それを楽しみにしていて、子供達を迎え撃って来るという展開が来るとしたらヤバイ。
狩りでは毎回数人の犠牲者が出るに留まっていたが、作戦の失敗はそれ以上の犠牲者が出る可能性が高い。
鬼の怒りを買うのが怖い。
怒り狂って理性が無くなった鬼が数人の人間を狩るだけで暴れまわるのを止めるとは思えない。
全滅させるとしたら1匹1匹協力させないように分散させて、静かに仕留めていくのが良いと思う。
囮役に注意を惹きつけさせて死角から攻撃、くらいしか思いつかない。
ルーカスを救った謎の子供
何者? 今後もその存在は語られるのか?
既に亡くなっているようだし、何か特殊な技術や情報を持っているようにも思えなかったけど……。
「あいつを呼び戻す時のため」
ルーカスが言ったこの言葉。
後には、ここ(猟場)を潰しておかなければ、と続くわけだが、一体誰なんだろう。
まだ謎の人物がいるようだ。
だが猟場を潰してから呼び戻す、と言ってるから、「あいつ」はレジスタンスの一員、戦力としては考えられていないということらしい。
前回オリバーはゴールディポンドから脱出したあとで人間の集落へ逃げると言っていた。
その人間の集落に関係する人物なのかもしれない。
ゴールディポンドにメッセージを残したミネルヴァの意図
ゴールディポンドは秘密の猟場として非常に危険な場所になっている。
別にミネルヴァはわざとそうしたのではない。
ミネルヴァは鬼に見つからない為に、普通では見つけられないような場所にメッセージを残したつもりだっただろう。
しかし鬼、おそらくはバイヨン卿がゴールディポンドを探り当てた。
ミネルヴァが鬼から人間を守りたいと思っていたとしたらとても皮肉なことに、他の鬼には滅多に知られないこの場所が鬼によって人間を狩りまくる遊び場として好きなように使われるようになったのだろう。
ゴールディポンドは秘密の猟場というだけあって、現在狩りを楽しむ5人(?)の鬼以外、他の鬼には知られない空間。
禁忌を冒すには格好の場所だったのだと考えられる。
ミネルヴァの扉
果たして何が待ち受けているのか。
狩りを終えた当日の夜だし、この続きを鬼に邪魔される展開は無いだろう。
次の号で再びミネルヴァのメッセージに触れる事になりそうだ。
また次の座標を示すのだろうか。
別に良いんだけど、さすがに連続でそれだとちょっと食傷気味かも……。
もっと違うメッセージを期待したい。
以上、約束のネバーランド第70話のネタバレを含む感想と考察でした。
第71話の詳細はこちらをクリックしてくださいね。
今回の話を読んで気になったこと、、、
ルーカスの冷や汗のような表情が気になる、、、少年誌なので深読みしすぎかもしれないですが
ルーカスがレウィス卿の手先、、、という可能性はないのだろうか
以前の小さい子供も一人だけ生かしているが
謎の少年は実はレウィス卿に助けられていたことを隠すため、、、
おじさんの話のとき、最初表情がみえなかったことや、謎の少年が死んだときも冷や汗、という表情が気になりました。。。
コメントありがとうございます!
>ルーカスがレウィス卿の手先、、、という可能性はないのだろうか
それヤバイですね!
その可能性は全く思いつかなかった。
もしルーカスがレウウィス太公に見逃されていたとして、そこに条件があったとする。
で、それがレウウィスと死闘を演じられるような強者を育てることだとしたら……ルーカスが9人の仲間を育てたのはレウウィスの、そして自身の生存の為とか?
もしそうならレウウィスに操られ続けたルーカスはあまりにも悲しい役となりますね……。
オジサンとの再会も歓喜に満ちたものとはならないのかもしれません……。
でも確かに、知性鬼、その中でも特に異質で大物感のあるレウウィスであればそれくらいの仕掛けをやっててもおかしくないかな思いました。
鬼は人間よりも遥かに長生きっぽいですし、知性鬼であれば長期的視野で物事を進めていけそうですよね。