第66話 禁じられた遊び①
目次
第65話のおさらい
のどかな、しかし誰一人住人が見当たらない奇妙な街で目覚めたエマ。
辺りを散策するがやはり誰も見つけられない。
そしてエマは、これまで歩いてきた野良鬼のいた森の中とは全く異なる自然環境に違和感を覚える。
町はずれに大きな屋敷を見つけるが、街中を彷徨う。街をきちんと調べようと決めた矢先、エマは背後に気配を感じる。
そこにはエマの様子を観察するように見つめる子供がいた。
逃げ出す子供を追いかけるエマ。
一方、エマをさらわれたレイとオジサンは森の中を歩いていた。
エマがつれさられた瞬間を思い出すレイ。
レイは連れさられるエマを追いかけるが、オジサンに阻まれる。
そしてオジサンはレイを脇に抱えてその場を一目散に逃げたのだった。
レイはオジサンに説明を求める。
まだ始まっていない、生きている、と答えるオジサン。
シェルターの一室の壁に書いた”密猟者”の事なのかというレイに、正確にはその一派による仕業だとオジサンが答える。
そしてオジサンは、エマとレイを始末する手段として”奴ら”を引き寄せたと告白する。
初日に野良鬼に大量に浴びせた銃弾の痕がエマやレイの存在を知らせる印となり、知性鬼が現れたのだという。
オジサンが仲間を失ったのも”奴ら”の狩りによるものだった。
脱走してから10日しか経っていないエマ達を狙って網を張っているだろうとオジサンは考えていた。
エマを取り返す、と息巻くレイを無理だとオジサンが諫める。
オジサンに毒づくレイに、オジサンは素直に謝罪する。
せめてレイは無事に連れ帰るというオジサンに、レイは、このままエマを放って逃げたら死んだノーマンに顔向けできないと考え、エマを絶対に連れて帰ると決意する。
レイはオジサンにエマが居るであろう場所を問いかける。
子供の姿を見失ったエマは左の掌に”USE YOUR PEN”と書かれているのを見つける。
ミネルヴァのペン型端末を起動するとA08-63と座標が表示されている。
期せずして目的地であるゴールディ・ポンドに辿り着いていたことを知るエマ。
傍らの看板を見ると、そこにはシンプルな箇条書きがある。
RULES
1.MUSIC
2.MONSTERS
3.SURVIVE
「『音楽』『怪物』『生き残れ』?」
エマが読み上げると、唐突にスピーカーから大音量の音楽が鳴り響く。
「怪物が来る」
さきほどエマから逃げた子供がエマに声をかける。
「早く隠れた方がいいよ」
オジサンはレイにゴールディ・ポンドで行われる事を説明する。
放し飼いにしている食用児を金持ちの人食いが狩猟本能を満たすために狩りに来る。
ゴールディ・ポンドは知性鬼の秘密の狩り場。
知性鬼による狩り。
エマの生存戦略が問われる。
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狩りの時間を前にして、知性鬼達が楽しそうに会話している。
狙っている人間の特徴を挙げながら狩り庭へと歩いていく鬼達。
レウウィス太公と呼ばれた黒衣の鬼もまたどんな人間を狩りたいかと問われ、殺す気でかかってくる強い人間と答える。
ただ、最近は見かけなくなったと飄々と付け加える。
情報格差
街に音楽が鳴り響く。
エマはこの街の先住人らしき男の子の言った、秘密の猟庭という単語に反応する。
「教えて ここも”農園”なの? ひょっとして”密猟者”って――」
「やっぱりあんた他の子と違う」
男の子はエマが「農園」や「密猟者」という言葉を知っている事を認識して説明を始める。
この街は”農園”ではなく、鬼の貴族の一人”バイヨン卿”の私設の”庭”であるという事。
街にいる子供達は皆、狩りの獲物として生かされているという事。
それを聞いたエマは、ソンジュから聞いた、「鬼は人間を狩らない」という二つの種族間で交わされた約束があることを思い出し、その矛盾に気付く。
「農園には秘密 秘密の遊び場」
そのエマの疑問を埋めていくように男の子の説明は続く。
エマは男の子の言った”他の子達”とはと問いかける。
男の子は、鬼が狩って食った分だけ月一で補充していると答える。
エマの、どこから? と言う問いには、ほとんどが農園だと答える。
特権もしくは特例により生きたまま入荷しているのだと続ける。
「『他の子は知らない』って…?」
エマの問いかけに対して、他の子達は鬼の存在そのものをしらないのだと男の子は答える。
かつてエマがそうだったように、鬼に食われるために施設での偽りの幸せの中で生かされているという苛烈な現実に一切気付くことなく、いつか幸せな場所へ行けるかと思っていたであろう子供達。
この街に来る子供達の大概の認識は、せいぜい神隠しに遭って怪物に追われているという程度ではないかと続ける。
絶句するエマ。
男の子は、このままだと危ないとエマに隠れる事を促す。
「あんたに会わせたい人がいる」
その時、エマの背後から悲鳴が聞こえてくる。
エマは素早く振り向き、悲鳴の聞こえた方向へと駆け出す。
「オイ!」
男の子はエマを呼び止めようとするが既にエマは森の中へと駆けこんでいた。
絶体絶命の子供達
4匹の鬼に四方を囲まれた二人の子供。
「見ぃつけた」
余裕たっぷりに知性鬼が子供二人を見る。
その手前の鬼の顔には傷がついているが、再生を始めている。
(化物……!)
鬼に傷を負わせたらしき槍を持つ女の子と、左腕に傷を負い地面に膝をついている男の子は共に怯えている。
鬼の存在を知らない二人の子供は、何故こんな怪物が普通にいるのか、今、自分は現実にいるのか、信じられないと鬼を前にして現実逃避を始める。
思い出すのは施設での別れ際の記憶。
小さな子供達に祝福され、”先生”にこれまで育ててもらったお礼を言う。
優しい”先生”がいて、かわいい子供達がいる。
そんな、未来に幸せが待っていると信じて疑わなかった施設へと戻りたいと願う男の子。
(嫌だ 怖い 死にたくない 助けて兄ちゃん…!)
二人の子供が鬼に囲まれているそのすぐそばの木の幹に、囲まれている子供よりも年齢が高めの男の子が隠れて様子を窺っている。
男の子は、助けなきゃ、と何度も頭の中で繰り返すも、怖くて助けに行けず震えている。
リーダーらしき知性鬼が装飾品のようなナイフを取り出す。
青ざめる子供達。
(ごめん 許して…! 二人共)
木の陰で震える男の子はギュッと目を閉じる。
「10秒あげるよ」
ナイフを持った鬼が二人の子供に話しかける。
思わぬ申し出を受け、子供達は固まる。
知性鬼は、3人の中から僕に追われて狩られるのは誰なのか決めて、他の二人は逃げて良いと提案する。
怪我を負っている男の子か、槍で鬼に傷をつけた女の子か。
「それとも仲間を置き去りにして一人隠れているそこの君?」
鬼に四方を囲まれた二人の子供が男の子が隠れている木の方向を見つめる。
10、9、8、とカウントダウンが開始する。
退屈するレウウィス太公
くだらん遊びを……若いな)
その光景を少し遠巻きにして黒衣の知性鬼――レウウィス太公が、どうせ三匹とも狩るつもりだろうに、と眺めている。
狩るならば怯える兎よりも猛虎であり、あのような狩りの何が楽しいのかと内心で呆れ返る。
(つまらん どいつもこいつも手応えのない 何の張り合いも感じない)
こいつも…、と目の前で頭を抱えて、背を向けて地面に座り込む何の戦意も感じられない子供にレウウィス太公が声をかける。
「去っていいぞ」
自身の服の襟を引っかけていたレウウィス太公の爪を振り切って男の子が悲鳴を上げながら必死で逃げていく。
(昔は良かった 昔は……)
レウウィス太公はかつて人間と争っていた頃を思い出していた。
(生きるか死ぬかの騙し合い スリル 血湧き肉躍るあの感覚)
(そう 狩りは互いに命を懸けるから面白いのだ)
それが今はどうだ、と狩りの醍醐味が全くなくなった現在を内心嘆くレウウィス太公。
カウントダウンは3、2、と残りは僅か。
その時、エマが鬼に囲まれて絶体絶命の二人の子供に向かって一直線に駆ける。
そして木の陰に隠れていた男の子の手から手斧を奪っていく。
レウウィス太公が何気なく顔を上げる。
エマの決意
「逃げて!!」
エマが手斧を知性鬼に向かって投げつける。
リーダーの鬼に向けて回転して飛んでいく手斧を既(すんで)の所で、一瞬で距離を詰めていたレウウィス太公が受け止める。
斧の刃先が知性鬼の目を直撃する寸前で止まる。
そして反撃してきた子供を確認しようとしたレウウィス太公の視界からは、もう既に子供達の姿は跡形もなく消えていた。
エマを先頭に、エマと一緒にやってきた男の子、そして鬼に狩られそうになっていた三人の子供が森の中を駆けていく。
エマは、ここがゴールディ・ポンド、鬼の秘密の狩場だった、事と完全に理解する。
オジサンが恐れていた”密猟者”がゴールディ・ポンドで狩りを楽しむ鬼達の事である事。
狩りを楽しむ鬼達は言葉を駆使し、頭が良い事。
人型で面をかぶり、文化、文明も持っており、野良鬼とは全く違っている事。
(農園で大人を支配していたあの鬼達みたいな 知性鬼!)
オジサンの仲間がここで全滅したのだと悟り、なんという場所に捕まったのか、とエマは自分の置かれたヤバイ現状を認識する。
(でもこれはチャンス)
ミネルヴァの導きを受け、苦労して目指して来たゴールディ・ポンド。
エマは、ミネルヴァによる”何か”がある場所であり、オジサンの為にも見つけなければ、と決心する。
(必ず見つけてここを出る!)
標的を定めるレウウィス太公
子供達に逃げられた知性鬼は悪態をついていた。
「クソッ…このボクに…あいつ…あの野郎……ッ!」
怒りが押さえ切れない様子の知性鬼。
(目を狙った…)
レウウィス太公は、エマが鬼の弱点である目をめがけて手斧を投擲したのを振り返り、分析する。
(つまり知っている 我々のどこを狙えば殺せるか)
(あの状況に斧一本 怯むことなくとび込んできた 殺す気で)
そして、エマの鬼を狩る時の目つきを思い出す。
(素晴らしい 久々に楽しめるかもしれない)
こんな気持ちは彼ら以来か、とレウウィス太公の脳裏に若き日のオジサンとその仲間の姿が浮かぶ。
安全圏と判断したエマ達は既に走るのを止めていた。
まずはレイと連絡を、と思考を巡らせるエマ。
「逃がさない」
レスウィス太公は手を広げる。
「君は私の標的だよ」
感想
「会わせたい人」
レウウィス太公は冷静で強キャラ感がある。
エマは他の子供達と協力して戦うことになるんだろうけど、苦戦は必至だろうなと感じさせる。
オジサンの仲間を狩り、オジサンに今なお拭いきれないトラウマを植え付けた相手にエマは勝てるのか。
おそらくレウウィス太公の戦闘能力は相当のものだろう。
エマの投げた手斧が標的の知性鬼に達する前に受け止めるという、距離を一瞬で詰める超スピードは、つまり人間には考えられないほどの筋肉量を搭載している可能性が高いということ。
力でも、当然ながら敵うはずが無い。
まともに戦ったらまず間違いなく、大した苦労もなく狩られてしまう。
エマ達をはじめとした子供達は必然的に、頭を使って戦わなくてはならない。
罠を駆使する、或いは不意打ちなどで抵抗していくことになるだろう。
男の子はエマに対して、会わせたい人がいる、と言った。
この、会わせたい人、というのがこの狩りを切り抜ける鍵だと思う。
恐らくその人は何度となく狩りを切り抜けている。
農園から連れてこられたということは子供なんだろうけど、ひょっとしたら何年も狩られていない内に成長して、今は青年になっているのかもしれない。
そうなると当然、子供達のリーダーになっているはずだ。
街にどれだけの子供がいるのかは不明だが、恐らく他にも何度も生き残っている少数の子供がいるだろう。
彼らには鬼に抵抗する為の知識があり、戦略もあるはず。
やられてばかりのフラストレーションだけが溜まる展開は無しでお願いしたい。
人間を狩りの対象としてしか見ておらず、舐め腐っている鬼に一撃かましてくれると期待する。
というか、野良鬼と違って、「油断する」のは間違いなく知性鬼の弱点だろうな。
そこらへんの「知性があるが故の陥穽」を突くことで、是非、鬼に勝利して欲しい。
ノーマン生存の可能性が出てきた
今回、子供は農園から月一で新しく補充されるという驚きの事実が判明した。
つまり、これまで判明していた、コニーの様に胸にヴィダを突き刺されてすぐに処理されるわけではないケースが存在するということだ。
月一でゴールディ・ポンドに生きたまま出荷するとなると、そこそこの頻度だと考えられる。
GF農園を脱走する直前にノーマンが出荷の憂き目にあった。
死を覚悟したノーマンが正門で何かを目撃し、驚愕したところでノーマンのその後は描写されていない。
あの時点では、てっきりその場で殺されてコニーのようにヴィダ胸に死んだと考えるのが普通だと思う。
しかし、非業の死を遂げたと思っていたノーマンが、実は生きている可能性が出てきた。
まだ狩りの真っ最中であり、生存の為に思考を巡らせているであろうエマには思い至っていないようだが、これに気付いたら喜ぶのではないか。
エマ達が鬼の存在を初めて知り、GF農園で脱走しようとしていた期間中に出荷されたのはノーマンだけだった。
ひょっとしたら結構な確率で生きたまま出荷されているのではないか。
そして、鬼の社会がどれだけの広大なのかは分からないが、ゴールディ・ポンド以外にも多数の狩場が存在するならさらにノーマン生存の可能性は高まる。
というか、ゴールディ・ポンドで子供達のリーダーか、もしくはそれを補佐する役目になっている可能性すらある。
ノーマンもまた鬼に関して知識はあるわけだし、鬼を撃退しようと思ったらまず目を狙う冷静さがあってもおかしくない。
これをご都合主義だなんて言わない。
筋肉マンとか男塾に比べたらよっぽど「実は生存していた!」という展開に説得力がある(笑)。
ということで、男の子の言う「会わせたい人」はノーマンである可能性に期待したい。
もしくは、「会わせたい人」はノーマンではないけど、「会わせたい人」をノーマンが補佐してるとか。
ノーマン生きててくれ、と心から思う。
以上、約束のネバーランド第66話のネタバレを含む感想と考察でした。
第67話の詳細はこちらをクリックしてくださいね。
鬼の狩場でなく、安全な人間界なら
素敵な所だけど。
鬼達にも格差はあったんだっけ…
悪趣味なんてものじゃない。
エマは生き延びる為に相手を殺すのだろうか?鬼とはいえ…
主人公は物語が続いてる間は、安全(?)は保証されてる
物語の終わりは別だけど。
ミネルヴァがゴールディ・ポンドに誘導したからには何かがあるんでしょうが、いざ着いたら鬼の狩場ですからね……。
実は、あまりに不自然なまでの小綺麗な街は、鬼が人間狩りの為に造ったのかもしれないなぁと思ったりしてます。
ゴールディ・ポンドには元々はシェルターしかなかった。
そこにはミネルヴァからのメッセージに従って農園から脱出した子供が大挙してやってくる。
それに目をつけた鬼が狩場にした、とか?
そして、西洋の貴族が狩りを楽しんだように、鬼も狩りを楽しむようになったと。
武器があるわけでもないので、基本的にはエマは知恵でやり過ごす方向で切り抜けると思います。
しかし、いざという時は鬼を殺す覚悟がないと足元を掬われるんじゃないかな。
音楽が始まりの合図になっているということは、狩りの時間は終了の音楽が鳴れば終わるのかもしれません。
鬼にとっての狩りを楽しむゲームであれば、ルールは順守するはず。
さて、次回どうなるかな。