第170話 共に
目次
第169話 満点のおさらい
オリバーの怒り
ピーターに銃を突きつけるオリバー。
その脳裏では、この男の存在こそが農園システムや猟場を生み、食用児が鬼に食われ続ける狂った世界にしてきた元凶であるという怒りが次々に湧きだしていた。
しかしピーターは自分がいたからこそ食用児が生まれた。つまり父であり創造主なのだと主張する。
父という単語から、オリバーは猟場で自分たちを育ててくれたルーカスとの日々や、ラートリー家の兵にシェルターを襲撃されあえなく命を落としてしまったことを思い出し怒りに顔を歪めるのだった。
「跪け ピーター・ラートリー」
オリバーと共にピーターに銃を突きつけるのはザック、ジリアン、アイシェ。アイシェのお供の犬もピーターに対する戦闘態勢をとっている。
ハヤトの行動
ドンがピーターに撃たれたヴィンセントの元に駆け寄る。
ヴィンセントは苦し気ながらも、きちんと意識があった。
「よかったぁ…」
安堵のあまり涙を浮かべるハヤト。
ヴィンセントは端末操作のために自分は残るとしつつ、しかしハヤトには退路の確保を命じていた。
そしてヴィンセントと共に残ることを決めていたナイジェルは、もし自分たちが逃げ遅れたならここへは戻らずオリバーたちに合流せよと続ける。
言われたとおりにその場を駆けだしたハヤトは無線の情報から、その後すぐにヴィンセントたちがピーター達に制圧されてしまった事を知る。
オリバーたちも捕まったと知ったハヤトは、どうしたら良いか一瞬考えた末、指示された通りオリバーたちの元に急いでいた。そしてオリバーたちに銃を向けていた兵を飛び蹴りで吹っ飛ばすのだった。
その瞬間生じたスキをついてオリバーは他の兵を銃撃する。
こうして自由になったオリバーたちにより、ヴィンセントたちは救われたのだった。
ヴィンセントの無事を泣いて喜ぶハヤト。
ヴィンセントはそんなハヤトに、グプナが出来なくなる危険があるため即死は避けられるという目論見があったと説明しつつ、ニヤリと笑う。
「ありがとう 助かったよハヤト」
「こっちはもう大丈夫だ!」
ドンからの連絡に、こっちも制圧完了、とレイが応じる。
レイと共に敵を制圧したノーマンがドンに返答する。
「本当に胆を冷やしたよ ヴィンセント」
ピーターの余裕の理由
施設内の鬼は全員無力化されていた。
後ろ手に縛られたピーターは合流したエマたちに囲まれ、銃を突きつけられていた。
「お前の負けだ」
ノーマンはピーターに向けて宣言する。
可笑しそうに笑うピーター。
「馬鹿らしい 僕を殺して何になる」
ピーターには敗北者らしからぬ余裕の表情で続ける。
「たとえ僕が負けても依然君達に退路はなく勝ち目もない」
余計なお世話よ、とジリアン。
エマは、システムは再びダウンしたので誰も助けにこないとピーターに呼びかける。
「誰も助けに来られない? あとは僕だけ? はて」
相変わらずピーターには一切うろたえる様子はない。
「君達何か忘れていないか?」
逆転
レイは自分の背後、廊下の奥に誰かが立っている気配に気づく。
それは銃を持ったシスターだった。
数十人の銃を持ったシスターがエマたちを取り囲んでいく。
愕然とするエマたち。
ロックを外したのか、とヴィンセント。
一気に圧倒的に不利な状況に逆戻りしてしまい悔しそうに歯噛みするドンとギルダ。
靴音を立て、シスターたちから遅れて悠々と現れたのはイザベラだった。
エマはイザベラに銃口を向けられても一切動じることなく真正面から見返す。
「お外は楽しかった? エマ」
イザベラは銃を突きつけたまま続ける。
「破壊の限りを尽くしたわね」
「抗って 抗って 抗って 抗って」
「どれだけ足搔いても最後には必ずこうなるのに」
「また絶望はやってくるのに」
「あなたは あなた達は戻ってきた」
「懲りもせず」
「これがその結果」
してやったりの表情で口角を上げるピーター。
「すばらしいわ あなた達全員 満点よ」
銃の照準をエマからピーターに変更するイザベラ。
同時にエマたちを取り囲む大勢のシスターたちも一斉にピーターに銃口を向ける。
「……は?」
唖然とするピーター。
「え」
この状況にエマたちも驚いていた。
「貴様……裏切ったなイザベラ…!」
怒りを剥き出しにするピーター。
イザベラはそんなピーターを真正面から静かに見据えていた。
第169話 満点振り返り感想
ダメ押し
おおおおおお!
エマたちの勝利がシスターたちの登場によってひっくり返されたと思ったらまさかのイザベラの寝返り……!
ダメ押しの展開になったといえるだろう。
ヴィンセントは生きていたし、風は完全にエマたちに吹いている。
まさかここまでピーターたちをほぼ完封する結果になるとは思いもよらなかったな。
イザベラがエマたちを満点と評価してピーターに銃を突きつけるラストは何重にも渡るカタルシスがあると思う。
シスターたちにエマたちを取り囲ませて逆転の喜びにひたるピーターが一瞬で天国から地獄に落ちる様子。GF脱走から外の世界を生き抜いてここまでやってきたエマたちに対してイザベラが最高の評価を行うこと。そして何より、おそらくこれまで耐えに耐えてきたであろうイザベラが満を持して立ち上がったこと。
やはりイザベラをはじめとしたシスターたちもエマたちと同様にこの食用児システムを憎んでないはずがなかった。
彼女たちは表向きは忠実にピーターや鬼たちに従いつつも、こうして立ち上がりラートリー家に銃を向ける機会を窺っていたのだろう。そしてエマたちがピーターたちにほぼ勝利したといえる瞬間こそがまさにその時だったと。
ピーターが呆気にとられている様子から、彼にとってこの事態は完全に想定外だったらしい。
当然この事態に対処する方法も用意していない。
もし施設内の鬼の兵が無力化されていなければシスターたちにぶつけることもできたかもしれないが……。
もはやピーターには戦力でこの状況からエマたちに勝利する術はないと断定しても良いだろう。
これはもうさすがにピーターの負けじゃないかな……。
ピーターの逆転の目は?
完全に追い込まれたピーターには、もう逆転の目はないのか?
これ、普通は投降する状況だと思う。
武器はなく、仲間はおらず、何か隠し玉があるわけでもない状態で体調も士気も装備もほぼ万全の大量の敵に包囲されているような絶望的な状況。
ここから一体、何が出来るというのか。
……だが狡猾なピーターには、まだ手が残されているのではないかと思う。
それは今にも処刑されようとしているソンジュとムジカだ。
彼らを助ける代わりに見逃せ……? いや、エマたち全員に投降しろと要求してくるかもしれない。
ソンジュとムジカはイザベラたちにとってはそこまで重要ではない。しかしソンジュとムジカに命を救われた経験を持つエマたちにとっては、決して見捨てることが出来ない存在となっている。
単に感情的な問題からソンジュとムジカを救いたいというだけではなく、その後の鬼の社会の統治に必要という側面もありそうだ。
ノーマンたちやイザベラたちからすれば、ピーターの要求を蹴ることができると思う。
しかしエマたちには無理だろう。そんな無情な決断が出来るとは思えない。
それにピーターの執念を侮ってはいけない。いよいよ負けるとなれば、食用児であるエマたちがこの後の生きることを良しとせず、道連れを選択するかもしれない。
ピーターにとっては食用児は家畜あるいは道具でしかなく、創造主である自分よりも優位な立場にあることなど決して許せないはずだ。
ようやくここまで大ボスであるピーターを追い詰めたわけだが、果たしてここからスムーズにエマたちは勝利することができるのか?
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第170話 共に
裏切りを扇動するイザベラ
エマたちがGFに攻めてくる直前、イザベラはシスターたちを集めていた。
イザベラは2年前の脱走者がここに攻め込んでくること、そしてそのタイミングで自分は農園側を裏切ると明かし、シスターたちに自分と共に決起しないかと問うのだった。
シスターたちに、冗談か何かかと質問されたイザベラは、自分がこの時を1年11カ月待っていたと答える。
農園に従うことこそが自分たちの生きる道であり、前任のグランマ・サラの教えだった。
しかしそんなグランマ・サラがエマたちの脱走の責任を取らされて出荷されていったことを挙げて、農園に従えば生きていけるのは間違いだと指摘するのだった。
その事実をグランマに突きつけられても尚、シスターたちはそれとまともに向き合うことに躊躇していた。
イザベラはシスターたちの脳裏を見透かし、それを否定して見せる。
「『グランマもミスをすれば裁かれる 私達は皆平等で全員にチャンスがある』? 違うわ」
「競って蹴落として頂点に登りつめてさえ私達は家畜にすぎなかったのよ」
シスターたちは生きるため、シスター間で競わされてきた。
生きたい一心で食用児を育て、子供を出荷し続けなくてはいけない狂った環境に自分たちが置かれているという現実を反芻してシスターたちは言葉を失う。
「有るのはチャンスじゃない どこまでも続く生き地獄だと 気づいていたけれど認めたくなかっただけ この服従に未来なんてない」
そして、そんな環境が嫌になったと続ける。
「自由をぶら下げて恐怖を見せつけて 反吐が出る うんざりよ!!」
エマたちの脱走後、イザベラはピーターに言われるままにグランマの役目を引き受ける。
しかしそれは、いずれ戻ってくるエマたちの力になること見据えてのことだった。
「私はもう誰にも囚われない」
イザベラは銃を持ち、シスターたちに呼びかける。
その両隣にはイザベラと共に決起したシスターが立っている。
「あなた達は? どうする?」
イザベラは、密告は止めないし、無理強いもしないし、ただ静観していても良いと続ける。
「でももし私とともに立ち上がるなら…とびっきり面白いもの見せてあげる」
その言葉でシスターたちは覚悟を決めるのだった。
そして今、イザベラとシスターたちは各自で銃を構え、エマたちによるピーターの包囲に加わるのだった。
「ママ」
ピーターはイザベラたちの裏切りに唖然とするばかりだった。
「ママ…」
エマはイザベラに近寄っていく。
(”ママ”とまだ呼んでくれるのね…まだ あなたもラニやイベット達も……こんな私を…)
イザベラはエマに返事することなく、ピーターに銃を向ける。
裏切ったなイザベラ!! と叫ぶピーター。
「そうよ見れば解るでしょ? 私もこの娘達も全職員あなたの敵よ」
あっさりと返すイザベラ。
「ママが…味方?」
「シスター達まで…なんで……」
ギルダもドンも、思わぬ展開にただただ戸惑っていた。
イザベラはピーターを真っ直ぐ見据えたままだった。
しかしエマたちの言葉をしっかりと聞いていた。
そして内心でまだエマたちが何も知らない頃に戻れたらと考える。
(ごめんね おかえり 会いたかったわ よくやった! すごいわ!)
(そう言って思いきり抱きしめることができたなら…でも)
勘違いしないで、と言いながらイザベラはエマに振り向く。
「たまたま利害が一致しただけよ ここでの生活にいい加減うんざりしていたの あの坊やの描く未来も気に入らなかった やり方やご高説もね」
「貴様…!!」
ピーターは憎しみに満ちた目でイザベラを睨む。
(この食用児め…!!)
「だからブッ潰してやろうと思った 全部」
イザベラはようやくエマに振り向く。
「ブッ壊してやろうと思ったのよ」
イザベラは自分がかつてエマたちに行った仕打ちを許せなかった。
エマたちから”ママ”などと呼ばれる資格はないと思っていた。
しかしそんなイザベラの思惑とは裏腹に、エマの目には銃を構えたイザベラやシスターたちが自分たちと同じ食用児に見えていた。
イザベラの隣まで歩を進め、ピーターに銃を向ける。
「ありがとうママ」
食用児たちはエマに合わせるように銃を構える。
「ど…どいつもこいつも僕に楯突いて…わかってんだろうな!!」
ピーターの言葉に誰一人として心は揺らいでいなかった。
(僕が…負ける? 食用児なんかに…)
「あーーーーーー」
ピーターは突如発狂したかのように声を上げたかと思うと、シスターの銃を強奪して駆けだす。
「伏せろ!!」
オリバーが叫ぶ。
ピーターは銃を乱射してシスターの包囲を破る。
そして、何かこの事態を打開する手はないかと考えながら逃げるのだった。
第170話 共に感想
ここまで追いつめながら……
逃げられたのはピーターの執念が勝ったからだと評すべきなのか……。
それ以上に、勝利を確信していたであろうエマたちやイザベラたちに油断が生じていなかったとは決して言えないと思う。
数で勝っているとどうしても無意識に他のメンバーに頼ろうとする意識が働く。
ピーターが包囲を破ったきっかけはシスターから銃を奪ったことだった。
ピーターの手や足とは言わずとも、背中にでも一発撃ち込んでやれば逃げられることはなかったと思う。でも結局、誰も撃てなかったんだよな……。
下手に撃ったら味方に当たると誰もが思ったのかな?
いや……GFを無事に逃げ出すにはピーターを生かして人質にとるべきだとその場の誰もが考えていたからなのか……。
せっかく勝利がほぼ確定していたのにこの感じだともうひと悶着ありそうだ。
面従腹背のイザベラ
イザベラは約2年前からピーターを裏切るその時を待っていた。
まだ鬼が健在だったエマたちが侵入した直後しばらくはエマたちを助けるわけにはいかなかったのかな。
イザベラたちがエマたちの元にやって来たタイミングは、結果的にはピーターに最もショックを与えるものだった。狙っていたのかな? それともただ単純にシステムが落ちたことによりエマたちの元に向かう道が閉ざされていたとか?
イザベラはたとえ命を落とすとしてもエマたちが来たらピーターに牙を剥く覚悟があった。
しかしシスターたちはエマたちがやってくる直前にイザベラに扇動されて決起したんだよな……。
2年前にピーターを裏切る覚悟を決めていたイザベラと違って、直前までピーターや鬼たちに従うことこそが生きることだと思っていたシスターたちにとって、それがどれだけ勇気がいることだったことか……。
次回から、エマたちはシスターたちと協力してピーターを一緒に共に追いかける展開になる。
しかし心強い味方を得ても尚、ピーターが何かとんでもないことをやってきそうな予感がする……。
話の流れ次第ではイザベラが命を落としそうな気がするんだよなぁ……。なんだか怖い。
以上、約束のネバーランド第170話のネタバレを含む感想と考察でした。
第171話はこちらです。
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