第58話 判断
第57話のおさらい
自ら拘束を解き、食堂にやってきたシェルターの”先輩”を笑顔で招き入れるエマ。
エマはシェルターの共有とミネルヴァ探しの協力、案内と用心棒を引き受けてくれるように”先輩”と交渉を始める。
堂々とした態度で柔らかく話すエマの要求を、”先輩”は終始冷たくあしらい跳ね除け続ける。
エマの真っ直ぐな頼みに全く耳を貸さず冷たい態度を貫き続ける”先輩”は、ついにナイフを取り出してエマに突きつける。
凶器を出した”先輩”に、エマの背後にいたレイがピストルの銃口を向ける。
しかし事前に弾丸を抜いたピストルは”先輩”に返し、代わりに昨日発見して修理していた「緊急破壊装置」を見せつける。
これまで全く表情を変えなかった”先輩”の表情が歪む。
”先輩”にとってシェルターがとても大切な施設だという弱点を突き、エマは、殺されるくらいなら壊すと狂気で対抗するのだった。
様々な想いを巡らす”先輩”の脳裏にはエマとレイがミネルヴァ探しに地上に出る事を「一興」だという考えもあった。
エマの狂気に屈した”先輩”はついに、案内のみ、用心棒はやらないという条件でエマの要求を受け入れるのだった。
”先輩”が名乗らず、”先輩”もまたエマを「触覚チビ」と呼び、互いに名前を呼び合うことすらないが、ひとまず緊張状態は解除される。
馴れ合いをするつもりもない、と食堂を去る”先輩”の背中にエマはよろしく名無しの”オジサン”と声をかけるのだった。
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“オジサン”から命名されるエマ達。
エマは”触覚”。
レイは”片目寝不足”。
ドンは”豆ノッポ”。
ギルダは”カタブツ丸眼鏡”。
ラニオンは”カレーの具”。
トーマは”ピザの具”。
ナットは”鼻”。
酷く、雑なニックネームだと落ち込むラニオンとトーマ。
あの”オジサン”は頑なに名前を覚えない、と二人を慰めるギルダ。
お前は何で満足気なんだよ、とレイが、一人何故か胸を張るナットに問いかける。
「鼻! 美しい鼻筋の俺!」
腕を組んで天を仰ぐように胸を張るナット。
”オジサン”は頑ななまでに自分たちの名前を覚えないし、そして名前も教えてくれない、とエマ。
レイは、自分たちと関わらずに他人でいたいのだろう、と答える。
アンナは”おもり”。
アリシアは”けだま”。
マルクは”クッキー”。
イベットは”ボサボサ”。
※扉絵より。
頑なに子供達と関わろうとしない”オジサン”
「リピート」
「アフター」
「ミー」
小さな子供達を前に復唱を促す”オジサン”。
ドミニク、イベット、ロッシー、アシリア、クリスティ、マルク、ジェミマが一列に並び、笑顔で”オジサン”を見上げている。
「部屋を荒らすな」
『へやをあらすな』
子供達が”オジサン”の言った後に繰り返していく。
「視界に入るな」
『しかいにはいるな』
「そもそもうろつくな」
『そもそもうろつくな』
「物を使ったら元の場所へ」
『もとの場所へ』
ニコ、と満面の笑みを浮かべる”オジサン”。
「破ったら死ね」
アリシアが持っていたティーカップをひょいと持ち上げる。
”オジサン”は、ぐわー、と叫びながら止めようとする。
アリシアにその行動をとらせていたのはレイだった。
帰って来たアシリア達から報告を受けたレイはアリシアにとらせた実験的行動からシェルターを破壊するスイッチのみならず、シェルター内にあるあらゆる物が”オジサン”を脅す為の道具になり得ることを確信する。
アリシアを撫でるレイに、なに危険な実験をさせてんの、と怒るギルダ。
ギルダはレイに撫でられてはしゃいでいるアシリアも一喝する。
アリシアは、大丈夫、もうやらない、とにっこりと笑う。
「だってどれもそれだけオジサンの大切な物なんでしょ」
言うこともきいてるよ、と続けるアリシア。
探検できないのはつまんないけど、とクリスティ。
「消えろ」と言われ、変なアダ名をつけられたけど、とマルク。
「名前何度もきいたら怒られちゃった」
笑って話すイベットの言葉に他の子供達も笑う。
もう近寄っちゃいけません!! とギルダが一人、必死になって呼びかける。
子供達が駆けまわって遊んでいる。
その様子を背中越しに窺う”オジサン”。
4人会議
とにかく”オッサン”をミネルヴァ探しの旅に引き込めた、とエマ、ドン、ギルダに切り出すレイ。
エマ達が実行しなくてはならない、やむなくGF農園に残してきた4歳以下の子供達の「救出」。
そして彼らを加えた全員ではキャパが追いつかないため、シェルターに身をひそめるわけにもいかないので人間の世界に向けての「脱出」。
レイは、これらを4歳児が出荷可能になる6歳になるまでの2年の間に全て完了させなければならないと目標を確認する。
そもそもミネルヴァに会えるかどうかも読めないため、時間は無いとレイは続ける。
不安げなドンとギルダ。
レイは全く平気な顔で本をパラパラめくる。
「経験者を使わねぇ手はない いや目的のために絶対に必要だ」
エマは、人間が13年間外で生き延びた方法を間近で学ぶチャンスだとギルダ達に笑顔を向ける。
いずれにせよ”オッサン”の同行は必要なステップだとして、それをクリアできたことをよかったとするレイ。
ギルダは、”オジサン”はエマ達がミネルヴァに会えるまで協力する約束を果たして素直に履行するのかと口にして不安げな表情を浮かべる。
ギルダはエマにナイフを突きつけた”オジサン”の冷たい表情を思い浮かべ、”隙を見て殺そうとしてくる”という線はあり得るんじゃないかとレイに詰め寄る。
「だろうな」
レイは当然のことのように即答する。
”オッサン”がそういう考えに至るのは当然で、外で痛い目を見せてやることも考えているかもしれない、と本をパラパラめくるレイ。
ドンは、そんな…、と言って、絶句する。
「それでいい」
レイは不安いっぱいのドンとギルダに道を示す。
今はそうして強引に首を縦に振らせることでしか”オッサン”を動かす術はないと言うレイ。
レイは”オッサン”の本音、何を考えて、何で動く、どのような人間なのかが分からないと言い、これからエマとレイ、そして”オジサン”の旅は肚の探り合い、互いに状況を利用し合う一筋縄ではいかないものだと結論付ける。
エマは、脅すのではなく協力し合えたら良かったんけど、と本当の協力関係になれなかったことを惜しむが、レイは、問答無用で銃を向けてきたのはあっただぞ、とにべもない。
加えて”オジサン”はエマとレイに対して出発を四日後だと勝手に定めていた。
三日で資料室の資料に全て目を通し、旅の準備をして、四日後、目的地であるA08-63を目指すというタイムスケジュールになるのだった。
出発まであと1日
”オジサン”がPoachersと壁に大きく書かれた部屋でその文字を前に立ち尽くしている。
エマはその背中に”密猟者”って何? と話しかける。
”オジサン”は壁を見たままエマに、視界に入るな、そもそもうろつくな、と返す。
エマは両手を挙げて、視界には入ってない、と答え、出発の前に聞いておきたいと前置きする。
”密猟者”とは何か?
”オジサン”はどこまで行けたのか?
A08-63には着いたのか?
なぜ探すのをやめたのか?
そもそも、どうして全滅してしまったのか?
「言いたくない」
”オジサン”は壁を見上げたままエマを拒絶する。
「全部秘密だ」
本当に聞きたい情報なのにはぐらかされて弱った様子のエマ。
「お前達はいい家族だ」
エマは”オジサン”の予想外な一言に驚く。
「いい家族だから嫌いだ」
目障りだ気持ち悪い、今すぐ消えてほしいと続ける”オジサン”。
”オジサン”はエマに、お前にわかるか? と前置きし、一つの判断で全てが狂うことや自身の理想や判断が仲間を殺してしまう恐怖、と問いかける。
エマが啖呵をきって見せた「全員で生きる人間の世界で」という判断は果たして正しいのか?
エマの隣を歩いて入り口に向かう”オジサン”。
そして、同じくエマの言った「ムダじゃない 全部ムダになんてしない」という言葉もまた正しいのか?。
「楽しみだね」
扉に手をかけて”オジサン”がエマを振り向く。
「この旅の先になお同じことが言えるかな」
エマは何も言葉を返せず、緊張した面持ちで”オジサン”を見つめる。
”オジサン”はエマに、ついて来い、と言い、”寝不足”も呼べ、と続ける。
ピアノの仕掛けの先にあったのは?
エマとレイは”オジサン”の後をついて食堂にやって来た。
”オジサン”はピアノの椅子に土足のまま乗り、ピアノの上部の蓋を開ける。
そして手に持った傘の尖った先を突っ込み、ガチャガチャと探っている。
え、と呆気にとられた様子で声を合わせるエマとレイ。
傘の先が何かを捉える。
するとピアノの右隣に秘密の通路が開く。
「出発前の最後の準備だ」
エマとレイに通路を指差してみせる”オジサン”。
梯子を下りる”オジサン”。
その先にあったのは、ありとあらゆる銃器、や刃物、果ては重火器までもが豊富に揃った武器庫だった。
周囲を見回し、ただただ呆気にとられているエマ。
レイは平静を取り戻して先行する”オジサン”を見つめている。
「さぁ地獄のミネルヴァ探しへ行こうじゃねぇの」
感想
これまで生き残って来れたんだからさすがに何かしら武器はあるだろう、と思ってはいたけど、予想外に重武装が揃っている……という印象を受けた。
ピストル、ショットガンは分かる。しかしバズーカ砲(笑)。
確かにこのくらいの火力が無いと鬼に対抗することは出来ないのかもしれない。
あと、機動隊が使うような盾もある。
こらまたとんでもない武器庫だ。
これらの武器までもミネルヴァは用意してくれていたんだ。
ますますどんな人物かが気になるなぁ。
斧とかもあるし、何だかこの武器のラインナップ見てたらゲームのSaGaっぽくてワクワクした。
さながら”オジサン”はSaGa2の”せんせい”的なNPCかな? ゲームの中では”せんせい”はスライムだけど(笑)。
強さ的には”ふくめん”か”ローニン”あたりだと心強いんだけど……。
SaGaはミサイルとか核爆弾とかも装備出来たからもっとぶっ飛んでるけど、エマたちのような子供がロケットランチャーとかも十分ぶっとんでる。
ただ、現実的に扱えるのは拳銃か? いや、もう11歳なんだから実際持って行くのはショットガンくらいまでいけそうか?
バズーカ砲は旅で持ち歩くには嵩張り過ぎる。でも切り札として一つはあった方が良いのか?
”オジサン”はエマとレイに対して「命は懸けないし護衛はしない」と言っている。
あくまで自分の身を守るためだけの装備をするんだろうか。
だとすれば重火器は無し?
ただ、旅の途中、必ずエマとレイは窮地に陥るだろうけど、”オジサン”は助けると思う。
なんだか”オジサン”という人間の本性が少しだけ垣間見えたような気がしたからだ。
いい家族。でも目障り。
このツンデレ→ツン発言(笑)。
かつて自分の周りにいた仲間を思い出したんだろうと伺わせる。
かつて自分が一緒に脱走してきた掛けがえの無い仲間を、ある自分の一つの判断の誤りによって失った。
おそらく”オジサン”はエマたちの希望に満ちた表情を見る度に、そのあまりにも辛い記憶を刺激してくるからエマたちとの関わり合いを過剰なまでに避けたのではないだろうか。
歪んではいるけど腐ってはいない。
今のところ”オジサン”に抱いている印象はこんなところ。
これがどう変化していくかが楽しみだったりする。
”オジサン”が子供達と遊んでる姿が見たいんだよな~。ほっこりしたい。
次回、いよいよA08-63に向けて出発となるのか。それとも銃の扱いの練習?
以上、約束のネバーランド第58話のネタバレを含む感想でした。
次回59話に続きます。
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