第101話 おいで
第100話のおさらい
エマ達が脱走してから2か月後のGFでは、残されたフィル達は4つの飼育場にバラバラに分けられ、新しいママと仲間の元で日々を過ごしていた。
ある日、フィルのいる施設の上級生で仲の良かったサイモンが里子に出されることが決まり、子供たちは笑い、あるいは泣きながらも出所を祝う。
しかし、実際里子などに出されず、この直後に”収穫”されてしまうという残酷な運命を知っているフィルは、知っているにも関わらず他の子供たちを守れなくなることを恐れてサイモンにそれを告げることが出来ないことを苦しんでいた。
翌朝、食堂で朝食を楽しそうに食べる子供たちの中、フィルだけが全く手を動かすことなく黙りこくっていた。
そんなフィルの様子を見て、心配して優しく声をかけるヘレン。
新しいママは、その様子を観察していた。
(負けるもんか! 僕がみんなを守るんだ)
フィルはエマ達が自分達を迎えに来てくれると信じていたが、もしエマ達が来れないなら自分が皆を伴って逆に会いに行くと強い決意を固めていた。
心配そうにしているヘレンに、否定の意思を示すフィル。
「元気だよ」
そう言って、フィルは満面の笑顔でフォークに刺したおかずを口元に運ぶ。
ある日、フィルのいる施設に来訪者がやってくる。
特別なお客さん、とママに紹介された、そのスーツ姿の人物は自らをアンドリューと名乗る。
アンドリューは開口一番、フィルに名前を問いかける。
いきなりの問いかけに思わず固まるフィル。しかしすぐに自身の名前をアンドリューに向けて答える。
フィルだけではなく、その周りの子供たちも皆一様にアンドリューの迫力に押されるかのように表情を強張らせていた。
「フィル」
フィルの目の前にしゃがみ、目線を合わせるアンドリュー。
「君と話がしたい」
エマ達はペン型端末で座標を確認しながら森の中を行く。
ヴァイオレットの、何か聞こえる、という呟きを聞き、ドンは地図通りなら川があると答える。
古文書の地図と資料室の地図を全て暗記したというドンを始めとした4人のGF組にザックは驚く。
しかしレイは、それらの情報は古いのであくまで参考に過ぎないと付け加える。
「地形はともかく鬼の集落は地図通りだと思わない方がいい」
そしてレイは今後の対鬼の方針を述べる。
まずは鬼の痕跡を観察し、それを回避。とにかく鬼に遭わないことを第一に考える。
そして、鬼を回避することに努めた上で、それでも遭遇してしまった場合、見つかる前に身を隠す。
さらに、それでも見つかったら最終的には仲間を呼ばれる前に片付ける。
鬼に見つかり、エマは樹上から飛び降りながら矢を放つ。
それらの矢は野良鬼の弱点である目に悉くヒットしていく。
その後も一行はペン型端末で位置情報を確認しつつ、先へ進んでいく。
そして、ついに”D528-143”に到着する。
「着いた…! ここがクヴィティダラ?」
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第101話 おいで
遺跡
エマ達がシェルターを出てD528-143へ到着したのは52日後のことだった。
その座標には石で組まれた遺跡の様なモニュメントがある。
その中にある広場に立つ一行。
レイは古文書の一節を諳んじてみせる。
クヴィティダラには竜がいてその目は何でも見通せる
皆がその目を欲しがってクヴィティダラに押し寄せる
クヴィティダラは竜の町
本当に竜がいるのかな、と不安げなドン。
ギルダが何かの喩えだと答えるが、すぐに、実際鬼もいたし、いるかもしれないと続ける。
しかしエマ達の目の前の光景には竜も町も無く、ただ朽ち果てた遺跡があるのみだった。
クヴィティダラの竜の目で昼と夜を探すべし
この一節を思い出す一行。
竜の目が何なのか、遺跡にヒントを見出そうとしていた。
皆がこの遺跡が何なのか、竜の目が何なのかを考えている中、エマは一人、石柱の内の一つの壁に掘り込まれた矢印を見つける。
その矢印の先にある石柱に近づき、壁にじっと目を凝らすと何かに気付き、壁の土埃を手で払うエマ。
すると、その壁に縦に掘り込まれた目の様な形の文様を発見する。
それと同時に、エマは空を飛ぶ大きな竜の様な生き物を目の当たりにするのだった。
竜の頭部には縦に切れ込んだ目がある。
エマは驚いた様子で、いつの間にかそれと目を合わせてその場に留まっていた。
子鬼
エマの脳裏に様々なイメージが流れ込んでくる。
遺跡の中央で祈りを捧げる鬼たち。
鬼と握手を交わす人間。
荒野を逃げ惑う人間たちが全滅する。
鬼が食用児の入ったシリンダーを管理しているところに人間が手を伸ばす。
鬼と握手を交わす人間らしき後ろ姿。その背後で飛ぶ鳥。
(もしかして)
エマはそれらのイメージを見ながらある仮説に至ろうとしていた。
『かこのこうけいだよ』
何者かから、背後から声をかけられて急いで振り返るエマ。
その視線の先には仮面を被った小型の知性鬼がいる。
『めずらしいね いきたにんげんなんて』
子鬼は両手で光球を弄びながらエマに話しかける。
(子供? 鬼の…? いや……でも)
『いまきみはみているだけ』
エマは無言で子鬼を見返すのみ。
『ちゃんとおいでよ つぎはいりぐちから』
イメージ
エマは辺りの様子がおかしいことに気付く。
夜のように暗い海のような地平に対し、空は明るい。
(ここ”昼と夜”……?)
『ここはなにもないけどなんでもある』
『いりぐちはどこにもないけど どこにでもあるから』
「ねぇ あなたもしかして…!」
エマが子鬼に向かっていき手を伸ばす。
『そしたら あそぼ』
子鬼がエマに向かって手をかざすとエマは一瞬で吹っ飛ばされる。
エマは宙を飛びながら、”昼と夜”の世界にある六角形の壁に四方を囲まれた中にある建物や、黄金の水の上に浮く岩を視界に捉えていた。
そこでエマの意識は急速に現実に引き戻されていく。
「おいエマ!!」
「エマ!!」
エマに向かって必死で呼びかけるレイたち。
エマは遺跡の地面に両膝を落とし、呆然と空を見上げていた。
「しっかりしろ!!」
ヴァイオレットがエマの頬に平手を食らわせる。
それで漸くエマは意識を取り戻すのだった。
「見た!?」
開口一番、ヴァイオレットとギルダに向かってエマが訊ねる。
二人はそれが何の事なのか分からなかった。
「竜!!」
遺跡の形
エマ以外のメンバーは、そう叫ぶエマを、ただただ戸惑った様子で見つめる。
皆一様にエマの言った竜の事にピンと来ていない。
その反応にエマは、先ほどのイメージを得たのが自分だけだったことを知る。
夢だったのかと考えようとするが、しかしすぐにそれを否定するエマ。
エマは駆け出すと、石柱の内の一つによじ登っていく。
ギルダは危ないから降りて、と必死でエマを諫めようとする。
石の上に登ったエマは、遺跡を見下ろしていた。
自分が叩いたから変になったのかと狼狽するヴァイオレット。
遺跡を俯瞰したエマは、遺跡が目の形をしている事に気付く。
レイもエマに続いて石柱に登る。
登り切ったところでエマと同様に遺跡を見下ろす。
そこで遺跡が目の形をしているという事実に気付くのだった。
(やっぱり夢なんかじゃない)
エマは先程見たイメージには意味があると確信する。
エマはレイに、自分が竜や昔のクヴィティダラ、昼と夜が一緒になった場所を目撃したことを告げる。
「それから多分だけど○○(表記不可能文字)にも会った」
エマはムジカからもらった目の様な形をしたペンダントを掌に持ち、それをじっと見つめる。
ペンダントを見つめながら、エマは先程自分が見たイメージを思い出し、昔の方が現在の遺跡よりもペンダントの形が似ていると感じていた。
エマは考える。
クヴィティダラには竜がいてその目は何でも見通せる
――この遺跡が”竜の目”であり、かつては何かが見える特別な場所だった。
――今はもうこの遺跡では何も見えなくなっていたにも拘わらず、自分は見ることが出来た。
「これを持っていたから?」
エマは掌のペンダントを見つめる。
ムジカから別れ際にもらった”お守り”は一体何なのか。
そもそもこれを持っていたムジカは何者だったのか。
七つの壁を目指したミネルヴァが辿り着けなかった理由は、既に遺跡が使えなくなっていたからなのか。
次の方針
エマは少なくとも先程見たイメージの中に七つの壁に辿り着く為のヒントがあるという結論に行き着き、他のメンバーに見たもの全てを話すのだった。
マジかよ、とただただ驚くドン。
ザックは、エマが見た”昼と夜”の入口を探せばいいんだな、と次の目標を決める。
「でも…”どこにもないけどどこにでもある入口”って…どうやって…?」
ドンは戸惑いながら疑問を口にする。
全く見当もついていなかったエマは、ただただ黙るのみ。
「一度シェルターに戻ろう」
レイが全員に声をかける。
「なんか寺みたいなのと金色の水…GPの池みたいなやつも見たんだろ?」
レイは”北へ10里 東へ10里”といった伝承の続きの部分の謎解きなども分かるかもしれないから、一度シェルターに戻った上で今度はそこを調べようと今後の方針を定める。
一行はシェルターへの道を戻るのだった。
ここまで、脱獄してから3カ月半を経過していた。
往路で52日間かかったので、シェルターに帰る頃には脱獄してから半年になる。
エマは急ぐ必要を感じていた。
(あと一年半 一年半以内に必ず――)
『おいで』
背後に竜を携えて、子鬼が呟く。
『おいで』
感想
時間制限
シェルターを旅立ってから、何と52日も経っていたのか。遺跡に辿り着くまでに二カ月弱……。
エマたちはD528-143まで遠いとは言っていたけど、まさかそこまでとは……。
七つの壁を越え、鬼の首領に会って約束を結び直すという目的の元に現在エマたちは行動しているわけだけど、まずその七つの壁に辿り着くまでが大変なんだなぁ。
気が遠くなるような計画だと思ったけど、マジでその通りだった。
そもそもミネルヴァですらたどり着けなかったという場所を目指している以上、エマたちも中々見つけられないのは覚悟の上だろう。
時間にリミットがあるのが焦るわ。
確か、そのリミットを過ぎると、GFにいるフィルたちの出荷の危険性が一気に高まってしまうんだっけ。
テストの成績が悪い子から次々と出荷させていってしまうというのは、知っていると恐怖だわ。
果たしてエマたちはリミットまでに目標を達することが出来るのだろうか。
それに、そもそもフィルたちはエマたちの助けがくるまで生きられるのか。
前回、GFに残されたフィルに、ピーターの手下であるアンドリューが対面していたのも気になる。
フィルはいざとなれば自分たちもここから逃げ出すという考えがあるようだけど、それを実行しなければいけない状況ということは相当追い込まれているということだろう。
アンドリューと相対したフィルは一体何を言われたのか。
緊張感のある展開が続く。
イメージ
なるほど。
あの不思議なイメージをエマだけが見ることが出来たのは、エマがムジカからもらったペンダントのおかげだったのか。
そもそも作中で初めて七つの壁という単語が出てきたのはムジカの口からだった。
ソンジュとムジカが再度エマたちと出会う可能性は高いだろう。
それが味方としてなのか、敵としてなのかは謎だけど……。
エマが見たイメージは鬼と人間の関わりの一端という感じ。
人間が握手を交わした映像のあと、人間たちが何かに追われ、おそらく彼らと同一人物であろう無数の人間たちが荒野に倒れている。
これは一体どういうことなんだろう……。
握手をしているということ”は約束”が結ばれた後のことなんだろうけど、その後何かから逃げているのは、ひょっとして鬼に襲われているのではなく、人間に襲われている?
必死に逃げる人間を追いかけているのは、鬼ではなく人間の集団のように見える。
鎧や盾のシルエットが見えるし、これは武装している人間の集団だと思う。
これは約束が結ばれてまだ間もない頃の映像?
まだ鬼と敵対の意思を示す人間たちがいるから、それらの勢力をラートリー家が鎮圧しているとか?
物語の設定として、”約束”を守ろうと鬼と親密な関係を保っているラートリー家と、食用児を見過ごせずラートリー家と対立するミネルヴァとその思想に賛同する”支援者”たちという図式は既に確定している。
”約束”が結ばれた直後は、ラートリー家を中心とした”約束”肯定派と、反対派が対立しており、人間の間で激しい戦いがあってもおかしくないと思う。
果たしてこのイメージの答えを知れるのはいつになるのか。楽しみだ。
そして今回一番インパクトがあったのは子供の鬼だ。
鬼の仮面を被った人間の子供なのかもしれないと思ったけど、でも手の指が4本なので、やはり鬼だと思う。
この鬼はエマに敵対的な意思があるようには見えない。
その立ち位置はソンジュやムジカに近い印象を受ける。
エマはこれが自分たちが会いに行く鬼のリーダーなのではないかと感じていたようだ。
人間と”約束”という名の条約を結ぶということは、それなりに話が通じる人物なのかな。
”約束”を提案したのが人間側なのか、鬼側なのかによって鬼のリーダーの見方が変わるかな。
鬼側から提案されたものであれば、鬼の人間よりも遥かに長い寿命を利用して、少しずつ少しずつ、平和の裏で人間を緩やかに滅ぼしていくという策の一環だという考え方も出来る。
その場合、鬼のリーダーは非常に老獪な、人間の恐ろしい敵だ。
逆に人間側からの提案であれば、食用児の供出という譲歩で鬼がそれを受け入れたということ?
人間との無用の争いは望まないが、他の鬼を制御する為に仕方なく食用児で手を打つという妥協を見せた苦悩のリーダー?
そもそもこの子供が1000年前から一環して鬼のリーダーだとは限らないか。
代替わりにより、ソンジュのように、宗教の戒律として食用児を食べないという考えのリーダーに変わったとか?
ソンジュに関してはあくまで食用児は自然物ではないという宗教の戒律に基づいて人間を食べないだけで、自然に産まれた人間に関しては食べる意思があるっぽいから、鬼は生来人間を食べたがっているものだと思うんだけど……。
ムジカに関してもソンジュと同様なのかはまだ分からない。
この謎が謎を呼ぶ展開がたまらん。
黄金の水
これ、再びゴールディポンドを目指すってことか?
まず、猟場が崩壊した今でもあの黄金の池に辿り着けるのかな……と思った。
あの場所は風車小屋の地下になるのかな?
集落とはそう離れていなかったはずだけど……。
しかしつくづく、エマがルーカスと一緒に目撃したあの黄金の池は不思議だったなあ。
ゴールディポンドという名称はまさにそこからきているであろう、黄金の池の上には小屋が浮遊していた。
エマとルーカスその小屋に向かう為、黄金の池を濡れること覚悟で突っ切ろうとするも、なんと水は二人を避けるように形を変えていく。
とうとう一切濡れることなく二人は小屋に辿り着いた。
ギルダが言った通り、鬼がいる世界である以上、竜がいてもおかしくないし、それと同じで不思議な黄金の水があってもおかしくはないのかもしれない。
あの水には一体どういう力学が働いているのか。
今回、水の上に岩が浮いていたけど、どうやら小屋を浮かせていたのはあの水そのものの力なのかな……。
GPに辿り着いたらその謎が少しは分かるのだろうか。
以上、約束のネバーランド第101話のネタバレを含む感想と考察でした。
第102話に続きます。
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