第145話 それぞれの
目次
第144話 助けてのおさらい
戦い
ギルダたちと再会する少し前のソンジュとムジカ。
ソンジュは自分たちが何者かから追跡を受けていることに気づいていた。
そしてその何者かを誘き寄せるために、2人は3日前から、わざと痕跡を残すようにしていた。
しかしその痕跡に気づいているはずなのに、追跡者が接近してこないことを不思議に感じながらも様子を見つつ、追手であれば普段のように返り討ちにしようとしていたのだった。
ソンジュは一瞬でジンの背後に回りこんでいた。
槍をその首元につきつけて退けば許すとジンを揺さぶる。
周りの何人かの兵がいっぺんに意識を失い倒れていく光景に、ジンとハヤトは驚愕していた。
殺してはいない、少し眠ってもらっただけ、と当たり前のように言うムジカ。
ソンジュはジンの背後に回る一瞬のうちに、兵の気を失わせていたのだった。
そのうえで、ソンジュはもう一度、ジンに退くように要求する。
ジンは圧倒的な窮地に立たされていた。
それにも関わらず、ジンの、自分たちの任務に全食用児の未来がかかっているという信念は揺らがない。
ジンは死ぬ覚悟でソンジュの槍を手で掴み、ソンジュの動きを止めると、兵たちに自分ごと殺すよう命じる。
「(気をつけろ!! そいつらはラムダのイレギュラーだ!!)」
アイシェがソンジュとムジカに向けて鬼語で叫ぶ。
四方を武装した兵に囲まれるソンジュ。
兵のパンチが樹木を倒すパワーがあることにソンジュは内心で感心していた。
「殺せ!!!」
ジンが叫ぶ。
「ムジカに傷の一つでもつけてみろ お前ら全員肉団子にしてやる」
発作
兵はソンジュの脅しに一切動じることなく、彼に向かって駆けていく。
しかし兵の一人が悲鳴を上げると、他の兵も手に持っていた鉈を落として頭を抱え、その場に倒れていく。
全兵が倒れてしまったのをきょとんとした様子で見つめるソンジュ。
それはラムダで受けた実験による発作だった。
なぜこんなに早く、と呆然とするハヤト。
ムジカは苦しむ兵の一人に駆け寄り、彼らが息をしていないことを確認するとギルダに荷物の中から薬草袋を探すように指示する。
そしてドンや、ムジカに兵に近づかない様に注意しにやってきたソンジュにも治療を手伝うよう要請するのだった。
急がなければ手遅れになる、と兵を助けることに消極的なソンジュを説き伏せるムジカ。
ハヤトはムジカが兵を助けようとしているのを見て、それはラムダの発作なので、薬を飲ませなければならないと、ジンに降参を促す。
ノーマンの嘘
ソンジュはジン、ハヤト、兵たちの拘束を完了していた。
ドンとギルダは、ムジカから説明を求められ、これまでの流れを説明する。
必死で話している内、ギルダはノーマンがソンジュとムジカを殺す気だったことに気づく。
アイシェがノーマンの用意したソンジュとムジカを殺すための刺客ではなかったとドンとギルダが知った夜、安堵するドンとギルダにアイシェは必ず他の刺客がいると二人に忠告していたのだった。
ドンとギルダはソンジュとムジカを味方にするため、保護して欲しいと送り出されていた。
しかしそれは全て嘘で、ノーマンには鬼は絶滅の対象でしかなく、首領と”約束”を結びにいったエマを待つつもりもなかったことを悟ったギルダは涙を流していた。
そして自分がソンジュとムジカを殺そうとしたノーマンの妹で、頼めた義理ではないがこのままでは戦争が起きて取り返しがつかない事態になってしまうとソンジュとムジカに助けを求めるのだった。
帰還
エマは既に楽園に帰還していた。
レイから、現在はレイが戻って来て3時間後であることや、その他、状況報告を受け、”約束”が結べたのかを問われる。
エマは笑顔でそれを肯定すると、子供たちに人間の世界に行けると告げる。
歓声を上げる子供たち。
レイは気がかりだった”ごほうび”についてエマに問いかける。
「それも大丈夫だったよ 後で話すね!」
明るく答えるエマ。
それは後で聞くとレイ。
トーマとラニオンが見つけたある情報により、ノーマンが王や貴族だけではなく、王都にいる鬼全てを殺すつもりだというとが判明したため、自分たちもノーマンたちと同様に楽園を今すぐ出ることにしたのだった。
一方、ムジカはギルダの願いを聞き入れ、自分とソンジュも王都へ向かうことを承諾していた。
ソンジュとムジカはずっと王たちに追われていたのでは、と慌てるギルダ。
しかしムジカは落ち着いた様子でソンジュに王都に行きの方針を伝えて、ギルダに言葉を返す。
「私も戦争を止めたい それに何より私達 友達でしょ」
「……まぁ確かにここで王都も悪くねぇ」
あっさりとムジカの方針を承諾するソンジュ。
エマとレイと同様、ドン、ギルダ、アイシェ、そしてソンジュとムジカも王都を目指すのだった。
第144話 助けての振り返り感想
気になる”ごほうび”
エマがスルッと帰還していた(笑)。
どうやら首領からの”ごほうび”の要求に応えて、”約束”を結びなおすことに成功したらしい。
しかしまだ”ごほうび”の内容はわからず。
それは、ストーリーが進むにつれて明らかになっていくようだ。
エマの表情を見る限り、それはエマ個人で処理できる内容だったと思われる。
もし家族に塁が及ぶようなら、恐らくはもっと深刻な雰囲気だろう。
ただその内容はユリウスよろしく、本人にとって苛烈で受け入れがたいものであった可能性は高い。
しかしエマなら全食用児のため、鬼のために自らを犠牲にすることを厭わない覚悟だっただろう。
自分の命を要求されるくらいの覚悟で首領に”約束”を求めたはずだ。
家族が被害を受けるような内容ではないなら、迷わず要求を呑むことは想像に難くない。
とはいえ、仮に家族に何らかの負担を強いるものであっても求められた”ごほうび”は決して断ってはいけないんだけど……。
何か、”ごほうび”の内容を自分に限定できる知恵があったことを期待したい。
もし”ごほうび”を履行するのがエマ本人だけか、それとも家族にも被害が及ぶものかを首領の心一つに任せるような単なる運試しにしていなかったなら、ぜひそのカラクリを知りたい。
少なくとも自分にはその想像がつかない。
仲間入り
エマたち停戦派にソンジュとムジカという心強い仲間が加わった。
まずソンジュは以前もエマたちの追手の鬼との戦いの描写があったけど、改めて超強いと思ったわ。
とにかくスピードがとんでもない。
ジンの背後に回りこむ一瞬のうちに、その周囲のラムダイレギュラーの気を失わせるとは……。
個人的にはザジが本領発揮したら割とソンジュと戦えそうな気がするが、現時点ではエマやノーマンたちを含めた食用児側では随一の実力と思われる。
しかし王都には、もっと強い鬼がいてもおかしくない。
そもそも、王都に集まっている鬼の数が多過ぎるからソンジュ一人による正面からの力技で、何とかできてしまうということはありえないだろう。
そして、自分たちを殺しに来た敵にさえ情けをかける優しいムジカ。
そもそもなぜ、彼女は人間を助けようとするのだろうか。
”約束”が結ばれる1000年前から、邪血は人間とこういうスタンスで関わってきたのかな……?
やはり明らかに普通の鬼とは違う。
邪血こそ本来の鬼なのかもしれない。
人間を食べなければ形質を保てない鬼というのは、邪血とは存在自体が異なっている。
物語のキーパーソンであるムジカから、今後、鬼に関する真相が語られるのか。
嘘
ノーマンが自分たちに嘘をついていたことを悟ったギルダが可哀そうだった。
自分たちの想いが届いていなかったことももちろんショックだけど、何より大きかったのは、血は繋がっていないとはいえ、かけがえのない家族であるはずのノーマンが自分たちを騙していたという事実ではないか。
それでもノーマンに怒りをぶつけようとするのではなく、あくまで彼を止めるためにソンジュとムジカに助けを請うギルダが健気すぎる。
事態は着実に戦争へと向かっている。
果たして、本格的な争いに発展しないうちに、両軍に矛を収めてもらうことが可能なのか。
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第145話 それぞれの
王都へ
王都へ向かう前、レイはエマに、自分たちはノーマンが王と貴族を全て殺してしまうのを食い止めなければならないと伝える。
王都の鬼を大虐殺してしまうのは問題外だが、王や貴族といった政治を司る存在が真っ先にいなくなることは講和の道を断たれるということだった。
レイはノーマンが儀祭のタイミングで王・貴族を倒そうとしていると推測していた。
つまりエマたちはそれが実行される前にノーマンを説得する必要があり、一刻も早く王都へ向かわなければならなかった。
王都までの道のりは通常で5日、危険な道を急いで、近道して3日。
自分たちの足なら危険な道を急げば間に合うとレイ。
しかしアンナは、現在11月7日の午後、ティファリまでは実質2日半となり、間に合わないとレイに忠告する。
それにそもそも”七つの壁”から戻って来たばかりのエマとレイが、王都への近道を急ぐ危険を犯すことは体力的にも難しいのではないか、と子供たちの間に不安が広がる。
そこに馬に乗ったオリバーたちがやってくる。
呆然としているエマたちに、オリバーは、後ろに乗るよう促すのだった。
エマとレイは、それぞれ馬を操るオリバーとザックの後ろに乗り、王都までの道を目指していた。
いつの間に乗馬がこなせるようになったのかに驚くエマに、オリバー、ザックと共に馬に乗って随伴していたナイジェルとジリアンが、エマたちが”七つの壁”に言っている間に覚えたと答える。
エマは鬼を救うことに特に反対の意を示していたジリアンまでもが、なぜ自分たちに協力してくれるのかと問いかける。
ジリアンは、仲間に危害を加える鬼は殺すが、ノーマンやエマを助けたいのだと答えるのだった。
ぬかりがない時ほど危ない
王都が一望できる場所で、ノーマンたち進軍していた。
王都を監視する物見からのフクロウの伝令をシスロが読み上げる。
王都軍は偽の地点へ向かっている。
そして五摂家の親族の乗った車両は予定通りにティファリ当日の朝に到着する。
以上の内容に、上々だ、とノーマン。
そしてノーマンはヴィンセントに例のアレについて訊ねる。
完璧だ、間に合ったとだと答えるヴィンセント。
これまでのやりとりから、計画は万事ぬかりなしだとバーバラ。
楽園に残った子供たちは不安を覚えていた。
「けど ぬかりねぇ時ほど危ないんだ」
ヴァイオレットの言葉に、ルーカスが良く言っていたとポーラが続く。
それはユーゴも言っていた言葉だった。
子供たちには、ノーマンが焦っているように見えていたのだった。
アンナはそれに、クリスティを救うための薬を鬼たちから盗もうとした際、自分たちが見つかってしまったことに関係があるのではないかと考えていた。
それだけかな、とサンディ。
「それだけがこんな急いでる理由なのかな」
作戦開始前夜
夜。
ノーマンがバーバラやシスロたちに、薬について確認していた。
きちんと飲んでるのに加えて、予備も持ってるという満点の返答に、それでいい、とノーマン。
「順調な時ほど用心だ あとはよく休め 休息も薬の一つだ」
立ち去ろうとするノーマンに、ありがとな、とシスロが声をかける。
「ここまで連れて来てくれて」
ヴィンセントが、ボスがいたから自分たちが生きてここまで来られた、と続く。
バーバラもまた、こんな体になって、時間もないがボスのおかげで世界を変えられると笑う。
「俺達はここで果てても新しい世界 その先へ ボスや食用児が行ける」
「それが俺達の何よりの願いで希望なんだ」
馬鹿を言うな、とノーマン。
自分たちが無血で勝利すること。
つまり戦死は誰一人許さない、感謝は勝ってから言えとノーマンは続ける。
「僕達は新しい世界をつくる そして全員で見るんだ この目で」
「僕達は自由だ!! 今こそ1000年の苦しみを終わらせるぞ!!」
「オオオオオオオ」
ノーマンの発破に、兵たちの士気が最高潮に達する。
ノーマンは一人外に出て、夜空を見上げていた。
脳裏に浮かんだのはハウスにいたころの、無邪気に笑うエマとレイ。
そして次に思い出したのは、ムジカを殺そうとしている自分に対して反対し、それでも自分に向き合おうとしてくれるエマの姿だった。
「レイ…エマ…」
突如頭を抱えるノーマン。その場にしゃがみこみ、激しく咳き込む。
(ちっ…またか…)
口元を押さえていた手を離すと、そこにはべっとりと血がついていた。
それを寂しさと諦めが同居したような表情で見つめるノーマン。
(ごめんね)
2047年11月10日。
ティファリ当日。
儀祭は粛々と進行していた。
城下町では鬼の大人も子供も無邪気に祭りを楽しんでいる。
閉じていた目を開くノーマン。
「始めよう」
複数ある王都へ至る橋の中の一つが爆破される。
第145話 それぞれのの感想
長期戦より短期戦か?
馬で王都を目指すも、ノーマンたちの作戦開始に間に合わなかった。
理想としては、作戦が始まる前に接触しておきたかっただろう。
いざ戦いが始まってしまえば歯止めが利かない。
戦いは始めるのは簡単だが、終わらせるのは難しい。
ノーマンの作戦は長期戦ではなく短期決戦だろう。
ノーマンたちはギーラン軍と合わせても戦力の大きさは王都軍に遠く及ばない。
そんな相手と戦うなら、敵将を獲りに行く以外に勝利の方法はないだろう。
レイが考えていた通り、ノーマンたちは一気に王たちを殲滅するつもりだろう。
ノーマンが言った”例のアレ”も気になる。何かとんでもない兵器か?
作戦初期に最大の力を入れるとすれば、”例のアレ”が早くも次の話で見られるかもしれない。
覚悟
どうやらラムダの実験体たちは自分たちがまともに生きていくことはできないと薄々感じているようだ。
それもあって、戦死の覚悟で戦うつもりなんだろう。
その結果、他の食用児たちの未来が拓けるなら満足という考え方だと思う。
ノーマンはそんな彼らに、一緒に生き残るんだと発破をかけて、みんなの心を一つにまとめた。
しかしノーマンもまた病気……なのか?
他の実験体たちは吐血していなかったけど……。
ノーマンは自分もまたシスロたちと同様にまともに生きられないと思っているのではないだろうか。
初めにノーマンが無血での勝利を目指すと言っていたのを見て、心強さと同時に脆さもあるのではないかと危惧していた。
つまり、予想外の戦況によって仲間たちが次々と死んでいくような事態になったなら、ノーマンは割と早くメンタル崩壊してしまうのではないかと思っていた。
ヴァイオレットたちが、ぬかりがないと思っている時ほど危ないと言っていたように、ノーマンが策士策に溺れるといった状況になりはしないかと心配だったんだよね……。
でも、ノーマンが吐血し、その後でおそらくエマたちに向けて「ごめんね」と謝った描写から、彼が自らの死を覚悟して戦い抜く覚悟を感じられた。
なんだかんだ、死ぬ覚悟がある奴は強いと思う。
これは、王や貴族を窮地に追いやるかもしれない。
果たしてノーマンたちの作戦とは。
楽しみだ。
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