第73話 決起
目次
第72話のおさらい
エマが黒電話の受話器をとると、電話口の相手はエマやルーカスがここまで探して求めてきた人物であるウィリアム・ミネルヴァを名乗る。
エマは、ミネルヴァを名乗る人物が自分との会話をしていない事に違和感を覚える。
エマとルーカスの目の前にあるエレベーターが以前は人間の世界と行き来が出来た事を告げる。
なぜ今はエレベーターが使用できないのか、ミネルヴァはどこにいるのかを問うエマだったが、ミネルヴァはこの電話が録音であることを告白し、この録音が再生される頃にはエレベーターが動いていないのだと続ける。
そしてエマはミネルヴァの声が音声であることから、先ほどの違和感が間違っていなかった事を確信する。
腹心の裏切りを予期できなかったというミネルヴァの謎だらけの言葉にエマとルーカスは困惑する。
その後もミネルヴァの音声は続く。
A08-63は元々猟場ではなかったことや、「あの子」、「彼ら」といったミネルヴァに不都合を齎していたであろう、エマたちには想像もしえないような何者かの存在を示唆するミネルヴァ。
ミネルヴァは自身の本名をジェイムズ・ラートリー、1000年前に鬼と”約束”を結んだ一族の末裔の35代目当主であると明かす。
その役目を放棄できない、としつつも食用児が生きる為に農園に納める本に細工を施してきたのだという。
そして、「あの子」の画策によりミネルヴァは一族に命を狙われる身となった、というミネルヴァ。
音声を録音している日付を2031年5月20日、この音声が再生される頃には自分の命は無い。
ミネルヴァの言葉に衝撃を受け、絶句するエマ。
しかしミネルヴァは、これは敗北ではないと希望の持てる情報をエマたちに語り出す。
食用児の支援者は自分以外にもいるのに加えて、人間の世界への道もGF農園をはじめとして、GB、GV、GRと4つの高級農園にある。
農園内の人間の世界への道は塞がれることは無いのだという、全く予期しなかった情報に驚くエマとルーカス。
ミネルヴァは、望む未来を叶えなさい、と選択肢を提示する。
1、鬼の世界からの秘密裡に逃亡することを望むならそれを支援する。
2、”約束”を破壊し、鬼との全面戦争に突入する。
3、七つの壁を探す。
エマは、三つ目の選択肢の”七つの壁”がムジカから聞いたキーワードであることを思い出す。
全ての情報はマーヴィンの寝床にあると言うミネルヴァは最後に、労いと今後も続くであろう戦いに向けて激励の言葉を述べて、音声が切れる。
ミネルヴァが味方であったことを喜び安堵するエマとルーカス。
数々の疑問も残しつつも、GF農園など全高級農園内に人間の世界へと道があるという情報を受けて、ルーカスはGPから抜け出した後の見通しが立ったことを喜ぶ。
そして、マーヴィンの寝床=ミネルヴァの冒険小説『ウーゴの冒険記』作中のキツネザルが引き出しの中で好んで眠る場所という暗号に気付いていたエマとルーカスは、迷わずに黒電話の置かれたテーブルの引き出しの前に立つのだった。
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第73話 決起
ピーター・ラートリーが通じていたのは……
2031年9月、白いスーツ姿の若い男が電話をしている。
その内容は”死体の確認”を強く求める極めて不穏なものだった。
男はミネルヴァ――ジェイムズ・ラートリーの弟であり、彼を裏切った張本人、ピーター・ラートリーだった。
35代当主ジェイムズの食用児救済に賛同し、協力してきたピーター。
(ついにあんな場所まで与えようとは)
食用児を鬼の世界から人間の世界へと救出させる事も、GPに造った集落が食用児蜂起の拠点でしかない事もこれまでラートリー家が代々守ってきた”約束”への反逆である。
これまでジェイムズが行ってきた”約束”を阻害しない範囲の救済――せいぜいシェルター建設程度であれば許容していたピーターだったが、それを遥かに超える食用児への支援となった。
そう判断したピーターはジェイムズを裏切る。
さらに、食用児を全て消す方針で動くのだった。
廊下のつきあたりにある扉を開くピーター。
そこにはゴールディ・ポンドを猟場としているバイヨン卿がいる。
人間と鬼が併存する室内で、ピーターはバイヨン卿に話を持ちかけるのだった。
引き出しの中には……
ミネルヴァの録音から、引き出しの中にこの先、求める情報の全てがあると知ったエマは意を決して引き出しを開ける。
中には何も入っていない。
しかしエマはがっかりするどころか、むしろ安堵する。
もし簡単に分かるように無造作に置かれていた場合、ミネルヴァの対抗勢力である”あの子”に撤去されてしまう。
それを恐れてミネルヴァは一見空に見える引き出しに何かを隠したのだと直感し、エマとルーカスは引き出しを机から引き抜いて綿密に調べる。
エマは引き出しを引き抜いた机の奥を探る。すると、そこに一枚の板が挟まっている事に気付く。
板を引き剥がす様にして机の奥から抜くと小さな部品が出て来る。
掌にちょこんと乗るサイズのそれをじっと見つめていたエマは、それがペンの端に装着する部品であると閃く。
どういうわけなのか、と困惑するエマに、ルーカスは見当がついた様子で、とりあえずペンの端を今のモノと取り替えてみることを勧める。
エマが部品を取り換えた瞬間、ペン型端末から情報が中空に大量に投影される。
情報を眺めていたエマは、それらが全て、これまで接した事の無い新しい情報であると理解する。
部品がメモリーだと予想していたルーカスもまた情報に目を奪われている。
人間の世界と鬼の世界の行き来できる”道”についての情報。
”支援者”との連絡のとり方、GPの設計図など、ミネルヴァが言い残したように全ての情報がそこにある。
エマとルーカスはそれぞれ情報の読み取りを開始する。
”七つの壁”について理解するエマ。
それでもありがとう
読んでいない残り一つ情報には『ラムダ7214計画』とタイトルがつけられている。
「西の果てに建設予定…新しい…試験農園…?」
情報の詳細は書かれておらず、困惑するエマとルーカス。
何故わざわざこの情報を残したのかと疑問に思うエマだったが、ルーカスは得た情報の多さと質に喜ぶ。
猟場を出て人間の世界へとみんなで逃げられる、とほっとしたように、噛み締めるように呟くルーカスを、エマはじっと見つめる。
エマはルーカスに、オリバーがエマに言った”人間の集落”が嘘だと指摘する。
オリバーはそれが嘘だと認め、絶望的な状況下に置かれてもなお、生きる希望を持ってもらう為だったと説明する。
しかしルーカスは、ミネルヴァから得た情報により、もう嘘をつく必要が無く、人食いのいない世界へと子供達を連れて行けることを喜ぶ。
それも、ペンを持つエマが来てくれたおかげだとエマに感謝するルーカス。
エマは、オジサンとルーカスが13年頑張ったのと、ミネルヴァが自らの危険を顧みずこれらの情報を残しておいてくれたからだ、とそれを謙虚に否定する。
ルーカスは、それでもありがとう、君に出会えてよかった、とエマに握手を求める。
情報共有
二人は来た道を戻り、風車小屋の元の部屋で仲間たちに得た情報を開示する。
今後の希望が持てる情報の数々に盛り上がる一堂。
ホッとした様子のエマに、どうした? とヴァイオレットが問いかける。
エマは、ルーカスが嘘をついていたことが皆からの反発を特に引き起こさなかった事に安堵していたと告白する。
人間の集落より人間の世界の方が嬉しいのは当然だと答えるヴァイオレット。
エマは、ものすごくサッパリしてるなぁ、とヴァイオレットを見つめる。
嘘をつかれていたことが悔しかった、と言うペペやそれに同意する声もぽつぽつある中、私達みんなルーカスを信じてるから、というポーラの一言を聞き、エマは笑みを浮かべる。
エマは、残してきた家族や、ここに居る仲間たちを誰ひとり失わずに逃げたいとしながらも、その選択では、とそれを暗に否定する。
七つの壁など、掴んだ情報を早くレイに見せたいと強く思うエマ。
22194
レジスタンスのリーダーであるオリバーは、満を持して計画を実行に移すことを宣言する。
ルーカスは、前回の狩りとなる昨日は4人狩られた為、周期が通常通りならば2、3日後に次の狩りが始まるのでそれまでに計画の為の全ての準備を整える、と説明。
ソーニャがエマを人員に加えて作戦を微調整した為、全員を集めての確認を呼びかける。
ふとエマはヴァイオレットに、あの人を呼ばないのか、と問いかける。
アダムは見張りであり、言葉もあまり分からないから後で分かりやすく説明するから良い、と答えるヴァイオレット。
ヴァイオレットから、アダムは基本的に無口で、たまに喋る言葉も同じ数字を繰り返すのみ、と説明を受け、エマは、数字? と不思議そうな表情をする。
ヴァイオレットは、アダムは案外数が好きなのかもしれない、と言いつつ、口癖のように唱えていた数字を思い出そうとする。
「22194 22194… 22194」
少し離れた場所からエマの横顔を凝視するアダムはぶつぶつとノーマンの番号を唱える。
感想
鬼と人間が通じてるのはおかしくない
冒頭、ラートリーがバイヨン卿に持ちかけた話とは何か?
多分、ジェイムズがゴールディポンドに造った集落を食用児を狩る遊び場――猟場にしないか、と言う提案だろう。
ゴールディポンドは鬼が自力で発見して、勝手に猟場へと造り替えたわけではなく、人間側の積極的な関与があって生まれたものだった。
鬼と人間が手を組む。考えてみれば、GF農園でもママは鬼と普通に会話していたっけ……。
つまり、この展開は全然おかしくないんだよね。自分は全然その可能性に気付いてなかったけど(笑)。
我ながら視野狭窄過ぎて泣けてくるわ。
ただ、それだけに個人的に色々と納得がいったカタルシスがあった回だった。
ここらでもう一度、最初から読み直してみるのもいいかもしれない。
ラートリー家とバイヨン卿
1000年前、それまで争っていた人間と鬼の間で”約束”が結ばれ、とりあえずもう人間と鬼とで全面的に争わないという秩序が互いの世界にもたらされたのも、鬼と人間の双方で意思疎通が出来ていたからこそ成し得た事だ。
そうして互いに争うことを止め、秩序を保ったまま1000年もの月日を積み重ねる。
そうすると、人間と鬼とで、ある種の癒着のような関係が発生しても全然おかしくない。
バイヨン卿は鬼の中でも貴族に位置していたはず。
ラートリー家も、少なくとも36代のピーターまで系譜がある由緒正しい家柄だろう。というかむしろ人間の世界で最も偉大とされているかもしれない。
鬼の寿命はおそらく人間よりも遥かに長いだろう。
レウウィス太公の戦いの記憶が1000年前に”約束”が結ばれる前、人間と全面的に争っていた時期のものだとしたらバイヨン卿もまた1000年前以上から存在する事になる。
多分、ラートリー家の初代を知っているんだろうな……。
鬼と人間、互いの利益
猟場がピーターとバイヨン卿の互いの利益の一致によって出来た、言ってみれば食用児の処刑場だということだ。
鬼からしたら”約束”により禁じられている人間狩りを人間側のお墨付きで楽しめる。
ピーターからすれば人間の世界と鬼の世界の秩序を揺るがす不穏分子と成り兼ねない食用児を一掃出来る。
この互いの利益の一致により、これまで連綿と受け継いできた”約束”とそれによって双方にもたらされる秩序を守れるわけだ。
いや、双方、と書いたけど、人間よりも鬼の方が遥かに戦闘能力に長けているのは明らかだし、人間の方が”約束”を重んじているような気もする……。
いやいや、この1000年で人間の世界の科学は進歩し、あらゆる兵器が生まれた。鬼からしたらそれは脅威だろうから、やはり双方が秩序を望んでいる?
少なくとも、食用児にとっては鬼はもちろんの事、人間の世界において鬼と接する機会が最も多いであろうラートリー家からも命を狙われているという事になる。
アダム=ノーマン?
73話はと囚人番号を繰り返す不気味なアダムのコマで終わる。
あれ、これ誰かの番号だっけ、と思って何気なく欄外を見ると、ノーマンの番号というコメントがあってギクッとなった。
そうか、この番号はノーマンだったか……。
他の子供たちは、アダムは番号を繰り返すだけで会話が出来ないのだという。
筋骨隆々の異様な風体の子供がノーマンの番号を繰り返している。
そう考えると、アダムはどことなくノーマンを思わせる髪型をしているし、その顔に浮かぶ血管や異常に盛り上がった筋肉から、ひょっとしたら何かしらの実験をされて猟場に放たれたノーマンではないか、という恐ろしい疑念が一瞬湧き起こった。
首元に番号は無いし、まさか本人ではないだろうけど(笑)。
だって、わざわざ首元の刺青を消すなんてそんな事する意味があるかな?
アダムは試験農園出身?
ただ、筋肉強化の可能性は十分あり得ると思う。
『ラムダ7214計画』の文中にある『試験農園』という不吉な文字が、こちらにどうしてもグロテスクな想像を強いてくる。
バイヨン卿の発案で筋肉強化処置を施した子供を猟場に投入し、レウウィス太公の”強敵との死闘”というニーズに応えようとしているとか?
いや、むしろ食べる為に筋肉という美味な部位を肥大化させるという発想の方が自然か。
これは残酷な話だが、十分あり得ると思う。
人間だって家畜をそう扱っている。
必要であれば肉の肥大化の為に注射もするし、フォアグラなんてわざわざ大量に餌を食わせて肥大化させた肝臓を食う。
恐らく、アダムの左胸上部にある刺青は『試験農園』のモノなんだろうな。
エマ達にあるのは首元の番号だけ。
猟場に送られる子供はGV農園出身であり、GV出身者の食用児は皆、胸元ではあるけど真ん中に横一列に刺青が入っているからアダムはGV出身ではない。
首元の番号を消されて、改造されたノーマンが真相だったらトラウマレベルだけど、『試験農園』出身の子供というのが最も自然だと思う。
ただ、ノーマンの番号を繰り返しているというのが分からない。
ノーマンは試験農場に送られた? そこで改造された子供と協力して逃走したとか?
出荷されたノーマンは最後、一体何を見たのだろう……。今になってまた気になってきた……。
ノーマン生存説はまだ希望を持って語られるべき(笑)。
今のところアダムに関しては情報が無さ過ぎて全く得体が知れない。
最悪、鬼側と通じてる可能性も考慮しておきたいところ。
以上、約束のネバーランド第73話のネタバレを含む感想と考察でした。
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