第175話 新しい世界2
目次
第174話 新しい世界1のおさらい
ピーターの死
首をナイフで切り付けて、その場に倒れていくピーター。
エマたちはそんなピーターを床に仰向けにして、必死で治療しようとする。
薄っすらと目を開けたピーターは、自分を助けようと必死なエマたちの姿をぼんやりと見ていた。
意識が朦朧としているピーターの脳裏では、少年になってエマたちとGFで遊ぶ光景が浮かんでいた。
自分がエマたちと笑いあって、楽しそうにしているにもかかわらず、ピーターはエマたちがつくる新しい世界は自分には眩しすぎるとそれを否定する。
意識を失ったピーターを、鬼の首領が見つめていた。
首領は目を閉じたままのピーターに近づき声をかける。
「おもっていたよりながくたのしめたよ」
そしてピーターの顔に手をかざす。
「1000年間ご苦労様」
ピーターの手が脱力し、床に落ちる。
エマはピーターの体を抱きかかえ、その死を悼んでいた。
(「人間の世界も変わらない やれるものならやってみろ」)
ピーターの言葉を思い出し、立ち上がるエマたち。
「見てて」
エマは、家族で笑って暮らせる生活を手に入れて見せるとピーターに告げ、レイたちと一緒にその場を後にするのだった。
戸惑うイザベラたち
避難していた仲間たちと合流したエマたちは、イザベラたちと相対していた。
イザベラから、この後どうするのかと問われたエマは、一度退く、と即答する。
「2000の王兵もいるしまだやることも残っている」
そしてイザベラを見つめて、ニコと笑う。
「?」
何故エマが笑っているのかわからない様子のイザベラ。
エマはGFに来たらママ達とも話をしなければならないと思っていた、と前置きしてイザベラを笑顔で見上げる。
「人間の世界へ行こう」
エマの言葉にハッとするイザベラ。
「全部終わったら ママ達も」
エマは鬼の首領に自分の望みとして「”食用児全員”で人間の世界へ行きたい」と告げていた。
その際、”全員”には大人達も入ると強く念押ししていたのは、自分たちと同じように食用児であるママたちのことも考えてのことだった。
エマはママ達が嫌でなければ、首領ともそういう内容で”約束”を結んであると説明する。
「全部終わって”約束”を履行したらママもシスター達も他の農園の子供達も大人達も全員一緒に人間の世界へ行こう」
エマの言葉に戸惑うシスター達。
エマたちを出荷しようとしていた自分たちがそのような扱いを受けて良いのか? とおずおずとした態度を見せる。
そんな気配を感じ取ったイザベラが彼女たちの気持ちを代弁するように、私達はここに残る、と切り出す。
「気持ちは感謝するわ でも私達は――」
許し
「ごちゃごちゃうるせー」
ぶっきらぼうに言ったのはレイだった。
「”うんざり”してたんだろ? 悔いがあるなら人間の世界で晴らせよ」
「俺は生きてよかった 生きてこそ償える罪も晴らせる悔いもある」
そして自分たちは誰も恨まないし、恨んでいないと前置きし、イザベラたちに向けて力強く言い放つ。
「だから行こう 大人達も」
そうだ行こう! と子供たちがレイに続く。
ね、ママと笑顔で呟くギルダ。
GF出身者たちはみなイザベラを笑顔で見つめていた。
「ママー」
子供達がイザベラの元に駆け寄っていく。
イザベラは子供たちに対して、”母親”であったはずの自分が行った裏切りを思い起こしていた。
自分に抱き着いてくれている子供達の表情が笑顔ではなく、怯え、震えている様子から、子供たちに負わせてしまった心の傷の深さを実感する。
しかしそんな目にあって、なぜ許せるのかとイザベラ。
(ごめんね)
自分が彼らに対して行ってきた所業を思い、涙する。
(ごめんなさい ずっと ずっと…!)
「ごめんね…ありがとう…みんな…」
イザベラの様子を見て、じゃあ決まりだね、とエマ。
「あと少し やることを全部片づけたら必ずGFに戻ってくる それまではGFもまだ続くし残っているけど…」
それに対し、GFで待つとイザベラ。
まだ自分たちの裏切りは鬼にもラートリー家の部下にもバレていないのでうまくやると続ける。
「GFは任せなさい フィル達のことも鬼達のことも」
暗雲
エマは、全食用児の解放、そして農園を全て無くして食用児のいない世界を作るという目標が手の届くところまできていることを実感していた。
「気をつけてね」
「うん すぐ戻る」
エマはイザベラに力強く返す。
「じゃ いってきます!」
ノーマンはGFを一望できる場所で待機していたシスロに、これから退避する旨を伝えるべく連絡をとっていた。
シスロの班の手筈について確認しようとするノーマンに、シスロはその言葉を遮るように、ボス! と声を上げる。
「万事大丈夫…大丈夫なハズ…だったんだがよ いや…これどういうことなんだ」
シスロは慌てた様子でGFの様子を説明する。
「王兵の動きがおかしい 王兵が…! ことごとく持ち場を離れて外橋の方へ向かっている……!」
「やばいですよ! 援軍だ 攻めてきます!」
慌てるハヤト。
「早く逃げましょう!」
「待って」
タブレットPCのような端末を見ていたシスターがエマたちを呼び止める。
「これを」
『通達 全国民へ王都から伝令――』
「え?」
タブレットPCの画面を見たエマが声を上げる。
第174話 新しい世界1振り返り感想
ピーターの死
ピーター助からず。
はじめはピーター生き残るのか? と思ったけど、やはり致命傷だった。
エマたちは本気でピーターを救いたかったのか……。
これはわかっていたことではあるけど、前回、一緒に生きようとピーターに告げたその言葉は、決してその場の勢いで出た言葉などではなかった。
鬼の首領が死に際のピーターの元に現れてピーターの顔に手をかざしていたけど、これが彼の死を決定づけたのか?
ピーターは、人間の世界も同じだと最期に言い残した。
果たして人間の世界に行ったエマたちが、そんなピーターの呪いにも似た言葉を実感する時が来るのだろうか。
限りなく人間の世界に近づけたけど、まだ行けたわけじゃない。
エマ曰く、やらなければいけないことは残っているのだという。
おそらく、人間の世界へ出発する前にソンジュとムジカに挨拶に行くことかな?
まだ油断できない
エマたちがママと和解を果たした。
この話を最初から読んでいた人にとっては、まさかこのような光景が見られるとは……と、感慨深いものがあったのではないか。
エマたちに許されて、涙を流すママ……。
何もかも上手くいったけど、どうやらママはエマたちが用を済ますまではGFで待機するようだ。
そうなると、まだエマたちと一緒に人間の世界に行けるかどうかわからない。
何しろまだ外には不気味な動きを見せる2000体の王兵がいるし、まだラートリー家の部下はエマたちに敵対している。
エマたちとママが和解したことが彼らに知られたら、ママたちの身も狙われるのではないか。
ラートリー家の当主を倒したところで、まだまだ目的を果たすにはエマたちはもちろん、ママたちも危ない橋を渡る必要がありそうだ。
しかしそれをやり遂げた先にある人間の世界、そしてそこでの鬼の脅威から解放された自由な生活は必死で掴み取る価値があるはず。
ピーターが最期に言い残した、鬼の世界も人間の世界も同じだという言葉は真理ではある。
仮にこの先、それをエマやママたちが実感するようなことが待ち受けていたとしても、食用児という不遇の運命を押し付けられた彼女たちにとっては、まずそれを打破すること自体に大きな価値がある。
この流れのまま全員人間の世界に行って、喜びを分かち合うシーンが見られると良いなと思った。
ここまで来て、もしもママたちがエマたちのために鬼やラートリー家の部下と戦うことになって命を落としたら鬱だわ……。マジで鬱。
王兵が不気味な動きを見せているけど、それがエマたちに脅威を与えるもので、それに気づきエマたちを救おうとしたママたちの命が危なくなる、みたいなことがなければいいのだが……。
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第175話 新しい世界2
レイウィス大公が示した方針
レウウィス大公は現政権の解体、政権幹部の五摂家家臣団と四大農園責任者の逮捕、全ての民に邪血を分けて飢えと退化を根絶すること、そしてにこれを機に全ての農園を廃止することを主張するのだった。
人肉の禁止に民たちは動揺していた。
しかしレウウィス大公は、1000年前に”約束”を結んだ時点で「世界を棲み分け狩り狩らぬ」ことはそもそも決まっていたと答える。
そして、そう決めていたのに鬼が人を食べ続けていたことがそもそもの歪み、そして間違いであり、農園の存在があったために人肉供給量の調整で民の生死を掌握するという支配の構図が生まれるため、農園が不要であると唱えるのだった。
その主張に頭では納得する民たち。
今後は邪血として人肉を食べる必要がない。
しかし人肉は特別だと民たちの間の動揺はなおも続いていた。
しかし、こうやって自分たちが欲しているからこそ、農園を残せば誰かがそれを利用して自分たちを縛ることができてしまう、と民たちの中の一体が呟く。
鬼たちはその言葉に頷きながらも、それでも人肉に未練がある様子を隠し切れていなかった。
「我々も今こそ解放されるのだ」
レウウィス大公が悩み苦しむ民たちに声をかける。
「過ちも悲劇ももう二度と繰り返さない」
民たちは、レウウィス大公の農園廃止宣言に賛同していた。
「新王レウウィス様万歳!!」
レウウィス大公が答える。
「いや 私は王にはならぬよ」
レウウィス大公の言葉に驚く民たち。
そして、ソンジュとムジカも驚いていた。
新しい鬼世界を率いる新しい王
レウウィス大公は、自分が旧時代の体制側の鬼であること、そしてこれまでの女王の支配を見て見ぬふりをしてきた罪もあるためだと自分が王に相応しくない理由を答える。
さらにレウウィス大公の脳裏では、自分も核が二つあったために生き残りはしたが、猟場で人間に核を壊された時点で、これからは人知れぬ里にて死んでいくつもりだったと振り返っていた。
そして今回は、里で女王が死んだことを知ったため、王都に駆け付けていたのだった。
レウウィス大公は、自分は王に相応しくない、新しい世界には新しい王だと言ってムジカに視線を送る。
「私はこのムジカこそ王に相応しいと思う」
それを受けて、ムジカは戸惑っていた。
私もムジカが王に相応しいと思う、と言いながら出てきたのは大僧正だった。
大僧正はムジカが誰よりも民を思い、何度も民を救ってきたことを挙げて、誰よりも王に相応しいと主張する。
「寺院やソンジュもそなたを力を尽くして支えよう」
「王になってはくれまいかムジカ 我らの王に」
それを聞いていた民たちは、ムジカの即位を歓迎し始めていた。
しかしそんな民たちを見ていた大僧正は、それでは何も変わらないと切り出す。
「レグラヴァリマが全て悪い? 旧支配者が全て悪い? 否 その支配を許したは民達ぞ」
「王に任せておんぶにだっこ だからかくも容易に踊らされるのだ つい先程まで『邪血を殺せ』と暴れ狂っておったようにな」
大僧正の鋭い指摘に委縮する民たち。
しかし大僧正は次の瞬間には笑顔を見せていた。
「王だけでなく民も考え動かねば 新しい世界は皆で守りつくり上げるのだ」
その言葉に感じ入る民たち。
そして口々にムジカを支えると言い始める。
民たちの様子を見つめながら、ムジカは本当に鬼世界が変わることを実感していた。
自分に王の役目が務まるのかと不安になるも、ソンジュが笑顔で頷くのを見て、気持ちが高まる。
(私やるわ エマ 皆でつくるのよ 新しい鬼世界を)
この日、ムジカは民たちに囲まれて、大僧正による戴冠式を受けていた。
それを祝う民たちの歓声は、最高潮に達していた。
自由を得た食用児
エマたちはその様子をタブレットPCで見ていた。
ムジカが生きていたことに胸を撫でおろすギルダ。
子供達はムジカが王になることにピンと来ておらず、不思議そうな顔をしていた。
ドンは、邪血が民に遍く配られることで、自分たちの計画通りに鬼たちも滅びなくて済むと笑みを零す。
「いや それどころじゃない」
オリバーが口を開く。
「農園…廃止」
エマも、そしてイザベラママたちも突然の事態に呆然としていた。
「農園が…なくなる…!」
その場にいた誰もが、全食用児の自由を理解していた。
ある者は嬉し泣きし、またある者は夢中で歓声を上げる。
「俺達はもう”食用児”じゃない もう誰にも追われない 自由になったんだ…!」
ドンは涙を流しながらも笑顔だった。
「てことは…」
ラニオンが呟くと同時に、エマは駆けだしていた。
2年前エマたちと共に脱出することなくGFに残されていた子供たちは、鐘が鳴ったので外での遊ぶのをやめてハウスへ帰ろうとしていた。
「フィル」
振り向いたフィルが目にしたのは、笑顔のエマだった。
「え?」
「ただいま! フィル!!」
エマを目にしたフィルの目に涙が溢れる。
第175話 新しい世界2感想
レウウィス大公の農園禁止の指針は、鬼を農園で支配する危険な構造の打破と同時に、エマたち食用児の脅威が取り除かれたことを意味していた。
一時は鬼が絶滅させられてしまうか、エマたちの様な農園から脱走した食用児が全滅することになるかもしれなかったが、双方ともに生き残り、今後は互いに争い合う理由もなくなるという最高の形で決着したと言って良いだろう。
これで一件落着!
……だといいんだけど、でも心配なことはまだある。
それはエマが鬼の首領と新しい”約束”を結ぶにあたり、何を対価としたのかということだ。
エマが結んだ新しい”約束”は食用児を全員人間の世界に行かせて欲しいというものだったと思う。
かつてユリウス・ラートリーは人間と鬼の世界を分ける代わりにラートリー家が代々農園システムを通じて鬼に人肉を提供し続けるという、呪われた役目を課した。
そう考えると、エマはどんな対価を求められたのだろう、と心配せずにいられない。
そういえば鬼の首領は人肉食を禁止されて怒らないのかな?
確かユリウスと”約束”を結ぶ際に、その年の最も良い肉を自分に捧げるようにと命じていたかと思うんだけど……。
まさか”約束”が無効になるなんてことはないよな?
前回死にゆくピーターの前に現れて、1000年間ご苦労様、思ったより長く楽しめた、とピーターというよりラートリー家を労っていた。
それはつまり、もう人肉を捧げなくても良いということなのか。
鬼の首領がラスボスというのも面白いな。
あとは人間の世界に行ったはいいけど、人間の世界に受け入れられないどころか敵視されてエマたちの新しい戦いが始まる、なんてことはいくらなんでもないよな……。
それだとあまりに鬱展開で、ハード過ぎる。ぶっちゃけ読んでみたい(笑)。
果たしてこれからエマはどうなるのか?
次は3週くらい空くみたい。待つのが辛いけど、次の展開を色々と妄想して楽しみにしておきたい。
以上、約束のネバーランド第175話のネタバレを含む感想と考察でした。
第176話に続きます。
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