第174話 新しい世界1
目次
第173話 prisonersのおさらい
真実を知って変わった兄
ピーターは自分たちが鬼との”約束”を守り続けることが、世界を守るための大切な使命であり、そこに何の疑いも持っていなかった。
当主の兄ジェイムズを尊敬し、その片腕となるべく生まれたとさえ思って生きてきたのだった。
ある日、ジェイムズはユリウスが遺していた真実の記録を発見する。
その記録には、”約束”とはユリウスが戦友を裏切って締結されたものであること、食用児の祖先はこれまで自分たちが知らされてきたような人間と鬼の和平に反対した悪党ではなく、ユリウスの戦友や逃げ遅れた民であることが記されていた。
一族の成り立ちの真実を知ったジェイムズは、二世界間で犠牲を強いられている食用児について罪悪感を覚えるようになるのだった。
しかしピーターは真実を知って尚、ラートリー家の使命に感銘を受けていた。
ユリウスは大切な戦友を裏切ってまで世界を救った英雄であり、ラートリー家は崇高な使命を持った一族なのだとジェイムズに訴える。
しかしジェイムズはラートリー家の行いは崇高な使命などではないと否定する。
「これは”罰”だよ そして”呪い”だったんだピーター」
それ以降、ジェイムズは食用児を解放するべく行動を開始する。
ピーターは食用児は世界に必要な犠牲だという考えのまま、ラートリー家の当主となる。
ラートリー家の使命を否定する兄こそが間違っており、止めないといけないと考えた末にかつて戦友を裏切って世界を救ったユリウスのように兄を裏切り者として粛正する方針を示すのだった。
部下がジェイムズを仕留めたという知らせを受け、死体を確認に向かうピーター。
ピーターは横たわっている死体が確かにジェイムズであると確認し、最期の様子を部下に訊ねる。
「笑顔であなたに『すまない』と伝えてくれと」
兄の死体を抱き、泣き叫ぶピーター。
ピーターはどんなに苦しくとも、歪んだ秩序であろうとも、兄の分までラートリー家の使命を全うするのだと誓うのだった。
自覚
「自由になろう」
エマから説得され、ピーターは自分がラートリー家の使命に縛られていることを自覚しつつあった。
しかし同時に、自分がこれまで信じてきた通り、それは崇高な使命であり、ラートリー家は栄誉ある一族なのだと自身に強く言い聞かせる。
(僕は正しい 使命は”罰”じゃない まして”呪い”ではない!!)
(きみもししそんそんこのうんめいのうずのなか)
鬼の首領に言われた言葉を思い出す。
ピーターは、兄を殺してまで世界を守ったことが呪いでありただの罰であったこと、ラートリー家の1000年が無意味であったことを必死で否定する。
(「すまない」)
兄が最期に遺した自分への謝罪を思い出す。
(ごめんねピーター 君に背負わせてしまった)
1000年の苦しみを終わらせよう、とエマはピーターに手を差し伸べる。
ピーターはジェイムズが運命に抗おうとしていたこと、自由になりたかったこと、そしてピーターを自由にさせたかったことを理解し始める。
「一緒に生きよう ピーター・ラートリー」
ピーターは弱々しく笑う。
「殺せばいいのに共に生きようなど…馬鹿共め」
「そんなだから食い物にされるんだお前達は」
そしてピーターは、人間は人間を食わないのに、これまで鬼が食用児にしてきたようなことを昔から繰り返して来ている、鬼など可愛いものだと言って、敗北宣言をするのだった。
「どこへでも行け 好きにしろ お前達の勝ちだ」
だが一つ覚えておけ、と前置きして続ける。
「人間の世界も変わらない なぜなら鬼は人間の鑑だから」
そして『コードSolid』と叔父に告げるよう言って、おもむろに左袖からナイフを取り出す。
「やれるものならやってみろ 見物だ 人間の世界で食用児がどこまでできるのか」
ピーターがナイフを見せる。
驚くエマたち。
「悪いが僕は一緒には行けない 新しい世界とやらは地獄の涯から楽しませてもらうよ」
ピーターが何をしようとしているのか察したエマは急いで彼の元に駆け寄る。
自分の首にナイフを突きつけるピーター。
「さらば」
鮮血が飛ぶ。
「ピーター!!」
第173話 prisoners振り返り感想
食用児に対するスタンスの違い
自害で決着……。
エマの手をとり、共に生きることを選ぶのか、それとも当初の通りエマを殺害しようとするのかの二択だと思っていたら、まさかの第三の選択だった。
潔いと言えば潔い最期なのだろう。
ピーターはジェイムズとは違い、ラートリー家と食用児、そして”約束”の真実について知っても、ジェイムズのようにその役目に全く疑問を抱かなかった。
食用児を犠牲に成り立つ二つの世界の秩序に罪悪感を覚えたのがジェイムズであり、その体制を築き、守ってきたことを誇らしく思うピーター。
二人の認識に違いが生じたのはジェイムズが見つけたユリウスの懺悔の記録を読んでからだった。
それ以前に二人の食用児に対するスタンスが同じだったのは、食用児の祖先が人間と鬼の和平に反対したという大義名分があったからだったようだ。
二つの世界の秩序を守る食用児システムに使用している食用児は、人間と鬼の和平に反対し、最後まで戦うことを主張した人間の祖先であるという嘘。
それは、おそらくはユリウスが吐いた、自分の子孫たちがこの体制を守りやすくするための嘘であり、知恵だったのだろう。
ジェイムズはミネルヴァを名乗り、同じ人間としてあまりにも苛烈な運命を課されている食用児を救うべく行動した。
それに対してピーターは度々エマたちに食用児としての役割を強いてきた。
食用児を人と思うか、家畜と思うかの違いなんだろうな……。
最終的にピーターが自決を選んだのは、エマの言葉をきっかけに兄ジェイムズの想いを理解したからだと思う。
ジェイムズは今際の際にピーターに笑顔で謝罪していた。
その意味を頭の片隅で考えていたからこそ、ピーターはエマの説得によって、ジェイムズと同様に”約束”とはラートリー家の呪縛だったと解釈できたのではないか。
そして、それによりエマはピーターに殺されずに済んだ。
言わば、エマは最後の最後までミネルヴァに助けられていたことになるだろう。
エマ自身がそれを知る時が来るのかどうかはわからないが、彼女がミネルヴァに感謝し続ける事は間違いない。
人間の世界VS鬼の世界再び?
ピーターが最後にエマに伝えたのは、叔父にコードsolidを告げるようにということだった。
おそらく次にラートリー家の当主となるのが叔父なのだろう。
ピーターがあとを託した叔父とは、果たしてどんな人物なのか。
仮にコードsolidが”約束”の体制を解くことを意味する命令だとしたら、それを素直に受け取り実行するのか?
”約束”が崩壊したら、ラートリー家もまた権力、権威を失う。
それを嫌ってエマに反発……などという展開があるのだろうか。
そもそも人間と鬼の世界がそれぞれで分かれていたのは”約束”によるものだった。
鬼の退化問題はソンジュやムジカの邪血によって解決できそうな雰囲気だから、鬼は人間を食べなくても済むので、食用児システム自体はいらなくなると思う。
ただ、鬼から人間を食べたいという欲求自体が消えうせるわけではないっぽいんだよなぁ。
確かソンジュがGFを脱走したばかりのエマたちを食べなかったのは、彼自身が信じる宗教の教義を守っていたためだったはず。
レグラヴァリマや五摂家も邪血の力を得ていたが、人間を食べていた。
つまり人肉は鬼が生きるために必須ではなくなるが、嗜好品としての価値は高いままということになる。
人肉の供給を行ってきた食用児システムが完全になくなってしまうのであれば、いずれ再び二世界観で争いが始まってもおかしくないのではないか。
ひょっとしたらエマが鬼の首領と交わしたという新しい”約束”とは、それをカバーするためのものかもしれない。
一体どういう内容だったのかは想像できないが、エマの性格上、おそらく自分が最も犠牲を引き受けるタイプの”約束”ではないか……。
果たしてこれからエマたちの運命は、鬼の社会は、そして世界の形はどうなっていくのか。
前回第173話の詳細はこちらをクリックしてくださいね。
第174話 新しい世界1
ピーターの死
ナイフで自らの首を斬ったピーターは、その場に崩れ落ちていく。
ピーターに駆け寄るエマたち。
エマたちはピーターを床に寝かせると、治療を開始する。
ピーターはうっすらと目を開けて、その光景を見ていた。
ピーターは、少年になって、同じくらいの年齢のエマたちと一緒に遊ぶ光景を思い浮かべていた。
自分がエマたちと一緒に楽しそうにしている。
しかしピーターは、エマたちがつくる新しい世界は眩しすぎると、自分がそこにいることを拒絶する。
ピーターのそばに鬼の首領が座っていた。
首領はピーターに声をかける。
「おもっていたよりながくたのしめたよ」
ピーターの顔に手をかざす。
「1000年間ご苦労様」
ピーターの手がだらんと脱力して、床を叩く。
エマはピーターを抱き上げ、その死を悼むのだった。
(「人間の世界も変わらない やれるものならやってみろ」)
ピーターの言葉を思い出しエマは立ち上がる。
「見てて」
家族で笑って暮らせる生活を手に入れて見せると心の中でピーターに告げ、レイたちと共にその場を後にするのだった。
エマたちは避難していた仲間たちと合流し、イザベラたちと相対していた。
この後どうするとイザベラに問われたエマは、一度退く、と答える。
「2000の王兵もいるしまだやることも残っている」
「?」
イザベラは、何故エマが笑っているのかわからなかった。
エマはママ達とも話をしなければならないと思っていた、と言ってイザベラを見つめる。
「人間の世界へ行こう」
その言葉にハッとするイザベラ。
「全部終わったら ママ達も」
エマは鬼の首領と「”食用児全員”で人間の世界へ行きたい」という”約束”を結んでいた。
その際、”全員”には大人達も入ると話をきちんと詰めていたのだった。
「全部終わって”約束”を履行したらママもシスター達も他の農園の子供達も大人達も全員一緒に人間の世界へ行こう」
エマの申し出にシスターたちは明らかに戸惑っていた。
かつてエマたちを鬼の食料として出荷しようとしていた自分たちを、そのように扱ってくれるのか、自分たちはそれを素直に受けて良いのか?
そんなシスターたちの気配を感じたイザベラは、私達はここに残る、と返す。
「気持ちは感謝するわ でも私達は――」
ごちゃごちゃうるせー、と切り出したのはレイだった。
「”うんざり”してたんだろ? 悔いがあるなら人間の世界で晴らせよ」
「俺は生きてよかった 生きてこそ償える罪も晴らせる悔いもある」
「もういいんだよ もう誰も恨まない 恨んでない」
「だから行こう 大人達も」
これまで静かにしていた子供たちが、そうだ行こう! とレイに同調し始める。
「ね ママ」
笑顔のギルダ。
イザベラを笑顔で見つめるGF出身者たち。
「ママー」
子供たちがイザベラに抱き着く。
イザベラは子供たちを抱き留めながら、かつて”母親”であったはずの自分が行ってきた裏切り行為を思い出していた。
今、自分に抱き着いている子供達は笑顔ではなかった。
目をぎゅっと閉じ、怯えている。
そして子供たちが震えていることから、負わせてしまった心の傷の深さを実感するのだった。
そんな目にあって、なぜ自分を許せるのか、とイザベラは考えていた。
(ごめんね ごめんなさい ずっと ずっと…!)
涙を流して子供たちに謝罪と感謝を告げる。
「ごめんね…ありがとう…みんな…」
そんなイザベラの様子を受けて、じゃあ決まりだね、とエマ。
「あと少し やることを全部片づけたら必ずGFに戻ってくる それまではGFもまだ続くし残っているけど…」
「待っているわ」
イザベラは自分たちの裏切りはまだ鬼やラートリー家の部下にバレていないはずなので、うまくやると続ける。
「GFは任せなさい フィル達のことも鬼達のことも」
立ち込める暗雲
エマは、全食用児の解放や農園を全て無くし、食用児のいない世界を作るという自身の目標の達成が近いことを実感していた。
「気をつけてね」
すぐ戻ると返すエマ。
「じゃ いってきます!」
ノーマンは外で待機していたシスロに、退避の連絡をとっていた。
シスロは慌てた様子で応答する。
「万事大丈夫…大丈夫なハズ…だったんだがよ いや…これどういうことなんだ」
「王兵の動きがおかしい 王兵が…! ことごとく持ち場を離れて外橋の方へ向かっている……!」
「やばいですよ! 援軍だ 攻めてきます!」
早く逃げましょう! と焦るハヤト。
「待って」
タブレットPC型の端末を見ていたシスターがエマたちを呼び止める。
「これを」
『通達 全国民へ王都から伝令――』
「え?」
エマが声を上げる。
第174話 新しい世界1感想
きちんと和解した。
ラスボスは彼女ではないかとすら思っていたけど、このような結果に落ち着いて良かったと思う。
しかしはじめからこの物語を読んでいる人は、この光景を見ることを想像していただろうか?
エマたちに許され、自らの行いを悔い、そして感謝のあまりに涙を流すママ……。
中々感慨深いものがある。いよいよクライマックスなんだなと思った。
しかしまだ、イザベラたちが人間の世界にエマたちと一緒に行けるかどうかわからない。
イザベラは、用があるからとGFを一時的に去るエマたちに同行することなく、ここに残ると言った。
そしてGFの外で不気味な動きを見せる王兵……。
これは嫌な予感がする。ひょっとしたらエマたちを外に行かせている間、GFを防衛するとか……?
いや、そもそも王兵たちに外を固められてエマたちが外に行けないなら、それをイザベラたちで打ち破ろうと無理をして……、という展開もある。
何にせよ、イザベラたちがこのまま無傷で人間の世界に行けるような気がしない。
何か悲劇が待ってそうな、そんな嫌な予感がする。
果たしてエマたちは、そしてイザベラたちは人間の世界に無事に行けるのか?
以上、約束のネバーランド第174話のネタバレを含む感想と考察でした。
第175話に続きます。
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