第176話 ただいま!
目次
第175話 新しい世界2のおさらい
人肉からの解放
レウウィス大公は民たちを前に、現政権の解体、そして政権の解体に伴い政権の幹部である五摂家家臣団と四大農園責任者は逮捕を宣言する。
そして全ての民に邪血を分けることで飢えと退化を根絶することに加えて、全ての農園廃止を主張するのだった。
人肉が食べられなくなることに動揺する民たちに、レウウィス大公は、そもそも1000年前に結んだ”約束”で「世界を棲み分け狩り狩らぬ」ことは決まっていたことだったと答える。
そう決めていたにもかかわらず人を食べ続けていたことが歪みであり間違いだったのに加えて、農園があったために人肉の供給をコントロールすることで民の生死を掌握するという支配に繋がると、改めて農園の不要を唱えるのだった。
その主張に民たちは頭では納得していた。
邪血になるなら退化もしないので人間を食べなくても良い。しかし他の肉ならばともかく人肉は特別だと動揺は続く。
「けどよ だからこそ農園を残したら人肉は食えてもまた誰か農園を利用して俺達を縛ることができてしまう」
鬼たちはそれに納得しつつも、それでもなお人肉を惜しんでいた。
「我々も今こそ解放されるのだ」
懊悩する民たちにレウウィス大公が声をかける。
「過ちも悲劇ももう二度と繰り返さない」
それに賛同する民たち。
「農園廃止だ!」
「新時代万歳!」
「新王レウウィス様万歳!!」
テンションが最高潮の民たちにレウウィス大公が答える。
「いや 私は王にはならぬよ」
レウウィス大公の言葉に民たちだけではなく、ソンジュとムジカも驚いていた。
新しい王
レウウィス大公はその理由を自分が旧時代の体制側に身を置いていたこと、そして何よりこれまでの女王の支配を見て見ぬふりをしてきた罪もあるためだと答える。
そしてレウウィス大公は脳裏で、自分も女王と同じく核が二つあったために生き残ったが、猟場で人間に核を壊されて負けたため、人知れず里で死んでいくつもりだったと考えていた。
その里で女王の崩御を知り、王都に駆け付けたのだった。
レウウィス大公は、自分は王に相応しくないと言って背後のムジカに視線を送る。
「新しい世界には新しい王だ 私はこのムジカこそ王に相応しいと思う」
唐突な事態にムジカは、なぜ自分が? と戸惑っていた。
そこに、私もムジカが王に相応しいと思う、と言って現れたのは大僧正だった。
大僧正はムジカが誰よりも民を思い何度も民を救ってきたので、誰よりも王に相応しいと続ける。
「寺院やソンジュもそなたを力を尽くして支えよう」
「王になってはくれまいかムジカ 我らの王に」
そのやりとりを聞いていた民たちは、ムジカが王として即位することを口々に歓迎し始めていた。
しかし民たちの様子を見ていた大僧正が、それでは何も変わらないと待ったをかける。
「レグラヴァリマが全て悪い? 旧支配者が全て悪い? 否 その支配を許したは民達ぞ」
「王に任せておんぶにだっこ だからかくも容易に踊らされるのだ つい先程まで『邪血を殺せ』と暴れ狂っておったようにな」
大僧正の鋭い指摘にドキッとする民たち。
大僧正は笑顔で続ける。
「王だけでなく民も考え動かねば 新しい世界は皆で守りつくり上げるのだ」
民たちは大僧正の言葉に感じ入っていた。
そして再びムジカを支えると口々に言い始めるのだった。
そんな民たちを見下ろしながら、ムジカは本当に鬼世界が変わることを実感していた。
自分に王の役目が務まるのかと不安に駆られるが、隣のソンジュが自分を見て笑顔で頷くのを見て、使命に生きる気持ちが強まる。
(私やるわ エマ 皆でつくるのよ 新しい鬼世界を)
大僧正から戴冠するムジカ。
民たちの歓声は最高潮になっていた。
自由
エマたちはその様子をタブレットPCのような端末で見ていた。
ギルダはムジカが生きていたことにほっとしていた。
子供達はムジカが王様になることを不思議がっている。
邪血が民に広くいき渡ることで、計画通り鬼たちも滅びずに済むとドンは笑う。
「いや それどころじゃない」
ずっと黙っていたオリバーが口を開く。
「農園…廃止」
エマも、イザベラママたちも唐突に訪れた事態に呆然としていた。
「農園が…なくなる…!」
その場にいた誰もが、全食用児の自由を確信する。
ある者は嬉し泣きし、ある者は歓声を上げて喜んでいた。
「俺達はもう”食用児”じゃない もう誰にも追われない 自由になったんだ…!」
てことは…、とラニオンが呟いた時には、エマはもう駆けだしていた。
鐘が鳴り、2年前エマたちと一緒に脱出せずにGFに残っていた子供たちは、ハウスへ帰ろうとしていた。
「フィル」
フィルが振り向くと、そこにはエマが立っている。
「え?」
「ただいま! フィル!!」
エマに気付いたフィルの目に、みるみるうちに涙が溜まっていく。
第175話 新しい世界2振り返り感想
”人肉禁止”による解放
レウウィス大公による農園廃止決定!
そしてムジカが王に即位して完全な新体制で鬼の社会が再構築される、と。
これでエマたちはもちろん、鬼たちも自由の身になったことになるわけか。
そもそもなぜ鬼が人肉を食べていたかというと、形質を保つためであり、さらに美味であるという二つの理由からだった。
だから邪血を得て人肉無しで退化を防げるようになったとしても、欲さずにはいらなれなかったわけだ。
鬼が人肉を摂取することに関して、当初自分はそれを人間に例えるなら酒や煙草のような嗜好品に近いのかなと思った。
でも人肉食には鬼が生きていく上で”必須な形質を保つ”というきちんとした理由がある。それならば摂るも摂らないも本人の好み次第という嗜好品よりは、肉や魚を絶つのに近いのだろう。
肉や魚は美味い。そして、それらの食材から摂れる栄養素は人間にとって有益なものだ。しかしその栄養素が他の食材でカバーできないかと言えば必ずしもそんなことはない。
肉や魚を一切食べないで下さいと言われたら自分はとても困る。それは生きていく上での栄養が不足する危惧からというよりは、それらの食材がもう味わえなくなることに対しての残念さが先行する。
今回、これから邪血を得て人肉無しでも形質を保てるようになる鬼たちが人肉を絶つことを決めた時の覚悟もそれに近いと思う。
人肉が食べられないのは残念だが、今後はそれなしでも生きていくことが出来る。
その解放感の方が勝っている感じはする。
鬼たちは邪血を得ることで、人肉を食べなければ死ぬという恐怖から解放される。
そして人肉食の文化を完全に鬼の社会から無くすことで、もう人肉を使った人民の支配は起こらない。
農園システム構築に協力していたラートリー家の呪われた役目もこれで終わりということになる。
今後のラートリー家は、食用児を鬼に捧げることなく、ただ鬼世界と人間世界とで互いに世界を分けるという”約束”を守り続けることになる?
農園がなくなったから”約束”破棄とはならないようだし、めでたしめでたしだと思う。
鬼の首領との”約束”
前回、そして今回で色々と一挙に解決した感がある。
いよいよクライマックスが近いのを感じるなぁ。
ただ気がかりなのは直近ではGFの周囲にいた王兵の動き。
そして何より、エマが鬼の首領との新しい”約束”の対価として、一体何を差し出したのかだ。
鬼の首領は決して甘くない。
初代ラートリーは自らの命を差し出しても良いと覚悟していたにもかかわらず、実際は”約束”の管理者、言わば死ぬよりも辛い”呪われた役割”を要求された。
それを考えれば、鬼の首領は約束を結びにやって来た本人が価値があると思って差し出そうとしたものではなく、本人にとって本当に大切なものを見抜き、それをピンポイントで要求してくる。
エマにとって何より大事なものは仲間だ。
鬼の首領はそれに関係した何かを要求していると思う。
だがそれは、仲間の命を奪うとか差し出せということではない。
おそらくエマは、食用児が人間の社会に行ける代わりに仲間に会えなくなるのではないか。
例えば鬼の社会に残り何らかの役割に従事するとか、そういった条件を鬼の首領から提示され、それを呑んだのではないかと自分は予想している。
エマはそうすることが適切な時だと判断すれば、仲間のためにいくらでも自分を犠牲に出来てしまう強さと優しさ、そして覚悟を兼ね備えている。
その気になればいつでも自分を犠牲に他者を救う姿勢がある。
だからこそ戦闘技術に長けた年上の男の子たちにもリーダーとして認められ、グループを統率出来ているのだと思う。
まだラートリー家との戦いは決着していないが、鬼との戦いはほぼ終わった。
少なくとも鬼の政府や人民はエマたちの敵ではない。
果たしてこれから食用児たちは、そしてエマは無事に人間の世界に行けるのか。
楽しみ。次の話まで間が空き過ぎでつらい……。
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第176話 ただいま!
再会に沸くGF農園
再会したフィルとエマが互いに駆け寄り抱き合う。
遅れてやってきたギルダたちに気付くフィル。
フィルはドンに抱き着いてから、意外な人物が立ってこちらを見ていることに気付く。
「ノーマン…!!?」
フィルはノーマンから弟妹を守った事に対して礼を言われるが、自分には守れなかった兄姉もいたと罪悪感に駆られていた。。
しかしそんなフィルの心を理解し、そっとその頭を撫でたのはレイだった。
「辛かったろ ごめんな ありがとうな もう大丈夫 大丈夫だからな」
安心したフィルは、大声を上げてレイに抱き着く。
仲間たちは二人を囲んで、優しい眼差しを向けていた。
エマたちの存在に気付き始めるフィル以外のGFの子供たち。
「シェリー」
「えっウソ…エマ!!? 皆…」
エマがにこやかに手を振る様子に、シェリーは目を輝かせる。
「ノーマン」
(どういうこと…?)
シスターはこの異常事態に困惑していた。
「これは一体…」
シスターはイザベラに問いかける。
GFの子供たちも、イザベラに驚いていた。
「私達はもう自由」
ママはシスターに農園廃止を告げる。
「これからはもう ただ普通に愛せるのよ」
シスターはイザベラの胸に顔を埋めて泣く。
身を挺して
レウウィスの命を受けた鬼たちが、農園を管理している鬼を拘束していく。
抵抗の意思を見せる鬼だったが、レウウィス大公に逆らうのかと問われ、たちまちおとなしくなっていく。
エマはGF、GB、GV、GRなどの農園が全て廃止される感慨に浸っていた。
その脳裏ではGFから脱出すべく動いていた頃の自分たちを思い出す。
エマは家族を守ることを無茶な理想だと思っていた。
しかしだからと言って、それを諦めることを良しとしていなかった。
くじけそうになったが、仲間のおかげでここまで来れたとエマ。
すぐそばに、ユウゴやルーカス、犠牲になった仲間たちの姿を感じていた。
これで人間の世界に行けるのかとフィルに問われ、エマは肯定する。
(全農園の全食用児 子供も大人もみんなで やっと…! 遂に…!! 人間の世界へ!!)
騒いでいた子供たちのすぐ背後に鬼が立っていた。
鬼に気付き、子供たちが逃げていく。
すぐに鬼に攻撃しようとするエマ。
しかし、銃は離れたところに下ろしてあることに気付く。
「私の農園 私の人肉だ」
鬼は必死で逃げる子供たちを襲おうとしていた。
エマは、そんな鬼から子供を助けようと、丸腰で飛び込んでいく。
レイは慌てて銃を構える。
(「間に合え!!」)
鬼に向かって銃弾を放つ。
エマは逃げ遅れた子供の体に覆いかぶさり守っていた。
エマは自分たちが無事であることに気付き、顔を上げる。
目の前には鬼の爪で胸を貫かれたイザベラの姿があった。
驚愕してイザベラの胸を貫く爪から滴る血を見つめるエマ。
「…ママ?」
第176話 ただいま!感想
気の緩み
目標達成を前にして油断した。
イザベラのこんな死に方辛いなぁ。
せっかくエマたちと和解したのに……。
イザベラはもう助からないだろう。
刀のような爪が三本も胸を貫いている。
これも運命か……。悲しい。
イザベラは、エマたちに行ってきた仕打ちはひどいものだったという罪悪感を抱いている。
そんな大きな罪悪感はもちろんだが、イザベラはにとって、エマたちは大切な存在だったわけだ。
わが身を賭してエマを守れたことは、彼女にとっては罪滅ぼしになったかもしれない。
イザベラの行為はエマたちの心に確かな母親の存在を刻みつけた。
次号はイザベラとの別れか……。
以上、約束のネバーランド第176話のネタバレを含む感想と考察でした。
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