第139話 鬼探し2
目次
第138話 鬼探し1のおさらい
実験
ヴィンセントがビーカーを満たす液体にスポイトで別の液体を垂らして混ぜている。
できたのか、と問うシスロ。
ヴィンセントは肯定し、これ以上ないというくらいにノーマンへの賛辞を述べる。
「……」
シスロはそれに同意するどころか、一瞬ノーマンのことを思い出してからヴィンセントに再び問いかける。
「なあ…これでいいんだよな いや…何でもねぇ 忘れてくれ」
そしてドンとギルダが探しに行った邪血の少女について話題が移る。
見つかるかな、というシスロに、ボスはギーランさえ見つけ出したから見つかる、とヴィンセント。
ヴィンセントは一つ目のネズミにピンセットで挟んだ何かを与えている。
「殺せるかな」
「殺すさ それもただボスを信じればいい」
何かを食べたネズミの肉体に変化が起こっていた。
肉体が爆発的に膨張したのを見て、成功だ、とヴィンセントが口元を歪める。
「すべてはボスの計画通り 王都も邪血も何も心配いらないんだ」
捜索
ノーマンからもらったマップを頼りに、ドンたちはアイシェが使役する3匹の犬を先頭にソンジュとムジカの捜索を行っていた。
ドンたちは本来鬼がいないはずの裏ルートを歩いていた。
しかしハヤトがそこで足跡を発見する。
しかしギルダは足跡の大きさや見つからないように隠した痕跡がないこと、さらに4足歩行に見えることから、小型の野良鬼ではないかと解析する。
犬が焚火の痕跡を発見する。
そこにしゃがみこみ調べたドンが何かを拾い上げる。
「これ人間の骨だ…ソンジュ達じゃない…」
震えあがるギルダとハヤト。
ハヤトは目を輝かせて、ドンとギルダの豊富な知識をほめたたえる。
ドンとギルダはそれを否定する。
二人は、すごいのは自分達では見逃してしまうような、どんな細かい手がかりも見つけるアイシェとあの犬たちだと感服していたのだった。
アイシェは3匹の犬にエサを与えながら、自分も一緒に食事を摂っている。
3匹の犬を見事に使役しながら、さらに銃の名手なのかというギルダの質問に、仲間内でも随一だとハヤトが答える。
アイシェはノーマンたちに救出されて以来、銃の腕を伸ばし続けて、遠くの小さな的であっても100発100中なのだとハヤトは太鼓判を押すのだった。
(ユウゴかよ…!)
ドンとギルダはユウゴの銃の腕を思い出していた。
ハヤトは、アイシェが五感に優れているのだと彼女の才能を解説する。
何かに気づいたアイシェ。ナイフをドンに向けて投げる。
木の上からドンの首元に忍び寄っていた毒蜘蛛にナイフが命中する。
「あのっ… ありがとう!」
アイシェはドンの言葉に特に答えることなく、プイとそっぽを向くのだった。
「完璧な同伴者ね」
それは”探索”や”護衛”のみならず、”刺客”、そして”監視”としてもだった。
ドンとギルダの背後から常に犬が目を光らせている。
(隙がない… 犬とアイシェに常に見られている)
「守れるかしら……」
この状況に、ギルダはソンジュとムジカを守れるのか不安になっていた。
弱気なギルダの呟きに対して、どう守るかだろ、とドン。
ギルダは、ごめん、と言って自分の頬を軽く張り、気合を入れる。
「何考えてんのか互いに晒して話ができたらな」
ドンは犬としか話さず、さらに人間の言葉がわからないというアイシェとのコミュニケーションを図ろうと考えていた。
人の言葉がわからないからといって諦めたくない、とドンは意を決し、アイシェと犬に真正面からフレンドリーに話しかける。
しかし結果は、3匹の犬に追い掛け回されて見事に失敗するのだった。
切り立った崖を登り、夜になって森の中で寝袋で休むドンとギルダ。
明日こそ、とアイシェとの意思疎通を諦めないドンに、ギルダも、うん、と同意する。
アイシェは起きて、犬と一緒にドンたちを守っていた。
翌日も捜索を続けるドンたち。
今度見つけた足跡も、野良鬼のものだった。
ギルダはその足跡のつき方から、付近に巣があると判断する。
「このまま進むと町に出ちまう 元来た道に戻ろうぜ」
ドンの提案にギルダが頷く。
突如吠え出す犬たち。
その様子に、アイシェが何かを感じ取る。
どうした? とすぐさまドンがアイシェに問いかける。
「………」
アイシェは相変わらず、ドンを一瞥すらしない。
「しかしアレですね」
ハヤトがのんびりとした口調でドンたちに話しかける。
「鬼から逃げなきゃいけないのに鬼を捜すって大変ですね」
木に擬態していた野良鬼がハヤトの頭を食べようと大口を開けている。
しかし突然の事態に対して、アイシェは平静だった。
素早く銃を構えて戦闘態勢に入る。
ドンとギルダの慌てようを見て、ハヤトはようやく自分の置かれた事態に気づく。
後ろを振り向いて悲鳴を上げるハヤト。
ドンの投石が見事に野良鬼の頭にヒットする。
呆然とするアイシェ。
ドンは指笛を吹いて野良鬼の気をひきつける。
「今よ!」
野良鬼がドンを追跡し始めたのを見て、ギルダが号令をかける。
ギルダ、ハヤト、アイシェはドンとは反対方向への逃走に成功するのだった。
その後、何とかドンはギルダたちと合流していた。
地面に跪き、肩で息をするドン、ギルダ、ハヤト。
ハヤトは涙ながらにドンに礼を言うと、なぜ野良鬼を殺さずに、危ない目にあってまで気を引き付けて逃げる選択にでたのかとドンの身を案ずるあまり泣きながら問う。
相手が一匹だけで逃げられる地形だから、銃声を出さないため、貴重な銃弾を浪費しないため、人間の痕跡を残さない方が良い、とドンは理由をいくつも上げる。
それに対して、じゃあ弓で殺せばいい、というハヤトにドンが笑いながら答える。
「まぁ殺さずに済むならそれが一番いいかなって」
不意打ち
夜。
ハヤトが薪を収集に出かけたのを見計らって、ギルダがドンに話しかける。
「ねぇドン 昼間のアレ気づいた? あの足跡…似てた そっくりだった…!」
ギルダは足跡の中に、ソンジュとムジカと一緒にいた、馬のような生き物のものらしき形を見つけていた。
アイシェはドンたちとは離れた場所で犬たちと寝転がっている。
こんなに早く手がかりが? と焦るドンに、まだわからない、とギルダ。
「でもどうする これがマジでムジカ達だったら――」
(じき出会う……)
ギルダはどうしたらムジカたちを殺させないか、自分たちがすべきことに思考を巡らせる。
「そう…ドン だから――」
ドンとギルダはいつの間にか接近してきた何者かを見上げる。
「なるほどあんた達…」
アイシェはしゃがんで、固まっている二人に冷たい視線を向ける。
「邪血を逃がすつもりか」
第138話 鬼探し1の振り返り感想
まさかの事態
アイシェは人語を理解していた。ドンとギルダにとってはまさかの事態だ。
そしてノーマンからしたら狙い通りだったのだろう。
アイシェが鬼の言葉しかわからないという設定は、素直に読み取ればドンとギルダ監視のためにノーマンがあらかじめ仕込んでいた策だったと思われる。
しかしもう一つ個人的にもっと気になっているのが、アイシェの演技が上手かったこともそうだが、彼女が人語をわかっていることをハヤトが知っていたかどうかだ。
もしハヤトが楽園を出発する前からアイシェが人語を理解していることを知った上で、ドンやギルダが尻尾を出すのを待っていたとしたらとんでもない奴だと思う。
無邪気に、何もわからない風を装っていたり、さらにはドンに命を救われて感謝の涙を流していたのに……。
もしハヤトもグルだったら、ドンとギルダを欺くそのスキルの高さが怖い……。個人的にはアイシェ以上の衝撃だわ。
楽園を出る前にアイシェをドンとギルダに紹介したハヤトの様子から、彼はアイシェが人語を理解しているのを知らなかったと思うんだけどな……。
でももしそうだとしたら、アイシェが人の言葉を話せることをこれまでハヤトはもちろん、おそらく他の楽園のメンバーもノーマンからひた隠しにされてきたことになるのではないか?
そっちの方が不自然というか、大変な気がする……。
今回、ドンとギルダの監視のためにノーマンがアイシェが人語をわからない設定をでっち上げて、ハヤトにもその設定に沿う行動や態度をとらせていたという方が現実的だと思う。
もし今回のような事態に備えてアイシェのことでハヤトを始めとした楽園のメンバーまでも欺いていたとしたら、ノーマンがすごい。
アイシェを楽園のメンバーの輪の中に入れてやろうとせず、今回のような事態に使うために人語が分からない設定の人材を準備しておいたとか先を見通しているにも程がある。
ノーマンとおそらく4人の側近くらいはアイシェが人間の言葉を話せると知っているだろう。
その上で、他の楽園のメンバーはアイシェが鬼の言葉しか話せないと思っているかどうかが気になった。
救助された時点では鬼の言葉しかわからなかったから、楽園のメンバーにとってのアイシェはそういう認識。
だけどその後、ノーマンによる指導で急ピッチで人語を覚えたとか? いやありえないか。
アイシェの言葉の流暢さから、明らかに使い慣れている感じがする。
とりあえず、ドンとギルダの思惑がバレてしまったことに変わりはない。
果たして彼らはソンジュとムジカを救えるのか。
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第139話 鬼探し2
アイシェの過去
ドンとギルダは、いつの間にかそばにいたアイシェに会話を聞かれていたことに気づく。
ドンはアイシェにソンジュとムジカを救おうとしていることを知られたかどうかを気にしていた。
しかしギルダは、まず気にするのはそこではないと考え、アイシェに問いかける。
「どうして あなた…言葉が解るの? アイシェ」
昔、ある鬼が農園の職員として働いていた。
その鬼は、顔の右半分が醜く歪んで以来、それを理由に他の鬼から差別を受ける日々を過ごす内に、彼は自分の顔の醜さを一種の呪いとまで捉えてるようになっていた。
ある日、彼はベルトコンベアに乗ってくる食用児の赤子を選別していると、顔の右目周辺に醜い痣がある個体を発見する。
顔の右側が醜く歪んでいる鬼は、その赤子に自分を重ねていた。
そして気づくと、その赤子を救い出して自宅に連れ帰っていたのだった。
鬼は農園の所有物を窃盗したことを激しく後悔していた。
食べることで証拠隠滅することを考えるが、しかし鬼は思いとどまり、人間の赤子を育てることにするのだった。
以前から町から離れていたところに住んでいた鬼は赤子の飼育を決めて間もなく農園の仕事を辞めていた。
そして町から更に遠く離れた森の奥深くへと隠れ住むようになる。
鬼の、自分とは違う種族の赤子を育てる悪戦苦闘の日々の中が続く。
アイシェと名付けられた人間の赤子が成長していくとともに、鬼はいつしか自身の呪いのことも忘れて幸せな日々を過ごすのだった。
しかしある日、鬼は外の様子がおかしいことに気づき、アイシェに隠れているように言って確認のために外に出たところをノーマンとその4人の側近の手により殺されてしまう。
鬼の言いつけを守って隠れていたアイシェの元にやってきたのはシスロだった。
シスロは自分たちが殺した鬼がまさか目の前で泣いている彼女の唯一無二の親だったなどとは気付きもせず、彼女を保護しようとするのだった。
「(許さない よくも…)」
アイシェは涙を流し、憎しみを込めた視線でシスロを睨みつけていた。
鬼の言語で目の前の男を呪う。
「(殺してやる 殺してやる!!)」
安堵
(どうして)
アイシェはギルダが自分に問いかけた言葉が、一体どういう意味なのかと追求する。
「私が言葉が解ること? それともそれを黙っていたこと?」
”嫌い”だから、と端的に答えるアイシェ。
アイシェにとって自分を育ててくれた鬼は人肉を食べていようがまぎれもない父だった。
そんな父を無情にも殺害したノーマンたちは仇でしかなかった。
本来は口もききたくないが、今を生き抜くために無知を装って従っているとアイシェはドンたちに説明するのだった。
「あんた達は?」
一言も発さずにアイシェの話を聞いていたドンとギルダに彼女が問いかける。
アイシェはドンとギルダがなぜノーマンたちをはじめ人間が敵視する邪血を殺さず、逃がしたいのか、彼らとの違いを問う。
その質問に対してドンは正直に、違うというほど違わない、と答えると、鬼に対する憎みや恐怖はあるものの、ソンジュとムジカは自分たちの窮地を救ってくれた恩人であり、友達だと続ける。
そしてドンは、悪い鬼ばかりではないから争いたくない、というエマの言葉を紹介し、自分たちも出来ることなら鬼を絶滅させたくないからそのためにソンジュとムジカを探していると答えるのだった。
ギルダは、もしアイシェがノーマンから命令を受けた護衛であり刺客ということならば、なんとか自分とドンがソンジュとムジカを守らなければならないと考えていたと本人に告げる。
「なあアイシェ… ノーマンは… ボスはアイシェにムジカ達を殺す命令を――」
それに対し、知らない、そんな命令は受けていない、とアイシェ。
「むしろ私はあんた達が――」
それを聞いて、よかった~!! とドンとギルダは大げさに安堵する。
それは、ノーマンがアイシェを同行させたのはソンジュとムジカへの刺客としてではなく、純粋に自分たちを保護するためだということ、そしてソンジュとムジカを問答無用で殺害するようなことはしないと考え直してくれていたとドンとギルダは涙を流す。
その光景を前にして、アイシェは唖然としていた。
ドンとギルダはアイシェの反応を気にすることなく、アイシェが刺客ではなかったことにも安堵した様子で手を取りあって泣くのだった。
(ドンとギルダ…)
アイシェは泣いている二人をじっと見つめる。
ギルダはふと、仮に自分たちがソンジュとムジカを楽園に連れ帰っても、すぐにノーマンが殺す可能性に思い当たる。
それに対して、しばらくは安全だろ、と答えるドン。
少なくとも交渉の余地は残してくれているようなので、問答無用で殺すような無情なやりかたではないと前向きな答えをギルダに返して笑顔を浮かべる。
「よかった…! これで安心してムジカ達を捜せる…!!」
その頃、一人ドンたちから離れてきたハヤトは、ジンが率いる大勢の兵隊たちと合流し、本日の成果を報告していた。
ジンに、今日も手がかりはなしか、と問われたハヤトはそれを肯定する。
だがじき見つかる、とジン。
「邪血は見つけ次第俺達で殺す 全てはボスの命令通りに!!」
第139話 鬼探し2の感想
泣いた
アイシェにこんな悲しい過去が……。
彼女を育てていたのは鬼だが、ある意味、ハウスで育てられた食用児たちよりも親代わりの存在からより純粋な愛情を受けとっていたと言えるのかもしれない。
ハウスの場合は親の役目はママだった。ママにも複雑な想いはあっただろうが、最終的にはいつも手塩にかけて育ててきた子供を出荷していたわけだし……。
今も森の奥でひっそりと二人で暮らせていればどれだけよかったか……。
しかし見事に前回の予想を裏切られた。
刺客はアイシェではなく、ジンと彼が率いる兵隊だったようだ。
アイシェが楽園で一切人間の言葉を話さなかったのは、ノーマンたちと口をききたくなかったかららしい。
鬼の言葉しか喋れない自分を演じていたのはドンやギルダの監視業務をする上での設定というわけではなかった。
アイシェは純粋にドンとギルダの身を守るためにノーマンがつけた護衛だったのか……。全く予想してなかった。
今回の話は鬼に対するイメージをかなり変えるものだった。
本来食べる対象でしかない食用児の顔に自分と似た醜さを見出し、救いたいという衝動に任せて行動してしまう。
人肉を食べることを除けば、これほど人間くさい存在もないだろう。
鬼の中にはこんな奴がいたから、人間側の代表者は1000年前に”約束”を結んだのか。
鬼が全く話が通じない奴らだったら少なくとも戦える力がある限りは鬼との全面戦争が継続していてもおかしくない。
アイシェと異なり、ノーマンに心酔するハヤトとジンがソンジュとムジカを守るための障害になる。
すぐ近くには暗殺部隊が隠れているこの状況下で、ドンたちはソンジュとムジカを守り切ることができるのだろうか。
以上、約束のネバーランド 第139話のネタバレを含む感想と考察でした。
第140話に続きます。
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