第181話 運命の向こう岸
目次
第180話 きみのすべてのおさらい
代償の真相
鬼の首領はエマに代償として家族を求めていた。
家族を食べたいということかと問うエマ。
首領は家族も含めた食用児全員を人間の世界に連れていくが、しかしエマは家族と別れるのだと答える。
雪原に倒れているエマを救い、自宅に連れ帰ったのは髭を蓄えた老人だった。
老人は目を覚ましたエマにどこから来たのか、何故あのようなところにいたのかと問いかけるが、エマは何も答えられなかった。
エマは鬼の首領に家族の記憶を奪われ、二度と会えないことを代償として提案され、それを了承していたのだった。
老人は、自分からの質問に何も答えられず、呆然とするばかりのエマの持ち物を確認する。
しかし身元が分かるものはなく、荷物の中に銃があることを不審に思うばかりだった。
老人に世話になって1カ月経っても、エマは何も思い出せなかった。
しかし夢の中に現れた人たちが笑顔で「エマ」という名で自分を呼ぶ。
エマはそれが自分の名だと認識できなかったが、彼らから温かさを感じていた。
手を伸ばすが、彼らは消えてしまい、そこで目を覚ます。
エマは同じ夢を何度も見ていた。
起きたエマは家の中に老人の姿が見当たらないため、外に出て探し始める。
前向きに生きるエマ
近くの倒壊した教会らしきところに老人は立っていた。
その前には無数の墓標——木で作った十字架が立っている。
老人はそれらの墓は、戦争で死んでしまった自分の家族であり、自分がここに住んでいるのは彼らと一緒にいるためだと説明する。
老人から、家族がいたら会いたいかと問われ、エマは何も覚えていないから分からないと答える。
そして、何故か自分が持っているペンダントを見ていると心に引っかかるのに加えて、目を覚ますと忘れてしまうにも関わらず、夢で見た知らない人たちにあたたかさや恋しさを感じ、理由も分からずに涙が出るのだとエマは涙を流す。
老人は泣いているエマの肩にそっと手を乗せるのだった。
エマは失った記憶は戻らないとはっきりと感じていた。
しかしそれを受け入れ、新しい名前で前向きに生きるようになり、夢も見なくなっていた。
ある日、老人とエマは賑わっている街に来ていた。
老人は買い物を済ませ次第帰るのではぐれないようにとエマに言い聞かせる。
笑顔で老人の後に着いていくエマ。
そのすぐ近くに、レイたちがエマを探しに来ていた。
第180話 きみのすべて振り返り感想
奪われた記憶
エマは代償として、これまで自分が生きてきた記憶、そして家族たちとの記憶を奪われていた。
家族たちのことを思い出せないということは、つまり家族を奪われたも同然だわな。
もっと言えば、エマのすべてを奪われたことと同じだ。
エマにとって最も大切なものを根こそぎ奪っていくあたり、やはり鬼の首領はエグいことをしていると思う
やはりエマは、家族を、いや食用児全てを人間の世界に送るためなら、自分を犠牲にすることを厭わなかった。レイ、ノーマンやフィルたちが危惧した通りの展開だったんだな……。さすがエマのことをよく理解している。
おそらくエマが飛ばされたのは北欧か、もしくはロシアあたりか。
何にせよ、アメリカに飛ばされたレイたちとはかなり離れているだろう。
エマに記憶がない以上、レイたちがラートリー家の力を借りたとしても彼女を探し出すことは困難だ。何しろまるで手掛かりがない。鬼の世界に置いてけぼりなのかもしれないのに、とりあえず人間の世界をくまなく探そうという方針なのだろう。
全世界を捜索範囲として、一人の人間を見つけようなどというのは、砂場から一本の針を見つけるようなものだ。
再会できるか?
だが1カ月を経て、まさかのニアミス……。
運や、レイたちの執念もあるだろうが、そもそも世界戦争で人類は大きく人口を減らしており、街らしい街が少なかったからかもしれない。
比較的賑わっている街で手がかりを探しているのがラストのページのレイたちなのではないだろうか。
それに、ひょっとしたら人間の世界だけではなく、鬼の世界でも捜索しているかもしれないな……。人間の世界の捜索リーダーはレイ、鬼の世界はノーマンという構成でチームを分けるとか有り得ると思う。
ラートリー家が行き来している方法で鬼の世界に向かった捜索チームが、今も探し回っているのかもしれない。
前回の彼らの決意に満ちた様子を振り返ると、そのくらいのことをやっていてもおかしくない。
今回、レイたちはエマを発見するチャンスを得た。果たしてこのまますれ違ってしまうのか。それともレイたちがエマのことを発見するのか。
「超クライマックス」という次回のアオリから、おそらく再会するのかな……。
次号で再会して、物語が終わるってこと?
確かに考えてみれば、もう目立った敵もおらず、目標もないのにどうやって続けろという話だよな……。
エマの代償の件も今回で回収されたし、大団円も近いか。
前回第180話の詳細はこちらをクリックしてくださいね。
第181話 運命の向こう岸
気付き
レイ、ノーマンたちが、この広い世界からエマを探すとことを決意して二年もの間、何の手応えもないままだった。
ヒントすら見いだせない現状に、子供たちにもさすがに諦めの色が見えばじめていた。
そもそも、きちんと生きて人間の世界にいるか、人間の世界にいたとしても、自分たちとは会えないことが”約束”の”代償”だったのではないか。そんな不安に駆られては、捜し足りないだけと自らを鼓舞する子供たち。
「禁制区域…」
ギルダが思い出したように呟く。
それは、これまで自分たちが探してくなかったような、かつて、ムジカを探した時のように、入ってはいけない場所にエマがいるのではないかという気付きだった。
そのアイデアに触発されたノーマンは、災害や戦争が原因で、2049年現在もう存在しない国という、新しく探すべき場所を思いつく。
その指針を元に、エマ捜索を続ける子供たち。
エマと会えないことが”代償”であり、運命だとしても、それを覆す。
そんな執念で、ひたすらエマを捜し続けるのだった。
再会
「この辺りもまた空振りか…」
新しくやってきた街でエマの姿を見つけられず、落ち込むレイたち。
同じ町の他の場所を探しているノーマンと連絡をとるが、ノーマンたちからも収穫はなかったと報告を受けるのだった。
また出直そうと街を出ようとするレイたち。
しかしそのすぐ近くに、街まで降りてきたエマとお爺さんが歩いていた。
街の外に向かうレイ。
その時レイは、背負っているリュックが掴まれたような錯覚にとらわれると同時に、誰かの声を聞いていた。
(レイ こっち)
言い知れぬ予感に突き動かされるようにレイは走り始める。
エマとお爺さんは店に入っていた。
レイはその店を走りすぎると、気のせいかと走るのをやめて、ギルダたちの元に引き返そうとする。
お爺さんはエマがペンダントを首に下げていない事に気付く。
それを指摘されたエマは店を出てすぐ、道にペンダントが落ちているのを見つけて拾い上げる。
そしてちょうど、レイやノーマンたちが、道端にしゃがんでいたエマとばったり出くわすのだった。
「やったー!!」
ようやく再会できたエマに歓声を上げながら抱き着く子供たち。
「エマ 無事でよかった! 探したんだぞ!!」
「ひどいじゃん いきなりいなくなるなんて…」
子供たちは口々に、エマに声をかけていく。
犠牲
エマとの再会を喜ぶレイたちと異なり、エマ本人の反応は思わぬものだった。
「あの…みなさん…どなた…ですか…?」
レイたちを初めて見るような態度のエマ。
子供たちは、首元の数字がない彼女が、果たしてエマなのかと疑い始める。
「やっと見つけたと思ったのに…こんなにそっくりなのに…」
「いや こいつはエマだよ」
レイはエマの様子から、彼女の身に何が起こったのかに気付く。
「記憶がないんだろ?」
しゃがみこんだままのエマに問う。
「こいつやっぱり”家族”を奪われたんだ」
エマは家族から引き離されるだけではなく、家族に関する記憶もとられていた。
これまで見つからなかったことに納得するレイ。
鬼の首領は、家族を笑って暮らすというエマが望んでいた未来を犠牲にしてまで”約束”を結ぶのかと問う。
それに対しエマは、これは犠牲ではなく、自分のワガママである、鬼を殺したくない、誰も失いたくないという願いを通す上でのケジメだと答える。
家族と一緒にいたいし、この決断は家族を怒らせるだろう。
しかし食用児全員が人間の世界に行けて、食用児がいなくなることで人間の身ならず鬼も自由になる。
それは悲劇を完全に断ち切って、この先ずっと未来までみんなが笑顔で暮らせるチャンスなのだと続ける。
「ありがとう 最高の未来だよ!」
ドンはエマ一人が奪われているという結果に涙する。
ギルダたちもエマに必死に自分の事を覚えているかどうかを確かめようとするが、エマは彼らの剣幕に怯えるばかりだった。
その様子を見て、フィルはエマが本当に自分たちのことをわからないのだと悟り、涙を流すのだった。
「一緒に生きよう」
ノーマンも涙を流していた。しかしその意味は少し違っていた。
「よかった…記憶がなくても君が生きていてよかった」
「ちゃんとごはんを食べて健康で…ケガもなくて笑って…幸せそうで…独りではなさそうで こうして会えて本当によかった」
そしてノーマンは、鬼の世界からこちらにやって来て以来の自分たちの様子について報告を始める。
食用児は全員学校に通えている。
アダムの特殊な遺伝子から人間の世界での技術によって薬を作ることでシスロたちの実験による副作用を抑えることに成功して、その薬によって量産農園の子供たちも今では呼吸器なしで歩けるようになった。
現ラートリー家当主のマイク・ラートリーに関しても食用児たちの後見人として手を貸してくれている。
アイシェは殺されずに済み、ずっと寝た切りで意識を回復しなかったクリスティが目覚めた。
そしてノーマンは、人間の世界に来れた事、エマの選択の結果によって自分たちが幸せであると続ける。
「全部君がくれたんだ 君が君の記憶と引き換えに」
でも、とエマの手をとったままノーマンは顔を伏せる。
「それでも僕は君といたかった 君も一緒に笑って……」
エマは目の前で泣いているノーマンや子供たちの様子を見ていて、ただただわからないと感じていた。
しかしその目から涙が溢れてくることに戸惑う。
「え…あれ…? 私……どうして……」
(何も分からない 思いだせないのに どうして)
(あったかくて胸が苦しくて)
「会いたかった…ずっとあなた達に会いたかった気がするの」
エマはみんなに向かって涙を流しながらそう呟くのだった。
「俺達も会いたかった ずっとずっと会いたかったよ!!」
泣き顔から一転して、笑うレイたち。
「忘れてしまったっていいんだ 思い出せなくたって」
涙を拭うノーマン。
「今の君がかつての君と違ったっていい」
お爺さんはエマたちの様子を少し離れたベンチに腰掛けて見ていた。
「だから…もう一度 いや何度でも一緒に生きよう」
笑顔でエマの手をとるノーマン。その手の上にレイが手を重ねる。
エマは笑って、うん、と答える。
感想
単なる鬼の食料に過ぎなかったところから、見事に鬼の支配から脱し、人間の世界へ行けた。
食用児たちは壮絶な戦いの果てに自由を掴み取ったんだから十分ハッピーエンドと言って良いだろう。みんな運命に翻弄されることなく、抗った先に自分の望むものを勝ち取ったのだ。何かのせいにして結果を出せずにいる自分のような人間は、食用児たちがもがき苦しみながらも考えて行動し続けた先に道を切り拓いていった。
ここまで物語を追ってきた読者は、食用児たちの懸命に生きる姿に学ぶ事があったと思う。
出水先生、白井先生面白い物語をありがとうございました。
物語はエマも含めたみんなで、これから一緒に生きるという気持ちを確かめ合って幕を閉じた。
エマは涙を流してレイたちに、ずっとみんなに会いたかった気がすると言った。
エマがレイたちを見て泣いたのは、記憶の残り香とでもいうのか、微かな記憶の残滓が残っていると解釈できる。
これはひょっとしたら、これからレイたちとエマが時間を共有する度に、徐々にエマがかつての記憶を取り戻していく可能性がゼロではないことを示しているのか?
だから、その程度の淡い期待くらいは持っても良いのかもしれない。
正直、みんなに会えたことで記憶を取り戻す、もしくは鬼の首領が気を利かせて記憶を復活させる……といった展開も薄っすら期待していたんだけど、そう甘くはなかった。
欲を言えば、個人的には鬼の首領が本当にエマとの約束に代償を求めなかった、もしくはエマが何らかの機転を利かせて代償になるのを乗り切った、みたいな流れの方がスッキリしたのは間違いない。ご都合主義を排したらこうせざるを得ないんだろう。
レイたちがエマを探していた期間は約2年。それだけの期間を、広い世界、多くの人間がいる中で、安否も分からない人間の探そうなんてとんでもなく無茶な話だ。
エマに記憶があれば、互いに互いを探しあうのでおそらく数日で再会できた。
しかしエマに記憶がない以上、レイたちは自分たちのことを知らない一人の女の子を世界中駆けまわって探さなければならなかった。
それほど苦労して探し当てたにも関わらず、エマに自分たちの記憶が無かった。
しかし、たとえ記憶を無くしたとしてもただ健康で生きていてくれるだけで良かった、と泣いたノーマンの気持ちには何だかとても共感できる。大切な人、好きな人には、たとえ今後一切自分と人生が交わることはなくても元気でいて欲しいものじゃないのか。
一人だけ鬼の世界に取り残されるでもなく、人間の世界に飛ばされてきたはいいけど命を落とした、みたいなことになっていなかったのは喜ぶべきだ。
それにたとえ記憶が生涯戻らなくても、すぐに関係性は再構築出来そうだ。
幼少期に一緒に過ごした記憶がエマにはなくとも、レイたちにはたくさんある。
その話を聞けば、エマは彼らがかけがえのない家族であることを、これからの人生で十分学知って行く事が出来るし、エマたちにはこれから過ごす人生の方が遥かに長くなっていくだろう。
色々と思ったことを書いてみたが、結論としては、今後の彼ら、彼女らに明るい未来が待っていることを予期させるには十分な、良いエンディングだったと言えるだろう。
まだまだアニメの二期や邦画、海外ドラマ化なども控えているし、話題には事欠かない。
これから暫くは単行本やジャンプを読み返しながら、別メディアで展開されれる約束のネバーランドを楽しみにしていきたい。
コメントを残す