第91話 ありったけを
目次
第90話のおさらい
視覚を失ったレウウィスは、隠れたエマたちを探すべく街を歩く。
一方、ようやく一堂に会したエマたちだったが、その一室には重い空気が漂っていた。
死にかけているペペを前に、なんとかしなきゃと気をはやらせているナイジェル。
ナイジェルは、せっかくレウウィスの仮面を破壊し、閃光弾で視覚を奪ったのに、このまま時間が経過していくと視覚が回復していってしまうと焦る。
そしてナイジェルは、レウウィスの視覚を奪ったこの好機をどう活かしていくのかと考えた末、態勢を立て直し、さっきとは違う場所からレウウィスの弱点を狙撃しようと提案する。
しかし、さっき自分がやったがムダだった、とオジサンが即却下する。
みんなでやればと意地になって主張するナイジェルに、オジサンは、できると思うか? と張り詰めた表情で繰り返す。
その言葉、表情に意気消沈するナイジェル。
オジサンはやはりレウウィスは手に負えない化物だと改めて自覚していた。
このままの戦闘継続は全滅に直結していると考える。
吐き気を覚えたオジサンは、レウウィスが感覚を無くしている今、逃げるしかないと結論する。
オジサンの言葉を聞きながら、ナイジェルはルーカスから聞いていた”最終手段”の発動の時を感じていた。それを提案すべくエマの名を呼ぶ。
そんなナイジェルの機先を制すように一言、ダメ、と言うエマ。
「今逃げたら全員を助けることができない」
オジサンもまた、エマの言った”全員”という言葉に反応する。
エマは密猟場にいる人間全員で生きてここを出るのだと語気を強める。
それでも自分たちの全滅を疑っていなかったオジサンは、どうせなら早く、そして一人でも多く逃げるべきだと抗弁するが、エマは仮にそうしたとしてもレウウィスが回復すれば結局は全滅するかもしれないと返す。
そしてエマはナイジェルに、ルーカスの”最後の手段”はまだ使う段階ではないと念を押す。
やるべきことは全てやったがレウウィスにはとても敵わないと悟ったナイジェルは、もはやルーカスから託された最終手段しか抵抗できる策が無いと主張する。
しかしエマはナイジェルの言葉を確信を持って否定する。
「まだ手はある きっとある」
どんな? というナイジェルの問いかけに、エマは諦めないで考えようと呼びかけるのみ。
オジサンは、もう自分たちには考える時間がないと言い、今すぐ逃げなければ逃げるチャンスすら失ってしまうと主張する。
エマはオジサンの理性的とも臆病とも言える主張に同意しつつ、その通りに逃げたらまた誰かを犠牲に誰かが生き残ることになると返す。
さらにエマはGPで人間の世界への渡り方を得たと希望を示し、全員で勝って”今度こそ”この密猟場を脱出しようとオジサンに詰め寄る。
オジサンは、エマの”今度こそ”という言葉に触発され、エマに従うことを確約する。
オジサンがエマの言うことを聞くという、その予想外の展開に呆気にとられるレイ。
エマに本名を問われ、オジサンはついには観念したように答える。
「無事レウウィスを斃してGPを出られたら教えてやるよ」
レイはレウウィスが生物である以上、何か策はあるはずとさきほどのエマの言葉に同調する。
レウウィスと戦う中でエマが気付いた疑問をきっかけに、作戦会議が進むが、それをパルウゥスが発見する。
パルウゥスの合図により、エマ達のいる部屋の外壁はレウウィスの攻撃を受ける。
しかし攻撃を予測して退避行動をとっていたエマたちは直撃を避けていた。
レウウィスは壁の穴から建物に侵入し、エマたちを追う。
レウウィスから逃げる一行は、今度こそ終わらせる、と作戦行動を開始する。
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第91話 ありったけを
”種蒔き”
閃光によって生じたレウウィスの眩暈はまだ治っていなかった。
しかし手元はぼんやり見えるくらいにまでに回復してきている。
これまで、レウウィスは将来的には自分に脅威を齎してくれることを期待して人間を絶望に追い込んできた。
ただ、その「種蒔き」によって自分を脅かす存在にまで育った例はなかった。
しかし今、相対しているエマ達は違う。
自分を殺しかねない人間であるエマ達こそ、レウウィスが愛し、そして狩りたいと望んで止まない、食いたいと欲する”人間”だとレウウィスは考えていた。
レウウィスは楽しみを求め、凄絶な笑顔を浮かべてエマ達を追いかける。
気付き
レウウィスはエマ達のいる建物に侵入していた。
さぁ、どこかな? と口に出し周囲を探っているレウウィスに対し、エマは通路の曲がり角から様子を窺う。
エマはレイ、オジサン、ナイジェルに話した”気になっていたこと”を思い出していた。
(どうしてあの鬼 あの時に 手をすぐに再生しなかったんだろう)
その一言に、あっ、と声を上げるレイ。
ナイジェルはピンと来ていない。
エマは、ナイジェルが撃ち抜いたレウウィスの左手は深手であったにも関わらず、家を壊すまで著全だったこと、そして、これまで鬼の再生は自動で始まるものだと思っていたが、自分の意思で再生させるものなのかと指摘する。
「”再生”に何らかの不利点があるのかも」
レイの言葉にもまだピンと来ていないナイジェル。
レイはその不利点の例を、再生限度回数や、再生に膨大なエナルギーを消費する、などを挙げて説明する。
人間にも、若い時はすぐに傷が回復するのに老人になると遅くなってしまうという、ヘイフリック限界と呼ばれる、細胞分裂回数の限度がある。
ナイジェルは、銃弾を食らわせたルーチェがすぐさま回復していたことを思い出し、レイの説明が腑に落ちた様子を見せる。
「あれで良かったんだよオジサン」
エマは確信を以ってオジサンに呼びかける。
「オジサンがやったあれで正しかった」
オジサンは、レウウィスの目を狙ったにも関わらず、結果的には手で防がれてしまった狙撃を思い出す。
レイは、レウウィスの目がいつ回復するかは分からないが、閃光弾が効いている内に、狙う箇所を弱点の目に拘らず、とにかく撃ちまくると方針を示す。
作戦開始
オジサンはエマ達を尻目に移動を開始していた。
エマは通路を真っ直ぐこちらに向かってくるレウウィスに銃弾を撃ち込む。
身を屈め、エマに突進するレウウィス。
エマは接近してくるレウウィスと距離を保つようにその場から駆け出し、代わりにテーブルの上に座って銃を構えていたレイがレウウィスに銃弾を撃ちこむ。
レイは撃ちながらエマに、逃げろ、と声をかける。
レウウィスはその銃弾を避け、レイに突進する。
レイは突進してくるレウウィスに向けてテーブルを蹴ってから、エマに続いて逃げる。
レウウィスは進路を邪魔するテーブルを爪で両断する。
そこに今度はナイジェルが待ち構えており、レウウィスに銃弾を浴びせていく。
レイはレウウィスの様子から、食らわせた閃光弾がかなり効いていること、そして同時に、回復してきているのを感じていた。
ナイジェルに肉薄したレウウィスは、爪でナイジェルの銃を切り裂く。
そして続けてナイジェルに爪を振り下ろそうとした瞬間、今度はエマがその手を銃撃する。
レウウィスの目は回復はしている。しかし銃弾をキャッチ出来るほどではない。
狭い屋内であれば自分たちが有利だと確信するエマ。
エマ達は元々の作戦で使用するはずだった、村のそこかしこに隠してある武器を惜しみなく使う覚悟をしていた。
ナイジェルは両手のそれぞれの手に持った銃をレウウィスに乱射する。
レイ、エマも一緒になってレウウィスを撃つ。
一斉斉射を受け、流石に体をのけ反らせたレウウィスは、一旦下がって、銃弾を避ける為に曲がり角に身を隠す。
エマ達の戦法の変更を感じ取るレウウィス
レウウィスはエマ達が戦法を変更したのを感じ取っていた。
これまでエマ達は弱点である目を執拗に狙っていたが、今は狙って目に限らずレウウィスを撃ってきている。
明らかに意図して行われている銃撃に、レウウィスは自分の再生限界が気付かれていることに思い至る。
しかしレウウィスはそれを嘆くわけではなく、むしろ本当にそうならばなんと素晴らしいのか、と内心で喜んでいた。
そして、先頃のエマ達による閃光弾も、エマたちは目や視神経が鬼にとって再生の遅い部位だと気づいて選択したのか、と深読みする。
分の悪さを感じていたレウウィスは、一旦外に出ようと壁を破壊する。
「させるかよ」
身を晒したレウウィスを、屋根の上で待機していたオジサンが狙っていた。
いち早くオジサンに気付いたパルウゥスが鳴き声を上げる。
すぐにレウウィスもオジサンに気付き、走ってその狙撃から逃れようとする。
エマ達もレウウィスを追いかけて建物から外へと出ていた。
援軍
逃げるレウウィスを追いながら、その背中に一斉斉射し続ける。
レウウィスは逃げながらも冷静に、弾丸の発射装置やエマ達4人のいる方角を把握していた。
反撃をしようとするレウウィス。
しかし、いきなり自分に向かって投げられた建物の瓦礫を避ける事で機先を挫かれる。
(何だ 今私は何をよけた?)
レウウィスの目の前には風車小屋から消えていたアダムが立っていた。
「22194 22194 22194」
アダムはノーマンのナンバーを繰り返しながら、レウウィスをじっと見つめている。
感想
切り札となるか?
ここでアダムがキター!
てっきり逃げていたのかと思っていたけど、まさかレイウィスと戦うつもりだったとは……。
アダムはピーター=ラートリー側のスパイとして村に潜入していたという線も考えていたから、レウウィス達との全面衝突によりもう潮時だと考えてさっさと退散しただけだと思っていた。
アダムはレウウィスがつい無意識で避けてしまうほどの一撃を放った。
異様に発達した筋肉が、普通の人間の膂力とアダムのそれとは全く異なる次元であると如実に物語っている。
いよいよレウウィスを斃す為のピースが揃った感がある。
エマ達はレウウィスの再生限界に気付き、銃撃の数で圧倒する作戦で見事にレウウィスに対して攻勢を保つ。
そこにさらに、予想外の戦力であるアダムが加わるとなると、いよいよレウウィス打倒も夢では無くなったと思う。
アダムが本当にエマたちの味方なのかという、そもそもなぜノーマンの数字を呟き続けているかなど、気になる点は多い。
まさか、22194を連呼しているのは、ただノーマンの数字が目に付いたからそれを繰り返しているだけで、アダム自身にとっては何の意味もなかった、なんてオチは無いよね……。
まぁ、22194を耳にしたエマやレイがノーマン生存の可能性に思い至るという重要な情報のピースではあるんだけど、アダム自身何かしらノーマンとの関わりがあると信じたい。
多分、猟場編の次はラムダ編の可能性が高いから、近々、それは明らかになっていくだろう。
先を考えるよりも、まず気にするべきはここからレウウィスをどう追い詰めるかだ。
再生限界
なるほど。面白い。
レウウィスが左手をすぐに再生しなかったことを不思議に思わなかった(汗)。
ヘイフリック限界ってうっすらと聞いたことがあったような気がしたけど、思いつかなかった。
ヘイフリック限界は、1961年にカリフォルニア大学やスタンフォード大学で解剖学の教授を務めていたレオナルド・ヘイフリック(英語版)らによって初めて発見された[1]。その後多くの研究者によって追試され、ヒトの様々な臓器から得られた細胞を培養すると由来臓器に固有な分裂回数で増殖を停止すること、年齢の高いヒトからの細胞は分裂可能回数が少ないこと、遺伝的早老症患者から提供された細胞は健常者のそれより分裂可能回数が少ないことなど、多くの発見が生まれた。なおこの発見は、アレクシス・カレルの唱えた「普通の細胞は不死である。」という説を覆すこととなった。
wikipedia”ヘイフリック限界”ページより。
すぐに思い至ったエマやレイはやはり天才。
鬼は人間よりも遥かに長寿なのはわかっていたけど、さすがに1000年を超えると再生能力に陰りが生じるくらいには衰えることに気付くとは……。
レウウィスの正確な年齢は分からない。
少なくとも”約束”が結ばれた1000年前から生きているというだけで、”約束”以前はどのくらい生きていたのかに関しては全く情報が無い。
それでも、何となくだけど2000歳まではいかないような気がする。
”約束”が結ばれた時点で1000歳を超えているということは無いような……。
人間の10倍の寿命だったら分かりやすいけど、多分それ以上だろうな。
果たしてエマ達はレウウィスの再生能力が追い付かないほどの打撃をどうやって与えるのか。
アダムが良い仕事してくれそうだ。
レウウィスが食用児に齎したもの
レウウィスは望み通り生死を賭けた戦いに身を投じることが出来ている。
オリバー達。そしてテオの悲劇を目の当たりにしたエマ。
究極的には13年前に仲間の大半を殺されたトラウマを持つオジサンとルーカス。
レウウィスがこれまでせっせと蒔いてきた”種”が今、一挙に芽吹いたわけだ。
レウウィスは別に死にたいわけではない。あくまで自分を死に至らしめかねないほどの強敵と戦って勝ちたい、狩りたいだけ。
人間からしたら迷惑でしかない一方、このレウウィスの悪趣味な行為が、結果的に人間が鬼に対抗する力の涵養に一役買っているのも事実……。
この猟場編が終了しても、人間が鬼から自由になる為の戦いは続く。
言わばエマ達の戦いは、鬼から自由になろうとする意思をピーターや鬼たちに示す為の狼煙となる。
エマ達食用児の集団がレウウィスを始めとした強力な貴族鬼達との戦いに勝利する意味は大きいだろう。
次か、その次で決着かな?
見逃せない展開が続く。
以上、約束のネバーランド第91話のネタバレを含む感想と考察でした。
第92話に続きます。
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