第84話 歯止め
目次
第83話のおさらい
ペペとナイジェルは煙玉でバイヨンを撒き、深手を負ったジリアンとともに安全な場所へ向かっていた。
それを予想していたバイヨンは木の陰に潜み尾行す。
わざと二人を泳がせて本拠地へと案内させていたのだった。
村の広場でエマはレウウィスにゲームを持ちかけていた。
エマの提案は、レウウィスは昔、ルーカスに向けてゲームを持ちかけた記憶を思い出させる。
森で爆発を起こし、鬼たちの攪乱に成功していたルーカスとオジサンたち。
レウウィスは、バイヨン卿らほかの鬼に邪魔されない15分で、自分たち鬼を殺し方を教えるのでその策を考えてみろとルーカスに提案をする。
人間と鬼との戦力差はフェアではないと前置きし、レウウィスは鬼の弱点が顔の中心となる目の奥にある核だ、10分間好きに仕掛けて来いと告げる。
さらに、弱点を守る仮面まで外してみせるレウウィスに、驚き、歯噛みするルーカス。
レウウィスは楽しそうに笑う。
「さぁ秘密の”ゲーム”だ 私を殺してみ給え」
レウウィスは、13年前のルーカスとのやりとりを鮮明に思い出して楽しそうに笑う。
エマは、レウウィスがルーカスに仕掛けたのと同じ、最初の10分、鬼は人間を攻撃しないというフェアな狩りを提案する。
レウウィスがエマの提案を受け入れたのを確認し、エマは時間稼ぎが出来た事を内心喜ぶ。
次の瞬間、だが必要ない、と言い放ったレウウィスの言葉にエマは固まる。
レウウィスは、もし自分がルーカスなら自分に対して総攻撃を仕掛けてくると見抜いていた。
そして、エマの持ちかけてきた”ゲーム”はそのための時間稼ぎなのだと看破する。
レウウィスは、この反乱はルーカスに持ちかけた”ゲーム”の13年越しの解答だと捉えていた。
レウウィスは、もし10分後に村にエマの仲間が誰も現れなかったらその時はエマ君一人で存分に楽しませてくれ、と楽しそうに笑う。
その様子に、エマは背筋を凍らせるのだった。
バイヨンは、ナイジェルとペペが姿を消した木の根の前に立っていた。
木ごと槍で切り払い、地下壕に通じる大穴に飛び込んで通路を進む。
バイヨンの行く通路の脇道に、銃を構えたオリバーと、そのすぐ後ろにナイジェルが待ち伏せている。
狭い地下壕内で槍を構えようとしてもたつくバイヨンにルーカスが素早く近寄って攻撃し、バランスを崩す。
ルーカスの合図で、オリバーとナイジェルはバイヨンに向けて三発の銃弾を発砲するのだった。
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第84話 歯止め
人間側の動き
ザックとペペは必死にバイヨンと戦っていた。
ザックの撃ち込んだ毒の弾を受けてもバイヨンの動きは全く止まらない。
バイヨンは身体に撃ち込まれたダーツのような形状の毒の弾を何でもないように抜き捨てる。
バイヨンには自分たちの作戦が読まれているような気がする、とペペは焦る。
ザックはそんなペペの肩を掴み、落ち着かせる。
「作戦変更だ ここは俺一人に任せろ」
そして専用銃と特殊弾をペペに手渡し、それを持ってオリバーの元へ行って状況とバイヨンの狙いを伝えろと指示する。
ザックは、オリバーならばそれだけ伝えればわかる、とペペに行動を促す。
ペペはザックの確信したような目に圧倒され、言葉を失う。
「それであいつを討ち果たせる!」
立ち上がり、バイヨンの元へダッシュするザック。
(行け!!)
ペペはザックを背に一目散に駆け出し、無事、村に辿り着いていた。
ペペから情報と銃、弾を手渡されたオリバーにエマは、大丈夫だから地下に行けと呼びかける。
それに従い、オリバーはペペと共に村を後にしていた。
その頃ジリアンとナイジェルがちょうどルーチェを仕留め、合図の笛を吹く。
血に塗れたザックは先に行こうとするバイヨンの足首を掴んで行かせまいとする。
風車小屋の地下の抜け穴は、森にある五つの出入口と繋がっている。
その内の一つを開き、オリバーはペペから預かった専用銃と特殊弾を持って地下に降りていく。
ペペはジリアンたちの笛を聞いて二人の元に駆け付け、ジリアンを担いだナイジェルと共に地下に逃げ込む。
五つの出入口は敵に知られてはいけないし、守らなくてはいけなかった。
しかしオリバーとナイジェルは、バイヨンに対し事前に待ち伏せし、備えていたのだった。
バイヨンに向けて放たれた特殊弾
背後からのオリバーの攻撃にバランスを崩したバイヨンは、人間たちが自分を待ち伏せていたのを察知する。
槍を振るおうとしても狭い通路内で柄が壁にぶつかるばかり。
「今だ!! オリバー! ナイジェル!!」
その様子を好機と見たルーカスが叫ぶ。
ナイジェルの発砲による火花がバイヨンの顔を照らす。
それでバイヨンの顔の位置を確認したオリバーは、バイヨンの仮面に専用銃で特殊弾を撃ち込む。
専用弾はバイヨンの仮面を砕く。
それを確認したナイジェルは、銃の照準を露出したバイヨンの素顔に合わて三発の銃弾のヒットに成功する。
崩れ落ち、地面に俯せに倒れるバイヨン。
バイヨンは混濁する意識の中で、約1000年前のことを思い出していた。
バイヨンの救い ”猟場”の存在
テーブルを囲む、黒装束に身を包んだ大勢の鬼たち。
バイヨンはその中の一員として、会議に参加していた。
人間と結んだ”約束”。
つまり、人間が鬼を狩らず、鬼は人間を狩らないことに鬼たちは困惑していた。
狩りをせずにどう人間を食べるのか、人間を食べるなということなのか、と不満は収まらない。
「”農園”をつくる」
座長らしき鬼が、人間を養殖して収穫するという方針を示す。
そして、その場にいる参加者たちに向けて、養殖及び収穫を手伝ってもらうと告げるのだった。
「異論は聞かん 取り決めは交わす これは〇〇のご意思である」
しかしバイヨンは狩りに飢えていた。
時は流れて約800年前。
「皮肉なものだね」
レウウィスがバイヨンに話しかける。
「今や君が12の農園の責任者か」
正確には”24の農園に出資”、”12の農園を管理”、”6つの農園の責任者”であると答えるバイヨン。
レウウィスは、あの君がねぇ、と呆れたような、感心したような口調で呟いた後、問いかける。
「血が騒いだりしないかね」
「騒ぎますが………」
含みを持たせた言い方で、バイヨンが返す。
バイヨンは”約束”は守らなくてはならない世界間の協定なのだと理解し、それを守っていた。
約500年前。
食事をしていたバイヨンは、味がしないことに気付いていた。
それは常に、既に死んだ子供を食べ続けているからだ、とバイヨンはフラストレーションを溜め続ける。
約200年前。
バイヨンは自前の農園における流通ルートで働く一匹の鬼から、子供を生きたまま出荷するように秘密で指示していた。
現在に通じる狩り”もどき”を楽しみにするようになったバイヨンは、狩って調理された肉を食べた瞬間に涙を流す。
(味がする…! 味が…する…!!)
手で顔を覆い、暫くしてから食事を再開する。
バイヨンは、狩った肉の味がしたのは、自分がただそう思いたかっただけなのかもしれないと述懐する。
そうこうするうちにバイヨンの心の内には”私は今 活きた命を食べている”という確かな実感が沸いていた。
ついには、最初は三カ月に1人だったにも関わらずそのペースはどんどん上がり、、月に2人、3人と増えていくのだった。
しかしある日、黒服を連れ立って訪問してきたピーターにバイヨンの”楽しみ”がバレてしまう。
バイヨンは秘密の猟場で人間を狩ることが人間との”約束”を侵すという禁忌であっても、それによって救われているので自分には必要と開き直っていた。
悪あがき
顔面から血を流したバイヨンがふらふらと立ち上がるのにオリバーとナイジェルが銃口を合わせる。
その表情には緊張感が満ちている。
けたたましく笑いだすバイヨン。
そして、まだ生きてる、と口にしたナイジェルに対して、バイヨンは柄を折って短くした槍の刃先を突き出す。
バイヨンの顔に空いた穴からドロリと血が流れ、ふらつくバイヨン。
こいつ不死身か? と戦慄するナイジェル。
(私も随分と腑抜けになっていたものです)
バイヨンは再びナイジェルとオリバーに向けて駆けだし、今度はオリバーに対して左足のキックを繰り出す。
オリバーは後ろに飛んでバイヨンのキックの力を殺す。
バイヨンは内心、自分が相当な腑抜けになってしまったと嘆いていた。
今自分が戦っているのはそもそもは敵陣の真っ只中である。
そして、狭い通路ではとても自分の手持ちの武器は使えず、子供達に地の利がある。
(私を仕留めるどこより恰好の罠場ではありませんか)
バイヨンは自分がナイジェルやペペを泳がせていたようでいて、実は地下に自分を誘き出し待ち伏せされていたのだと気付いていた。
吹っ飛ばしたオリバーはバイヨンから集中を途切れさせることなく、ナイジェルと共に銃を撃ち込む。
無数の銃弾はバイヨンに何発もヒットする。
攻勢なのに、オリバーはバイヨンの持つ柄の短い槍から目が離せない。
バイヨンは短い槍を突き刺そうとルーカスに駆け寄る。
(せめて最期にお前の命は貰うぞ!!)
ルーカスは向かってくるバイヨンに向けて銃の照準を定める。
オリバーはルーカスが、バイヨンが右手に握っている槍しか気にしておらず、バイヨンが空いている左手の爪を構えている事に気付いてルーカスに向けて駆けだす。
オリバーは、バイヨンが構えている槍がフェイクだと見抜いていた。
ルーカスに向けて手を伸ばすオリバー。
ルーカスの放った3発の銃弾は見事にバイヨンの顔面にヒットし、バイヨンは力なく地面に倒れる。
「ルーカス怪我は!?」
ルーカスを背にバイヨンの前に立ちはだかったオリバが声をかける。
いや僕は、と言うルーカス。
「待てよ……嘘だろ……」
驚愕に目を見開くナイジェル。
オリバーはバイヨンの左手の鋭い爪による負傷を左腹部に受けていた。
腹を深々と爪で刺したバイヨンの腕はバイヨンの身体から離れ、オリバーの腹に爪でぶら下がっているように食い込んでいる。
地面に崩れ落ちるオリバーに、ナイジェルとルーカスが駆け寄る。
「オリバー!!」
感想
失われていく仲間
見事バイヨンを討ち果たした!
特殊弾を仮面にクリーンヒットさせて破壊し、露出した顔面にすかさず銃撃する。
バイヨンの油断と、人間側の備えや、チャンスはこの一度だけという覚悟に基づく実行力が重なった結果といえるだろう。
しかし意外と上手く倒せたなと思ったらオリバーがやられてしまうとは……。
やはり鬼はどこまでも油断ならない相手だ。
バイヨンの自分の最期の道連れを、という執念がオリバーの命を蝕んでいる。
まさかこれで死ぬことはないよな……。
オリバーから見て右側に爪を食らっていたなら、そこは肝臓や膵臓なんかが密集している急所だ。
しかし実際にやられたのは左側なので、致命傷となるような部位は損傷してはいないと思いたい。
とはいえ戦線復帰は無理だわ……。
オリバーはルーカスと並んで子供達の精神的支柱だろう。
むしろ身体の自由が利かず行動範囲が狭いルーカスよりも、この作戦上果たしている役割は大きいと思う。
残りの鬼はノウスとレウウィスだけだが、レウウィスは元より、ノウマを失って激昂しているノウスも強敵だ。
果たして今後、戦線離脱するであろうオリバー抜きにしてこの二大強敵と人間側は伍して戦えるのか。
やられていく仲間たち
ザックはバイヨンの足止めをして、ペペをオリバー達に向かわせていた。
しかしバイヨンがザックから離れて森の中を探索していたということは、ザックは既にやられてしまっていたことになる。
バイヨンの槍にこびりついていた血はザックのもので確定だ。
実際、地面に俯せに倒れながらも、去ろうとするバイヨンの足首を掴んでいるコマが描かれ、その後、止めを刺された後のような描写もある。
ザックは死亡してしまった。
今号を読む前は、負傷したが身を潜めていると思いたかった。しかしもう、既に死亡で確定。
致命傷を受けていたなら別だが、ひょっとしたらバイヨンが去ろうとするのを止めずに息を潜めていれば助かったかもしれない。
ザックみたいな勇敢なキャラは、最期まで死力を尽くして戦ってしまうんだな……。
バイヨンからの斬撃を背に受けたジリアンはペペから治療を受けているが、もうこの戦いで戦線復帰することはないだろう。
そして最後に腹に爪を食らったオリバーもこの戦いには戻れない。
強力な怪物である鬼達を相手に戦う以上、自分たちに生じる犠牲を覚悟していただろう。
レジスタンスは犠牲者たちを前に士気が下がるような弱気な集団ではないが、頼りにされていたであろうオリバーやザックの離脱は痛い。
猟場誕生の経緯
バイヨンの狩猟本能を満たすところからゴールディポンドの猟場化が始まったのか……。
バイヨンの立場はかなりの資産家だ。
”24の農園に出資”
”12の農園を管理”
”6つの農園の責任者”
これってかなりの資産家なのでは?
現実においても資産家はそうではない人間よりも特別扱いを受けられる。
鬼の社会も人間の社会に結構近いものがあるなぁ。
バイヨンは貴族。そして猟場で遊べる立場であるルーチェもノウス、ノウマも、当然レウウィスだって貴族だ。
蓄財しているのが貨幣なのか江戸時代における米にあたるものなのかはわからないけど、鬼の社会も金が無いと厳しいんだろうな(笑)
というか、ひょっとしたら鬼も人間も元は同じだったのか……?
鬼から人間くささを感じるんだよなぁ。
ちょっと前になるけど、ノウマがやられてノウスは泣きわめいてその死を嘆いた。
その後見せた烈火の如き怒りを見ても、人間と同様の感情があることは明らかだ。
今回のバイヨンに関しても、人間狩りに執着する点を除いては、まるで人間のような印象を抱く。
レウウィスが死闘を望むのも退屈しているからであり、人間っぽさを感じる……。
以上、約束のネバーランド第84話のネタバレを含む感想と考察でした。
第85話に続きます。
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