第166話 ゴーバックホーム
目次
第165話 You Can Fly!のおさらい
追い詰められたイザベラの選択
2046年1月17日。
GF農園からエマとレイの特上を含んだ15名が脱走してから二日後、責任者のイザベラは牢に幽閉されていた。
(もういいか)
逃げたエマたちを探すのを諦め、全ては自分の責任だと申し出たイザベラ。
(これでいい 私もこれでやっと……)
どこか寂しそうな、それでいてほっとしたような表情を浮かべる。
(エマ レイ みんな…レスリー)
しかし死を覚悟していたイザベラを待っていたのは飼育監長(グランマ)としての立場だった。
これで終わりだと思っていたイザベラは、なぜ商品を守れず第3飼育場を失った自分の立場が上になるのかと慌てて鬼に訊ねる。
鬼は、全ての責任は商品を管理仕切れなかったイザベラを制御できなかったグランマ・サラにあると答え、グランマ・サラの処遇を伝える。
「グランマ・サラは出荷した 次の儀祭の糧となる」
驚愕するイザベラ。
「君が逃した商品の代わりに」
沙汰を言い渡され、イザベラは独房で呆然としていた。
(私がグランマ……?)
要はイザベラかサラのどちらが農園の将来に有益を農園の管理者の鬼たちが打算で判断した結果なのだと言ってイザベラの前に姿を現したのはピーターだった。
ピーターはイザベラの飼育成績が圧倒的なので、農園はあなたを残すべきだと思う、とイザベラに私見を伝える。
狼狽するイザベラにピーターは、迷いますか? と訊ねる。
ピーターはイザベラの心中を完全に見透かしたような言葉を列挙していく。
「”やっと抜け出せると思ったのに”」
「”自由になれると思ったのに”」
「”もう充分” ”これじゃ元の地獄に逆戻り”」
「”私はグランマになどなりたくない”」
これまで自分が行ってきた所業を思い出し青ざめるイザベラ。
「残念だ あなたも僕ら側ならよかったのに」
その言葉の意味が分かっていない様子のイザベラに、ピーターは鬼の世界で食用児として生まれたために、イザベラのような逸材も一生怪物の餌なのだと続ける。
(……こちらの”世界”…?)
イザベラは無言で、得体の知れないものを見るような目でピーターを見上げていた。
ピーターはイザベラに、まだ全てを知らず、欲しかった未来も手にしていないことがあるのに充分なのか、なぜ食べられる人間とそうでない人間が存在するのかを知りたくないのか、今いる地獄から抜け出したくないのか、と畳みかける。
そして今、イザベラは死の押し付け合いに疲れているだけで、自ら死んで終わりにしようとしていると指摘する。
「死は救いではない 自由への道では決してない」
そして、自分がイザベラを救うべく連れ出す、と言ってイザベラに握手を求める。
(「君がこの手をとって、その頭脳を僕達のために役立ててくれるなら、その数字も胸のチップも消して」)
おずおずとピーターの手を取るイザベラ。
(「君を心の自由に」)
ピーターの命令
2047年11月13日。
ピーターとイザベラは向かい合って座っていた。
ピーターはイザベラのGFの飼育成績と収穫高の良さ、ラムダへの協力を褒め称える。
ラムダを失ったことは残念だった、というイザベラにピーターはデータは残っているので施設の消失は何の問題もないと返す。
ピーターの部下は女王と五摂家が死に、貴族階級の消失によって”彼ら”も変わる、と述べる。
「これからはラムダの時代になります」
ラムダは復活する、とピーター。
ハイコスト、ハイリスクである現状の古い生産ラインは撤廃して、じきに全ての農園をラムダ型の新農園に一本化していくと続ける。
つまりGFや他の高級農園は廃止するのかと問われ、ピーターはあっさり答える。
「そういうことです」
そうなればイザベラは晴れて自由だと部下が続ける。
脱走者の出荷準備について確認されたイザベラは、じき整います、と即答する。
「では夜明けまでに全員摘み終えて下さい」
笑顔で命じるピーター。
ピーターは、今晩中か明日の朝までには”奴ら”が現れると言って、それまでに大方の始末を終えたいと続ける。
「今いる脱走者も残る脱走者も明後日には全員瓶の中です できますか?」
イザベラはピーターと同じようにやわらかく笑う。
「畏まりました」
侵入
ピーターからの尋問に口を割ってしまったアンナは泣いていた。
「ごめんなさい…ナット…みんな…」
ナットは、皆無事でよかった、と指の激痛に耐えながら笑顔で返す。
子供たちを閉じ込めている倉庫らしき部屋の扉が開く。
入ってきたのはイザベラ、その後ろに鬼が続く。
「ママ…!」
警戒する子供たち。
イザベラは子供たちに近寄っていくと、微笑みを浮かべてジェミマとアンナを抱きしめる。
「おかえり 私の可愛い子供達」
イザベラを見上げて声を上げることなく泣くジェミマ。
子供たちは堰を切ったようにナットの指を手当させて欲しいとイザベラに懇願する。
「あらあら酷い怪我」
イザベラはナットの手にそっと触れて、第一関節あたりから反り返ったように折れている指を確認する。
「可哀想に」
ベキッ
しばし指を見つめていたかと思うと、手で強引に反り返っている指を上から押さえるイザベラ。
あまりの激痛にナットは悲鳴を上げる。
「よし 元に戻したわ」
笑顔のイザベラ。
「まぁこれで目立たずキレイに出せるでしょう」
そしてイザベラは、これから出荷のための処理作業の開始を宣言し、最初の10人を選ぶようにと何の躊躇もなく命じるのだった。
何が起こるのかを理解し怯える子供達。
(あぁ…もう終わりだ…今度こそ)
(エマ…レイ…)
バチッ
突如電気が落ちる。
戸惑う子供たち。
沈黙した施設内に銃で武装したエマ、レイ、ノーマンが侵入を開始する。
第165話 You Can Fly!振り返り感想
作戦開始
ついに作戦開始!
事前に策を立てていたし、痛快な奪還劇を演じてくれることを期待したい。
しかしピーターとイザベラの会話の内容などエマたちは全く知る由もないが、本当にギリギリのタイミングで飛び込んできたなー。
何しろ、GFをはじめとする高級農園の廃止の方針がピーターによって示され、人質だった子供たち全員の出荷が決まり、イザベラによる最初の「摘み取り」が始まろうとしていたわけだから……。
でも、イザベラが侵入者の排除を優先するだろうか……という心配がある。
拘束中の子供たちを完全に放置してエマたちとの戦いに臨むとは到底思えない。
当然イザベラはピーターと会話していた通り、侵入してくる敵の正体がエマたちだと前もって分かっている。
まだ電気が落ちたばかりで侵入に気付いた様子はないけど、イザベラならすぐに勘付くと思う。
イザベラは侵入したエマたちに限らず、GFの子供たちがどれだけ仲間の絆を大切にし、互いに想いやりを持っているかを熟知している。なので、捕まっている子供たちを人質としてエマたちと戦う上で有効活用しようとするはずだ。
たとえばイザベラたちが拘束している子供たちに銃口を向ければ、途端にエマたちは身動きがとれなくなることなどはすぐに思いつく。
それに単純な戦闘能力は鬼たちの方が上だし、人質をとられている以上、まともに戦えない。
如何にエマがリーダーとして優れていても、囚われた子供たちに多少の犠牲を出してでも戦うという冷徹さはないし、そもそもGFに乗り込んでいるのは彼らを救うため。
だからますます囚われの子供たちを犠牲にするような作戦はありえない。
かといって、真正面から戦いを挑んだら負けは確定している。
エマたちはGFでイザベラが待ち構えている可能性をきちんと考慮しているだろうか。
もしそうであれば、敵が囚われの子供たちを人質にして自分たち相手に有利に戦いを展開しようとすると読んだ上で、この奪還作戦を練り上げているはずだ。
まずは子供たちの解放を目指すのかな……。
しかしGFは敵の巣で警備は厚いし、侵入も知られてしまっている。
正直、子供たちを助けるならこっそりバレないように侵入するくらいしか思いつかない。
そして、それは侵入が知られている以上、既になくなった。
うーん。他にどんな方法がある? 思い浮かばない……。
GFの施設を隅々まで知っているから地の利を活かして鬼との戦いや子供たちの救出を展開するとかかな……。
エマたちはマンホールみたいなところからGF施設内に侵入したようだけど、脱走以前にこういう場所を知っていたのか?
多分、ペン型端末にGFの施設図が入っていて、それを使って侵入したのではないか。
そのデータによって配電盤に位置も理解できていたから電気を落とすことが出来た?
2年前、エマたちが脱走する前に、この施設の構造を知っていた可能性よりも、ペン型端末から知ったと考える方が自然に思える。
施設図から子供たちがどこにいるのかを推測して、奪還作戦を始めたとしたらすごいな……。
エマ、レイ、ノーマンが揃っているし、オリバーたちもいる。ノーマンは五摂家を味方の損害なく全滅させたし、エマたちやオリバーたちも修羅場をくぐってきた。
高い知能と実行力を持つ彼ら、彼女らの力を束ねればかなりのことが可能なのはわかるけど、果たして子供たちを全員救い出すことが出来るのか。
イザベラの苦悩
エマたちを逃したことで、イザベラは自分の死を甘んじて受け入れようとしていた。
エマたちが脱走した時の様子からも、ひょっとしたら……、とは思っていたけど、やはり同じ食用児を手にかけることに対する抵抗や、罪悪感はあったんだな……。
イザベラがエマたちへの認識が鬼への供物というだけだったなら、そもそもエマたちを有能に育てることは不可能だと思う。
子供が健全に育つには、愛情が必要だ。イザベラが食用児を育成する力に長けていたのも、おそらく愛情の深さにあるのではないだろうか。
ひょっとしたら、それゆえに苦しんでいたのかな……。
だからこそエマたちを逃がしたのは自分の責任だと正直に申し出て、今度は自分が処分され、出荷されるであろう運命を心の中で受け入れていた。
しかし、そんなイザベラが食用児を育て、鬼に献上する役目をこなしてきたのは単位自分が生き残るためだけだったのかな?
全ては、ただ生きるためだったのか?
そのためにかつての自分と同じ食用児を表面上は愛情いっぱいに育てては、鬼に献上し続けるということなのか?
とてもそうは思えないんだけどな……。
レスリーというのは、ひょっとしたら自分が子供の頃に見送った好きだった子とかかな?
それともイザベラを操るためにどこかで人質になっている……? いや、一人のママを思い通りに操るために、そこまでやるとは思えないな……。
となると、やはり子供の頃に自分の代わりに出荷された親しかった男の子かな。
イザベラにとって忘れられない存在だからこうして脳裏に浮かぶわけだし。
イザベラは脱出できなかったエマが成長したらこうなっていた、という存在なのかもしれない。
優秀な食用児はママとして農園管理に充てられるんだったけ? もしそうならエマにそういう未来があり得たかも……。
エマはイザベラに会ったらおそらく説得しようとすると思う。
鬼の首領に会ったこと、新しい”約束”を結べたこと、人間の世界に逃げることなどを伝えたらどんな反応をするのか気になる。
まさかエマたちの味方になるのか……?
これまでの出荷実績があるから因果応報ということで命を落としそう。
もしイザベラが死ぬなら、最期にギリギリのところで子供たちを救う……みたいな展開がいいな……。
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第166話 ゴーバックホーム
作戦3日前
停電を引き起こし、GF侵入したエマたち。
モニターを監視する鬼はすぐに、侵入されたのが地下7階の動力室だと把握していた。
さらに鬼は、間もなく施設内の全てを予備電源に切り替えを実行していたのでまるで慌てていなかった。
予備電源に切り替わるまでのカウントダウンが残り20秒から開始される。
エマたちによる人質救出作戦決行の3日前となる11月10日。
エマたちは作戦を練るためにペン型端末に保存されていたGF内部図を確認していた。
何階もの階層があるGFの図に、まるで蟻塚だな、とオリバーが感想を漏らす。
レイは即座に、子供たちがいるのは地下2階の第2備品庫だと呟く。
ヴィンセントも、ここならあの人数を最小警備で閉じ込めておける、とそれに同意する。
「極力人目にもつかずにね」
付け足したのはノーマンだった。
エマはGFには鬼の職員が30~40匹常駐しているとの自身の認識を述べる。
しかし、それに対して、ミネルヴァが生きていた頃の情報だろとナイジェル。
ノーマンは、スミーの情報とほぼ一致しているとして、妥当な数だエマに同意するが、GFでは鬼の約半数が盗難抑止の警備兵であり そこにプラスして100人以上のシスターたちがいると続けるのだった。
貴族ほどではないが腕利きの鬼が揃っているということか、とザック。
人間も合わせれば数自体も厄介ですよね…、ハヤトが不安そうに続く。
ノーマンが付け足す。
「後はラートリー家と王兵2000だ」
作戦決行当日
11月13日の朝、エマたちはGFを見下ろす高台からピーターたちがGFに到着したのを確認する。
王兵が農園の外に配置されているのを見て、エマたちは自分たちが予想した通りだと感じていた。
ノーマンは作戦の決行を告げる。
「このまま3手に分かれて侵入する」
1つ目の班はエマ、レイ、ノーマン。
2つ目はヴィンセント、ナイジェル、ラムダ兵。
そして3つ目はオリバー、ザック、ジリアン、ドン、ギルダ、アイシェ。
各班は侵入した後は人質の奪還及び安全確保のため、地下2階第2備品庫を目指すのだった。
ピーターは食用児たちの侵入を確信していた。
「それでいい 奴らが来る場所は判っている」
人質の子供たちは数体の鬼に取り囲まれ、身動きが取れない。
「お手並み拝見といこうじゃないか」
ピーターは笑う。
停電中の施設内全てが予備電源に切り替わろうとしたその瞬間、ジリアンとザックは子供たちを囲む鬼たちの背後から飛びかかっていた。
「そこだー!!」
二人を発見した鬼が叫ぶのと同時に、ザックとジリアンは閃光弾を投げていた。
次の瞬間、筒状の物体は強烈な光を発する。
「こっちよ!!」
鬼たちは閃光をモロに受けて、怯んでいた。
その隙にジリアンは子供たちを部屋の外に誘導する。
人質の子供たちは全員、ジリアンとザックの狙いを理解して目を閉じていた。
閃光に目をやられずにすんだ子供たちはすぐに立ち上がると、ジリアンの後ろを追いかけるのだった。
鬼は子供たちを追跡しようとする。しかしオリバーは鬼に向けて銃を連射し、完全に足止めするのだった。
その頃、第二備品庫の外の警備はドン、ギルダ、アイシェが制圧していた。
「ジリアン待って!」
アンナが慌ててジリアンを呼び止める。
「ナット達が……!」
対面
ナット、サンディをはじめとした数名の子供達は別室に連れて来られていた、
部屋の上部の窓からはイザベラがナット達を見下ろす。
「大丈夫よ みんなすぐ終わるわ」
部屋の壁面にはナット達を処理するために何かが噴出するシャワーヘッドに似た道具が配置されていた。
さらに鬼は、処理が終わったナットたちに刺す為のヴィダを手に持っていた。
次の瞬間、部屋の外から扉に向けて何発も銃が撃ち込まれる。
破壊した蹴破り現れたのはエマ、レイ、ノーマンの3人。
「みんな!! こっちへ!!」
子供たちに喜びと安堵が広がる。
エマたちは、部屋の窓から自分たち見ている視線に気づく。
(ママ…!!)
イザベラの冷たい視線が向けられていることに気付き、挑みかかるような視線を返すエマたち。
それに対し、イザベラは落ち着き払っていた。
だがその一瞬の睨み合いのあと、エマたちは即座にナットたちを部屋の外に誘導するのだった。
真の狙い
ピーターは敷地の外の2000もの兵によって、エマたちが逃げる余地がないよう、全ての出口を封鎖していた。
エマたちに侵入を許していたわけではなく、わざと侵入させて閉じ込めようとしていたのだった。
エマたちの手により鬼から救出されたが、人質だった子供たちはすでに自分たちがGFから逃げる通路がないことを悟っていた。
子供たちは青ざめた顔で問いかける。
「どう…逃げるの?」
「どの道逃げられん」
見事に自分の思い通りの展開になり、にやりと笑うピーター。
エマたちは一つの部屋に逃げ込むと、ぶ厚い扉とハンドルを閉める。
「え」
エマたちの思わぬ行動に、ナットたちは唖然としていた。
鬼たちはエマたちが逃げ込んだのが在庫保管室であり、そこに立て籠もったことをリーダーの鬼に報告する。
ピーターはこの行動を想定していなかった。
「退路を塞ぐ? そんなのわかってる」
不敵な笑顔を浮かべるエマ。
「そもそも逃げるつもりなんてない!」
「今からGF農園を占拠する!!」
第166話 ゴーバックホーム感想
ピーターの思惑を出し抜いたエマたち。
とりあえず第一ラウンドはエマたちの勝利と言って良いだろう。
在庫保管室ということは食料も豊富にあるのではないか。
100人を超えるシスターが職員として働いているというし、非常食かな?
扉の作りから、セキュリティはかなり厳重だと推測できる。
こんな頑丈な扉を破るには力づくではまず無理だろう。
立て籠もるには最適な条件だと言えるのかもしれない。
しかしいくらピーターの予想を裏切ったといっても、適地のど真ん中で、不利な状況にいることに変わりはない。
敵の数は2000以上。普通に脱出することはもはや不可能だと言って良い。
そういえばGFに人間世界への出入口があったはずだし、そこを通じてGFから脱出することが可能なのかもしれない。
ただその場合、今にも処刑されかかっているソンジュとムジカを見殺しにすることになる。
全然ハッピーエンドじゃないだろ……。
エマたちは人間世界に無事行けたとしても、鬼の世界はピーターの支配を受けてより凶悪に変質していきそうだし、何よりピーターが人間の世界でもエマたちを抹殺しようとしたりして……。
エマたちはピーターを何とか倒さなければ、自分たちの身の安全はないと言い切って良いと思う。
そのくらいラートリー家は食用児にとって天敵だ。
エマたちはイザベラと、そしてピーターとどう決着をつけるのだろう。
ソンジュとムジカの運命も気になるし、これからエマたちが実行しようとしているGF占拠はエマたちを救う作戦となるのか。
以上、約束のネバーランド第166話のネタバレを含む感想と考察でした。
第167話に続きます。
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