第167話 鬼さんこちら
目次
第166話 ゴーバックホームのおさらい
作戦開始
侵入したエマたちの工作により、GFは停電する。
施設内には警報が響き渡っていた。
モニターを監視していた鬼は、侵入された場所が地下7階の動力室だと把握する。
しかしその鬼は、すぐに施設の全ての階を予備電源に切り替えることで対処できると全く慌てていなかった。
鬼は予備電源に切り替わるまでのカウントダウンを残り20秒から開始する。
3日前
11月10日。
エマたちがGFに子供たちを救出に向かうことを決めた3日前、エマたちはペン型端末を起動させてGF内部の詳細な地図を確認していた。
その幾重もの階層が積み重なったGFの図を見て、まるで蟻塚だな、とオリバー。
みんなは? というシスロの短い疑問に、恐らくここだとレイは即座に答える。
「地下2階 第2備品庫」
ヴィンセントは、だろうな、とレイの推測に納得する。
「ここならあの人数を最小警備で閉じ込めておける」
極力人目にもつかずにね、と付け足したのはノーマン。
ジリアンからGF全体の警備について問われ、エマは鬼の職員が30~40匹常駐していると答える。
しかし、それはミネルヴァが生きていた頃の情報だろとナイジェルは青くなる。
「今は…」
「いやスミーの情報でも似たような話だった」
ノーマンは、実際妥当な数だと思う、と自らの見解を述べる。
「ただ…GFでは鬼の約半数が盗難抑止の警備兵 プラス100人以上のシスターたちがいる」
貴族ほどではないが腕利きの鬼が揃っているということか、とザック。
「人間も合わせれば数自体も厄介ですよね…」
不安そうな表情のハヤト。
最後にノーマンが付け足す。
「後はラートリー家と王兵2000だ」
今朝
11月13日。
作戦決行日の朝、エマたちはGFを見下ろす高台からGFにピーターたちが到着したのを確認していた。
王兵が農園の外に配置されているのはエマたちの予想した通りであり、作戦の決行を告げるノーマン。
「このまま3手に分かれて侵入する」
エマ、レイ、ノーマン。
ヴィンセント、ナイジェル、ラムダ兵。
そしてオリバー、ザック、ジリアン、ドン、ギルダ、アイシェの3班は各々が侵入した後人質の奪還と安全確保のために地下2階第2備品庫を目指すのだった。
「来たか」
食用児たちの侵入を受けてピーターは呟く。
「それでいい 奴らが来る場所は判っている」
子供たちは巨大な鬼数体が取り囲まれて身動きが取れずにいた。
「お手並み拝見といこうじゃないか」
不敵に笑うピーター。
そして停電中の施設内全てが予備電源に切り替わる。
電源が回復する直前、ジリアンとザックが子供たちを囲む鬼たちの背後から飛びかかる。
「そこだー!!」
鬼が叫ぶのと同時にザックとジリアンは手に持っている筒状の物体から金属片を抜き、鬼に向かって投げていた。
次の瞬間、筒状の物体は強烈な光を発するのだった。
「こっちよ!!」
鬼たちが怯んでいる隙にジリアンが子供たちを誘導する。
目を閉じていた子供たちはすぐに立ち上がり、ジリアンの後ろを追いかけていた。
子供たちを追跡しようとする鬼だったが、オリバーが一人、鬼たちに連続で銃を撃ち足止めするのだった。
第二備品庫の外の警備はドン、ギルダ、アイシェが制圧していた。
「ジリアン待って!」
アンナがジリアンを呼び止める。
「ナット達が……!」
久々の対面
ナット、サンディ他数名の子供達は別室に連れて来られていた、
その部屋の上部には窓があり、イザベラがナット達を見下ろしている。
「大丈夫よ みんなすぐ終わるわ」
部屋の壁面にはナット達を動けなくするか、もしくは殺してしまうであろう何かが噴出する、シャワーヘッドに似た物体が無数に配置されている。
鬼はナット達に刺す為のヴィダを手に持ち、その時を待っていた。
次の瞬間、銃撃が響く。
部屋の外から連続で撃った扉を蹴破って現れたのはエマ、レイ、ノーマンの3人だった。
「みんな!! こっちへ!!」
「エマ!! ノーマン!! レイ!!」
子供たちの間に笑顔が広がる。
エマたちは、部屋の窓から自分たちを冷たい視線で見下ろすイザベラに気付く。
(ママ…!!)
睨むエマたち。
それに対し、落ち着いた目でエマたちを見返すイザベラ。
しかしすぐにエマたちはナット達を外に誘導して逃げ出していた。
エマたちの本当の狙い
鬼はエマたちを追う。
「いや必要ない」
ピーターは敷地の外に配置した2000の兵に全ての出口の封鎖を完了していた。
エマたちに侵入を許したのではなく、わざと侵入させたのだった。
鬼の手から救出されたにもかかわらず、自分たちがGFから逃げる出口がすでにないことを悟っていた子供たちには笑顔は一切なかった。
「どう…逃げるの?」
「どの道逃げられん」
ピーターはにやりと笑う。
エマたちは一つの部屋に逃げ込み、ハンドルを閉めてロックする方式のぶ厚い扉を閉める。
「え」
エマたちの行動に、思わず唖然とするナットたち。
施設内を逃げる食用児を追いかけていた鬼たちは、エマたちが在庫保管室へと逃げ込み、立て籠もったことをリーダーの鬼に報告する。
エマたちの意外な行動に驚くピーター。
「退路を塞ぐ? そんなのわかってる」
エマは不敵な笑顔を浮かべる。
「そもそも逃げるつもりなんてない!」
「今からGF農園を占拠する!!」
第166話 ゴーバックホーム振り返り感想
戦いが始まった
ついに救出作戦開始。
エマたちの対鬼の戦いも慣れたものだ。
侵入できたことに関しては、救出部隊の誘い込みを狙っていたラートリーとの利害の一致があったためだった。
でもその後の、食糧庫に囚われた子供達を閃光弾を使って鬼の動きを止めて一気に救い出す手際は鮮やかといえるだろう。
複数の鬼の足止めを実現できるオリバーの正確な射撃といい、鬼を倒したドン、ギルダ、アイシェといい……、別に望んでそうなったわけではないが、もう彼らは立派な戦闘集団だ。
これまでのサバイバルの経験が彼らを強くしたのだろう。
エマ、レイ、ノーマンがイザベラと睨み合うシーンが実に熱いなー。
約2年の時間を経て向かい合う因縁のシーン。最高。
イザベラはノーマンがピーターに引き取られていったことは知っているが、その後自分の前に敵として立つとは思っていなかったんじゃないか。
挑みかからんばかりの闘志を見せるエマたちと比べて、一見余裕たっぷりでありながらも、その心の内にはエマたちへの容赦ない殺意が青い炎の如く静かに燃えているのを感じさせるようなイザベラの表情……。
これからの熱い展開を期待してしまう。
イザベラも生き残ろうと必死なんだよな……。
多分イザベラは経験則として、愛情込めて育てることが食用児を最高品質にまで高める最大の要因だと知っていたのだと思う。
だから仕事とはいえ、愛情を込めて育ててきたエマたちを排除したいとは心の底から思っているわけではないはず。
複雑な胸の内をひた隠しにしてエマたちと向き合うイザベラが、これからどんな顛末を辿るのか今から楽しみでしょうがない。
そして物心ついた頃からイザベラを親のように慕って育ってきたエマたちも、内心に複雑な想いを抱えているのは同じだろう。
今は子供たちの救出のためにそれは完全に意識の外に追いやっているが、これから話が進むにつれてそれが剥き出しになっていくのではないか。
どんな人間ドラマが待ち受けているのか期待したい。
これが最後の戦いなのか?
そういえば確か、GF内に人間の世界への出入口があったはず……。
エマたちはその出入口の位置に検討をつけており、そこから救出した子供たちを引き連れて人間の世界へと向かうのかなと思っていた。
でも、なんとエマたちは逃げるどころか逆にGFを占拠するつもりで動いていたらしい。
2000以上もの敵相手に勝算があるということ?
ここからまともに正面から戦ってそれを為そうとしているわけではないと思う。
だとすれば一体、ここからどんな作戦を用いてGF占拠を達成しようというのか。
エマ、レイ、ノーマンの3人の天才児の集合知の真骨頂が見られるわけだ。
GF脱出編では脱出作戦決行前にノーマンが離脱してしまった。
その後、鬼の世界でのサバイバルはエマとレイを中心にドンやギルダなどみんなで乗り越えてきた。
このGF占拠戦は3人が最初から組んで行う、ひょっとしたら最初で最後の戦いなのかもしれないのか……。
物語の終わりが近付いているから色々と感慨深いものがあるな……。
そういえば、今にも処刑されそうになっているソンジュとムジカはどうなる……?
仮にGF占拠が成功したとして、そもそもエマたちはソンジュとムジカの危機を知らないから救出のしようがない。
実際、部隊もGF攻略に集中している。
追い詰められたピーターがソンジュとムジカの命を取引の条件にして助かろうとするのかな……?
もしくは戦いの最中にエマたちの動揺を誘う材料にする?
そういえば首領とエマが交わした新しい約束に関してもまだ明かされていなかったっけ……。
新しい約束や、ソンジュとムジカがどうなるかも頭の隅に置いておきつつ、これからのGF占拠戦及びイザベラ、そしてピーターとの決戦を見守っていきたい。
前回第166話の詳細はこちらをクリックしてくださいね。
第167話 鬼さんこちらのおさらい
2年越しのリベンジに燃える鬼
鬼は制御室からエマたちの立てこもる在庫保管室を開けようとしていた。
しかし扉が反応しない。
今度は外で爆発が起こる。GFに向かうための外橋が落ちていた。
ピーターはエマたちの行動の目的を考えていた。
エマたちがGF内の敵全てを倒すつもりだったとして、外にいる王兵2000の存在に気付いていないはずがない。
それに仮にGFを乗っ取れたとして、一体誰にどういった要求を行うのか、他に逃げる算段があるのか、とピーターは必死に考えを巡らすものの、これだという答えには行き当らなかった。
鬼のボスは立てこもった侵入者は一部に過ぎず、その目的は人質の確保と隔離だと部下に周知していた。
在庫保管室から数人が飛び出してきて、農園を奪うべく行動を起こすと鬼のボスは予想する。さらに彼らは鬼の弱点、GFの内部構造も知っていると警戒を促すのだった。
そして保管室の人質よりもまずは侵入者だとターゲットを定める。
「此度は逃がさん」
鬼のボスは2年前、エマたちに逃げられた屈辱を晴らそうとしていた。
「家畜共の好きにはさせん」
鬼ごっこ
「”鬼ごっこ”開始だ!」
在庫保管室からエマ、ノーマン、ジリアン、レイが飛び出す。
待ち構えていた鬼が武器を振るうものの、それを悠々と飛び越えるエマ。
レイは鬼に向けて銃を撃ちこんでいく。
鬼は自分の手で弱点の目がある顔をガードする。
「構わん! 撃ちまくれ!!」
レイが叫ぶ。
その命令に従い、ドン、ジリアンは銃を乱射する。
「退くわよ!」
数匹の鬼を銃で足止めするジリアン。その隙に退避を促していく。
鬼たちはエマたちを追いかけながら、エマたちが西と東の二手に分かれていくのを制御室に伝える。
制御室の鬼のボスは全階から兵を集め、地下2階を封鎖すると全ての鬼に呼びかける。
一斉に閉まっていくシャッター。
逃げ場を塞がれたエマたちは、鬼に追い詰められていく。
ジャック
行き止まりだ、と勝ち誇る鬼。
しかしノーマンは笑顔を浮かべていた。
「それはどうかな?」
同時にシャッターが開いていく。
一気に焦る鬼たち。
ヴィンセント、ナイジェル、ハヤトは壁のパネルを外して引き出したコードをパソコンに繋いで作業していた。
「接続完了 敵制御室を乗っ取った」
制御室では、鬼たちがシステムを遠隔操作されていることに気付き、侵入された箇所を洗い出そうとする。
ヴィンセントはパソコンを使って各箇所の扉の開放と閉鎖を同時に行っていく。
そしてナイジェルも、敵のカメラをモニターに表示させることに成功していた。
ヴィンセントはそのモニターをじっと見つめてから、ノーマンに一気に敵の位置を伝えていく。
ノーマンは事前に覚えていた施設の内部構造と、ヴィンセントから知らされた敵の位置を脳内で照合させ、施設内の仲間たちに敵の現在の位置と併せて的確に指示を出していく。
ノーマンからの情報で、エマたちは鬼を相手に戦いを優勢に進めていく。
鬼に追いかけられていたギルダは、転んでしまい鋭い爪による攻撃を受けようとしていた。
しかしギルダに爪が届く直前にアイシェが鬼を撃ち殺すのだった。
鬼たちは侵入者たちが全く捕まえられなかった。
侵入者たちが、自分たちがどこから出てくるのかわかっているのに加えて、さらにどう動けばよいかも分かっていると感じていた。
「オイ…どうなってる」
しかし回線のノイズがひどくなり、通信ができないことに気付く。
ナイジェルが通信妨害を行っていた。
目指すはピーターただ一人
ヴィンセントはピーターが地下1階の応接室にいるとノーマンに報告する
その情報を受けて、オリバーがノーマンたちに呼びかける。
「ここは任せて先に行け!」
「ありがとう 恩に着る!」
地下1階へ向かうエマ、レイ、ノーマン。
一方、制御室の鬼はシステムジャックしているナイジェルたちの場所を特定し、そこに鬼を向かわせていた。
「させるかよ…!」
ナイジェルがパソコンを操作する。
「鬼さんこちら!」
ジリアンは鬼を誘導する。
鬼たちはホールに集まっていた。
(え なんで全員…)
呆然としている鬼たち。
オリバー、ジリアン、ドンたちはそんな鬼を見下ろしていた。
睡眠ガスを噴き出す装置を鬼たちに向けて放り投げて、シャッターを閉める。
鬼を殺さずに無力化するのは事前に立てていた作戦の一環だった。
(「狙うべき大将はピーター・ラートリー」)
「誘導完了!」
オリバーたちもまたエマたちに追随する。
「俺達も急ぐぞ!」
第167話 鬼さんこちらの感想
反転攻勢
完全に鬼たちを手玉にとってるなー。
エマたちが逞しくなり過ぎ。
これまでの経験全てが活きてる感じがする。
元々GFでエリート教育を受けてきたエマたちが死線を越えてきたことで強くなった。
オリバーたちも猟場での日々で鍛えられ、その後エマたちと合流して一緒に鍛えられた。
そこにノーマンという頭脳、そしてヴィンセントたちが加わり、戦力はさらに厚みを増したと言える。
エマ、レイ、ノーマンの3人が集まるとここまでチーム力が向上するのか……。
これは、各地の農園を解放できるんじゃないかな。前回はGF内の人間の世界への出入口を使って人間の世界に逃げるのかなと思ったけど、そんなに慌てて逃げる必要もないのかもしれない。
鬼はエマたちを侮っているわけではない。
でもエマたちに全く被害を与えられていない。
このエマたちの戦いぶり……。安心感すらある。
制御室を乗っ取れる技術力があったのか。天才過ぎる。
まぁ、事前に練っていた作戦が良かったのと、作戦遂行力の高さだな。
結論としては、みんなあまりにも優秀過ぎた。
非常に勢いがあるが、このままエマたちが押し切れるかどうかはわからない。
何しろピーターには敵に対する残酷さ、容赦のなさがある。
いくら優秀とはいえ、エマたちには可能であれば敵を殺したくないという、戦いにおいては致命的ともいえる欠点を持ち合わせているわけだ。
アンドリューの悪夢再び……とならないことを祈りたい。
食用児にあまりにも被害が少ないことがリアリティに欠けるという意見もあるかもしれないが、あの時みたいに子供がバンバン惨殺されるよりはマシかな……。
あと、ピーターを倒したとしても、まだイザベラという強敵がいる。
エマたちGF組には、ピーター以上にやり辛い敵だと思う。案外ラスボスはイザベラなのかもしれない。
この勢いのままエマたちはピーターに勝利できるのか。
次回で顔をあわせることになるのかな。
そこでどんなやり取りが行われるか期待したい。
以上、約束のネバーランド第167話のネタバレを含む感想と考察でした。
第168話はこちらです。
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