第100話 到着
目次
第99話のおさらい
支援者とのやりとりを終えて
通話を終え、レイは本当に生きた支援者がいたことに驚いていた。
電話口の人物が仮に敵ならば自分たちとどうにか接触するか、あるいは居場所を聞き出そうとするし、電話をかけ直すまでの期間が短いはず、と考えたレイは、敵の可能性もあるが恐らくは本物だったと思うと結論付ける。
しかし、支援者がまだ自分たちの目的が逃げる事ではなく食用児の全員解放だと知らない以上、本当に助けてくれるかは分からないと考えていた。
その考えを受け、エマもまた、自分たちの目標について”支援者”に向けてなるべく早く伝達する必要性を感じていた。
味方には違いないとするルーカスも、”支援者”が差し迫った状況に置かれていることを指摘する。
それらを総合し、敵の脅威が近いということ、と推測するエマ。
そしてレイは、次に”支援者”と接触するまでに”七つの壁”探しを進めたいと口にする。
クヴィティダラのリュウの目で昼と夜を探すべし
まず北へ10里
つぎに東へ10里
つぎに南へ10里
つぎに西へ10里天へ10里 地へ10里
砂の間で矢が止まり
日が東へ沈むとき
地が哭き壁は現れる彼と我らを隔つもの
即ち七つの壁なり
ラニオンとトーマの二人は、この文に示されている事がおかしいとしながらも、その中にある”クヴィティダラ”に関しては見たことがある、と笑う。
エマたちがGPに行っている間、レイは古文書の”解読”をドンたちに頼んでいた。
ドンたちの努力により、解読が難しかった部分が鏡文字のラテン語だったと判明する。
レイの読み通り、古文書はは何人もの人の手記の写本だったと答えるドン。
その中に”クヴィティダラの竜”が出てくると続ける。
それは場所なのか? と言うエマに、ギルダが多分場所と同意し、地図を見せる。
テーブルの上に地図のページが開かれ、その右のページに手描き文字で”D528-143”と付け足されている。
「『クヴィティダラの竜の目で昼と夜を探すべし』その先のヒントもサッパリだけど……」
”D528-143”という遠い指定座標であるものの、まずはそこに行くことに決定する。
”支援者”がB06-32を動くなと言った以上基本的にはシェルターを守る方針を示すレイ。
エマは大人数だと目立つので少数で向かうと続ける。
今回もエマとレイとユウゴは確定で、他には一体誰かが行くのかと考えるドン。
レイが、まず俺とエマそれからドンとギルダ、と言ったのを疑うように、ドンとギルダの二人は同時に、え? と声を上げる。
道中、おそらくは大量の鬼がいるのに加え、目的地までのガイドもいないという危険な旅となる可能性を指摘するユウゴ。
エマはそれを覚悟していた。
そしてユウゴが同行するなら心強いが、ユウゴにはすぐそこに迫っているであろう敵からシェルターを守ってほしいと今回の選抜の理由を挙げる。
食用児の拠点を手薄に出来ないとして、エマはユウゴにその守りを依頼するのだった。
そして、ドンとギルダを頼れると説明するエマ。
それを聞いてドンとギルダは涙を流す。
張り切るドンと、留守番ではなく直接役に立てることを喜ぶギルダ。
二人はエマとレイに精一杯頑張ると宣言する。
どうしても心配なユウゴは、ザックとヴァイオレットを連れていくようにと提案しする。
エマに、お願いしていい? と言われた二人は喜んで、と同行することに。
出発の準備として、銃器、食料の準備と並行して古文書のさらなる解読を進めて行く子供たち。
そして2046年3月10日、6人の選抜メンバーはシェルターを出発するのだった。
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第100話 到着
フィル達の現在
エマ達が脱走してから2か月後のGF。
晴天の下、子供達は楽しそうに庭を駆け回っている。
空を見上げていたフィルに、エマと同じくらいかそれ以上の歳の男の子が、遊んでくれ、と楽しそうに声を掛ける。
しかたないなぁ、と彼と手を繋ぐフィル。
家の中に入ると、この二カ月で話せる言葉が増えていたキャロルが、ふぃゆ、とフィルに声をかける。
フィルもまたこの二カ月の間に成績が上がっていたし、同じ家に暮らす、エウゲン、チャーリー、ミローシュに関しても元気だった。
しかしそれ以外の子供に関しては自分たちとは別の家――4つの飼育場にバラバラに分けられており、その後は一体元気なのかフィルには分からなかった。
ママは新しくなり、兄弟も新しくなっていた。
最年長のお兄さんのジャッキー、優しいお姉さんのヘレン、少しドンに似ているお調子者のサイモン。
「さぁみんな サイモンにお別れして」
ママは満面の笑みを浮かべるサイモンの後ろで、やはり笑顔で肩に手を置いて他の子供たちに呼びかける。
口々に別れを言う子供達。
ある者は笑い、あるものは泣き、皆それぞれサイモンのその後の幸せを心から願っている。
そんな子供たちの顔ぶれの中、フィルの表情はこわばっていた。
(みんな何も知らない)
フィルはサイモンから、自分が大人になったら何になりたいのかと楽しそうに問われた時の事を思い出す。
フィルはママの説明した里子の事など嘘であり、サイモンが今日、”収穫”されることを知っていた。
自分に良くしてくれたサイモンに対して逃げるように呼び掛けたいフィル。しかし、もしそれを言えばシェリーや他の子供たちを危機に晒すことになることを知っていた為、フィルはただただ他の子供たちと同じように俯いて涙を流すより他に出来ることがなかった。
(レイもこんな気持ちだったのかなぁ)
翌朝。
食堂で朝食を楽しそうに頂く子供達。
そんな子供たちの中、フィルは手を全く動いしてなかった。
フィルの様子を見て、ヘレンが、具合悪いの? と優しく声を掛ける。
その様子に気を尖らせるママ。
フィルは夜、ベッドでエマのことを想い、押し寄せてくる寂しさと戦っていた。
エマとの別れ際、彼女達が救いに来るまで待てる、それまで頑張ると約束していたフィルは、自身を懸命に奮い立たせていた。
(負けるもんか! 僕がみんなを守るんだ)
フィルはエマ達が自分達を迎えに来てくれると信じていた。
そして、エマ達が来れないなら自分が皆を伴って逆に会いに行くと決意していた。
心配そうにしているヘレンに、ううん、と返事をするフィル。
「元気だよ」
満面の笑顔でフォークに刺したおかずを口元に運ぶ。
不審な来訪者
家のドアがノックされる。
特別なお客さん、とママが紹介して入ってきたスーツ人物は自らをアンドリューと名乗る。
「君 名前は?」
いきなりアンドリューに話しかけられたフィルは驚き固まるが、フィル、と答える。
周りの子供たちもアンドリューの異様な迫力に押されるように表情を強張らせていた。
「フィル」
アンドリューはフィルの目の前にしゃがみ、目線を合わせる。
「君と話がしたい」
クヴィティダラへ
森の中を行くエマ達。
ペン型端末は”A09-03”を示している。
ヴァイオレットが何か聞こえるとエマ達に呼びかける。
エマが耳を澄ますと、確かに、サアア、と何かが聞こえる。
「多分川だ 地図の通りならこの先に川がある」
ドンが笑顔で答える。
地図を見てないのに判るのか? というザックに、暗記してきたとドン。
「暗…」
信じられない様子のザック。
ギルダはレイに言われて古文書の地図と資料室にあった地図の全てを暗記したのだと答える。
別にハウスのテストよりマシだったろ、と事も無げに言うレイ。
ハウスでのテストには”次の図を10秒で記憶しなさい”という問題があったのだった。
楽しそうに笑うエマ。ははは…、と乾いた笑いを浮かべるドンとギルダ。
レイは自分たちGF組4人は地図として好きに使ってくれ、とザックとヴァイオレットに呼びかける。
(GFヤベェ)
引き気味のヴァイオレット。
しかしレイは、折角覚えた情報だがそれらは古いものなのであくまで参考に過ぎないと注釈を入れる。
「地形はともかく鬼の集落は地図通りだと思わない方がいい」
どんな鬼がいるかも地図ではわからない、とエマ。
レイは、まずは鬼の痕跡を観察して、それを回避する事で鬼に遭わないことを第一に考えることと口にする。
樹の上に登ったエマ達。
野良鬼の群れの通過を待っている。
レイは、鬼を回避することに努めた上で、それでも遭遇してしまった場合は見つかる前に身を隠し、それでも見つかってしまったら仲間を呼ばれる前に片付ける、と対鬼の方針を述べる。
エマは樹上から飛び降り、矢を野良鬼の弱点である目にヒットさせていく。
「……」
鬼の死体を前に何とも言えない表情のエマ。
「一番ヤベェのは人型の知性のある鬼」
樹上高くから周囲を見回すヴァイオレット。
その下をエマ達が進んでいく。
一行はところどころでペン型端末を起動し、位置情報を確認しては進んでいく。
そして、ある地点に辿り着き、ペン型端末を起動させるエマ。
座標は”D528-143”を示している。
「着いた…! ここがクヴィティダラ?」
感想
頭脳明晰なGF出身者
忘れかけてたけど、エマ、レイに限らず、GF出身者は知能の平均値が高いんだっけ。
各地に4つあるという高級農園の中でも最高クラスだったはず。
僅かな期間で地図を丸暗記するとかとんでもない頭脳だ。
毎日テストを繰り返し、ある一定の歳までに今後もその結果が振るわないと歓談されれば即出荷という、あまりにも過酷な環境下でずっと生き残り続けてきた言わば超エリートだもんな……。
こういう丸暗記系は大人よりも子供の方が優れていると思うけど、それにしたってその学習速度は異常だろう。
GV出身者のザックとヴァイオレットが驚いていたけど、やはりGF出身者はすごい。
一緒に死線を乗り越えたエマ、レイに関しては言うに及ばず、ドン、ギルダに関しても相当頼りがいがあるだろうな。
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意外とあっさりとクヴィティダラに到着した。でもそれは鬼の弱点を知ったことやGPでの死闘でエマ、レイ、ザック、ヴァイオレットの対鬼の戦闘力が飛躍的にアップしていたのが主な要因ではないかと思われる。つまり子供は成長が早いってこと。
フィル達のその後
エマ達がGF農園を脱出後、残されたフィル達は焼失したハウスからそれぞれ4つのグループに別れて、別々に暮らしていたようだ。
エマ達の脱走からわずか二カ月だが、幼い子供にとっては決して短くはない時間。
その間、フィルは成長していた。
新しくやってきたところでも、当然ながら里親の元に行くという名目での出所は定期的に行われている。
その光景を前にして、この先彼らに待ち受けている残酷な運命を知っているのに、シェリーを始めとした他の幼児たちの事を守る為には彼らに一言の忠告すら出来ないという悲しみ、自分に対する無力感がフィルに涙を生じさせる。
この反応は、精神年齢が大人クラスだと思う。
普通の子供ならそこまで気が回らない。
レイもこんな気持ちだったのかな、と泣くフィルを見て、こんなのあまりにも惨くて辛いと感じた。改めて思うが、この環境は救いが無さ過ぎる。
たとえ食べるものが安定して取れなくても、野良鬼に襲われる危険があったとしても外の方が遥かに良いなあ。
ママに目をつけられるのを避ける為に作り笑顔を浮かべるフィルがあまりに健気すぎる。
メチャクチャいい笑顔なんだけど、だからこそ悲しい。ここでの戦いを懸命にこなしているんだな……。
フィルとアンドリュー
この邂逅からはマジで不吉な予感しかしない……。
素直に考えれば、アンドリューは偽シェルターの中から当たりを探すことと同時並行で、フィルを利用してエマ達をおびき出そうと画策しているのではないだろうか。
もしくはその前段階として、フィルとは違う施設に行った子供を人質にとってフィルに言う事を聞かせようとしているのか……。
この先、とにかくフィルが苦しむ胸糞悪い展開が待っているような気がしてならない。
エマ達の出身であるGFに残された幼い子供を人質として使えば決して無視は出来ないと踏んだか。
もしそうならエマ達にはもうどうしようもないと思う。為す術がない。
今回も描写があったように、エマ達GF出身者は極めて頭脳明晰だけど、フィル達を見捨てられるほどの冷徹さはないだろう。
フィル達の奪還は彼女たちの大切な目的。つまりフィル達の存在は希望であると同時に急所でもあったわけだ。
賢いフィルはこれからアンドリューの質問から、比較的早い段階でエマ達の捜索及び殲滅という意図を感じ取るのではないかと思う。
それを阻止するために必死に頭を回転させて受け答えをする展開とかだったら緊張感があっていいなあ。
なるべく、ごく普通の知能の幼児を装って、わざと拙い受け答えをするように演じてみたりするのかな。
ただ、それで騙せる程アンドリューは甘い敵とは思えない……。
やはりエマ達をおびき寄せる為に利用されてしまうんじゃないかと思う。
この状況下でフィルが一体どうやってそれを避ければいいのか皆目見当もつかない。
クヴィティダラに到着したエマ達と並行して、フィルとアンドリューに関してもこの後の展開に期待したい。
以上、約束のネバーランド第100話のネタバレを含む感想と考察でした。
第101話に続きます。
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