第164話 笑顔の悪魔
目次
第163話 反転のおさらい
大僧正復活
ソンジュとムジカは自身の血を大量に大僧正に与えることで、即身仏の状態だった大僧正を復活させることに成功していた。
二人の様子にただならぬ事態を感じている様子の大僧正に、ソンジュたちに何があったのかを説明する。
王と五摂家の死、それによる社会の危機は大僧正にとって怖れていたことだった。
しかしだからこそムジカたちのような者がいるのであり、我々は試されているのだと大僧正は王に即位することを了承するのだった。
四賢者の復活にとりかかろうとするソンジュ。
しかし外の様子に異変を感じ、ムジカ、大僧正と共に様子を見に行くのだった。
合議連合による新政権宣言
広場に集まった鬼の民衆の前で、女王や五摂家が賊によって殺害されたことが発表されていた。
そして続けて、四大農園と五摂家の各家臣団による合議連合が政治を取り仕切ることの声明文の読み上げが行われるのだった。
ソンジュたちは広場の様子を家と家の間からそっと伺う。
(早すぎる)
ソンジュは女王の死亡確認から政権樹立の声明までがあまりにも早過ぎると感じていた。
それも、各家臣団は意思の統一など到底とれず、ソンジュにとっては、彼らがここまでスピーディーにまとまって政権を樹立することなど考えられないことだった。
ソンジュには想像すらできなかった事態の裏には、ピーターの存在があった。
ピーターは各家臣団の長の上に立つことで合議連合のまとめ上げに成功していたのだった。
賊による王、五摂家の暗殺に戸惑う民衆たち。
声明を発表した鬼は、かつて国賊として追放されたギーラン一派と、邪血の二人組の男女だと人相書きを広げる。
その人相書きをを見て、自分たちを救ってくれたとざわつく民衆たちを、政府の鬼は全員牢に閉じ込めるのだった。
何故閉じ込められたかわからず困惑する鬼の民衆たちに、新政府の鬼は告げる。
「お前達は有害な血に汚染されている よって隔離し”処分”する」
捕まってしまった親の元に行こうとする子供たちを、新政府の鬼は、君達も血を飲んだろ、と足止めする。
「知られたら君達まで捕まるぞ それでいいのか」
扇動
「報復だ」
声明を読み上げた鬼が民衆を扇動を開始する。
「逃げる汚染分子は迷わず捕えよ!!」
「敵は許すな! 陛下らへの我らへの攻撃を決して許すな!」
「死の報いを!!」
一斉に散る民衆たち。
すでにその場から逃げ出していたソンジュたちは、自分たちが王都新政府の敵になったことを思い知っていた。
(チクショウ これじゃ何も変わらない これまでのあのクソみてぇな世界と!!)
エマたちのことを思い出すソンジュ。
(変われる好機だったのに…!)
エマやソンジュたちによって有利に進んでいた盤面は、ピーターの一手によって完全にひっくり返されていた。
(どうする)
必死に逃げながらソンジュはこれからどうするかを考えていた。
まずは身を隠してからだと考えるが、血を使い過ぎた自分やムジカ、そして1000年の眠りから復活したばかりの大僧正も体力が残されていなかった。
暴徒化した民衆にあっという間に囲まれるソンジュたち。
ソンジュは槍をとってムジカと大僧正だけでも逃がそうと追手たちに挑みかかる。
しかし大量に失われた血液はソンジュから戦う力を奪っていた。
「ソンジュ ムジカ 国家転覆罪で逮捕する」
ソンジュたちは為す術なく追手に制圧されてしまうのだった。
第163話 反転の振り返り感想
ピーター・ラートリーの起死回生の一手
せっかく大僧正を復活させたのに間に合わず……!
ソンジュとムジカは新しい王を助ける立場として民衆から感謝されるどころか、逆に合議連合の扇動により暴徒化した民衆から追われる立場になってしまった。
この大逆転を生む一手を打ったピーター・ラートリー、恐るべし。
女王の死から合議連合による新政権の宣言までの早さは、完全にピーターによる仕業だ。
この事態をソンジュに予期しろと言っても無理だわ……。さすがにラートリー家の存在は知っているだろうけど、現当主のピーターが一体どんな人物で、今回の事態にどう関わっているかまでは、きっと想像すらできないはずだ。
ピーターのフクロウ型カメラによって得た女王の死という情報は、非常に素早く、かつ効率的に五摂家の家臣や四大農園の管理者に共有されたようだ。
おそらく女王の死という報を受けた鬼の家臣が実際に城の一室にある女王の死体を確認したことで、すぐに家臣団が合議連合を組むに至ったのだろう。女王の死の確認から家臣団による速やかな合議連合結成までがピーターの指示だった。
きっと、あと半日程度女王の死が発覚しなければ、大僧正を中心に据えた政権が興っていた。
もちろんその場合でも合議連合が立ち上がり、大僧正やソンジュ、ムジカと対立することで、鬼の社会にいくばくかの混乱が生じていた可能性はある。しかしその場合、ソンジュとムジカに命を救われた民衆たちを中心に、支持の大半は敬愛する大僧正を王とする新政権に集まったことだろう。
だが現実はそういった民衆は合議連合によっていち早く牢に閉じ込められて無力化し、ソンジュとムジカは新政権によって真っ先に政治犯として逮捕されしまった。
まさかほんの少しの差でここまで結果が生じるとは……。
勝負所ではスピード感を以て事にあたること、肝となる情報を手に入れること、あるいは守ることの大切さを教えられたわ……。
女王の死という重要な情報を素早く入手したことはもちろん、その後のピーターの指示が的確で、ピーターにとってはこれ以上ないくらいの結果に繋がった。
これからどうなる?
ソンジュとムジカによる大僧正の王への即位は頓挫した。
それどころか国家転覆を企てた大罪人として二人は虜囚の身となり、もう自由には動けない。
せめて四賢者を復活させていたらまだ希望はあったかもしれないのに……。
大僧正を中心に据えた政権の樹立を目指していたのはソンジュとムジカだけであり、合議連合による政権は着実に、そして急速に前女王政権の体制を引き継ぐことで力を持つだろう。
鬼の社会に混乱は生じたものの、基本的にはこれまでと同じ社会ということだ。
せっかく女王や五摂家を倒したノーマンたちからすれば、鬼の絶滅を目指して城下町の民衆にばら撒いた毒もソンジュとムジカによって治癒されたことも含めて絶望的な結果に終わったと言える。
エマたちは仲間を救出して、その後人間の世界に逃げるしか出来ないのか?
そういえば、鬼の首領との間で新しく結んだ約束はまだはっきりとはわかっていないんだよなー。
エマを犠牲に他の食用児の無事を保障するものだったりして……。
エマを残して全ての食用児が人間の世界に逃げられるとか?
続きが気になる……。
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第164話 笑顔の悪魔
アウラとマウラ
ソンジュとムジカを捕えた兵士たちは勝どきを上げたあと、邪血の血を得た鬼を捕まえるべく散っていくのだった。
裏路地には二体の小鬼。
そしてその子たちに接触していた二体の兵士がいた。
上官から、その子供たちが邪血かと問われ、二体の兵士は無関係だと答える。
その答えに納得した上官は、汚れた血の持ち主となった鬼は捕まえるようにと命じて、その場を去るのだった。
(汚れた血……)
上官が行ったあと、二体の兵士は、今後どうするかを考えていた。
二体の兵士は邪血の一派について王家に反乱を起こした逆賊だと聞かされていた。
しかし今回街で起こった混乱を静めるように動いていたのは社会を乱すはずの邪血の二人だったと聞いており、二体の兵士は戸惑っていた。
邪血とは退化を防ぐための、鬼にとっての究極の退化に対する特効薬で、しかもただ飲むだけで簡単に広まっていくという、鬼にとって極めて有用な存在だと気付き始めていたのだった。
なぜ特効薬を穢れた血と呼び、ソンジュとムジカを追うのか。
その疑問に、邪魔だから? と兵士は思いつく。
人を食わなくても退化しない血の存在が表面化すると、農園を使った人々の支配が不可能になる。
つまり邪血の排除は、農園による民衆の支配に邪魔だからではないか、そして今も行われているのではないか、と兵士は気付き始めていた。
社会支配のために、特効薬を喪失させようとしている。
そんな私欲のために邪血の血を得た皆が捕まっているのだと兵士の思考が続く。
「ねえ」
兵士に鬼の子供が話しかける。
「父ちゃん母ちゃんはどうなっちゃうの…?」
「助けてくれた鬼ちゃんとお姉ちゃんは……? 殺されるの?」
子供は血を得て退化から救われた鬼や、彼らを助けたソンジュとムジカがあまりにも理不尽に捕まったことを嘆いていた。
そして、子供たちは泣きながら、兵士に両親たちやソンジュ、ムジカらを助けるよう頼み込むのだった。
兵士たちは子供たちに名前を問う。
アウラとマウラと名乗る二人の子供。
兵士たちは、自分たちは何もできないが、せめて君達を助けさせてくれと声をかけるのだった。
笑顔と狂気
邪血の血を得た鬼たちは縛られ、地面に座らされていた。
「お前達の血は全ての民を危険に晒す よって国の為 民の為この場で”処分”する」
3日後(2047年11月13日)。
ピーターは、指示通り邪血の力を得た鬼の全ての処分が完了したと部下から報告を受けていた。
ソンジュとムジカの処刑も本日、間もなく行われると続ける。
「これで農園システムを脅かすものは”彼ら”の内にはありません」
ピーターは、捕えた子供たちの元に来ていた。
ナットのロープを切って拘束を解く。
ピーターは笑顔を浮かべ、エマたちが生きており、女王たちを殺したとナットに伝える。
「いやぁビックリ まさかまさかアハハハハハ」
次の瞬間、ピーターはナットの右手中指を笑顔を浮かべたまま折る。
悲痛な悲鳴を上げるナット。
「嘘を吐いたね」
ピーターは怒りを露わにする。
その剣幕に子供たちは恐慌状態になるのだった。
「大丈夫! みんな! 俺は大丈夫だから!」
子供たちを落ち着かせるべく、ナットは笑顔を作りながら強がりを口にする。
「よせよ”ナット” 強がるな すごく痛そうだぞ」
そう言って、ピーターはナットの折れた指を革靴で踏みつける。
再び悲鳴を上げるナット。
「もうやめて!」
必死に懇願するアンナ。
「大丈夫 もはや多少の損傷は気にしない」
ピーターは口元を歪ませる。
「品質体裁重視の貴族連中は君達の仲間が全員殺してしまったからね」
そしてピーターは、もう嘘はなしだと前置きすると、次の質問に正直に答えるようにと子供たちに呼びかけて質問をし始める。
「お前達は既に”約束”を結んだのか?」
ピーターは笑顔で、ジェミマを拘束していたロープを切り、そのナイフをジャミマにつきつける。
「ジェミマ!!」
「決めた そこの君」
アンナに呼びかけるピーター。
「私…?」
アンナは恐怖に顔を引き攣らせる。
「今度は答えを間違うなよ?」
ジェミマの肩を抱き、ピーターはアンナに答えを求めるのだった。
第164話 笑顔の悪魔感想
ストレスのかかる展開
絶望的な展開の連続……!
物語にはこうやって追い込まれるフェーズも必要とは言え、エマたちの試練はどこまでも過酷過ぎる。
ソンジュとムジカも、結局前回のラストのまま、捕まっちゃったし……。
それどころか間もなく処刑されそうだし……。
兵士に助けてもらった、アウラ、マウラの二体の小鬼は今後新しい邪血として生きるのだろうか。
だとすればソンジュとムジカ、処刑されでもおかしくないな……。
子供たちを見逃し、救った二体の兵士は、どうやら邪血の真相に気付いているようだ。
この二体の兵士は、邪血が退化を防ぐ薬であること、そして支配層が農園で収穫できる人肉を使い社会を支配しようとしていると気付き、支配層は邪血を排除しようとしていたという真相に肉薄した。
しかし兵士は子供を救う以外のことはできないっぽい。
もはやこの状況でソンジュとムジカを救うべく立ち上がれるのは、二体の兵士と同じように邪血の真実に気付けた民衆だけではないか?
そしてGFに囚われた子供たちから犠牲を出さずに済むのか?
アンナはピーターの質問に答えざるを得ないだろう。
エマは”約束”を結べた。その内容は子供たちに共有されているはずだ。
次回はまず、その具体的な内容が分かるのだろう。
そしてエマたちはGFの子供たちを助けられるのか。
以上、約束のネバーランド第164話のネタバレを含む感想と考察でした。
第165話はこちらです。
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