第100話 連載
第99話のおさらい
北瀬戸高校の図書館。
響と鏑木は一触即発状態で互いに向かい合っていた。
二人のただならぬ様子に、他の生徒たちが騒ぎ始める。
そして教師を呼びに行く生徒も現れる。
響は臨戦態勢を保ったままかかってきた花井からの電話に出ていた。
花井は幾田から連絡を受けて、この状況を収めるべく響に電話していたのだった。
響は自分の目の前にいる人物が漫画家であることと、彼女を学校外に出して欲しいことを聞くと電話を切っていた。
生徒たちはその光景を前にして、呆気にとられていた。
敷地外からその様子を見ていた幾田も立ち尽くすのみ。
生徒が呼んだ教師の登場により、鏑木は窓から外に脱出する。
鏑木は追ってくる男性教師の顔面を拳で殴りつけて見事に脱出に成功するのだった。
無事に逃げることができた鏑木と幾田は、や北瀬戸駅から新宿行きの電車に乗って一息ついていた。
響と会った感想を、カッコ良かった、と呑気に述べる鏑木。
それに対して幾田は顔を手で覆い俯いていた。
その態度にイラつくと鏑木に注意された幾田は、響の行動しだいで、俺たちは終わりですよ、と言って鏑木は逮捕、自分は左遷かクビとこの後に待っているかもしれない自分たちの処遇に関して分析する。
幾田は呑気な様子の鏑木に対して、自分は何とでもなるが、『カナタの刀』で2000万部作家となった鏑木紫が無駄に社会的生命を途絶えさせるなと語気を強める。
幾田からの説教を受けて笑顔を返す鏑木。
そして鏑木は、迷惑をかけたかわりにおみやげが二つある、と話題を変える。
それはさきほど響に強引に『鮎喰』と書かせた原作使用許諾書。
そして自宅から持参した漫画版『お伽の庭』の1話目のネームを描いたノートだった。
ネームを読む事に集中し始めた幾田を笑顔で見つめる鏑木。
鏑木たちを運ぶ電車は終点の新宿に到着していた。
しかし鏑木も幾田も降車しない。
ネームを読む事に集中している幾田を相手に、鏑木は『お伽の庭』であればエンタメにとっては禁忌ともいえる情景描写でエンタメができるのではないか、という考えを披露していた。
そして幾田に、果たして自分が面白くない作品を描くというミスを犯してはいないかと問いかける。
それに対して幾田はネームを読むうちに浮かんでいた明るい表情で応えていた。
幾田は風景だけのコマにもかかわらず、こんな面白さははじめてと最高の賛辞を述べる。
それだけ聞ければ十分とばかりに鏑木は幾田からノートを受け取ると、後はよろしく、と幾田から離れていく。
幾田はそれでも、響の気持ちを無視して仕事することは出来ないと鏑木に食い下がる。
しかしそんな幾田は、そんな自身の編集者としての良心から出た主張を、私の漫画は面白かったなら、お前は黙って雑誌に載せることだけ考えろ、と一蹴されてしまう。」
鏑木の滅茶苦茶な、しかしクリエイターとしてどこまでも真っ直ぐな主張を受けて、幾田は鏑木とどこまで行く覚悟を決めるのだった。
前回、第99話の詳細は以下をクリックしてくださいね。
第100話 連載
幾田に釘お刺す花井
響は公園の滑り台の上に腰を下ろし、空を眺めていた。
そしてふと思い立ち、その足で涼太郎のブックカフェに行くと、小説の執筆を始める。
小論社では花井が幾田の胸倉を掴み、無言で壁に押し付けていた。
幾田は一連の暴挙を平謝りする。
そして鏑木が北瀬戸高校に行ったのも一度会えば諦めがつくと思ってのことであり、学校に侵入するとは思わなかったと幾田は言い訳を続ける。
花井は幾田を平手打ちすると、響が『響』であり、受験生であることを挙げ、睨みつける。
その迫力に幾田はたまらず、『お伽の庭』の漫画化を諦めたこと、響には二度とかかわらないことを誓う。
その言葉を受けて花井は、今は新雑誌創刊の仕事が忙しく、暇がないから見逃すと幾田の元から立ち去っていくのだった。
編集長の葛藤
週刊スキップ編集部のある第一コミック局では、編集長が『お伽の庭』のネームを読んで絶賛していた。
前作『カナタの刀』が王道だっただけに、鏑木ならば次は逆をいって大して面白くない作品を描くと思っていたが、これは売れる、と編集長は喜びを隠しきれない。
幾田は編集長に、鏑木がすでに第2話目のネームに入っていることを告げる。
「早急に連載枠を作ろう!」
とんとん拍子で話が進むも、幾田はそれがまるで当たり前のことのように、はい、と返事を返していた。
編集長は鏑木の才能を絶賛して、よく響から許可がおりたな、と呟く。
「え、ええ…」
さきほどまでと違い、幾田の勢いがいくらか落ちている様子を編集長は敏感に感じ取っていた。
幾田はすぐに平静を取り繕い、響担当で同期の花井に口を利いてもらったこと、すでに響と鏑木の顔合わせが済んでいることを報告する。
それを聞いて、響が担当以外と会わないはずなのに会えたことに驚く編集長。
幾田の、特別に、受験生なので少しだけ、という説明に、とりあえず納得してみせる編集長。
しかし編集長が、とりあえず花井に会っておかないといけない、と言うと、幾田は態度を急変させる。
「いやっ!」
響がらみはデリケートなので、自分に任せてほしいと幾田は慌てながら説明するが、それを聞いていた編集長の視線がみるみるうちに鋭くなっていく。
「幾田、詳しく話せ。」
幾田は観念した様子で、説明を始める。
しかしその内容は、花井が自分を通さずに幾田と鏑木が響と会ったことで花井が腹を立てているという、事実とは全く異なるものだった。
ただ許可はとってます、と幾田が言葉を結ぶと、編集長はすぐさま立ち上がる。
「じゃあ花井に確認を。」
「それは止めて下さい!」
大声で編集長を止める幾田。
幾田の必死な様子を見て、編集長の脳裏に暗雲が立ち込める。
(まさか、本当に許可をとってないのか。)
編集長は腰を下ろすと、再び『お伽の庭』のネームを読み始めていた。
そして改めてその内容を絶賛すると、こんなの読まされたらどうしても連載させたくなる、と自身の胸の内を正直に告白する
しかし『カナタの刀』で2000万部売れている鏑木が『お伽の庭』を描くなら、宣伝にお金をかけることになるため、間違いなく大きな企画になる、と編集長は事の大きさを幾田に確認するように話し始める。
マスコミも注目する中で、それが連載直前で中止、あるいは連載開始してから中止になったなら編集部だけの問題では済まないこと。
そして社会現象になった原作を作者の許可を得ずに漫画にしたことがバレた時のことを指摘する編集長。
それに対して幾田は、何かあっても自分が責任をとると覚悟を決めた表情で主張する。
そんな幾田の様子に、編集長は本当に幾田が無許可でこの企画を進めようとしているのではないかと強く思い始めていた。
もし無許可だった場合、この企画が週刊スキップに与える影響は甚大であり、あまりにもリスクが高い。
しかしネームの内容は間違いなく傑作であることに編集長は葛藤していた。
そして何とか響から許可を得ることを必死で考える。
花井と話し合えないのかという編集長の問いに幾田が、ありません、と即答した時点で編集長はこの企画自体が無理と答えを出していた。
立ち上がり、週刊スキップを手に取ってそれを『お伽の庭』と見比べる。
(載せたい。この漫画が載った『週刊少年スキップ』が見たい。いや……)
決定
「決まった?」
編集長の肩に手をまわしながら声をかけたのは鏑木紫だった。
突然の登場に編集長と幾田は呆気にとられていた。
わかりやすい悩み方をしてる、と編集長を揶揄う鏑木。
鏑木は幾田が編集長の安達にネームを見せるというので気になって来たと言って、連載が通ったかどうかを編集長に問う。
雑誌とネームを睨んでいる編集長の様子に、鏑木は連載の決め手を持ってきたと告げる。
『鮎喰』とだけ強引に書かせた原作使用許諾書のことかと慌てる幾田だったが、鏑木が出したのは『お伽の庭』第2話めのネームノートだった。
編集長はそれを読んで第1話のネームを読んだ時以上の衝撃を受ける。
そして鏑木に、社会現象を起こした小説を響から原作使用許可をとらずに無断で使ったなら、漫画家として脂の乗っている時期に、どこの雑誌でも連載が出来なくなる可能性があると忠告する。
しかし鏑木、聞きたいのは載せるかどうかだけ、と一切態度がブレることはなかった。
第2話目のネームに視線を固定したまま、葛藤する編集長。
幾田が編集長を呼ぶ。
響と直で会って得た感想を、鏑木と似ていて直情的だと表現する。
そして、だからこそ、たとえ不満があろうとも周囲に助けを求めたり、裁判に訴えたりすることは考えられないと、今、自分が考え得る突破口を提起する。
「担当の花井を抑えれば…」
テーブルにネームノートを叩きつける。
「9月から連載だ。」
ニヤリと笑う鏑木。
今が6月なのに、3か月後は早過ぎるという幾田に、編集長は文芸部が9月に響の新連載を載せた新雑誌を作ることを挙げ、漫画版『お伽の庭』を同時に開始すれば話題になると目算を語る。
「やるなら徹底的に派手にやる。」
編集長の表情は、この企画を成功させる覚悟に満ちていた。
その表情を満足そうな笑顔で受け止める鏑木。
一応、原作使用許諾書もある、と鏑木が編集長に提出したのは「鮎喰」とだけ強引に書かせたものだった。
それを見て、本当に許可がとれていないことを知り、青ざめる編集長。
編集長は、元々原作者に書面で許可をもらうことはないとして、見なかったことにするのだった。
せっかく力づくで書かせたのに、と不満げな鏑木。
感想
響ドキュメントを思い出す展開
幾田が言っていた響の性格を突くというアイデアは、津久井のそれと全く同じ。
しかし響ドキュメントは乱入があれば面白いと期待した津久井が、あらかじめ響にスタジオの場所と収録日を知らせていた。
そもそもそれ以前から無断で響ドキュメントの撮影が進んでいたことを知っていたので、響にはドキュメント収録を止める方法を考える時間も機会もあった。
しかし今回の場合はどうなのかな……。
編集長も幾田も響から許可を得ることは諦めて、花井にアプローチしようとしているようだ。
スキップ編集側の不穏な動きに勘付いた花井が響に報告する可能性はあるか。
幾田の、花井を抑えれば強引にいけるという発想はどうなんだろう。
花井が響よりも新雑誌を成功させることが優先順位が高いのであれば、それを強力に後押しする代わりに『お伽の庭』のコミカライズを黙認してもらう交渉もできるかもしれない。
でも漫画雑誌の編集が純文雑誌の新創刊をどう助けるというのか。
花井を丸め込むのは響を説き伏せるのと同じくらい無理なことのように思える。
となると無断で企画を進めていくのかな……。
会社のみならず、関係各所を巻き込んで、もう後戻りできないくらいに話を膨らませたら、花井にこの企画を潰さないよう圧力をかけるのか。
自分ならば、それでビビって引いちゃうかな。
響には平謝りするしかないが、間違いなく信頼は失う。
でも花井は違うだろう。
花井は新雑誌と響のどちらを取るかということになれば、葛藤の末に響をとるのではないかと思う。
初めて『お伽の庭』の原稿を読んで響に心酔した時から、花井の響に対する想いはとても強かった。
それを思うと、響と対立するなんて考えられない。
それに、ここまで読んできた読者としては、花井には響のパートナーとして、社会の好奇の目から響を守る盾として、そして友人としての立場を変えずにいて欲しいところだ。
今後『お伽の庭』コミカライズの企画はどうなっていくのか。
少し前までは受験期で小説なんて書かないと言っていた響に、新雑誌創刊とその条件に響の新連載が必須条件だと花井が告げようかどうか迷っていた。
でも結果としてはあっさりと響は新連載を了解する。
あの結末は正直予想外だったなぁ。
とりあえず今は、響が鏑木のネームノートを読んでどういう感想を持つのかが気になるかな。
その反応如何んでは、このコミカライズ企画も、そこまでやりたいならいいよ、って響が了承する展開もあり得るんじゃないか。
予想を裏切ってくれるのを期待したい。
以上、響 小説家になる方法 第100話のネタバレを含む感想と考察でした。
第101話に続きます。
コメントを残す