第48話 秘密
涼太郎と美鈴
「いや、びっくりしたよ、まさか美鈴がウチの高校に来るとはな。」
校舎の裏で涼太郎が美鈴を前に言う。
驚かせようと思って、といたずらっぽく笑う美鈴。
バスケ部部長の美鈴がどうしてバスケットの強い学校ではなく北瀬戸高校に入学したのかと美鈴に問う涼太郎。
美鈴は、家から近いのが最優先だと言い、涼太郎もバスケ部部長だっただろう、とツッコむ。
涼太郎は、中学まででやりきった、と笑顔で答える。
先輩と一緒に部活やりたかった、文芸部私も入ろうかな、という美鈴に、涼太郎は、似合わないな、と笑う。
「そんなこと言ったら先輩もじゃん! つーかさ、どうして文芸部?」
「響がいるから。」
即答する涼太郎。
そんな涼太郎の反応に目を伏せる美鈴。
涼太郎は、響も部員と上手くやってて成長してる、美鈴も普通に会話できるかもしれないから会ってみるか? と美鈴に問いかける。
そーですね、とテンションの下がっている美鈴は、少なくとも先輩は変わんないね、とポツリと言う。
なんか言った? と美鈴に振り向く涼太郎に、美鈴は、バカって言ったの! と言い捨て、バスケ部に行く、と踵を返す。
涼太郎は、微笑を浮かべてその場で美鈴を見送る。
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変わらない響
職員室。
「言っておくが俺は顧問だが文芸部の活動には関わらん。」
「祖父江に全部任せる。」
以上! と椅子に座っている黒島がリカを見上げて言う。
「……うん、知ってっし。」
リカが心の底から興味ないという視線を黒島に向ける。
「今までもそうだったじゃん。」
「つーかまだ顧問だったの? 会うの一年ぶりじゃね?」
黒島が俯く。
「今年はお前のお陰で文芸部に新入生がごっそり入りそうでな。」
勘弁してくれ、ダラダラ仕事したいだけ、と頭を抱える黒島。
すかさず、大丈夫だよ、と声をかけるリカ。
「口と顔だけ出さないでくれたらそれで十分だよ!」
黒島がリカに問う。
「あの女は大丈夫なんだろうな。」
あの女? と反応するが、すぐに響のことだと気づくリカ。
「ああアンタ一回ヤキいれられたんだっけ。」
「アレが新入生と仲良くやってる姿が想像できねー。」
多分、大丈夫、とリカが請け負う。
この1年色々あったから、今更後輩相手に揉めないだろう、と中空を見上げる。
その頃、文芸部部室。
響が静かに、殺し合いだったわよね、と問いかける。
仰向けになったシロウが響に胸にのしかかられ、両手で首を絞められている。
響から目つぶしをくらった両目を右掌で覆っているシロウは自分に何が起こっているのかわからない。
サキはその光景を呆然と見ている。
他、二人の女子新入生も驚いているが、シロウと響に近づいて呼びかける。
「おいヤンキー、とりあえず謝っとけ!」
「謝ったら許すってよ!」
シロウの脳裏に、何を謝る? と疑問ばかりが思い浮かぶ。
左手は響の右ひざで押さえられて身動きがとれない。
「……悪い…」
何とかそれだけ声を絞り出す。
「ごめんなさいでしょ。」
響は静かに言い放ち、シロウの首を絞める力を強めていく。
「がっ。」
シロウが涎を垂らし苦しむ。
その様子を呆然と見ているだけの女子新入生3人。
(俺、死……)
シロウの意識が薄れかけた時、涼太郎が響の両脇に手を入れて立たせる。
「………響…」
涼太郎に声をかけられて、なに? と何事も無かったような表情で返事する響。
「響…?」
呆然とその光景を見ていたサキは聞こえてきた単語を呟く。
倒れているシロウに大丈夫か? と声をかける女子新入生の二人。
シロウは流れる涙を拭いながら上半身を起き上がらせて、響の顔を見る。
何かに気づくシロウ。女子新入生二人も気づく。
「……さすが響ちゃん、ここまで変わんないとは。」
部室の入り口にいたのはリカだった。
響に勘付くサキ
一瞬固まって、ぎゃーと叫ぶ女子新入生二人。
女子二人はリカに感動して口々に賛辞言う。
笑顔で応対するリカは、新入生が少なくないか、と問いかける。
廊下にたくさんいませんでした? という女の子と廊下を見るリカ。
「いないよー。」
「あら。」
メガネの先輩、響がシロウの目を潰して首絞めたのを見て逃げた、と言う女子。
頭を抱えるリカ。
目を瞑って天を仰ぐ涼太郎。
まぁいいか、十分、と自己紹介を始めるリカ。
涼太郎とタカヤもリカに続く。
「2年鮎喰響。よろしくね。」
響は笑顔で新入生たちに挨拶する。
リカに自己紹介を促された新入生たち。
宇佐見典子、由良かなえ、柊咲希、西嶋嗣郎それぞれが挨拶をする。
シロウは自分の名前を言いながらここは本当に文芸部か、と戦慄する。
(ヤクザにイケメンにガンクロ…しかもあのイカれた眼鏡。大人しそうなのが一人もいねーじゃねーか。)
(いねーのかよ一人くらい、大人しくて弱そうなの。)
部室の入り口が開き花代子が入って来る。
花代子を見てシロウは、弱そうだ、と内心喜ぶ。
「廊下に割れたガラスがあったけど、あれなんですか?」
花代子の問いかけに、俺が割った、と返すシロウ。
危ないから早く片付けてください、と命じる花代子。
あ? と花代子に向けて凄んで見せるシロウ。
花代子は俯いている。
タカヤは花代子を見ている。
「さっさと片付けてよ!」
語気強く言い放つ花代子の迫力に思わず毒気を抜かれて、はい…と返事をするシロウ。
おー、と花代子を見ている女子新入生3人。
響、リカ、涼太郎、タカヤは普段見せない花代子の剣幕に驚いている。
帰り道。
文芸部4人は女子新入生を交えて歩いている。
文芸部は想像と全然違った、と言う典子。
「響さんイっちゃってるし。涼太郎君イケメンだし。隆也さん超怖いし。かよちゃんかっこいーし。」
かよは何かあったのか? とかよを気に掛けるタカヤ。
リカはかよの様子を悩みを抱えているようだったと評する。
太っただの背が伸びただのくだらないことだろうと返すタカヤ。
賑わっている集団の後方で本を読みながら歩いている響に声をかけるサキ。
中庭ではごめんなさい、と謝罪し、絶対違うのはわかってるんですけど、と前置きし、おずおずと響に問いかける。
「もしかして響先輩って、『お伽の庭』の響でしょうか?」
じっとサキを見つめる響。
なんとなくそう感じて、ごめんなさい、と謝るサキに向けて口元で人差し指を立てて見せる響。
唖然とするサキ。
花代子の住むマンション。
花代子はパソコンを置いた机に突っ伏している。
(一応言っとくけど、パクった小説投稿しちゃダメだよ。)
(あははー、しませんよーバカじゃないんですから。)
以前の部室でのリカとのやり取りを思い出す花代子。
「……どうしよう…」
顔を両手で覆う花代子。
パソコン画面にはメールが開いてある。
そこには響が花代子に書いてあげた「漆黒のヴァンパイアと眠る月」がNF文庫新人賞の大賞を得たという文面のメールがある。
響の作品を花代子が勝手に投稿していたのだった。
感想
2年生になったからといって響が響であることをやめるはずなかった。
いくつになっても無礼には即座に反応するのだろう。
シロウくんはそれを身を以って教えてくれた。
柳本先生は黒島といい、シロウといい、弱気をくじき、強気を助けるようなカッコ悪いキャラを描くのが巧い。
それでも、ひどい目に合わせることで憎み切れないような印象にまとめてしまうのは人間に対する愛なのか(笑)。
響のことを知らない人が目撃したらヤバいくらいしか感想が見当たらないが、サキだけが響という名前から話題の『響』を連想する。
サキから問われた響は特に隠すことも無く、内緒だというジェスチャーをするが、これにはどんな意味があるのか。
大騒ぎになるのが面倒だからマスコミには姿を現さないのなら、サキのような一般人相手にも正体を隠したら良いと思ったんだけど……。
否定しようと思えば簡単に否定できたシーンだったし。
サキに何か感じるものがあったのか? ただの気まぐれなのか。
それともサキに自分と似たものを感じたからなのか。
サキは響を髣髴とさせる行動をとる。
自分に突っかかって来たシロウにビンタしたり背中にドロップキックしたりと過激な報復を行った。
これはかなりぶっとんだ行動だが、それだけではなく、部室のある旧校舎に入って一言、「永遠みたい」と独特の感性の発露も見られた。
今後サキがどう話に関わっていくのかが楽しみ。
響に比肩するほどの小説を書くようになるような展開もあるのか?
多分サキには才能があるんだけど、結局響には全然かなわない、というアテ馬ポジションになってしまうような気がする。
そこは柳本先生の手腕に期待したい。
以上、響 小説家になる方法のネタバレ感想と考察でした。
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