第45話 価値
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花井の謝罪行脚
芥川賞直木賞受賞の発表記者会見の翌日、花井が関係各所に謝罪して回っている。
謝罪に来るなら響も連れてこい、という相手に「それは絶対できません!」と頭を下げたまま、私の謝罪で穏便に済ませてくれ、と主張する花井。
文芸春秋にも謝罪に行き、来月2月の授賞式を遠慮するとやはり花井は頭を下げたまま。
ホテルにもガラスの弁償をすると謝罪する花井。
『響』に沸騰する世論と一歩引いて冷静な親たち
テレビに映し出されるワイドショーの冒頭、芥川賞直木賞が話題になっている。
受賞作を話題にすべきか、記者会見を話題にすべきか、と男性キャスター。
隣の女性アナウンサーが驚きっぱなしだった、と受ける。
芥川賞を受賞した豊増幸(とよますみゆき)の『屍と花』、そして芥川賞直木賞ダブル受賞の響『お伽の庭』が紹介される。
史上初の芥川賞直木賞ダブル受賞となった15歳の女子高生自体はもちろん、その記者会見場における振る舞いが面白い、とその様子のVTRが流される。
新聞の販売ラックに刺さったスポーツ新聞各紙のトップにはフードを目深にかぶった響の写真が並んでいる。
瀬戸市役所。
スポーツ新聞を読みながら、ミュージシャンの猪又が芥川取った時もスゲーと思ったけど、と盛り上がる男。
本好きですよね、記者会見を見ましたか、と男に水を向けられた課長。
「いや僕は好きって言っても月に2、3冊読む程度だから」
「新田君今仕事時間でーす。」
盛り上がっている男、新田の正面のデスクで仕事をしている中年女性が注意する。
新田はいやだって太田さん、となおも盛り上がる。
「15歳の女の子が芥川直木取ったんですよ! しかもあの記者会見!」
太田と呼ばれた中年女性が、私くらいの歳になると無邪気に騒げない、と答える。
「あの子の親御さんは大変でしょうねえ。」
「えーいや超嬉しいでしょ。自分の娘が新聞の一面ですよ!」
「あんな場所でねえ 平然とマイクぶつけて大人の顔蹴って。」
「子供なんて皆大なり小なり変わったところがあるものだけど、あそこまでだとねえ。」
「自分があの子の親だと思ったら私は怖くなったわよ。」
そこまで会話を黙って聞いていた課長が口を開く。
「僕は少し安心したかな。」
はい? と新田が不思議そうな顔を課長に向ける。
課長は、下の子があのくらいの歳だが、昨日警察の世話になって、と後頭部に手を当てる。
確か女の子ですよね、と太田が驚く。
万引きとか、と新田。
いやちょっとね、と課長が口ごもる。
「ちょっと……電車を止めたみたいで。」
は? と止まる太田と新田。
「幸い娘も乗客も無事だったんだけど、高校生にもなって何をしてるのかと」
「ウチの子だけが変わってるのかと悩んでた所に、今朝芥川直木のあの記者会見を見てね。」
「どの家の子も大変なんだなと思って。少しホッとしました。」
「妙に親近感も感じてね。名前も偶然ウチのと同じ響で。」
いやアレ見て親近感はヤバくないスか? とツッコむ新田。
花井、響家へ
喫茶メルヘン。
「これがいい。」
響がケーキを口に運びながら「お伽の庭」と書かれた字と絵がデザインされた紙を手にしている。
花井が電話先に、これで確定で、印刷をと伝えて電話を切る。
「出版契約書書いてカバー決めて…以上、打ち合わせ終了!」
テーブルに倒れ込む花井。
「今日はもう大変だったわよー。誰かさんのおかげで朝から関係各所謝罪行脚。」
お疲れさま、と響。
「これで今日の残る仕事はあと一つ。本日のメインイベント。」
花井がテーブルから起き上がる。
「これから響の家に行ってご両親に挨拶します。」
いやいい、と答える響に、それはもうムリ、と即答する花井。
「そもそも本来は新人賞受賞の時に、ご挨拶は必要なの。」
「それをイヤだのいいだのと逃げ回って。」
『お伽の庭』は100万部発行され、響の元には1億4000万の印税が入るが税金の処理が出来るのかと響に花井が問う。
花井にやってもらおうとするも、花井は編集は作家のお金に1ミリも関わらないと拒否する。
面倒だ、という響に花井は、親ならそれが普通、と真正面から言い放つ。
今度来た時ね、という響にこれ以上待てないので今日会う、と言う花井。
ふみ、と言ってケーキを一口食べる響。
「意地の張り合いで私に勝てると思ってんの。」
響は鋭い目で花井を見据える。
花井はリカから住所録をもらった、と一枚の紙をテーブルに置く。
連れて行かないなら勝手に行く、と響を脅す花井。
「……裏切者め。」
観念した響。
「良い友達もったわね。」
帰りの電車の中で課長と新田が並んで吊革につかまって会話している。
響ちゃんに小説書かせてみたらどうですか? スゴイの書くかも、という新田に書いてはいるみたいと答える課長。
新田は、もしかして、芥川直木の響って娘さんじゃ、と課長に笑顔で言う。
それは想像したくない、と笑う課長。
嬉しいと思うんだけどな、という新田に課長は、普通の子でいいんだ、と答える。
「普通で、健康で、人様に迷惑をかけないでくれれば……」
覆面作家と言ってもあの子の親は知ってるだろう、と課長が言い、新田も同意する。
編集がキレイだった、という新田に、僕は怖かったと答える課長。
響父と花井の価値観の違い
ただいまー、と帰宅した課長を慌てた様子で迎える妻。
鍋の煮えたダイニングで女性が頭を下げている。鍋料理を口に運びながら響がおかえりと迎える。
「始めまして。私、出版社小論社の花井ふみと申します。」
名刺を差し出す花井。
「約束なく突然押しかけてしまい申し訳ありません。」
「本日は響さんのことでお話があり伺わせて頂きました。」
呆然としている響父。
響母はひたすら驚いている。
昨夜の記者会見の花井さんですか、と問う響父に花井は、はいと答える。
響父の表情が沈む。
食卓についている一同。
花井から話を聞いた響父は、そうですか……と俯きながらぽつりと一言呟く。
本来ならもっと早くお伺いするべきだった、と申し訳なさそうに言う花井。
響母が、響が駄々をこねたんでしょ、と花井の事情を斟酌し、おかずの少なさを恥じる。
いえいえお構いなく、と答える花井。
部屋を見て、想像してたよりずっと普通の普通のご家庭、という感想を抱く。
わかめの酢の物を持ってダイニングに戻って来た響母を見て、響はお母さん似なのかな、と花井はわかめを口に運ぶ。
(この状況なのにマイペースな方で、お父さんは黙りこんで、まあ普通そうなるわよね。)
いや驚きました、ウチの子が…と呟く響父。
「花井さん、とりあえず、その1億4千万というお金はご遠慮させて頂きます。」
……いえ、戸惑われるのはわかりますけど、と花井が響父を諭そうとするが響父は話を進めていく。
「1億4千万の内半分は税金でなくなるでしょうから実質7千万程ですか。」
父が響を見る。
「響、7千万あったらどうする?」
うーん、と考える響。
「家の隣の駐車場買い取って響図書館作りたい。」
うん、と話を聞く響父。
「聞いての通りまだ7千万というお金の価値を正しく認識していない子供です。今持つべき額じゃありません。」
真剣な表情で花井に告げる。
「いえあの、遠慮とかそういうものではなく」
戸惑いながら花井が反論する。
「印税ですから。著者に等しくお支払いする決まりでして。」
「別に法律で決まってる訳じゃないでしょう。」
全く動じる事無く響父が冷静に花井を詰めていく。
「今お聞きした所、ロイヤリティが10%なんですよね、それを0.001%程に変えて下さい。」
「いえいえ無理です!」
焦りながら、出版契約書を両手で掲げる花井。
「もうさっき契約書書いてもらいましたし、」
それちょっと貸してもらえますか、と響父が有無を言わせぬ迫力で花井に問いかける。
花井は言葉を失い、表情が固まる。
未成年だからご両親が管理されては、という花井に、お金が入ってくること自体が問題だ、と響父が答える。
「『小説を書けば1億入る』この子にそんな認識を持ってほしくない。」
「お言葉ですけど、」
花井の目が鋭くなる。
「この額は響の小説に対する正当な評価です。」
響父の目も鋭くなる。
「正当かどうか、アンタらが勝手に決めるなよ。」
その響父の頑なな姿勢に、なるほど、と納得する花井。
(確かに、響の親だ。)
「君に裁量がないのなら、明日にも御社に伺って上の方と話をさせて頂きます。」
一歩も退かない響父に響母が声をかける。
「昨夜ひーちゃんが止めちゃった電車の賠償のお金がわかってからでもいいんじゃない。」
あ、と思いだす響父。
は……!? と驚く花井。
「昨夜電車を!? あの記者会見のあと!?」
「まあまあその話はおいといて」
感想
響父すげぇな。
ここは喜んで金を受け取って良いと思うんだけど、響の今後の人生を思って印税の辞退を申し出るなんて普通の過程では出来ないだろう。
ここに至るまでご両親に説明してこなかったことで引け目を感じている花井がまさかの申し出に戸惑っているのも面白い。
説明が遅れたことを詰られる覚悟はしていても、まさか印税の辞退を申し出て来られるとは夢にも思わなかったのではないか。
響にしても響父にしても、世の中からずれてるというより、自分がこうと決めたことに対して、何にも惑わされる事無く一切ブレていないだけのように思える。
響は父から見事にこの気質を受け継いだんだなぁ。
響父は当初の一切いらないという主張から、印税の率を0.001%にしてくれと変えた。
もしこの申し出が通らなかった場合、最悪訴えかねないかも(笑)。
とはいえ、客観的に見て響や響父が不利益になるようなことではないから却下されるだろうけど。
今回は響の父が初登場だが、それによって既出の響母の家庭内での立ち位置が明らかになったことで鮎喰家の雰囲気が分かった。
金銭に一切揺らぐことなく教育方針を守ろうとする響父と、そこにケチを一切つけることなく、でもフォローするべきところはそっとフォローする響母のバランスがとても良い家庭に思える。
気になるのは、まだ出てきていない響の兄の存在だ。
一体どんなキャラなのかなぁ~。
響が父寄りならば兄は母寄りだったりするのだろうか。
出てきても大学生で親元を離れているから常に出て来るキャラではないか。
以上、響 小説家になる方法 第45話 価値のネタバレ感想と考察でした。
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