第104話 信頼
第103話のおさらい
アフレコ終了後、帰ろうとする鏑木に琴子が挨拶をする。
『カナタの刀』好きをアピールしつつ、自分が声優養成所に通っていること、そして『カナタの刀』の仕事をすることが夢だと語る琴子。
作品も期待していること、いつか一緒に仕事出来たらうれしいと満面の笑顔で鏑木を見送るが、鏑木が去るとそれまでの笑顔を解く。
花井、坪井、海老原が『雛菊』の表紙色校を囲んで会話している。
坪井が花井に響の執筆の進捗を問うと、花井は一カ月間連絡をとっていないのだという。
それを聞いて坪井は今回の新雑誌の成功は響の連載にかかっており、1カ月放っておくのはあまりにも響のことを特別扱いしすぎだと注意するのだった。
花井は坪井の主張に対して、受験という大事な時期に連載させるという無茶をさせているのは自分たちだと返す。
しかし坪井は、完成するまで見せたくないと作家が言い出した時は悪い兆候だと自身の主張を譲らない。
「まだ18歳だろ。いつどう変わっても不思議じゃない。」
坪井の言葉に、花井は少なからず動揺していた。
制服姿で一人、響が公園のベンチに座っている。
近くで遊んでいる子供のサッカーボールを肩に当てられて、謝罪されなくてもまるで何事もなかったかのように呆然としている。
離れた場所からビデオを回していた七瀬がその様子に驚く。
七瀬は津久井に命令されて、近所の公園に響の撮影に来ていた。
かつて響にカメラを壊されたり、落とし穴に落とされた経験がある七瀬には、響がやられたらやり返さないのは腑抜けたとしか思えなかった。
突然、響の前に琴子が現れる。
偶然を装って登場したが、津久井から聞いていた情報を元に響と会うために公園にやってきていたのだった。
琴子は響と徐々に距離を詰めようとしていくが、響は琴子の存在を無視していた。
必死に、自分が『漆黒のヴァンパイア』や『お伽の庭』が好きだとアピールするが、相変わらず響からの反応はない。
しかしついに響は1分時間を割くので用件を言えと琴子に話しかける。
最初は戸惑っていた琴子だったが、響がカウントをスタートすると、自分がここに現れた理由を話し出す。
それは鏑木紫の描く『お伽の庭』がアニメ化したら、自分を主人公にキャスティングして欲しいという嘆願だった。
必死に頼む琴子だったが、響は自分は全く知らない話だと答えるしかなかった。
相変わらず無機質に進む響のカウントに、琴子は自分が相手にされていないと感じていた。
最初は良かった愛想も、徐々に強張り始める。
そしてついに響に対するイラつきが頂点に達した琴子は、ベンチに座ろうと後を振り向いた響のお尻の辺りを蹴るのだった。
やりとりを撮影していた七瀬は一人盛り上がっていた。
しかし七瀬の期待とは裏腹に、響は琴子に対して何もしなかった。
お尻を払い、琴子が来る前と同じ姿勢でベンチに座り直すのだった。
捨て台詞を吐きながら去っていく琴子に対して、響は彼女の方を一瞥すらしない。
修羅場が始まると思っていたのに、響がやられっぱなしのまま事態が収束してしまったことに、七瀬は呆然としていた。
一方、響の意識下には琴子のことはまるで存在していなかった。
その脳裏には小説の部隊である水底の城が思い浮かんでいる。
なぜやり返さなかったのか、と七瀬が自分の立場も忘れて響に話しかける。
響は突然現れた七瀬を見て、琴子のことは津久井の差し金だったのだと察していた。
「忙しいの、消えて。」
会社に戻った七瀬は津久井に撮って来たばかりの響の映像を見せていた。
七瀬からの琴子を響の元に行かせたのは津久井なのか、という問いに、情報をやっただけ、と答える津久井。
津久井は琴子がその向上心から響に直談判に行くだろうと見越していたのだった。
響は公園で何をしていたのか、という七瀬の疑問に、連載小説の話を考えていたのだろうと津久井が答える。
七瀬は、だから響は他の事を無視していたのか、と妙に納得する。
しかし、なんか普通の作家さんみたいになりましたね、とどこか寂しそうに呟く。
響の映像の使い道を聞かれた津久井は、いつか何かには使えるだろう、と答える。
そして、留学のために海外に行っている間に流そうかと冗談を言って見せる。
内心、全然凝りてねえな、と思う七瀬だった。
前回、第103話の詳細は以下をクリックしてくださいね。
第104話 信頼
8月
花井が響に電話をしている。
花井は『お伽の庭』コミカライズを希望して学校に乗り込んできた女性が鏑木紫という漫画家だと響に説明していた。
「締め切り教えてくれたらそれまでに完成させるから。しばらくほっといて。」
満月の浮かぶ夜、響は学校のプールサイドに腰をおろしている。
「面白い話ができそうなの。」
喫煙室。
花井は社長に『雛菊』創刊の準備状況について報告していた。
入稿はほぼ済んでおり、どの小説も勢いがあるとその出来に太鼓判を押す花井。
響の新作の出来について問われた花井は、『お伽の庭』を超える大傑作になりそうだと答える。
読むことを希望されるが、花井は校正が終わった最高の状態で読んでほしいとそれをかわして喫煙室を出るのだった。
『雛菊』編集部に戻ってきた花井に、坪井が報告する。
「仙川さん錦さん原稿上がったぞ」
みなさん早いですね、と答えた花井に坪井が呟く。
「これで残りは響ちゃんだけだ。」
坪井は創刊号だから宣伝などの都合で締め切りが早いことを上げ、すでに8月なので響の原稿は待てても今週いっぱいだと宣言する。
響にもそう伝えている、と答えた花井に、初めからギリギリの締め切り期日を話しているのか、と坪井は呆れ気味だった。
そして花井に、今すぐに連絡して進行及び内容の確認をするように迫る。
花井は俯いたまま沈黙していた。
「響は新雑誌の看板でお前は編集長だぞ!」
わがままを言う作家のケツを蹴るのが仕事だろ、と坪井。
坪井は一向に動こうとしない花井を見て、自分が代わりに連絡するからと番号を聞こうとする。
しかし花井は両手で口を押さえるのみ。
そこに海老原が慌てた様子でやってくる。
会議室では週刊スキップの編集長安達、鏑木担当の編集の幾田、そして営業との『お伽の庭』コミカライズの打ち合わせが行われていた。
鏑木の描いたポスター絵の出来に盛り上がる一同。
会議
営業はそのポスター絵を渋谷、新宿などで大きい広告用の絵として使うと確認する。
連載の開始と共に一気に宣伝を打つと盛り上がる営業たちに、幾田はすでに第2話まで出来がっているネームが最高だと答える。
会議室のドアが開く。慌てて乗り込んできたのは花井だった。
突然の花井の登場にキョトンとしている営業。
花井はテーブルに載っているポスター絵をみて呆然としていた。
「どういうことですか……?」
花井の登場に安達は危機感を覚えていた。
まだ事情を知らない営業との打ち合わせ中の乱入は『お伽の庭』コミカライズ案件を、もはや戻れないところまで進めたい安達にとって最悪のタイミングだった。
営業は花井に、『お伽の庭』コミカライズの宣伝の打ち合わせに参加するのか? と問いかけている。
「アンタ見たことあるな。花井さんだっけ。」
鏑木が花井の目の前に立つ。
「どうもこうもない。アンタには関係ない話だよ。」
あなた鏑木先生ですね、と花井。
鏑木は、会議中だから出て行けと花井に向けて言い放つ。
それに対し、関係ないわけがない、その話は断ったはず、と花井は語気を強める。
「断った?」
営業はキョトンとしている。
鏑木は花井の剣幕に一切怯まない。
花井は響のマネージャーでもなければ『お伽の庭』著作権の管理者でもない、と指摘する。
そして、この件に関係があるのは響だけなので、響を連れてこいと啖呵を切るのだった。
言葉を失った花井に、坪井はもう原稿の完成云々ではなく、響に電話して直接この件に関して否定してもらうようにと助言する。
響を信じる花井
しかし花井は動かない。
そして、この企画は響からの許可をとっていないので、早いうちに中止するように、と忠告だけして花井は会議室を去っていく。
花井が出て行ったのを確認して、鏑木が一同に声をかける。
「続けましょうか。」
花井の響から許可を得ていないという言葉に、営業たちは戸惑っていた。
響と直接交渉して許可はとってると、彼らの不安を一蹴しようとする鏑木。
そして安達も、連載自体にはなんの問題もないと鏑木の主張を補強する。
「……はい。」
鏑木たちの主張を受けても、営業は不安を拭えていない様子だった。
会議室を出た花井のあとを坪井が追いかけている。
花井はあの場で電話してもダメだったこと、そして鏑木によってサインさせられた事実はあるから、と坪井に言い訳を続けていた。
なぜ意地を張ってまで連絡しないのか、という坪井に、締め切りは守るからほっておいてほしいと響に頼まれたからだと花井が答える。
今は事情が違う、と坪井が食い下がる。
「面白い話が書けそうだからって……。」
作家はそう言うもんだ、と言う坪井に花井も同意する。
しかし響が自分の作品を評するような子ではないのに、面白い話が書けそうだと言ったことを花井は重く見ていた。
なにがなんでも邪魔したくない、と花井は苦しい心の内を坪井に吐き出す。
その主張を受けて坪井は、それは編集として仕事をサボっていることに他ならないと答える。
「本当に信頼があるなら、ウザがられても連絡は続けろ。」
その通りです、と花井。
「相手が響じゃなければ。」
そして響は執筆を続ける
夏休み。学校の図書館。
響が原稿用に向かっているその隣で加代子が満面の笑みで響に話しかけている。
加代子は文芸部夏合宿にいくことになった、と言って自作のパンフレットを披露する。
リカに頼んで1年の時に使った海の別荘を使わせてもらえることになったと加代子は説明を続ける。
響は一切加代子に反応を示さず、ただひたすら原稿用紙を埋めていた。
「日にちは急だけど今週末から3泊4日ね。全員参加! 部長命令!」
そして加代子は響の元にパンフレットを置いて補修に戻っていく。
蝉が鳴いている中、響は執筆に集中していた。
感想
花井の不安
あくまで響への信頼を貫く花井だが、さすがに心の奥底では「これでいいのか?」と揺れているように見える。
そしてさらに、却下したはずの『お伽の庭』コミカライズの話が進行中……。
この新雑誌創刊でクソ忙しい時にストレスを抱え過ぎだと思う。
受験期にありながら連載小説を書く響と同様に、花井にとってもここが正念場と言えるだろう。
きっと響は良い小説を仕上げるんだろうけど、実物を見るまで花井にしたら最後まで安心は出来ない。
ある意味この世でもっとも響を崇めているとも言える花井は、本当は響が傑作を仕上げられるか内心で少しでも不安を感じていると自覚することにすらストレスを覚えているのではないか。
響の執筆の状況はどうなんだろう。
期日を破ることは響の性格上あまり考えられない。
花井の不安を吹き飛ばすほどの天才ぶりを発揮してほしい。
夏合宿
久々に加代子が出てきた。
響の無反応にも全くめげることなく夏合宿計画を披露していたけど、響はこれ行くのかな?
勉強がメインと言ってはいるけど、響以外は遊びに夢中になってしまいそうな気が……。
もし響が忙しさの真っ只中にいるにも関わらず加代子の要請に応えて夏合宿に行くとしたら、かなり付き合いが良い。
1年、2年となんだかんだで合宿には必ず参加していたし、参加するのかも。
勉強も小説も友達との思い出も全部手に入れたらいい。若いんだから欲張るべきだ。
以上、響 小説家になる方法の第104話ネタバレを含む感想と考察でした。
第105話に続きます。
コメントを残す