第61話
第60話のおさらい
文芸部の夏合宿二日目。早朝の森の中を歩く花代子とタカヤ。
タカヤは花代子に3年の引退と、部活は夏合宿までだと花代子に告げる。
突然の告白に戸惑う花代子。
一方、別荘の寝ていたノリコとカナエは階下の響の元へ行き、テーブルに置いてある響の書き上げていた小説の原稿を読む。
ノリコとカナエは原稿から衝撃を受け、文体が芥川賞直木賞ダブル受賞の「響」に似ていることから響が「響」なのではないかと疑問を持つ。
響は、質問してくるノリコとカナエに口が固いかを確かめ、自分が「響」だと告白する。
重大な秘密を明かされたノリコとカナエは興奮する。
階段から下りてきたリカに、響は「響」なのかと問うノリコ。
響はノリコの頭をはたき、言ったそばから約束を破ったノリコの口に拳を押し当てる。
しゃべったら喉を殴る、といつも通りの脅迫を行う。
夜、花火を思い思いに楽しみ終えたあと、リカが部員の注意を促す。
この夏合宿を最後に3年は引退だと告げるリカ。
混乱が続く中、リカは後任の部長として花代子を任命する。
夜、屋根に上がって色々話をする響とリカ。
ノリコとカナエに響の秘密を知られてしまった、と言うリカに響はどうせなんとかする、と星空を見ながら答えるのだった。
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第61話
ナリサワファーム。
月島が内線電話をしている。
大事な客なので、と受付でお待ち頂いてくださいと言い直し、電話先の相手に丁重な扱いを頼む。
直ぐそちらに向かう、と電話を切り、受付に向かうエレベーターの前で同僚に出くわす。
「あら初音ちゃん。」
「葵ちゃん。」
葵は昼ご飯一緒に行く? と月島を誘うが、月島は客が来ているからと断る。
誰が来ているのかと問う葵に月島は、大物の人、と一言神妙な面持ちで答える。
「文芸界で今知らない人はいないくらいの超有名人。」
葵は、作家じゃないの? と月島に問う。
月島は、作家じゃないけど葵も知っていると思う、と答える。
そんなすごい人がわざわざ来たのは何故かと問う葵にさあ? と返す月島。
昨日編集部に、例の件で話がある、と電話があったのだと説明する。
それを聞き、変な薬の取引でもやってるの? と驚く葵。
同じ文芸界とはいえ、ラノベとは全然関わりがない人で、身に覚えがないと呟く月島。
葵に、ついて来て、と頼む。
いいけど、怖い人じゃないよね、という葵に、テレビ中継しているにも関わらず人を殴る怖い人だという月島。
ナリサワファームに一人乗り込む花井
受付にいたのは花井だった。
堂々と立ち、まるで威圧しているかのように鋭い目で月島達を見据えている。
圧倒される月島と葵。
(小論社、花井ふみ。)
ビビりながら花井を見る月島。
(若いのに賞取った小説いくつも担当してて、去年はあの祖父江秋人の娘さんをデビューさせて…)
「はじめまして。」
笑顔を浮かべる事無く、威圧的な態度のまま挨拶をする花井。
「どちらが月島さんでしょうか?」
こっちです、と隣の月島を指差す葵。
私です、と両手を肩のあたりに掲げる月島。
「そうですか……」
花井はにこりともせずに月島を見据えたまま呟く。
ただ茫然と花井を見つめ返す月島。
(今、芥川直木賞同時受賞の女子高生「響」の正体を知ってる唯一の編集者……)
(私に何の用が!?)
「ではお部屋へ案内して頂けますか?」
花井の言葉に月島は、会議室はとってない、と答える。
「は?」
表情を変えずに短く問うことで威圧する花井。
「いえそのっごめんなさい。今からとりますっ。」
慌てる月島。
(こっわ……)
ビビる葵。
「じゃあ初音ちゃん私はこれで! ご飯の時間だから。」
月島に向けて手を上げて去っていく。
一人にしないでよ、と月島が花井がいることを忘れているかのように懇願する。
花井は、そのやり取りをやはり変わらず険しい表情で見つめる。
花井の勇み足
会議室Cで花井と月島がテーブルに向かい合って座っている。
月島は花井と自分にコーヒーを用意する。
花井をじっと見ながら自分のコーヒーに口をつける月島。
(何しに来たのか知らないけど、とりあえず場を和ませないと。)
花井さんておいくつですか? と問う月島に、花井はコーヒーを口元に運びながら、26歳です、と答える。
(嘘でしょ。)
花井を見つめたまま心の内で驚く月島。
(これで私より3つも下なの?)
「へー! すごく若いんですね!」
にこやかに相槌を打つ月島。
「ふみちゃんて呼んでいいですか?」
「月島さん」
笑顔を浮かべて花井と距離を縮めようと必死の月島を、花井はピシャリと突き放す。
「真面目な話をしにきたの。」
(だから、なんの話?)
月島の笑顔が凍り付く。
「響がお世話になってるみたいですけど。」
花井は月島を真正面から見据えて、唐突に切り出す。
「あの子からはナリサワさんでの仕事はあと1作限りと聞いてますけど、『漆黒のヴァンパイアと眠る月』は3冊で終わりということでよろしいんでしょうか?」
ぽかーんとした表情の月島に構わず、花井は話を進めていく。
「それと承知の通り響の素性は極秘です。」
花井は威圧的な態度を変えることなく一気に続ける。
「テレビ局とのコラボ企画をされてるそうですけど、まさか響の連絡先など一切漏らしてないでしょうね。」
月島は呆然と何も答えないでいたが、ようやく口を開く。
「『ひびき』って、芥川直木を取ったあの『響』なんですか?」
月島の予想外の反応に花井は、えっ、と声を漏らす。
花井は何かを察知し、スマホを取り出す。
「ちょっと待って下さい……」
月島から身体ごと顔をそむけ、響と電話をする。
花井は、ナリサワでの響の担当が月島で、当然お伽の庭のことも知っているのかと確認するが、会話の途中で、えっ、と言ったまま黙ってしまう。
電話を切り、月島に向き直った花井がおもむろに口を開く。
「今日の事は忘れて……」
「えーーーー!! あの子がーーー!!」
月島は驚きのあまり立ち上がって大声を上げる。
「すごいすごーい! 私そんな子と普通に話してたの!?」
花火大会にて
8月15日17時~21時迄、花火大会と書かれた立て看板がある。
屋台と人で賑わう中、響とリカは浴衣を着て喧噪の中を歩いている。
「リカって着付けもできるのね。」
かき氷を片手に呟く響。
「私できないことないんじゃないかな。」
リカもまた独り言のように返す。
何かの気配を察知し、振り向く響。
それを見てリカは、どうした? と問う。
響は、別に、と前に向き直りかき氷を口に運び始める。
リカは前方に花井を見つけて、ふみちゃん、と笑顔で手を上げる。
浴衣を着た花井は浮かない表情でリカと響を迎える。
笑顔で、お誘いありがとー、と言うリカに、そうよかった、と元気なく返す花井。
「ふみ、今日の昼の電話あれなんだったの?」
響の問いかけに即答しない花井。
夜空に花火が打ち上がっている。
響たちはビニールシートの上に座っている。
「響ごめんなさい……」
花井は響に頭を下げている。
たこやきおかわり、と要求だけ言う響。
珍しい光景、とリカが突っ込む。
花井は、普通は担当編集が作家の事で他社に乗り込んで話し合いをすることはマナー違反なので実行しないのだが、響の扱いが気になって事に及んでしまったと説明する。
できる編集を装うことで力で押し切ろうとした、と自らを恥じる花井。
リカはその花井の様子を見て笑う。
文芸の編集が『漆黒の~』を読んで気づかないのか、と頭を抱える花井。
リカは『漆黒の~』はラノベ形式だから『お伽の庭』とは文体が違うのと、そもそも芥川直木を同時受賞した作家がラノベの新人賞に応募するとは思わないだろうと分析する。
リカは、本が出れば誰かが気づくし、文芸部の一年にバレたし、と続ける。
「大丈夫、なんとでもなるよ。」
夜空を見上げている響。
「そんなことより花火きれい。」
花火が夜空一面に打ちあがる。
黙って見ている3人。
リカは笑顔を浮かべている。
(なんとでもか、)
心配そうな様子の花井。
(それが怖いのよね。)
響は夜空から視線を隣に移していた。
「じゃあちょっとなんとかしてくる。」
立ち上がりながら花井とリカに言葉をかける。
え? と訳が分からない様子のリカ。
花井は、歩いていく響を不思議そうに見送る。
響はビニールシートの上で正座して帽子を深くかぶり直している女性の傍らに足を進めると、その手元に置かれたハンディカメラを思い切り踏みつける。
カメラの画面が壊れる。
急に起こった出来事をただ見ているリカと花井。
座っている女性――七瀬は、ちょっ……、と響を避難する声を上げようとする。
「なんの用?」
響は、夜空に咲く大輪の花火をバックに立ち、鋭い表情で七瀬を見下ろしている。
凍り付いたように響を見つめ、言葉を失う七瀬。
七瀬はおもむろにビデオの残骸やビニールシートを回収し、その場を足早に立ち去る。
その様子を見送る響、リカ、花井。
誰あれ? と響に問いかけるリカに、響は、さあ? とだけ答える。
えっ、と驚く花井。
「最近見られてる気がする。」
響は鋭い表情のまま、七瀬の逃げていった方向をじっと見つめている。
夜空にいくつもの花火が打ちあがる。
津久井の暴走
一ツ橋テレビ。
会議室で番組の打ち合わせをしている津久井たち。
テーブルの上には響を写した無数の写真と資料が置かれている。
七瀬は俯き加減でその輪に加わっている。
「夏休みに入って結構撮れ高ありますね。」
会議に加わっている女性が発言する。
「行動パターンも掴めてきたし、」と、髪を横に流している男。
「そろそろ番組構成考えてもいいんじゃないですか?」と、短髪に顎髭の男。
ハンディカムの映像だけだから粗い、スタジオトークがいるのでは、と短髪に鼻下に髭の男。
「あの……」
おずおずと七瀬が手を上げて発言する。
「私 昨日見つかっちゃって。」
七瀬に視線が集中する。
一瞬の沈黙。
「それでどうした?」
津久井が短く七瀬に問う。
「カメラ壊されて……慌てて逃げてきました。」
七瀬の言葉に会議室内がざわつく。
「壊された?」「なんで……」
カメラのデータは? と冷静な津久井。
それは大丈夫でしたけど、と七瀬はSDカードを胸の前に掲げる。
津久井は、なら問題ない、と全く慌てずに自信たっぷりに答える。
「言っただろ、カメラを意識しない日常を撮りたいから隠し撮りしてるだけで、本人に撮影許可は取ってある。」
「本当ですか? だってカメラ壊されたんですよ?」
必死に訴える七瀬。
「撮れ高ができてよかったじゃないか……」
七瀬の憂慮など全く意に介していない津久井。
「引き続きよろしく。」
感想
津久井の暴走によって、着実に響のドキュメンタリー形式の番組の材料が揃っていき、無許可のドキュメンタリー番組の構築へと向かっていく。
多分、会議室内にいる七瀬以外のスタッフは皆、津久井が響の許可を得ている前提で動いているのだと思う。
それなのにここまで堂々と事を進められる。
津久井は悪いヤツだが、相当の度胸がある。
さすがは過去にドラマ制作で実績があるだけのことはある。
仕事が出来る人みんながみんなそうだとは決して思わないが、こうやってぐいぐい人を引っ張る力は持ち合わせていると思う。
ただ、津久井の仕事の進め方は最初から完全に暴走している。
番組が出来てから響からOKをもらえば良いと軽く考えているのか、それともそもそも無断で流すという暴挙に出てしまうのか。
正直、ここから津久井の暴走、翻って一ツ橋テレビの暴走を止めるにはどうしたらいいのか分からない。
ここまでくれば、もう一ツ橋テレビを爆破したり放火したりするくらいしか響の正体が流出するのを防ぐ手立ては無いような気がする(笑)。
いや、ここまでの物語内での響の行動から察するに、津久井個人に実力行使する方が可能性が高いか。
しかし、響が津久井を闇討ちするというのは予想の範疇。
出来ればもっとスマートな、スッキリするやり方で戦って欲しい。
週刊誌の記者の口を封じた時のやり方は津久井には通用しなさそうな気がする。
七瀬のカメラを躊躇なく踏みつぶしたことから、多分そういう路線なのかな、と思う。
それだと津久井が取りやめる理由が思いつかないから、やはり今後も目が離せない展開になる。
しかし花井はチョンボを犯したなぁ。
月島だと響の事は悪気なくガンガン喋るんじゃないか。
一時は黙っておくけど、その内、会話の中で興が乗って来た頃にホットな話題として普通に話してそう。
予め響に確認しておけば良かったのに、それを怠った理由が分からない。
出来る編集であるにも関わらず、こんな基本的な部分の確認をしないのは明らかにおかしいと感じた。
とりあえず、それだけ慌てていたからなんだと無理矢理理解しておこうと思う。
以上、響 小説家になる方法第60話のネタバレ感想と考察でした。
次回62話の詳細は以下をクリックしてくださいね。
休憩回を経て次の物語が動き出す感じでしょうか。ラストシーンは格好良かった。
花代子部長。
部費でラノベを揃えて、文芸部からラノベ部に変わりそうで怖い。
今はカナエと典子の影に隠れていますが、花代子もパクリを投稿するとか、相当アレですしね。
(咲希は今回完全に空気…いたの? あと2ページ目にカイジが出てきたような…)
しかし、せっかく隆也は花代子と、響はリカと絡んできたのに今後どう動かすのか・・・。
一方、カナエと典子は、村上春樹を読んでたり響テイストと面白さはすぐ伝わったけど、
小説を読んだことが無いという嗣郎が読んだらどうなるだろう?
(いくら何でも部誌になれば読むと思う…けどスルーされるかな…でも絡みようがなくなりそうだし…)
改めて考えると隔週なのに色々なキャラと方向であっちこっちに展開していきそうで、ちょっと心配です。
次回から本筋が動きそうですよね。
とはいえ、今回、リカ達の引退と花代子の部長就任というのは良いイベントだと思いました。
これを機に、響の小説を無断投稿したりとかのやらかしは勿論無くなり、響のかけがえのない友人として、そして人間として成長してくれることを期待してます。
2ページ目のカイジ……。
チェックしてみたら……花代子じゃないですか!(笑)
真横からのカットはこうなっちゃうんですね。
確かに、花代子に任せていたらラノベ部にシフトしかねないですね(笑)。
とはいえ、ウワヲホさんのおっしゃる通り、カナエやノリコは割と文学テイストを分かってるので、花代子がラノベ部に舵を切っても部員の過半数が安易に流されるようなことは無いように思います。
確かにシロウが小説をどう読んでいるかの描写はまだありませんね。
サキの読書を邪魔していたことだけ。
シロウのような小説にそこまで思い入れの無い人間でも響の小説に震える、みたいな描写が見たいですね。
物語を進めていくピースとしては今回は空気でしたが、サキの方が重要な気がしてます。
サキが響のようにシロウに向かって実力行使するような性格を持ち合わせていることが、今後、物語の布石になっていくのどうか。
とりあえず、先が見たいのは津久井との戦いですね。
どんな形で決着がつくのか気になる。