第59話
第58話のおさらい
ナリサワファームで打ち合わせをする津久井、月島、編集長。
テーブルに置かれた霧雨アメのデザイン最終稿は編集長に好評なことから霧雨は響の小説を認めたことが分かる。
そして『漆黒のヴァンパイアと眠る月』の2巻分の原稿を読み、感動する一同。
文芸部部員たちは夜の学校に来ていた。
30年前に図書館で本棚の下敷きになって亡くなった本好きの女子生徒『花子さん』という霊が出るのを確認するという。
男子生徒がいると霊が出てこないため、女子だけが男子を置いて図書館へと向かう。
図書館に着いた女子たち。
図書館では、一瞬電気が転倒したり、妙な破裂音がしたりと不可解な現象が起こる。
怯える女性たち。
リカが花子さんを呼ぶと、小さく「ハイ」という返事が聞こえる。
恐怖で恐慌状態となり、一心不乱に逃げる女子たち。
逃げてきた女子たちを迎えた涼太郎は、電気が点灯したり破裂音がしたりしたかと問う。
そこで、霊が起こしていたものだと思っていた現象は、涼太郎やシロウが起こしていたものだと知る女子たち。
最後の「ハイ」という返事が怖かったな、と笑顔の由良に、それは自分たちではないと答える男子たち。
逃げてきた女子の中に響がいないことに気づき、心配する涼太郎。
響は図書館で霊に対して挨拶していた。
霊は、自身がいじめにあっていたことを響に伝える。
じっと話を聞いていた響は、霊に世の中は因果応報であり、嫌な事があった分、良い事も返ってくると励ます。
窓際の本棚の上にある花瓶から花を一本抜き取り、霊に供え手を合わせる。
じゃあね、と図書館から出る響。
本当にヤバイ、霊が出る、と大騒ぎの女子たちに、響は、出るけどヤバくないよ、と答える。
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第59話
古今東西
リカの運転する車内。ノリコ発案でお題が「面白い小説」の古今東西を文芸部部員全員で行っている。
ノリコが村上春樹の「風の声を聴け」と言った後、隣のカナエが同じく村上春樹の「1973年のピンボール」と続ける。
宇佐見の前のサキが綾辻行人の「十角館の殺人」。
その隣の花代子が秋山瑞人のライトノベル「イリヤの空」。
前の助手席に座って本を開いている響は恩田陸の「六番目の小夜子」。
運転席のリカはサリンジャーの「ライ麦畑でつかまえて」。
後部座席に座っている涼太郎はヘミングウェイの「老人と海」。
隣、後部座席真ん中に座るタカヤは大藪春彦の「蘇る金狼」。
そのさらに隣のシローは太宰治の「人間失格」と続く。
二週目、ノリコが前の座席のサキの首に手をまわしながら猪又コウジの「火の川」と言うと、すかさず響とリカが「ダウト」と声を揃える。
えー、と驚く宇佐見。
由良は笑顔で宇佐見にゲームを促す。
車の窓を開けて「ヤッホー」と叫ぶノリコ。
一発試験
ノリコは、罰ゲームが私ばかりで喉がガラガラだ、と喉を手で触る。
ボキャ貧すぎ、と笑うカナエ。
クール才女キャラでやってるのにバカがバレる、と勢いよく続けるノリコ。
カナエが、運転席のリカに運転しながら負けなしですごい、と声をかける。
なんでもできるから、と答えるリカ。
そのやりとりを聞いて、タカヤがリカに声をかける。
リカは、いつ免許をとったのか、と問うタカヤに「昨日」と短く答える。
免許取得直後で大きい車を運転できるのか、と驚くカナエとノリコ。
得意げに笑うリカ。
タカヤが神妙な顔で続ける。
「つーかさ、お前、教習所とか行ってたっけ…?」
リカは、一発試験で取ったから、と笑みを浮かべ、サラッと答える。
マジすか、と驚愕の表情のシロー。
カナエのそれは何? という問いに、シローは、教習所に行かなくても試験を受けて合格したら一発で免許がとれる裏技だと答える。
なにそれ! と驚くカナエ。
アタシもそれでとる、というカナエに、試験が難しく、100人に一人も受からないと説明するシロー。
海外で乗ってたのか、と問うシローに、リカは笑って、ハンドルを握るのは3回目だと答える。
天才だ、と盛り上がるノリコとカナエ。
それは大丈夫なのかと問うシロー。
「よーし ドリフトってのやってみよっか」
リカのドリフト宣言に運転だけに集中しろ! と慌てるタカヤ。
車は山のうねった道のアスファルトをどんどん進んでいく。
酔った花代子に隣のサキが心配そうな表情でビニール袋を用意する。
熊出没注意の看板には山梨県と書いてある。
小説を書く合宿
大きな家の前に車が止まる。
リビングで一堂に会する一行。
リカが他の部員たちを前にしている。
文芸部の2泊3日の合宿で、夏休み明けに部誌を作るから小説を書いてね、と笑顔で呼びかけている。
題材もページ数も自由だが適当に書いたらやりなおしだと続けて、最後に質問を募る。
ノリコが手を上げる。
「この家ってリカちゃんチスか?」
リカは、パパの別荘だと笑顔で答える。
すおーいひろーい、と寝転がるノリコ。
その隣では、別荘とか初めて見た、と笑顔のカナエ。
カナエの隣のシローが手を上げて、小説を書いたことも読んだこともないが、何を書いていいかわからない、と問う。
リカは、うん、と笑顔のままシロウの言葉を受け、シローに、大嫌いなものはあるか、と問う。
考えているシローにリカが続ける。
「憎いとかムカつくとか、人でもモノでも世の中には普通にあるけどどうしても自分は許せないモノ。」
「…ダセーヤツとか、女の前で態度変えるとか媚びうるとか。」
シローはリカの問いかけにすぐに答える。
だったら、とリカが続ける。
そのダサい奴をどうしたいのか。
カッコいい奴にやっつけてほしいのか変えたいのか。
カッコいい奴しかいない世界を見てみたいのか。
「嫌いなものから考えるのも一つの手段ね。」
エンタメならラストの見せ場から考えると小説っぽくなる、とアドバイスするリカ。
なるほど、と納得するシロー。
なる! と叫ぶノリコとカナエ。
小説マスターしたかも、と笑うノリコ。
リカは、日が暮れるまで自由行動だと呼びかける。
山は鹿や熊が出るから気を付けて、と付け加える。
川で水着になって魚を見ているノリコ。
晩御飯になる、と驚くカナエ。
ノリコは素手で魚を捕まえるが、すぐに逃げられる。
「つーかナニ取れちゃってんの! ノリ達人じゃん!」
突っ込むカナエ。
ノリコとカナエは川の真ん中の岩に隣り合って座っている。
カナエは自然を前にしてインスピレーションが止まらないと口にする。
悪人が出てこない、山がきれいだという話を書くと笑顔で森を眺めている。
私はカッパの話、とノリコも続く。
「川を汚す悪人の尻子玉抜いていって、最後は人類VSカッパまでいきたいな!」
「ヤベー壮大!」
小説を書く目標を決めないかとカナエに提案するノリコ。
リカより面白い小説はハードルが高いから響より面白いものを書こうと目標を一致させる二人。
響よりヤバいのが書けたら賞をとれるレベルだと盛り上がる。
サキとリカの会話
サキは別荘の中を回っていた。
部屋を行き来し、密室トリックを考えるサキ。
別の部屋のドアを開けるとそこにはテーブルの原稿用紙に向かっているリカがいた。
リカに、もう書いているのかと問うサキ。
リカは、本の原稿に取り掛かる前に習作として軽い短編を書いておきたかったと答える。
回想。
廊下でサキとリカが会話している。
サキは、リカに『お伽の庭』の作者が響だと知っていたのかと問う。
リカは肯定し、担当も同じ人だと付け加える。
サキは、リカが「木蓮」を紹介して小説の書き方も教えたのかと問う。
何も教えてない、あの子は天才だとさらっと答えるリカ。
現在。
サキは、小説を書いているリカの背中を見つめている。
祖父江秋人の娘のリカよりも、何の背景も無い響が芥川直木をとったことに関してリカの心中は複雑なのではないかと考えるサキ。
(リカさんは響さんのこと、どう思ってるんだろ…)
「小説は勝ち負けじゃないからね。」
背後のサキを見ずに言うリカ。
「今は響ちゃんとか余計なこと考えないで、ただ、書きたいこと書いてんだ。」
リカは笑顔でサキに振り返る。
「勝ちたいけどね。」
「……私なにか、口に出てました?」
動揺して口を押さえるサキ。
ふっふー、と声だけで笑うリカ。
「私は何せリカさんだから!」
響がフラフラしてた結果
リビングではタカヤがテーブルの上でペンを走らせていた。
小説ではなく英語の勉強をしている。
涼太郎に響についてなくていいのかと問うタカヤ。
響は一人でフラフラしたいそうだと答える涼太郎。
吐き気の収まらない花代子がとぼとぼと森の中を歩いている。
気持ち悪と言いながらも自然を楽しみたい様子の花代子は、何かが植物を揺らすガサッという音を聞いて、ふと、リカの言葉を思い出す。
(鹿とか熊とかいるから注意して。)
そこにいたのはウサギだった。
ぴょんぴょんと逃げるウサギ。フラフラしながらも、カワイイ、と追いかける花代子。
「こっち来てえ。」
道を塞ぐように未知の真ん中で止まってシローを見ている鹿。
シローは、あっちいけよ、と手を振るが鹿は微動だにしない。
「くそ、近くで見ると鹿って怖えな。」
その頃、外でフラフラしていた響は熊と遭遇していた。
熊と目を合わせてキョトンとしている響は、おもむろに地面にうつ伏せになる。
熊はニオイを嗅ぎながら響に近づき、響を探るように手を振る。
そして踵を返し、何事もなく森の奥へと去っていく。
あー、びっくりした、と起き上がる響。
「かなわないなあ」
日が落ちる。
リビングで猛烈な勢いでペンを走らせているカナエとノリコ。
「リカちゃん、見てて! 私、多分今伝説作ってる!」
ゾーンに入った、文章なのに絵が見える、とノリコ。
同じテーブルについて本を開いているリカは、黙ってることできないの? と二人に突っ込む。
風呂から上がったサキは響に近づき、もう書いてるんですか、と問う。
サキが響に題材を尋ねる。
「ある日森の中で、熊に出会う話。」
響は原稿用紙から目を離さず答える。
(うわぁ…)
サキは、響が紡いでいく文字を見て心の中で感嘆の声を上げる。
(あの「響」が、今、目の前で、小説書いてるんだ…)
風呂に入ってリラックスしている花代子。
夜が明ける。
小説を書いている途中でテーブルに突っ伏して寝ていた響。
リカが、その隣に座って響の書いた原稿を読んでいる。
「かなわないなあ…」
感想
まず冒頭、古今東西「面白い小説」で猪又コウジが否定されてたのに笑った。これいいのかな?
猪又コウジは明らかに又吉直樹をモデルにしてるの丸わかりだし、柳本先生は作家又吉直樹に否定的なのかと思ってしまう。
事務所には、仲が良くて、使わせてもらっている、と答えて欲しい。
もしそうなら読んだ上でダメだったのか、存在が気に入らないのか。
個人的には前者であって欲しいけどそれを知る術はない……。
とりあえず、響とリカという本の虫に、揃ってピシャリと否定させてたのには笑った。
自分は又吉作品を読んだこと無いけど、火花が200万部超えのメガセールスになったのは知ってる。
どうも話題ばかりが先行しているように見えて手を出す気になれなかった。漫画読むのに忙しいし。
別に又吉氏が好きでも嫌いなでもないけど、響を読んで気を悪くしてなければいいな……。
なんとなくだけど、多分読んでるような気がするんだとなぁ。
文芸を物語の中の重要な要素にした比較的珍しい漫画だし、漫画大賞取ったし、チェックくらいしてると思う。
周りが「こんなのがあるよ」って薦めてそう。
何か心がざわつくわ~(笑)。
他、見どころとしてはリカが本当に何でもできるところ。
一発試験に関しては、バイクはそういうのがあるというのは知っていたけど、車でも存在するのは恥ずかしながら知らなかった。
一発で受かって、翌日には何の問題もなく別荘まで山道を走らせて来れたことから、リカが本当に優秀なのがわかる。
しかしそんなリカを以ってしてかなわないと言わしめる天才の響。
熊が出るというリカの説明により立ったフラグ通り、響は熊と遭遇した。
しかし響は全く慌てる様子を見せずに死んだふりをする。
実は死んだふりという対処法は実際に熊に遭遇した際はご法度らしい。
じゃあどうすればいいか。
熊とジッと目を合わせたまま、ジリジリと熊から離れるのが逃げる方法らしい。
脱兎の如く駆け出したら最後、獲物を追いかける習性によりあっという間に追いつかれて死んでしまう。
実際、山で熊と遭遇したら、それは、一つ対処を間違えたら死ぬような緊急事態なんだと自覚せねばならない。
響は対処法は間違えていたが、堂々と落ち着いていたことで助かった感がある。
この非凡な態度こそがここまで社会に与えてきた影響が生まれる源泉だった。
そして、響の賞のことを知っているサキが感じた、リカの響への想い。
ラストのコマ「かなわないなあ…」と言っている場面。
一つ前のコマのリカの表情は、響と、響の才能を受け入れている証左だと思う。
嫉妬とかではなく、完全に自分より上の才能の持ち主だと認めている
今話も前回と同じくメインストーリーが進展せずに終わった。
夏休みが来週も続くとしたら、花火大会あたりか?
こういう話もいいんだけど、やはりメインストーリーの進行が気になる。
また二週間かぁ、と考えると辛い。
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今回の話はイマイチでした
コメントありがとうございます。
正直今回の話のメインは本筋からは外れた、どっちかと言ったら閑話休題的な内容に思えますし、しょうがないですね。
ここまで話を追って来た読者なら、結局霧雨アメが「漆黒の~」のキャラデザインの仕事をきっちりと行った=「漆黒の~」を面白いと思ったということであれば、霧雨がそれを読んでどういう反応をしたのかとか、津久井による響包囲網が着実に形成されていく過程などの描写が見たかったと思います。
自分は、今話は響の非凡な一面を別角度から見ることが出来た話と受け止めてます。
まだ津久井のドキュメンタリーの放送は数か月先の予定のはずなので、まだ寄り道的な話は挟まれるかもしれませんが次の話は本筋が動くことを期待したいですね。
そです、そです、ご指摘通りです。
これが何らかの伏線になって、そうくるか!と繋がればいいんですけど、どうなるでしょうー。
ところで私は響を読んでネットでも調べてみたところ、割と響を酷評している人が多くて自分の感覚は世間とズレているのかなぁ・・・と思った時、ふと何故かTTTの人を思い出して、あの人は今何しているんだろ?と思って平行して検索していたら、何故かここにたどり着いたのです。ずいぶんと絵柄が違う感じですが、同じ人だったのですね。
やはりどんな種類や形や大小の差異はあれど、才能のある人ってのは誰にも知られず出てこないまま、ということは無いのでしょう。
今、スペリオールは響と零落を読むために、
そしてその後、このブログに来ることを楽しみにしています。
今後とも、楽しみにしております。頑張って下さいませ。
ありがとうございます。
そうですね。響は割と酷評されていると思います。
酷評されているポイントは大別すると4つくらいにまとめられるように思っています。
・タイトルの「小説家になる方法」という部分(副題?)
・響の性格及び行動(本好きの癖に部室で、あるいは花井に向かって本棚を倒す。あとは暴力行為。)
・響の天才性の表現が周囲の反応のみで、例えば小説の一節さえも書かれていない
・話の流れのパターン化
こんなところではないかと思います。
特にクリエイターの方々は苦々しく感じているような印象がありますね。
「小説家になる方法」を学ぶとか、響に下手に感情移入するような姿勢で読んだりせず、ただ話を追っていけば楽しめると思うんですけどね。
響が業界を無双状態で荒らしていく様子を傍観者として見てればいいんじゃないか。
柳本先生はそれこそ絵は微妙かもしれませんが漫画自体は上手でとても読ませる作家だと思います。
絵柄はTTTでの活動の後期でオリジナル作品を描いている頃に作られた絵柄が今の連載での絵柄に繋がっているように感じますね。
過去のエロ商業誌で描かれた作品を見ると、もっと頭身を上げた作画コストの高い作品もあるようですから、苦心の末に生み出した絵柄だと思いますよ。
マンガ大賞まで獲ったことを考えると、やはり絵柄うんぬんよりも漫画であることが重要なんですよね。
>才能のある人ってのは誰にも知られずに出てこないまま、ということはないのでしょう。
そういうことなんでしょうね。
商業でまず短編を描き、それを見た小学館の編集者が連載を持ちかけた、という流れですからきちんとチャンスを掴んでますよね。
このブログの記事は内容自体はあまり大したことがないですが更新していきたいと思います。
響、零落あとは血の轍もようやく話が動いて面白くなってきたと思うのでおすすめです。
まず、スペリオールが発売されて読んだら、是非また覗いて見てくださいね。