第48話 「文芸部」
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おかっぱの女の子の失敗
校庭。
「響って信じる?」
ベンチに座った新入生のおかっぱの女の子が意を決して、隣で本を読んでいた響に問いかける。
問われた響はジッと目の前の新入生を見つめる。
文体と世界観が好きで、どんな人間ならこんな魔法のような小説を書けるのか、と『お伽の庭』とその作者である『響』を絶賛するおかっぱの女の子。
「記者会見の動画見たら納得できた。」
「この人なら魔法も使えるなって。」
あなたはどう思った? と問いかけ、続けざまに響の記者会見を見たか、『お伽の庭』を読んだか問うおかっぱの女の子。
「私が言えるのはひとつだけ、」
響がおかっぱの女の子に答える。
「上級生には敬語を使いなさい。」
えっ、と驚くおかっぱの女の子は、「ごめんなさい。小柄だから一年かと」と言ったところで、あっ、と口を押さえる。
無反応の響。
いたたまれなくなって、女の子はベンチから立ち上がって走り去っていく。
(友達作ろうなんて慣れないことするから、初対面の上級生に敬語も使わず喋り続けて、恥ずかしい、死にたい。)
響から離れたので女の子は本を広げ、読みながら歩く。
(もういい、今まで通り一人で生きよう。)
「おかっぱちゃーん。」
同じクラスの女の子が勢いよくおかっぱの女の子に背後から抱きつく。
何事かと女の子を見るおかっぱの女の子。
もう一人同じクラスの女の子がいる。
クラスメートだよ、部活見学に一緒にいかないかとおかっぱの女の子が二人に誘われる。
「どーせ文芸部でしょ? アタシらもー。」
文芸部の場所がわからないので一緒にさまよおう、と一緒に旧校舎を探す三人。
粋がるシロー
旧校舎を発見した三人はその雰囲気を楽しむ。
「すげー、木造だよ 私こーいうの超好きー。」
「雰囲気やばーい!」
(うわ…すごいな時間が止まってる。)
こーいうの好き? と問われておかっぱの女の子はうん、と答え、続けて感想を言う。
「永遠みたい。」
それを聞いて、ん? とよくわからないという表情の女の子。
文芸部が二階にあることを掲示板から知り、階段を登っていくおかっぱの女の子以外の二人。
(私、今、変なこと言ったかな…)
おかっぱの女の子の表情が沈む。
文芸部の部室の前にはたくさんの新入生いる。
その表情には一様に笑顔はない。
「なにこれすげー人!」
「文芸部の入部希望? リカちゃん効果か!」
なぜ廊下にいるのか不思議になって女の子が生徒の一人に話を聞く。
「いや、ちょっと入れないみたいで」
返ってきた答えに合点がいかず、どうするか話していると、もう一人、生徒が現れる。
「なんだあ うじゃうじゃと溜まってんなあ。」
それは、おかっぱの女の子の文庫本を奪って、ビンタの反撃を受けたシローだった。
それに気づいて、あ、と声をあげる長髪を二つに縛った女の子。
「よおおかっぱちゃん。あとクラスの奴だっけ。」
何しに来た、という長髪の女の子に、入部希望だと返すシロー。
部室前の人だかりについて男子生徒が質問するも、ショートカットの女の子は知らないと答える。
シローが文芸部の隣の教室のドアに張り手をし、ドアのガラスが割れる。
文芸部の前にいる生徒たちの視線が一斉に男子生徒に集まる。
「その部に入りたいからさ、どいてくんない。」
道を空ける生徒たち。
シローがおかっぱの女の子に「おい、おかっぱ」と声をかける。
続けて、ダメだろガラス割っちゃ、と片付けと教師へ謝罪しておけと命令する。
それはおかしい、と指摘する長髪の女の子にシローが「あ?」とすごむ。
「うっわこえー!」
「ヤベーこれ屈するしかねーじゃん!」
長髪、ショートカット、二人の女の子が男シローの迫力逃げ腰の女の子二人。
おかっぱの女の子は黙って立っている。
「わかった? 返事は?」
シローはおかっぱの女の子に返事を促す。
じっと睨みつけてくる女の子に「ったく生意気なヤツだよ」と呆れて見せるシロー。
「さすがに女の子殴るわけにもいかないしな。」
おかっぱの女の子の右頬にシローがビンタする。
「殴るけどね。じゃあよろしく。」
シローは得意げな笑顔を浮かべて文芸部に向かう。
この調子で先輩もシメて文芸部を不良の溜まり場にしようと考えながらドアを開ける。
「なんだあ、開いてんじゃねーか。」
そこには、ソファに座って本を広げているタカヤ。
……こんちは、とシローはさっきまでの勢いが少し消沈したように挨拶する。
文芸部の部室の前の生徒たちがざわつきを見せる。
「すごいね、あの人入ってったよ!」
「ここってホントに文芸部なの?」
「少なくともヤクザみたいな人は部員じゃないよね。」
「それはありえないでしょ!」
「ヤクザ対ヤンキーか。」
おかっぱの女の子の思わぬ行動と響のいつもの行動
シローをじっと睨むタカヤ。
「ここ、文芸部スよね」と確認するシローに向かってタカヤが歩いていく。
(でか…176cmのオレより全然でけえ…)
目の前まで歩いてきたタカヤに圧倒されるシロー。
オラ、とタカヤが入部届を差し出す。
え…、と戸惑いの表情を見せるシローに入部希望だろ、これ書いて待ってろ、と言うタカヤ。
シローは一瞬の間の後、「アンタが代わりに書いといてよ。センパイ」と強がりながらタカヤに命令する。
はあ? と聞き返すタカヤ。
(舐められてたまるかよ。最初にキッチリかましておく。)
「あ?」と凄むシローの背中に女子生徒の両足を使ったドロップキックが炸裂する。
シローは振り返っておかっぱの女の子を見る。
おかっぱの女の子はドロップキックで身体を投げ出した体勢から起き上がってシローをじっと睨んでいる。
何が起こっているのか分からないタカヤ。
「もう謝っても許さねー。」
シローがおかっぱの女の子に向けて言う。
文芸部部室の前の生徒たちは一連の騒動にさらにざわついている。
おかっぱの女の子のクラスメートの長髪の女の子はかっけー、と笑顔になる。
「入学式の日にヤンキーにビンタして飛び蹴りかまして、とんでもねー子だな!」
「あんなんできる女の子世界であのおかっぱちゃんくらいじゃん?」
ショートカットの女の子が長髪の女の子に言う。
「響とかってあんなカンジなのかなー。」
「思った!」
長髪の女の子が即答する。
「殺す。」
シローが元々しっかりと締めていなかったネクタイをさらに緩める。
おかっぱの女の子は正面からシローを睨みつけている。
(…どうしよっかな。普通にケンカしても勝てるわけないし。)
(だったら大人しくしてればいいのに、どうしてもやられっぱなしじゃ終われない。)
(どうして私はこう自我が強いんだろ。)
(響ならどうするのかな…)
ショートカット、長髪、二人の女の子がおかっぱの女の子を助けるために先生を呼びに行こうかと話しているところに響が現れ、部室に入っていく。
おかっぱの女の子が振り向き、響に気付いて「あ」と声を出す。
「あん?」と不思議そうなシロー。
タカヤは「また面倒なのが…」と腰に両手を当てて俯く。
「なにこの子達」という響の問いかけに「勝手に入ってきてケンカ始めた」とタカヤが答える。
「ふーん。外でやりなさい。」
響の注意にシローは「お前から先に殺すぞメガネ!」と凄む。
ほう、と一言口にした響を冷や冷やしながら見つめるタカヤ。
響はシローに近づいていく。
「先に言っておくけど、私ももう16歳で2年生のお姉さんだから。」
シローが何も答えず、おもむろに拳を振り上げた瞬間、響の片手での目つぶしがシローの両目に高速でヒットする。
男子生徒は「がっ」と短く呻いて両目を手で押さえながら崩れ落ちる。
あっけにとられる長髪、ショートカットの二人の女の子と、おかっぱの女の子。
タカヤは左手で顔を覆って「やっちゃったよ」という表情をしている。
響が崩れ落ちたシローを見下ろしながら言う。
「謝れば許す。」
感想
響の目潰し!
暗殺術でも学んでいたのか、というくらい鮮やかな手口。
シローが手を振り上げようとしている間に一直線に目潰しを行うその素早さは容赦の無さの表れと言えるだろう。
普通のヤンキーであるシローは相手が女ということもあって腕をゆっくり振り上げてビビらせようとしていたのではないか。
おかっぱの女の子をビンタしたときは既に教室で彼女からビンタを受けていたためにシローに女にも容赦しないというスイッチが入っていた。
しかし響がシローにとっては初見で、しかも特に彼女からは何もされていないので、響の稲妻のような一撃で沈むことになったのだろう。
殺すぞ、と言い放ったシローが、内心そんなつもりは全くない。
しかし響はそれを言葉通り受け取り、殺される前に相手を無力化しようとしているのだろう。
タカヤとのケンカの際もやはり同様の考えからタカヤの小指の骨を折り、ペンで目を突こうとしていた。
響がヤバイのは躊躇わないことだと思う。
自分がその時正しいと思ったことを瞬時に、躊躇わずやる。
(これは今やってもいいんだろうか)
(がまん)
(これをやったら私の立場がまずい)
行動すべきかどうかに間を取る、考える、或いは躊躇うということはつまり保身、生存本能から来ていると言って良いと思う。
しかし響はそんなことは一切考えない。
自分がどうなろうが、自らの感性に従ってその時感じたままに行動している。
暴力は、『お伽の庭』を生み出した響の特異な感性の表出のひとつの形だと言える……のかもしれない。
そして前話46話でもシローにビンタしていたが、47話ではさらにドロップキックをかますという、おかっぱの女の子の『響っぽさ』も印象的だった。
『お伽の庭』に強く感応し、旧校舎を「永遠みたい」と独特の表現をしてみたりとますます『響』っぽい。
今後、彼女がどういう立ち位置になっていくかが楽しみ。
以上、響 小説家になる方法 第47話 「文芸部」のネタバレ感想と考察でした。
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