第72話 それぞれの道
目次
第71話のおさらい
登校するリカに友達のアリサがリカに駆け寄る。
リカの新刊『竜と冒険』を掲げて、新刊が出たのかと問いかけるアリサ。
飄々と、昨日発売したと答えるリカ。
よっちとも合流し、3人で教室に向かうとそこには席に座って本を読んでいる響がいる。
響はリカが来たことに気付き、「竜と冒険」について肯定的な感想を述べ始める。
リカはリアクションすることなくおもむろに響の座る席の隣に座る。
教師がやってくるが、リカは響に小説を書いて感じていたことを語り始める。
自分の原点であり、感情そのものを書いたと照れた様子のリカ。
響は、リカの小説の中で竜と冒険が一番好きだと淡々と感想を続ける。
穏やかな笑みを浮かべるリカ。
教師が二人に近づいていくと、それだけ言いたかった、と響が去っていく。
その後ろ姿を見送り、リカに注意する教師。
リカは教師の言葉に反応することなく俯く。
再び注意され、今度は笑顔で教師に返事をするリカ。
一年三組では咲希が授業そっちのけで文芸コンクールに送る小説の詰めを行っていた。
響ならどう考えるのか、という思考を振り切り、自分自身の思いを探りながら文を埋めていく。
学校が終わり、校門に向かうリカはタカヤと出くわす。
タカヤが真剣に受験勉強をしていることに感心しつつも笑うリカ。
タカヤは鞄から「竜と冒険」を取り出し、面白かった、と素直な感想をリカに真っ直ぐ伝える。
いつの間に書いたんだ? とタカヤに問われるも、リカは顔を伏せるのみ。
しかし、すぐにタカヤに笑顔を向けて夏休みの間だと答える。
花代子が文芸部員たちの前で文芸コンクールの原稿が入った封筒をポストに投函する。
咲希は2時間で仕上がった響の小説が受賞するわけがないと考え、自信がある、と宣言する。
ノリコも咲希に続いて純文学の新境地を開拓したと自信を表明する。
興味があると響が花代子にコピーの在り処を問う。
そこで作品のコピーをとっていなかったことに気付く花代子。
文芸部員たちの背後を原稿を回収した郵便局の車が走り去っていく。
花井が小論社からリカに電話する。
「竜の冒険」が好評で、既に読者から肯定的な感想が続々と届いているとリカに伝える花井。
公園で花井と電話していたリカはあまりの至福に涙さえ浮かべて花井の言葉を聞くのだった。
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第72話 それぞれの道
文芸部部室に行かない2年組
市立柚木図書館。
花代子とタカヤが並んでテーブルに向かっている。
タカヤは勉強をし、花代子は本を読んでいる。
花代子がタカヤに話しかける。
「タカヤ君その歴史のとこわかる? 教えてあげよっか。」
いやいい、と目の前のノートから目を離さずに返事するタカヤ。
そう、と少し寂しそうな花代子。
「ねえこの英語の訳教えて。」
めげずにタカヤに話しかける。
「……かよ邪魔すんなら帰れ。」
涼太郎の家のブックカフェ。
窓際で本を読む響に涼太郎が特大パフェを持っていく。
本屋。
リカが「How to フィンランド語」というタイトルの本を閉じる。
さらに棚から一冊の本をとり出す。
タイトルは「マンガで分かるフィンランド」。
文芸部一年組会議
文芸部部室。
咲希、シロウ、ノリコ、カナエがテーブルを囲む。
第一回文芸部一年生会議、と盛り上がるノリコとカナエ。
なんだそりゃ、とノリコとカナエに問いかけるシロウ。
今日、上の人は来ないようだから、文芸部のこれからを一年組で考えよう、という二人。
「ほら! この前の文芸コンクール! ぶっちゃけウチらいいトコまでいける気すんだよね!」とノリコ。
カナエは、まず響がトップでしょ、と当然の様に言う。
そして、自分たちも響やリカと一緒にいた事で気付かない内に力がついているんじゃないか、と続ける。
咲希は二人を見つめ、床に視線を移す。
「響さんは賞とかないと思う。2時間で仕上げてたから…」
そうなの!? と驚くノリコ。
「じゃあ私がトップの可能性あんじゃん!」
両手を胸の前で握り、ワクワクしている様子のノリコ。
シロウは、あのな、とノリコに話しかける。
「そばにいるだけで上手くなるかよ。全国で1000校とか応募すんだろハシにも棒にもかかんねーよ。」
数学の教科書から目を離す事無く淡々と指摘する。
「つーかお前ら期末テストの勉強してんの?」
「言うな!」
「せっかく現実逃避してんのに!」
その光景を見つめる咲希。
咲希とシロウの会話
下校する4人。
ノリコとカナエは二人、これからカラオケに行くと咲希を誘うが、咲希は行かないと短く断る。
咲希はシロウと二人で帰る事に。
二人、会話も無く歩く。
居心地の悪さを覚えている様子の咲希を気遣うように、シロウが話題を提供する。
「お前小説家になりてーの?」
「………」
突然のシロウからの質問に暫し沈黙した後、咲希が答える。
「……多分。」
「絶対無理だぞ。」
ピシャリと告げるシロウ。
虚を突かれ、は……? と言いながら隣のシロウを見る咲希。
小説は好きではなく、成り行きで文芸部に属しているために客観的に見える、とシロウが咲希を見つめる。
「響さんみたいには死んでもなれねーよ。あの人異常だ。」
咲希はぽかんとシロウを見つめる。
「高1で小説の世界でトップになって、ちょっとライトノベル書いたらアニメになるとかいって、俺は入学早々殺されかけるし、今は喧嘩なんか知んねーけど指折ってるし。」
立ち止まり、つらつらと理由を述べるシロウ。
「アレは人間じゃねーよ。」
咲希は黙ってシロウを見ている。
シロウは続けて、咲希にはリカのような親の七光りすらないとと指摘する。
「プロの小説家とかそんなもんフツーなれねえよ。響さんみてーに頭ぶっ飛んでねーと。」
「……どうしてあなたにそんなこと言われなきゃいけないの。」
黙って聞いていた咲希が重い口を開く。
「別にお前と話すことねーから、ムリヤリ話題作ってるだけだ。」
咲希からそっぽを向いていたシロウは、目を閉じる。
「響さん相手だったらこんなこと言わねーよ。怖いからな。」
お前は怖くない、とシロウは咲希を置いて歩き出す。
咲希は何も言わずに黙っている。
「ほらな。」
咲希を振り返りながらシロウが呟く。
「響さんならとっくに俺をぶん殴ってる。」
そして歩き出すシロウ。
咲希は俯き、その場に立ち尽くす。
フィンランド行き
夜道を歩く花代子とタカヤ。
文芸部はきちんと仕切ってるのか、とタカヤに問われた花代子は、うん! と元気に答える。
リカがやっていなかった文芸コンクールへの参加という活動に胸を張る花代子。
リカから文芸コンクールに関して聞いた事がなかったのか、タカヤは、そういや知らねーな、と答える。
「まあ、あいつはプロだしな。」
気になるなら顔出してよ、と花代子はタカヤに笑顔を向ける。
「今は受験があるから無理でも、大学生になってもちょくちょく来てね。」
あのな、とタカヤが花代子を見つめる。
少し元気が消えた様子の花代子。
「リカみてーにフィンランド行くってんじゃねーんだ。東京くらい大した距離じゃねーだろ。」
「リカさん? フィンランド? なにそれ。」
「なんだアイツ言ってなかったのか。」
花代子の反応に、タカヤは立ち止まる。
「あいつが言ってねーってことはまだ知られたくないんだろ。悪い忘れてくれ。」
リカさんフィンランド行くの!? と驚く花代子。
タカヤは忘れろと言い、他の部員には言うなと念を押す。
うん、と答える花代子。
祖父江家を訪ねる響
二週間後。
リカ、アリサ、よっちが歩いている。
アリサが、これから鎌倉行かない? と二人を誘う。
もう2か月全く遊んでいないと辛そうなアリサは、なんでもいいからさっさと受験終わってほしい、と呟く。
寝て起きたらセンター終わっててほしい、と同意するよっち。
「センターまであと3週間。長いな――」
アリサは天を仰ぐ。
「ふーん」
リカが一言。
頑張れって言え、と騒ぐアリサ。
「私も生まれ変わったら来世は絶対推薦取る!」
自宅に辿り着いたリカ。
(……そういえば、今日だっけ。)
リカが、ただいまー、と家の中に入っていく。
「おかえり。」
響がテーブルでケーキを食べている。
その背後にはリカの母がトレイを持って笑顔を浮かべている。
少し驚いた様に響を見つめるリカ。
テレビでは政治と金にまつわるニュースが流れている。
「響ちゃんさっき来てね、リカちゃん帰るまで待っててもらったの。」
笑顔でリカに伝える母。
うん、と返事をし、リカはテーブルを挟んで響の前の席に座る。
「リカ フィンランドの大学に行くの?」
唐突に切り出す響。
誰から聞いたの? というリカの質問に、響は花代子と答える。
「そっか、タカヤか。」
響の一言で全てを察するリカ。
リカは響の質問に、うん、と答え、今と全く違う生活がしてみたくて、とその理由を続ける。
「地元か、東京か、海外か。どこに行くのが一番わくわくするかなって思って決めた。」
フィンランドは母の母国という縁もあり、なおかつ言葉も多少分かる、というリカ。
「別に隠してた訳じゃないんだけどね。」
笑顔を作るリカ。
「色々ひと段落したら言おうと思って。」
「寂しくなるわね。」
「うん。」
芥川賞直木賞候補作発表
テレビのニュースは次の話題に移る。
下半期の芥川賞直木賞候補作が発表されたとニュースのキャスターが告げる。
果たして第二の「響」は現れるのか、と言う煽り文句の後、テレビに候補作の一覧が表示される。
その中にリカの「竜と冒険」は無い。
アナウンサーは現役アイドル南野悠斗が芥川賞にノミネートされたことを指摘している。
リカは天井を見つめ、ふう、と軽く一息吐く。
その様子を見ていた響は、残念? と問いかける。
「やっぱりね。」
リカは目を閉じ、しかし笑顔で答える。
「私は響ちゃんじゃないから。」
リカのスマホが鳴る。
電話に出ると、花井だった。
良いニュースと悪いニュースがあるんだけど、という花井の言葉にリカは落ち着いて答える。
「悪い方は知ってるから良い方だけでいいや。」
『竜と冒険』の重版がかかったと言う花井。
前作の『四季降る塔』よりも反響が良かったと続ける。
「賞ってどこの誰がどうやって選んでるかよくわからない。」
響が続ける。
「目の前の私が面白いって言ってる。それが一番じゃない?」
「私は響ちゃんじゃないからね。そこまで割り切れない。」
言葉とは裏腹に穏やかな笑顔のリカ。
「今までもこれからも多分私は一生祖父江の娘って言われる。」
「まあ実際私はパパの娘だからそれは別にいいけど。」
何か一つでも自力で手に入れた肩書きが欲しかった、と言うリカに、響が、友達の響ちゃん大絶賛じゃ駄目? と答える。
笑うリカ。
「ありがと。」
感想
エンディング感があってビビったw
いきなり終わるのかと思った。
カラーページだし、タイトルだって「それぞれの道」だし、「俺達の戦いはこれからだ!」感があった。
文芸コンクールの結果や、漆黒のヴァンパイアが世の中でどう社会現象を起こすかがまだ描かれていないのに終わるわけがない。びっくりしたわー。
咲希とシロウ
現状、咲希がどうなっていくのかが一番気になる。
文芸コンクールへ応募した作品は咲希渾身の意欲作であり、咲希は大きな自信を持っている。
少なくとも、たった2時間で小説を仕上げた響の作品には勝てるはずだと考えている。
というか、まず響の小説が賞に選ばれることは無いと思い込もうとしている。
しかし、咲希は心の深い所でそんなことはないと分かってると思う。
響の底知れない才能は自分に測れるものではないとどこかで感じているんじゃないだろうか。
文芸コンクールの結果次第で文芸部はちょっと荒れるかもしれないなぁ……。
響にまるで敵わない事を悟った咲希が文芸部はおろか小説を読む事すら辞めるとかありそう。
多分、咲希は繊細だ。現実を知ってなお、次の瞬間に力強く一歩を踏み出そうとするようなタイプではないと思う。
もし、咲希が全く賞ひひっかからず、妙に自信満々の様子だったノリコが賞を獲ったらいよいよ咲希の精神崩壊は避けられないな。
咲希は何だかんだで自分のセンスを信じているところがあるように見受けられる。
それが、まさかバカばっかやってるノリコに敗れるという展開があったら痛々しくて正直見てられない。
傷心の咲希をシロウが励ます、みたいな展開?
リカ、フィンランドへ
これで暫く登場シーンが無くなるのか……。
響じゃないけど寂しくなるな。
響の一番の親友と言えるリカがいなくなることは響にとっては結構な痛手なんじゃなかろうか。
何だかんだで響に近い年齢で響の天才性を含めて響の事を最も分かっているのはリカだったと思う。
有名作家の令嬢であり、金持ちであり、万能キャラという隙の無いキャラだったが、響に対して怒りをぶつけたり、小説が思い通りの作品に出来なくて苦しんだりと人間味もあった。
『お伽の庭』の僅か一作で日本小説界のトップを獲った響までとはいかないが、優秀なクリエイターとして、響達の仲間として、今後も物語の随所に出て来ることを期待したい。
あと、芥川賞候補作に山本春平が「百年前の一目惚れ」というタイトルで再びノミネートされたのは素直にすごい。
響の身を挺しての説得の甲斐があったというものだ。
獲れなかったら今度こそ山本は自殺を実行しかねないと思うんだけど、果たしてどうなるか。
この結果も楽しみ。
以上、響 小説家になる方法の第72話のネタバレを含む感想と考察でした。
第73話に続きます。
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