最終話(第114話) 響
第113話のおさらい
あっという間に、卒業式当日を迎えていた。
卒業証書授与に移ろうとしているのに、響が会場にいないことを心配する涼太郎と花代子。
在校生の席に座る典子、かなえ、咲希、シロウも響がいないことに気付き、落ち着かない時間を過ごしていた。
この事態に塚本は、何かを堪えているかのような表情で俯いていた。
文芸部部室では、望唯とヒロトは響に卒業式に行くよう懇願していた。
響は学校には来たものの、塚本からの頼みを何度も断ったのに結局答辞を無理やり読まされることになったからと式に出ることを拒否していた。
しかしそんな響を匿った犯人にされてはかなわないと、望唯とヒロトは響を無理やり体育館に連行するのだった。
その頃、本来響が読むはずだった卒業生の答辞は、事前にこの事態に備えて原稿を用意していた塚本が読んでいた。
無事に答辞を読み上げて、拍手を受ける塚本。
壇上から名残惜しそうに列席者たちを見つめていると、突如体育館の前方、司会者の背後の扉が開き、そこから響が放り出される。
その一部始終を目撃していた壇上の塚本は、呆気にとられながらも響を見つめていた。
響が来たと徐々にざわつく会場。
人が響?」
塚本は、卒業式がぶち壊しになってしまう危機を感じていた。
生徒たちの期待は高まっていく。
それをひしひしと感じていた塚本は壇上のマイクに向かう。
「続きまして現在小説家として活動されている、3年2組鮎喰響さんに卒業の言葉を頂きます!」
一気に盛り上がる生徒たち。
塚本は壇上に上がってきた響のシャツの首元のボタンを留めて、さらに自分の首のリボンを響に着ける。
「今、壇上に上がってくれたことに感謝する。学校の思い出を簡単に話してくれたらそれでいい。」
そして塚本は、卒業式をぶち壊すようなことだけはしないでくれと釘をさして、響に壇上を譲る。
マイクの前に立ち、早速話し始める響。
「長い様であっという間だった3年間……でした。」
盛り上がりが一転して、妙な間が流れる。
次の言葉を出さず、マイクの前で立ったままの響に不安を覚える塚本。
(……まさか、おわり?)
響は、やっぱり駄目ね、と、腰に手を当てる。
「こういう式典での話って元々好きじゃないの。よく知らない人が誰に向かって話してるのかわからない話をしてて全然頭に入ってこない。」
そのあまりに正直な気持ちの告白に共感し、笑いあう女子生徒。
塚本は次に響が何を言うか、心配なあまり彼女から目を離すことができなかった。
「だから、塚本、あなたに向かって話す。」
響は塚本の方を剥き、自分が北瀬戸で3年間過ごしてきた陰で塚本が生徒会から支えてくれたのよね、と確認するように話しかける。
塚本はじっと響の話を聞いていた。
「感謝してるって言ったら嘘になる。」
予想外の話の流れに塚本は思わず、はあ? と声を上げていた。
響は、確かに塚本には世話にはなったのだろうが、今、自分が心から塚本や、先生、学校に感謝しているかといえば全然そう考えていないと、あまりにも正直な自分の心の内を吐露するのだった。
響の話は続く。
「私は明日からイギリスで暮らす。今は明日が楽しみで仕方ない。先のことしか考えられないの。恩知らずって罵っていいよ。」
塚本は笑顔を見せて、いいわよ、と返す。
「感謝してほしくて生徒会やってたわけじゃない。」
「心が広い。」
教師たちは笑みを浮かべながら、型破りな壇上でのやりとりを黙って温かく見守っていた。
「私の話は終わり。最後に心がこもってなくて悪いんだけど、3年間ありがとう。」
前回、第113話の詳細は以下をクリックしてくださいね。
最終話(第114話) 響
ついに最終話。
これまでのキャラが全て出るような、ありがちな最終回ではなかった。
描かれたのはあくまで新天地イギリスで生活を始めて活き活きとしている響のみ。潔い。
これからの活躍を予感させる終わり方で、先を読みたくなったなー。
響の物語はこれで終わりだけど、多分、柳本先生の今後の作品の中で響のその後の活躍を知ることができるんじゃないかと思う。
さて最終回だが、1巻の高校入学後に比べれば、はるかにスムーズに人間関係を構築できるようになってるのが良かった。
これは恐らく、ルームメイトをはじめとしてイギリスの人たちが率直に物を言うからというのもあるかな?
響にはイギリスというか、海外の人との方が心地よい関係性が築けるのかもしれない。
まぁ、歌詞がクソだと相変わらず批判の言葉が率直過ぎて、危うくケンカになりかけたのは響らしさ全開だったけど(笑)。
1巻時点では、まさか響がこういう成長を遂げることは予想できなかったな……。
天才はあくまで孤高であり、好んで他者と関係性を築くものではないと思っていた。
この変化はなんだか丸くなって寂しいのと同時に、嬉しくもある。
人間関係が改善されたからと言ってそれに反比例するように天才性が失われたというわけでもないのが卑怯だよなー。
バンドの歌詞を書かせても人の心を鷲掴みにするとか、才能の塊もいいとこだ。
これで売れなかったバンドが一気に世界規模で売れるようになって、作詞者のhibikiって誰だ? という感じでまた騒動になっていく……みたいな話をぜひ読んでみたかった。
でも柳本先生は響で描きたいことは描き切ってしまったと言うことだと思う。
おそらく芥川賞と直木賞のW受賞ほどの衝撃にはならないということなのかな……。
音楽で最高峰の才能だと客観的に認められるとすればグラミー賞受賞? あと歌詞であっても、ボブディランみたいにノーベル文学賞受賞ということもあり得るか。
現実離れしているが、あくまでフィクションなんだし、行きつくところまで行って欲しかったという思いはある。
そう言えば次が響の最終回だと知った時に、柳本先生のブログを見た。
実は、昨年の終わりとか今年の初めくらいには響が終わることを匂わせていたのを知った。
でも次の連載は割とすぐ始まるからまりしんみりしなくていいよ~みたいなことが書かれていた。
響に関して、ここまで楽しませてくれて感謝です。
次の連載に期待。
以上、響 小説家になる方法最終話(第114話)のネタバレを含む感想と考察でした。
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