第3話 その男、苦労人
目次
第2話のおさらい
仕事が決まり、テンションを上げる九郎。
ダンボールの底を抜き、丁寧に仕掛けの痕跡を確認する。
しかしそこには何の細工も見られない。
制服一式に関しても九郎の体にピッタリということ以外に特筆すべきことはない。
生徒手帳にも問題はない。
九郎の胸にあるのは校則が未だにあるのかという雑感のみ。
九郎はこれらの道具一式から、”学校に潜入せよ”という上からのメッセージを読み取っていた。
九郎は早速スマホで自分が潜入する予定の学校について調べる。
その結果、その学校が共学であることを喜ぶと、よーし、と気合を入れながら立ち上がり、押し入れの襖を開けて声をかける。
「大野さんいます?」
さらに奥にある襖を開くとそこには隣の部屋がある。
部屋は壁で区切られておらず、押し入れを通じて繋がっていた。
九郎は部屋の主がいないことが分かると、押し入れに向かって走り、頭からジャンプして押し入れの中を飛び越え隣の部屋に着地する。
そして冷蔵庫を開けて麦茶を飲み一息
つく。
九郎は転校の手続きをする為、廊下の公衆電話から潜入予定の学校である講談高校に電話をかけていた。
しかし電話口に人が出た瞬間、九郎は電話を勢いよく切る。
転校手続きは普通は生徒本人ではなく親が行うことに気付いたのだった。
父親を装えばよいかもしれないが、しかし今は昼間である以上、電話をするならば母親が自然だと考えていた。
九郎は父親が帰宅していても不自然ではなく夕方にかけ直そうと考えるが、上からの指示が無い限りは即行動することが下忍の使命と考え、昼間にシラフでいたのを見たことが無いほどの酒乱だが、このアパートで女といったらあの人だ、と階段を降りていく。
九郎は階段を降りていく途中で川戸の部屋の窓が全開なので思わずその中を覗く。
部屋の中に誰もいないのを確認し、窓全開で下着を干して大丈夫なのか? と呆れ気味になりながらも階段を降りていく。
玄関のドアを開けて声をかける。
「川戸さーん いますか?」
「うぇ~~い?」
川戸は九郎に、紙をとって欲しいとトイレの中から話しかける。
九郎がトイレットペーパーの在り処を聞くと、川戸は、便所の中に決まってんだろ、とぶっきらぼうに答えるのみ。
それは自分でとりましょうよ、という九郎からの当然の言葉に、川戸はとれないんだと返す。
川戸の座る便器の奥にトイレットペーパーが見えている。しかし手を伸ばしても到底とれないくらい位置にそれは置かれていた。
このボロアパートはどういう間取りだ、遠くに紙を置きやがって、と川戸はアパートや大家にひたすら悪態をついている。
九郎は川戸が酔っぱらっていると判断するが、現状では学校に母親役として電話をかけてくれる女性はこの人しかいないと冷静に考えていた。
川戸はトイレ内の奥の紙を取れといいつつも、自分の姿を見たら社会的に抹殺すると語気を強める。
(なるほどそうきましたか)
九郎は動じることなく再びパーカーのジッパーを目元まで上げる。
(俺は忍び 不可能を可能にする)
九郎はドアの上の桟に手をかけ、体を浮かせてから川戸に、じゃあ開けてください、と声をかける。
九郎の言葉を合図に川戸がドアを開ける。
足からトイレに入り、足と手で壁につっかえ棒をするようにして川戸の頭を越えてトイレの奥へと向かう九郎。
トイレの床に着地し、窓際に置いてある紙を掴む。
「どーぞ!」
九郎は紙を片手に川戸に振り返る。
「見てんじゃねーよっ!!!」
川戸の自分を見るなという言いつけを守れなかった九郎は川戸が思いっきり放ったスリッパをその身に受けるのだった。
第3話 その男、苦労人
電話
九郎は講談高校に潜入する為、そこに転入する旨を同じアパートに住む女性の川戸に母親役として電話してもらっていた。
しかし昼間から完全に酔っぱらっていた川戸は、エライ人出して、と失礼な切り出し方で、電話している姿を見守っている九郎をやきもきさせる。
名前を求められ、言わなきゃならないのか、とただただ非常識な電話を続ける川戸。
九郎はストローで川戸の頭に小さなラゴミを飛ばし、川戸の注意を引く。
「『ク』」
腕でカタカナの『ク』の形を作る。
「『ク』」
ダンス? と呟き、すぐにそのジェスチャーが『ク』であることに気付く川戸。
「あー『ク』ね」
「『モ』」
今度はカタカナの「モ」というジェスチャーを行う九郎。
川戸は、あー、『モ』ね、とそれを口にする。
「『カ』」
ジェスチャーで一文字ずつ表現していく九郎に川戸は、喋った方が早くね? と突っ込む。
「『ク』『レ』」
「あー『くもかくれ』だったね」
川戸のあまりに今更な一言に無言になる九郎。
「え? 『くもがくれ』? 『か』でも『が』でもどっちでもいいわよ」
電話口にあまりにも適当な名乗りをする川戸。
「そうそう 転入する雲隠九郎の母です」
恐らくは土曜に時間はあるかと問われたであろう川戸は、いきなり何よ大胆ね、と返す。
基本ヒマだけど、とまで答えてから、来いと言われているのが自分ではなく九郎の事だと指摘され、川戸は電話を九郎にチェンジする。
電話を受け取った九郎は母親役である川戸は、今は少し飲んでいるが、いつもはもう少しまともだと釈明する。
「はい 僕は大丈夫です よろしくお願いします」
飲みと身の上話
電話を切る九郎。
「川戸さん 迫真の演技をありがとうございました とてもリアルな家庭環境になりました」
イメクラで義母設定やってたからね、と笑う川戸に、流石です、と褒める九郎。
土曜は休みではないのかという九郎の呟きに、川戸は、土曜に転入試験だと答える。
「……え? 試験?」
呆然と川戸を見つめる九郎。
九郎は川戸から、試験は英国数だ、と言われ、今の電話のやりとりの中で出て来たのか、と聞き返してから、英国数……、と若干ショックを受けたような様子で唱えるのみ。
約束通り酒をおごれと九郎に向かって手を伸ばす川戸。
九郎は隣人の大野の部屋の冷蔵庫から、ちょっと借りますね、と缶ビールを二本取り出し、押し入れを通じで自分の部屋にいる川戸に、一本だけですよ、と手渡す。
ビールを受け取りながら、なぜ部屋が繋がっているのかと問いかける川戸。
引っ越した時から繋がっていたとビールを開ける九郎。
「おかげで冷蔵庫もいりません」
ビールをあおる。
「あの…川戸さん 高2の英国数ってどんくらい難しいんですか?」
入学3日で高校を退学した自分に聞く? と川戸。
九郎は謝りつつ、不登校だったもんで、とビールを飲む。
川戸から母について問われた九郎は、父が言うには母は自分を産みすぐにいなくなったと答える。
その際、「苦労をかける」と言い残していったが、父がそれを「九郎を書ける」と聞き違えをして、そのまま役所に出生届を出したのが自分の名前の由来なのだと続ける。
9人兄弟の末っ子だからじゃないんだ? と相槌を打つ川戸に九郎は、普通に一人っ子です、と返す。
「ちなみに『奇跡』と書いて『ミラクル』と呼ぶ奴と無二の親友でしたが落雷で死にました 名字は『日比』でした」
川戸は口に含んでいたビールを吹き出して笑う。
悲しい話なんですけど、と淡々と突っ込む九郎。
床に伏して笑っていた川戸は、顔を九郎に向けて、あんた何歳なの? と問いかける。
普通に17歳です、と言う九郎からの答えに、また派手に笑って見せる川戸。
「もっとおっさんかと思ってたぁ~ 未成年じゃんっ!! 普通に酒飲んでんじゃん!」
まあ飲もうっ!! と川戸は上機嫌で九郎が持っている缶ビールに自分の缶ビールを当てる。
九郎は押し入れの上段に寝転びながら、寝る時は上段に自分、下段に大野さんだと川戸に説明する。
川戸は、ドラえもんかよ、と突っ込む。
「あ きましたきました いきます」
屁で吹き矢を飛ばす九郎。矢は見事に空になった缶に当たる。
「当たったぁ!! ギャハハハハ」
当初は一本だけと大野から拝借した缶ビールだったが、気づけば何本もの空になった缶が散乱していた。
缶ビールの底には”大野”とマジックで名前が書かれている。
九郎は寝てしまった川戸を外階段を降りて川戸の部屋までおんぶ運び、布団に寝かせる。
自室から持ってきた缶を置いて、ごちそうさまでした、と手を合わせてから自室に向かう。
大野さん
「いやぁ~仕事決まったよぉ~ 今夜はエビスで乾杯だぁ~」
外階段を上がっている途中、九郎はフラフラ道を歩いている男の独り言に気付く。
「今誰かいたような?」
男は誰かに見られていたような気配を感じていた。
急いで自室に入る九郎。
部屋の中央の辺りの畳を持ち上げるとそこには空間があり、スムーズに身を隠していく。
畳を下ろして間もなく押し入れからさきほどの男――大野が顔を出す。
「おいっ 雲隠くんっひどいよっ!! キミ ビール全部飲んでないかっ!?」
しかし、部屋には誰もいない。
外国人忍者?
神社の境内。
何者かが砂利を踏みしめながら拝殿に近づいていく。
拝殿の前に立った男は、フードを被り、眼鏡にマスクをしている。
両手を胸の前に出し、立てた左手の人差し指を、やはり人差し指を立てた右手で包むように持つ。
「NIN NIN(ニンニン)」
感想
九郎の年齢と両親の存在が判明
九郎が17歳であることが判明した。
そりゃそうじゃないと高校に学生として潜入しろなんて指令は来ないよなぁ。
川戸が笑いながら言っていた通り、てっきりもっと年食ってるのかと思ってた。
でも17歳かと言われればそう見える。
17歳でもこのくらいヒゲは生えるし、落ち着いていて年齢相応に見えない奴はいる。
不登校だったというし、苦労しているからちょっとばかり感情表現が薄くなり、結果落ち着いた様に見えるのかもしれない。
”かげろうくん”も人付き合いがあまり上手くないので、社会との折り合いがあまり良くない。
ここらへんもオマージュなんだろうなと感じた。
あと、両親に関しても情報が出た。
産んですぐにいなくなってしまったという母は、どうやら普通の母とはちょっと違う印象を受ける。
逆に父親には、割と普通で、ちょっと抜けている感じという印象を持った。
母親が姿を消したことは今後、物語の進行に関わって来そうな気がする。
雲隠一族というくらいだから少なくとも両親のどちらかは雲隠の血を引き継いでいるはず。今のところ姿を消した母親がそうなのかな? と思った。それこそずっと”雲隠れ”しちゃってるみたいだし。
でも雲隠れしてしまっている母親だけが忍者である場合、何故九郎が忍者なのかという話になる。
有名な一族である以上、仮に母が一族の末裔だったとし、外から来た父親も忍者である可能性はあると思う。
もし忍者ではなくても、少なくとも忍者の存在と、自分の妻が忍者であることは知っているのではないか。
妻と息子だけが忍者で、父だけが忍者の存在自体を知らないのだとしたらその関係性は特殊で面白いと思う。
今後、遅かれ早かれ両親が物語に絡んでくるだろう。
その時に答えあわせとなるのか。楽しみだ。
隣人の大野さん
早くも大野さんが登場した。
冴えないオッサンサラリーマンといった風体だ。
お互いに部屋が繋がっていることは知っており、交流もあるらしい。
楽しみにしていたビールが飲まれてしまっているのに雲隠くんと呼ぶあたり、気の良いオッサンという印象を受けた。
何も言わずに畳の下に引っ込んでいった時の九郎の目つきが冷酷に見える(笑)。
お互いに仲は良さそうな感じかな。九郎は大野さんの部屋に普通に入って冷蔵庫を漁った。それは親しいからこそできることでもあると思う。というか、もし親しくなかったら最低な行為以外の何物でもない(笑)。
仕事が決まった、と上機嫌な様子で酔っ払っていたが、彼も忍者なのだろうか。
九郎のような下忍は仕事にあぶれていることが珍しくないという設定だったと思うが、大野さんもそうだったりするのかな……。
それともスーツを着ていたので、普通に就職の面接を受けていたのか?
”仕事が決まった”と言っていたけど、面接当日に決まったのであれば正社員ではなくバイトかな?
どの可能性も完全には否定できない。個人的には、大野さんは忍者ではない方が面白いかな。
「かげろうくん」に出てきた下の階の孤独な不良も単なる貧しい一般人だったし、おそらくはその役どころがこの大野さんなんじゃないかな。
今のところ、九郎がどこに姿を消したのかを察知出来ないあたり、大野さんが忍者ではない可能性の方が高いと思う。
その場合、普通の入居者もこのアパートに入居しているわけだ。忍者だけが住む寮的なアパートではないということになり、当然、大家さんも忍者関係ではない。
前回、川戸さんも忍者なのではないかと思っていた。
九郎のアクションを目の当たりにしても、そんなの出来て当然と言った風に全くの無反応だったし、おそらく忍者なはず。
でも驚いていないのは酔っていたからという可能性もあるしなぁ……。
くのいちであって欲しいところ。
最後の外国人っぽい忍者は何者なのか?
一体何者なのか。
そもそも彼は忍者の組織に属しているのだろうか?
1話冒頭、中東っぽいところで忍者が殺し屋のような暗殺任務を遂行していたが、それが日本人とは限らないのか。
忍者の技術は海外にも一部流出しており、外国人の中にも忍者として動いている存在がいるとか?
それとも、この外国人に関しては単なる”忍者フリーク”なのかもしれない。
この外国人っぽい忍者が九郎と敵対するのか、それとも何かトラブルを持ち込むのかは分からない。
でもさすがにこんな登場の仕方をした以上、物語に絡まなきゃおかしいと思う。
彼がどんな役どころとして物語を構成していくか期待。
以上、アンダーニンジャ第3話のネタバレを含む感想と考察でした。
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