目次
第1話
干潟
裸足で歩くセーラー服の3人の女子高生たち。
ショートの黒髪の女の子はスコップを担ぎ、もう片方の手にはバケツを持っている。
女子高生たちは耳をつんざくような轟音に、ショートの子は空を見上げ、ロングの黒髪の子は両耳を塞ぐ。
何事もなかったように歩くツインテール。
その尾翼には日の丸が描かれ、機体にair forceの文字がある。
黒髪ロングの子が干潟に無数に挿した筆をじっと見つめている。
その内の一本がピクッと動いたのに反応し、筆の周りの砂を両手で削り取って筆を何度か抜くような動きをする。
意を決してもう片方の手で穴ごと何かを掴もうとすると、それに指を挟まれてしまう。
暫くそれと格闘し、見事にエビの様な生き物――穴ジャコを捕まえることに成功する。
早いっ!! と笑うツインテールの女の子。
黒髪ショートの子は一人ノルマ10匹だと作業再開を促す。
そんな二人を笑顔で見つめる黒髪ロング。
トイレはどうすればいい、と問いかけるツインテールに、黒髪ショートは、その辺で適当にしな、とにべもない答えを口にする。
穴ジャコをバケツ一杯に捕まえたあと、移動を開始する。
穴ジャコの次は? という黒髪ロングの問いかけに、黒髪ショートは、マテ貝かな、と答える。
マテ貝おいしいよね、とツインテール。
マテ貝
黒髪ショートが、そこらへんにあいている2、3センチ大の穴に塩をかけて、と慣れた風に指示する。
塩をかけたあと、黒髪ショートの言うとおりに待つ女子高生たち。
何故塩なのか、というツインテールの問いかけに、浸透圧でマテ貝が出て来る、と黒髪ショート。
その通り、穴から細長い形状のマテ貝が顔を出す。
上機嫌でマテ貝を捕まえようと手を伸ばすツインテールの腕を黒髪ロングが止めてしまい、その間にマテ貝は穴に引っ込んでしまう。
「何よ?」
黒髪ロングの行動の意味が分からず、黒髪ショートが問いかける。
その問いかけに答えず、黒髪ロングは黙ってマテ貝が穴から出て来る様子を観察している。
「ホラ とらんと。」
「まった。」
黒髪ショートが手を伸ばそうとするのを、やはり黒髪ロングが左手で制する。
マテ貝は先ほどと同じように引っ込んでしまう。
だから何なのよ、と黒髪ショートが問いかける。
マテ貝は今度は3匹同時に穴から顔を出し始める。
それをじっと見つめる黒髪ロング。
「……」
「……」
今度は黒髪ショートも黙って見つめている。
「今夜はマテ貝ソテーだね~」
一人能天気なツインテール。
「あのさっ!」
「ダメっ!!」
黒髪ショートが黒髪ロングの顔の目の前に左手の掌をつきつける。
まだ何も言ってない、と少し不満げな黒髪ロングに、色々面倒なことを言うからダメ、と黒髪ショートが人差し指をつきつける。
「誰も聞いてないって!」
「わたし達が聞いてる!」
自らを指さす黒髪ショート。
「あんたが変なこと言うとつるんでるわたしらまで迷惑すんだからやめて!」
「ちょっとかして。」
黒髪ロングが、鼻と上唇の間に筆を挟んでいたツインテールから筆を取り上げると何かを書く持ち方をする。
「じゃあ書く!」
砂浜に書いたもの
よけいにヤバイじゃん、という黒髪ショートのツッコミに、砂に書くならすぐ消える、と早速書き始める。
「別けて書けば問題ないでしょ。」
「何何?」
興味津々で筆運びを見つめるツインテール。
黒髪ロングは、よってよって、と二人に近づくように促す。
「もう知らないからな。」
黒髪ショートは黒髪ロングが何を言いたいのかを概ね察している様子で呟く。
田
「『田』?」
ツインテールが不思議そうな顔で黒髪ロングを見つめる。
しっ、と顔の前に人差し指を立てて、渋い顔をする黒髪ショート。
「どこで誰に聞かれているかわかんないから。」
ツインテールにはピンとこない。
黒髪ロングは、『田』の下にさらに筆を下ろす。
「こんぐらい離せばいいでしょ?」
近過ぎない? と黒髪ショート。
黒髪ロングは、大丈夫だって、と押し切る。
田
少し離した下部に、
力
の最後の払いの直前まで書いていく。
何かを察し、あっ、と口元を押さえるツインテール。
「し~~~~」
黒髪ショートはツインテールに向かってそれ以上何も言うなと暗に主張する。
「いき、ます。」
「力」の最後の画にさしかかる。
「ちょっとやめなよっ 犯罪だよっ!!」
ツインテールが騒ぐ。
それを受けて黒髪ショートは、声がでかい、と顔の前に人差し指を立てる。
できた、と呟く黒髪ロング。
そこには「田」から少し離れた下部に「力」と書かれている。
ヤバイよこれは、とツインテール。
何で書いたわけ? と黒髪ショート。
「何でって、言われてもマテ貝見たら…」
最近ね、と黒髪ロングは胸を左手で押さえ、きつめに目を閉じる。
「突然胸がギューって苦しくなって、自分の中に何かが足りないってすごく感じるんだ。」
わかるでしょ、と視線を向けられた黒髪ショートは、全然いみわからんね、興味ないし、とにべもない。
ツインテールは、気持ちはまだわからないけど、言いたいことはわかる、と黒髪ロングの言い分に理解を示す。
しかし、知らんぷりが一番だよ、それが現実と続ける。
大人になろうぜ、と黒髪ショート。
「私は、」
黒髪ロングは即座に反論する。
「大人になるからこそ納得できないんじゃん。」
「ひなたは納得できなきゃ、友達を危険にあわせてもいいわけ? 大人って現実と自分をすりあわせることじゃないの?」
ツインテールが真面目な表情と口調で黒髪ロング――ひなたに迫る。
「2人ともやめなっ くだらない!」
黒髪ショートが仲裁し、砂に書かれた「田」の部分を手で消す。
「こんなもんのために!」
「あ」
すると残った「力」のちょうど一画目の描き出しの部分からマテ貝が顔を出している。
3人が一斉にマテ貝を掴もうと手を伸ばす。
口々に自分が獲ったと主張する3人。
一斉に手を開くと誰の手の中にもマテ貝はいない。
感触あったんだけどなあ、とひなた。
わたしも、と黒髪ショート。
「切望しすぎて幻肢みたいになったんじゃない?」
二人に向けて冗談を言うツインテール。
あんたもじゃん、というツッコミを受けて、ツインテールは、だよねーと笑う。
詩
潮が満ちてきたことに気付き、黒髪ショートの指示でマテ貝は諦めることに。
(消えちゃった。)
ひなたはさきほど自分が書いた「田」「力」の文字が満ちてきた潮に呑まれ始めているのを見つめていた。
その背中に黒髪ショートが、行くよ、と帰りを促す。
「……うん。」
字のあった場所から目を離さないでひなたが答える。
満潮はあっという間なんだね、というツインテールの呟きに、夢中になっていると中州に取り残される、と黒髪ショートが答える。
帰路を行く3人。
(「たかが黄昏」)
誰の詩だっけ? とひなたは突然思いついたフレーズについて、一人考える。
黒髪ロングとツインテールが他愛もないやりとりをしている間、歩きながら、つづきがあったような、とじっと考える。
(「されど夜明けを待ちわびて」)
(今夜は穴ジャコの唐揚げだな。)
(…でも夜明けは来ない。)
夕焼けをバック黒く浮かび上がった工場。
煙突から煙が出ている。
それを背景にして女子高生3人組は潮が満ち始めてきた干潟を歩く。
感想
いよいよ始まった!
いよいよ花沢健吾先生のスペリオールでの新連載が始まった!
ヤンマガのアンダーニンジャと併せて追いかけていきたいと思う。
さて、この物語の登場人物であろう女子高生たちの描写が主となった第1回。
女子高生にはちょっとかけ離れた物が描かれた冒頭と最後のページを使って、女子高生たちのある日がサンドイッチされたような構造になっている。
冒頭の”航空機”。そして最後の”日本最後の「男」”の事だ。
まず冒頭、尾翼に日の丸がついている飛行機が飛ぶのを女子高生が眺めているシーンから第1話が始まる。
調べてみたけど、この飛行機は、どうやら日本国政府専用機らしい。
(※全然詳しくないのでちゃちゃっとネット検索した結果得た情報です。もし間違ってたら指摘頂けるとありがたいです。)
漫画は必ず構図にしても背景の絵にしても人が決めているので、そこには必ず何らかの意図がある。
この政府専用機が飛んでいる光景は、今後の展開に対する何かしらの伏線だと思う。
そもそも飛行機自体見る機会が少ない人生なんだけど、空港や飛行場に親しんでいる人だって政府専用機はそうそう見ないんじゃないかな。
この女子高生たち(もしくは主人公らしき長い黒髪に左目の下にばんそうこうを貼った女の子)が壮大な何かに巻き込まれていく話なのだろうか。
一体どんな漫画なのかわくわくする。
女子高生たちの会話
つまりマテ貝が穴に出たり入ったりしてるのを見てアレを連想してしまったと(笑)。
実際こういう会話って普通にありそうで中々リアリティがある。
作画の丁寧さと相まって、随所で感じられるこのリアリティがたまらなく面白いんだよなぁ。
実際は捕まえられなかったのにマテ貝を捕まえたと主張するひなたと黒髪ショートに対して、切望し過ぎて幻肢みたいになったんじゃない、と言ったのには笑った。発想が天才だ。
ひなたが言った、
最近ね、突然胸がギューって苦しくなって、自分の中に何かが足りないってすごく感じるんだ。
これはつまり恋に恋するような状態とはまた違った衝動かな?
おじさん全然わかんない。
どうもまだ男と付き合ったりしたことがないような子達っぽい。
ツインテールの「知らんぷりが一番」だの、「友達を危険にあわせてもいいわけ?」とかが今現在ちょっと読み解くのに苦労しているかな。
読解力はそんなに高い方じゃないから何度も読むしかないか。
ひょっとしたらこれは彼女たちの背景を示す、先々明かされていく伏線の会話なのかな。
とりあえず、彼女らの会話を見て、面白い3人組だと思った。
それぞれ実に生々しく、魅力のある女の子たちだわ。
この詩は実在するものなのか?
たかが黄昏 されど夜明けを待ち侘びて
これ、誰か有名な詩人の詩なのかな?
主人公らしき女の子が考えていたこの詩の一文を、誰か知っている方はいないだろうか。
検索しても出て来ない……。
ひょっとしたら作中でのキーマンとなるような人物の詩なのかな?
ラストページで亡くなった”日本最後の「男」”本人が詠んだのだろうか。
何か関係があるのかな……。
私たちが生まれた年に、日本最後の男が死んだ。
体を横たえているのは病院のベッドっぽい。
この故人は、主人公の祖父か? それとも大物政治家とか経済人か何かだろうか。
まだ世界観も定められていない。
現代っぽいけどひょっとしたら未来かもしれないし、何か特殊な技術が発達したSFなのかも。
最後の女子高生3人が夕日をバックに帰る見開きの絵に、満ちていく干潟の中に電線がある。
世界が滅んだ設定なのかと思ったけど、調べて見たらこれは海上電線と言って、現代にも普通にあるものらしい。
どうやら彼女たちがいるのは木更津っぽい。
冒頭の政府専用機らしき機体は、ひょっとすると近隣の自衛隊木更津基地から出たものだったりするのだろうか?
いや~、新連載が始まって、色々想像しているこの感覚は実に楽しい。
今後が楽しみ
とりあえずまだまだこの一話は物語のエピローグ的な展開だ。
この女子高生が主人公なら、次号は彼女らの日常生活が描かれるのだろうか。
おそらくアイアムアヒーローのように、第1巻の収録分くらいまでは既に描くことが決まっているはず。
あの1巻は秀逸だった。
本格的に物語が始動するのは6話とか7話くらいかもしれない。
それまでは世界観や人物描写、人間関係などの設定の積み上げ作業になると思う。
じっくり腰を据えてこの作品を味わう覚悟だ。
と言っても、花沢先生の緻密な絵で展開される漫画は淡々としていても面白い。
毎号の楽しみが増えてワクワクしている。
タイトル
黄昏時、煙を上げる工場をバックに潮が満ち始めた干潟を歩く女子高生3人の見開きにでっかく『たかが黄昏』の文字。
多分これがタイトルかな? こうやって書くのも野暮な感じだけど。
タイトルを事前告知しないどころか、この連載が始まった雑誌の目次にも表示しない徹底ぶり。
もし仮にこれが1話のサブタイトルだったら超恥ずかしい。
その場合、漫画のタイトルを2話以降に発表するとしたらそんな漫画は初体験となる。
マジで前代未聞だと思う。もしそうだったら後から修正しなくてはならない自分は赤っ恥だけど、でも新しい体験になるし大歓迎だわ。
とりあえずこの「たかが黄昏」というタイトル(もしくはサブタイトル?)をこういう形で出すにあたり、かなり演出に拘っていることが伺える。
意欲作だと伝わってくるようだ。
アンダーニンジャと同時連載という、花沢先生の燃え滾る創作意欲が一体どんな物語を紡いでいくのかが楽しみでならない。
以上、花沢健吾先生新連載、たかが黄昏第1話のネタバレを含む感想と考察でした。
第2話に続きます。
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