第99話 クヴィティダラ
目次
第98話のおさらい
2031年12月、ピーターはラートリーの一族内にい食用児の”支援者を一斉に処刑していた。
そして2046年3月。荒野に特殊部隊の如き出で立ちの男たちが集結していた。
食用児を追って周辺一帯を捜索しろ、という命令を受けていた男は、周囲の痕跡などから食用児の隠れ家となっているであろうシェルターに目星をつけ、今まさにそこに乗り込み制圧しようとしていた。
「一人も生かすな 全員殺処分だ」
リーダーらしき男が号令を下す。
シェルターの入口が爆破されたかと思うと、その内部に部隊が素早く侵入してく。
しかしシェルターがもぬけの殻となっているという報告を受け、部隊のリーダーは沈黙し、腕時計の文字盤に指を置く。
一方、GFから逃げてきた子供達がシェルターに住み始めてから1か月半が経過。
ゴールディポンドから逃げてきた子供達を受け入れたシェルターはより一層賑やかになっていた。
皆それぞれ出来ることで役割を分担し合い、互いに貢献し合う事で明るく楽しくもまとまった集団となっていた。
重傷でベッドに寝込んでいたサンディとポーラに関しても、子供達の献身的な介護により順調に回復していた。
そして機械いじりを得意分野とするナイジェルは、これまで機能していなかったシェルター内の機械を修理する。
「63194 63194 63194」
クリスティの電球交換を手伝った直後、念仏のようにエマのナンバーを唱えるアダム。
またエマの番号を言ってる、と楽しそうに笑う子供達だったが、ヴァイオレットだけは、アダムがゴールディポンドで言っていた数字は現在とは違うという違和感を持っていた。
しかし、まぁいいや、とそれを自分の内に留め、エマがどこにいるのかを誰にともなく問いかける。
エマ、レイ、ルーカスが一緒にいる場所は、シェルター内において新しく見つかった”隠し部屋”だった。
そこには”支援者”との通信手段となる”公衆電話”が設置されている。
”支援者”からの連絡は? と問いかけるエマに、レイは、以前音沙汰無し、と答えるのみ。
実は7日前、”支援者”と連絡をとるという方針が決定していた。
ひょっとしたら”支援者”が既に殺され、電話口に出るのは敵かもしれない。あるいは回線を復旧させたらこのシェルターが敵に探知されてしまうかもしれないとソーニャは危惧していた。
しかしその危険はミネルヴァが教えてくれており、なるべくそのアドバイスを活かす用な行動をとってきたとGVの子供が答える。
またギルダは、このシェルターの回線は外部から探知できないように仕掛けがしてあるのに加えて、ダミーとなるシェルターもいくつか用意してあるらしいと付け加える。
さらに、危険は残るものの、”支援者”との間で互いを確認する合言葉も用意されている、とレイが答える。
危険があっても確かめたい、とエマ。
エマはGF農園の子供達に脱出まで約2年というリミットを設定した以上、”支援者”がいたら助けてほしいが、しかしいなかったらいないでその分他の策を考えなくてはならないので、時間がある内にハッキリさせておきたいと考えていた。
”支援者”との連絡はモニター室の地下の隠し部屋にある公衆電話だった。
ペン型端末が無ければ発見できなかったその部屋で、受話器を手に取るエマ。
連絡の方法はこの電話から指定された番号にかけるだけだった。電話をかけて24時間以内にかけ直して来るのだという。
エマは緊張した面持ちでプッシュボタンを押す。
そうやってエマが電話して以来7日が経っても音沙汰はなかった。
レイは、ミネルヴァの残した録音が15年前だったことから、既にミネルヴァと意思を同じくした”支援者”はいないのではないかと呟く。
しかし回線が断たれているわけでもなければ、敵が電話口に出るわけでも、ましてや”支援者”がかけ直して来るわけでもないことに皆、違和感を覚えていた。
一方、エマ達を追う部隊のリーダーは、ピーターにシェルター内に子供がいないこと、そしてもぬけの殻なのではなく、実は他のシェルターのダミーなのではないかという自身の推測を合わせて述べる。
兄さんならやり得る、と納得するピーター。
リーダーは、それだけではありません、と前置きする。
「恐らくまだ先代の手の者が残っています」
食用児の人数が40人以上である以上、痕跡を全く残さずに逃げることは素人の子供には土台無理な話、と推測を進めて行くリーダー。
しかし、それにも関わらず、素人の子供達の残したであろう痕跡を追ったその果てに”自分たちがダミー”のシェルターへと辿りついていたことから一つの結論に至っていた。
「食用児の協力者がいます」
「食用児の足取りを消し偽の痕跡で我々を誤導した」
ピーターは納得し、やり方を変えることを、と宣言する。
「標的の食用児全てとその協力者全員まとめて始末しろ 任せたぞアンドリュー」
「はっ!」
電話をして以来、ついに電話がけたたましく鳴り響く。
意を決して受話器をとるエマ。
しかし電話先の相手が喋らず、モールス信号を用いての交信を望んでいることを悟ったエマは一瞬でレイに電話を替わる。
レイはモールス信号に耳を澄ませる。
(”ワルイガイマハアエナイ”)
(”シキコチラカラセッショクスル”)
(”キヲツケロ”)
(”テキハピーター・ラートリ-”)
(”ミネルヴァノオトウトラートリーケトウシュ”)
合言葉は!? と焦って訊ねるレイ。
しかし返ってくるのは依然として、ツー、というモールス信号のみ。
しかしレイは返ってきたその答えの内容から、”支援者”の存在が本物だと感じていた。
(”ソコヲウゴクナ”)
(”カナラズムカエニイク”)
電話はそこで切れてしまう。
レイはこの電話が録音ではなく、現在きちんと受話器の先で”支援者”が生きていると確信していた。
森の中では”支援者”らしき何者かが頭まですっぽりと覆いつくすようなマントを羽織り、切り株に腰を下ろしていた。
「さぁ生き残っておくれよ 少年少女達」
第99話 クヴィティダラ
支援者とのやりとりを終えて
通話を終えたレイは、生きた支援者が本当にいたことに驚きを隠せない。
本物だった? とロッシーに問われ、レイは笑顔でそれを肯定する。
その理由を、敵ならば自分たちと接触しようとするだろうし、かけ直すまでの期間がもっと短くてよいはずだとするレイ。
疑って損はなく、敵の可能性もあるものの本物だったと思う、と結論する。
支援者と連絡がとれることを確認して安心するエマ。
「助けてもらえるんだね……!」
「いやそれはまだ何ともだな」
ロッシーの問いにレイが冷静に答える。
レイはその理由を、恐らく支援者はシェルターのメンバー達が七つの壁を探して食用児全員の解放を目的をしていることを知らない以上、ミネルヴァがその選択を想定していなかった場合は順当に、鬼の世界から人間の世界へ密かに逃げたがっていると思っているからと推測し、支援者が子供達を逃がす事しか考えていなかった場合、手を差し伸べてもらえるかは微妙だと推測する。
自分たちの目標について伝達する必要性を感じるエマ。
「でも味方には違いないよ」
ノーマンはロッシーと目線を合わせるようにしゃがみ、自信をもって語り掛ける。
「とはいえ」
立ち上がり、表情を引き締める。
「だいぶ差し迫った感じではあったね」
交信が短時間だったこと。そもそも24時間以内にかけ直すはずが1週間も音沙汰がなかったこと。
そして極めつけに、「今は会えない」の一言。
それらを総合し、敵の脅威が近いということ、とエマは推測する。
レイはそれが分かったのも収穫だと評価する。
”支援者”が言っていた、『じき接触する』『必ず迎えに行く』という言葉を信じ、レイは連絡がいつ来てもいいように電話番を交代で立てることを提案する。
モールス信号をシェルターのメンバー全員に覚えてもらった方がいいかも、とルーカス。
そしてレイは、”支援者”との接触までに七つの壁探しを進めておきたいと口にする。
クヴィティダラの竜の目
クヴィティダラのリュウの目で昼と夜を探すべし
まず北へ10里
つぎに東へ10里
つぎに南へ10里
つぎに西へ10里天へ10里 地へ10里
砂の間で矢が止まり
日が東へ沈むとき
地が哭き壁は現れる彼と我らを隔つもの
即ち七つの壁なり
ペン型端末の映像にある一文をジーッとみつめるラニオンとトーマ。
二人は一様にこの文を”舐めてる”と結論する。
東西南北全て同じ距離を進めば元の位置に戻ると眉を顰めるトーマ。
しかし二人は文中にある”クヴィティダラ”に関しては見たことがある、と笑う。
レイからの解読依頼の結果の催促を受け、ギルダが食堂のテーブルに資料を置く。
”解読”? と呟きながら資料を手に取るユウゴ。
それが資料室の”古文書”であることに気付く。
ギルダは、レイに言われて読んでおいた、と笑顔で答える。
言葉が古いだけじゃなく、紙がボロボロに加えて癖字という最早何語かも不明なページがあることを指摘するドン。
「それ鏡文字のラテン語なんだって」
それを聞き、ラテン語? 鏡文字? とオウム返しするユウゴ。
レイはラテン語は古代ローマ帝国で共通語だった言語であり、鏡文字とはわざと左右反転させた文字だと答える。
よく気づいたなぁ、とヴァイオレット。
ジリアンは、ローマ? とイマイチ意味が不明な様子で呟いている。
古文書の示す先
レイはGPに出発する前に別の棚にラテン語の辞書があったことが気になり、子供達に解読を頼んでいたのだという。
読んでみたらレイの読み通り、この本は何人もの人の手記の写本だったとドンが答える。
時代も場所もバラバラだが、古いのはラテン語の部分であり、それは”約束”を結んだ一族であるラートリー家の家来の1000年前の手記だと結論する。
正確な内容は分からないが、その中に”クヴィティダラの竜”が出てくるとドン。
それは場所なのか? と自問するエマに、ギルダが間を置かずに多分場所と同意する。
「地図があるわ」
テーブルの上に地図のページを開いた状態で古文書を置いたギルダ。
その右のページ、手描き文字で”D528-143”と付け足されている部分を指さす。
「『クヴィティダラの竜の目で昼と夜を探すべし』その先のヒントもサッパリだけど……」
エマの呟きに、まずはここに行ってみることだな、とレイ。
”D528-143”という座標指定に、だいぶ遠いね、とGFの子供たちが呟く。
何の事なのか分からない様子のGV出身者たち。
意外な選抜メンバー
誰が行くのかというユウゴの問いかけに、レイは”支援者”がB06-32を動くなと言った以上基本的にはシェルターを守りたいと答える。
「行くのは少数で 大人数だと目立っちゃうし」
エマが続く。
(少数精鋭…)
ドンは、今回もエマとレイとユウゴは確定で、他には一体誰かが行くのだろうと考えていた。
「まず俺とエマそれからドンとギルダ」
レイの言葉に、え、と二人同時に声を上げるドンとギルダ。
ユウゴはお子様だけで大丈夫か? と突っ込む。
鬼がいるのに加え、GPまで案内したユウゴのようなガイドもいないという、誰にとっても未知の土地に向かうんだぞとエマに念を押すユウゴ。
エマは危険なことは承知しており、ユウゴの同行は心強いが、”支援者”とのやりとりから敵が自分たちを確実に狙っていることを今回の選抜の理由に挙げる。
食用児の拠点である以上、シェルターの守りを手薄に出来ないとして、エマはユウゴにその守りを依頼する。
「………」
何も言い返せないユウゴ。
「それにドンとギルダは頼れる弟妹だよ」
エマが笑顔で付け加える。
レイも、覚えも早いし脱獄の時も、とそれに同意する。
一斉に涙を流すドンとギルダ。
その様子を見てレイは引き気味に、嫌なら別に、と声をかける。
「嫌なワケあるかー!!」
やったー、と思いっきり両手を挙げて喜ぶドン。
ギルダは、嬉しくて、と泣いている。
「また留守番だと思ってたから…待ってるだけは苦しかったから……隣に立てるのが嬉しくて」
ドンはギルダの肩にガシッと勢いよく手を回す。
「俺達精一杯頑張るからよ! な ギルダ」
「うん!」
ギルダはドンの呼びかけに笑顔で答える。
その様子を笑顔で見つめるエマとレイ。
ユウゴは、水を差すようで悪いが出来たらこの二人も連れて行け、とザックとヴァイオレットを素早くエマの前に連れて来る。
「4人じゃロクに見張りもできんしこいつらも割と使えるから」
「ユーゴ心配なんだね」
ジリアンにズバリと指摘され、ユウゴは何も言い返せない。
エマはユウゴが勧めた二人に、お願いしていい? と問いかける。
「喜んで」
二人は即答する。
その間、古文書のさらなる解読や銃器、食料の準備を進めていく子供たち。
カレンダーの日付は2046年3月6、7、8、9日と進む。
「救護班のザックと夜目も利くヴァイオレットがいればまだ大丈夫だろ」
ブツブツ言っているユウゴに、そんな過保護だったっけ? とルーカスが問いかける。
そして2046年3月10日、子供たちが見送る中、エマ、レイ、ドン、ギルダ、ザック、ヴァイオレットの6人はシェルターを出発する。
感想
久々の出番
ドンとギルダのいわばGFにおける中間管理職(笑)ポジションの二人に久々の出番が来た。
この二人はGF脱出編でエマ、レイ、ノーマン以上に脱出の為の事前準備などにおいて実務的な動きを担っており、非常に頼りになる。
脱出する上で何を持っていくかに関しては恐らくドンとギルダの二人が選択したはずだ。
自分で考えて動けるというのはそもそも優秀な子供が多いGFでは当然なのかもしれないが、彼らはエマ達に次いで頼りになる存在なのは間違いない。
鬼の脅威にモロに曝されるであろうクヴィティダラまでの道中でも活躍してくれるだろう。
しかしまさか、次の目的地までの道中でこの二人のいずれかが離脱するフラグとか……今後立たないよね……。
話に緊張感を持たせる為に誰かを退場させるという手法は集団でサバイバルする漫画では良くあること。結局は死ななかったけどGF脱出編におけるノーマンがそれだったように思う。
集団サバイバル漫画で真っ先に退場していくのは大概自分勝手な考えで周囲の制止を振り切って一人になる奴だ。
そういった点では少なくとも自分勝手と言う点ではドンとギルダの二人はそれに相当しない。
しかし彼ら二人は貢献したいが故に、無理してはいけない場面で無理をする可能性は十分に考えられる。
この二人、というかシェルターにいる面々にはそもそもそういった自分勝手に秩序を乱すような人間は見当たらないから、逆にもし退場させるとしたら自分を犠牲にして他の人間を生かそうとする場面ではないか。
その点、ドンとギルダは自己犠牲の役を自ら買って出ても全くおかしくない。
エマ、レイ当たりの主役クラスはまず死なないだろうなという安心感がある。
メタ的に、この二人、特にエマを殺したら話が成り立たなくなっていってしまう。
今後ドンとギルダのいずれかが物語から退場する、なんてことになったらと思うと怖い。
過保護のユウゴ
エマ、レイ、ドン、ギルダに加えてユウゴが同行するように言ったのはザクとヴァイオレットだった。
ザックは医療技術に加え、GPでの狩りの時間においては自ら率先して鬼の目を引きつけてきたという強者。
RPGで言ったら僧侶+武闘家というイメージ(笑)。
ヴァイオレットは今回ユウゴが言ったけど、夜目が利くらしいし、冒険を有利に進める技術を持つ盗賊かな?
レウウィス達との戦いでも最後までやられることなく戦いきったし、度胸はある。
ルーカスは、この二人をエマ達につけるというユウゴの選択を『過保護』だと指摘した。でも決してそんなことはないと思うんだよな……。
全く未知の土地に、それもGPなんて問題にならないくらいの遠い座標となるD528-143に向かうわけで、個人的にはユウゴが同行しないことの方が意外だったくらいだ。
ただエマが推測している通り、ラートリー家の手下たちがシェルターを探してるのは本当だし、もし彼らにシェルターが見つかってしまったら守る力、指揮をとる力が一番あるのはユウゴっぽいからこのチーム分けは妥当なのかな。
実際シェルターが手下たちに見つかって戦うとか、最悪シェルターを破棄するような事態になるのかもしれない。
その際、ユウゴが陣頭指揮を執ることは心強いだろうな。そもそも誰が指揮を執るにせよ、戦うにしても逃げるにしてもかなり難しいと思うけど、ユウゴには子供達を守るために先頭に立つイメージはある。
長い道のり
鬼のリーダーに会う為に七つの壁を越えなくてはならない。
そして今、まさにその七つの壁を探しにエマ達はシェルターを出発した。
しかしどうやらそもそも古文書に記されていた座標であるD528-143に辿り着くまでが既に困難な道であろうように思う。
その道はGPよりも飛躍的に遠いのは確定してるし、何よりその間の情報が無い。
事前準備で古文書を解読し、少しは情報があるのかもしれないけど、誰も体験していないという意味ではGPまでの道のりとは危険度が全く違う。
変な引き延ばしもなくさらっと出発した印象だけど、色々準備はしているはずだ。
クヴィティダラのリュウの目で昼と夜を探すべし
まず北へ10里
つぎに東へ10里
つぎに南へ10里
つぎに西へ10里天へ10里 地へ10里
砂の間で矢が止まり
日が東へ沈むとき
地が哭き壁は現れる彼と我らを隔つもの
即ち七つの壁なり
恐らくは最も直接的なヒントとなるであろうこの言い伝えが、果たしてこの旅に何を齎すのか。
東西南北ぐるっと回るのは良いとして、天へ地へそれぞれ10里というのはエレベーターでも使うのかな?
それとも山と谷を越えるという意味?
ここらへんの謎解きも楽しみ。
以上、約束のネバーランド第99話のネタバレを含む感想と考察でした。
第100話に続きます。
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