第62話 不死身の怪物
第61話のおさらい
ゴールディ・ポンドに向けて森の中を進むエマ達。
エマは先導するオジサンの動きを驚異的な集中力で観察し、レイはオジサンに騙される事を避けるために疑問点を着実に確認してオジサンの後をついていく。
そんな二人の学習速度の早さに感心すると同時に、ここまであまりにも順調に行き過ぎていることにつまらなさを感じるオジサン。
その時エマの内に走る何かの気配。
オジサンはニヤリと笑う。
その刹那、樹上から落下しつつ襲い掛かってくる”人食い”。
動きを硬直させているエマの体を引っ張り、かろうじて”人食い”の奇襲から逃れるエマとレイ。
即座に起き上がったエマは、歯を食いしばって横たわったままのレイの銃を拾い上げ、銃口を”人食い”に向ける。
しかしエマは構えた銃を撃つ間もなく首を食いちぎられる……幻を見る。
樹上に登っていたオジサンが”人食い”に向けて連続で銃を斉射し、ひとまず難を逃れたエマとレイ。
レイは起き上がり、放心状態のエマの肩に手をかける。
レイに向かって、自分が生きているかを確認するエマ。
オジサンはエマが実際には引き金を引くことすらできずに死んでいたと告げる。
オジサンは楽しそうに、このあたりには上から襲ってくる人食いが生息していると言い、自分はそれを知っていたと告白する。
内心で毒づくレイ。
エマはオジサンに救われたことを素直に感謝する。
しかしオジサンは救ってはいないと言い、銃を構える。
オジサンの言葉に不思議そうな顔をしているエマとレイが振り向くと、そこには立ち上がり傷を再生させている”人食い”の姿がある。
”人食い”は大声で叫び、仲間に知らせる。
弾かれたように逃げる3人。
オジサンに文句を言うレイだったがオジサンは楽しそうに、大丈夫、俺は死なない、でもお前らはヤバイね、と告げる。
食事を邪魔され、仲間を攻撃されてキレた様子の”人食い”の群れが3人の眼下に広がっている。
オジサンは、”人食い”を前にして青くなっているエマとレイに、お前らの命は俺の手中だと笑う。
「さぁガキ共 生きてみろよ」
第62話
眼下で蠢く鬼たちを睨むエマとレイ。
「絶景かな絶景かな」
オジサンは不敵な笑みを浮かべる。
イカレ野郎、とレイがオジサンを睨む。
お前らが言う? とオジサンがニヤニヤする。
「悪いね 思いの外順調だからオジサンつまんなくなっちまった」
鬼たちはエマたちをじっと見上げている。
(キレた鬼達……)
レイが思いつめた表情で鬼たちを見る。
(こんなにもいっぱい…どうしたら……)
エマは慌てながら周囲を見回す。
そんな二人を見て笑うオジサン。
鬼たちはエマたちがいる場所に登ってこようと岩に手を伸ばし始める。
「まぁフツー死ぬと思うけどがんばって」
オジサンはエマとレイに向けてふざけた敬礼をする。
「俺その辺で見てるから」
えっ、とエマが戸惑っている間にオジサンはその場からすぐ上の足場に登る。
「片方死んだら助けてやるよ。」
エマとレイに向けて言い放つ。
逃げる
眼下では、エマとレイが立っている木と木の間に渡された足場めがけて鬼たちが向かって来ようとしている。
オジサン、とエマがオジサンに向かって助けを求めるが、レイは、いい ほっとけ、と鬼たちから目を離さない。
「見てるなら奴は近くにいる 弟妹に危険はないし先導も放棄はしていない」
レイはエマに呼びかける。
「ます鬼を切り抜ける…!」
(けどどうやって……)
レイの表情に焦りの色が浮かぶ。
鬼たちは木に登り始めている。
「レイ! 登ってくる!!」
エマの叫び。
レイは歯噛みして、鬼が登ってきている木から離れるために隣の木に向かって駆け出す。
「こっちだ!!」
既に樹上に登った鬼もいれば、木に登らず直接足場に手をかけて登ろうとしている鬼もいる。
レイは手持ちのライフルを構え、肉薄している鬼たちの上に位置している足場を撃ち崩す。
崩れてきた足場が鬼たちにヒットする。
「エマ! あの銃!」
レイの指示でエマが腰から4つ銃口がある銃を抜く。
「弾丸は!?」
「緑!」
レイの返答を受け、エマは銃のスイッチを切り替える。
「撃て!!」
エマは鬼たちに向かって銃を撃つ。
銃弾は鬼たちの目の前で、パシュ、と蜘蛛の巣のように展開し、鬼たちをその場に拘束する。
「絡まった!」
銃の効果を見て取ったエマが笑顔になる。
「よし! 今の内だ」
レイが足場を駆けだす。
(成程……そう動く)
オジサンは、戦うエマとレイの樹上、足場の上にしゃがみその様子を見ている。
エマの使ったピストルに”閃光”、”捕縛ネット”、”催涙”、”音”を出せる特長があることを思い出しながら、しかし攻撃力は無いショボイ銃だと断じる。
レイの放ったライフルも、エマの銃にしても、鬼から逃げるために使うという考え方、武器の選び方を賢いと賞賛するオジサン。
(けど所詮一時の足止め 一瞬の時間稼ぎ)
逃げながら背後の状況を伺うエマが驚く。
背後ではエマの放った銃弾で拘束された鬼の体を他の鬼たちが食い始めている。
鬼たちは逃げるエマとレイの動きをきちんと捉え、再び追い始める。
「早い! もう来た!」
焦るエマ。
追い詰められる
レイは振り向き、ライフルを鬼たちに撃つ。
銃弾を食らった鬼の傷がブチブチと音を立てながら再生していく。
(再生…!)
レイはライフルを撃つのを止める。
(ムダだ)
オジサンは上からジッとその様子を見ている。
(全てムダ どんな適切な判断もどんな卓越した身のこなしも…銃の筋だってよくても全て――)
木と木に渡されている足場に腰を下ろしているオジサンの背後に一匹の鬼が迫る。
オジサンは鬼を銃を撃ち落とす。
(殺さなきゃ…)
「殺せなきゃ」
必死に鬼たちに銃を撃ちこむレイを見ながらオジサンが呟く。
(ただの弾丸の浪費だ)
ちくしょうキリがない、と鬼達から走って逃げるレイ。
レイは頭の中で状況を整理する。
ライフルの総弾数は、20発を5個の100発。
今撃った48発目の銃弾でもう半分を使った。
エマの銃による催涙も効いたが次から次へとやってくる鬼たちに向かってたとえ全断撃ち尽くしてもこの場を凌げない。
弾丸だけ減っていく。
すぐ再生するし、その度に形を変えていく。
(何だこいつら何なんだ まるで不死身の化物だ)
レイは、いや違う、不死身じゃない、と思い至り、鬼の死体を思い出す。
(ソンジュの話を聞いた時思った)
(”鬼は殺せる”1000年前の人間でも1000年前の技術でも)
つまり自分たちにも殺す方法がある、とレイは確信する。
(どうやって……? ”首をはねる”?)
レイは、それだとオジサンにも無理だとすぐにその考えを否定する。
わざと殺さずあえて黙ってた、と不敵に笑うオジサンの表情を思い出す。
エマが逃げ道を先導し、レイに、こっち、早く! と呼びかける。
(ムダだ)
オジサンもエマとレイが逃げるのに合わせて移動する。
(どうせ死ぬ すぐに死ぬ 確実に死ぬ)
気付き
(思い出せ 俺は見た)
必死に逃げながら思考を巡らせるレイ。
(あの時一体どうやって――)
レイの体に鬼の巨大な掌が肉薄する。
その時、レイの脳裏にこれまで見て来た鬼達の姿が浮かぶ。
(あ)
レイの脳裏にこれまで見て来た鬼の姿が浮かぶ。
(そうか)
レイの頭上から鬼の手が覆いかぶさり、地面に捕らわれる。
(だから仮面――)
その様子を見ながら、死んだな、とオジサン。
「エマ! 目だ!!」
鬼の手に胴体を掴まれながらレイがエマに向かって叫ぶ。
「顔の中心付近の目!! 弓でいい! そこから狙え!!」
オジサンはレイの言葉に驚く。
レイを先導するように逃げていたエマは振り向いて、鬼の目に向かって矢を放つ。
矢は見事に鬼の顔の中心にある目に深々と刺さり、鬼は木の下へと落ちていく。
エマは落ちた鬼を固唾を飲んで見つめる。
「再生しない!」
「よし! 走れ 逃げるぞ」
レイが駆け出しながらエマに指示を出す。
最低限の反撃だけして別の鬼の縄張りに抜ける。
オジサンが鬼には何種類もいると話していたので、別種の群れをぶつけあい自分たちから目を逸らす。
その後予定通りに縄張りの外へと抜ける。
レイのすぐ後を走りながら、了解、とエマが返す。
「生きてるよ」
夜。
地面にへたりこみ、天を仰いでゼェゼェと息をするエマ。レイの呼吸も荒い。
「お疲れ」
近づいてきたオジサンがニヤリと笑いながらエマとレイに向けて挨拶する。
(クソジジィ!!)
怒りに震えるレイ。
オジサンは、まさか本当に自力で、と感心している。
「オジサン」
エマがオジサンの言葉を遮るように呼び掛ける。
「生きてるよ」
真面目な表情になるオジサン。
「私達 ザコだけどまだ生きてる」
エマは笑みを浮かべながらオジサンを見つめる。
オジサンは、そうだな、とだけ言って笑う。
(どうせ死ぬ すぐに死ぬ 確実に死ぬ)
オジサン自身の言葉が脳内に響く。
(生き抜いた…鬼の殺し方も判った)
レイはほっとした様子で鬼との戦いを振り返る。
(でもあの後何度も外した 殺せても難しい)
レイが鬼の弱点を見出してから撃ったライフルの弾は19発。
残弾数は100発中33発。
そして、今日はまだ型道1日目。
片道の目標は4日。
往復で最短あと7日。
あと7日もあるのに残りはたった33発という事実を噛み締めるレイ。
「上等だ!」
水筒を口に運びながらレイが決意を籠めて呟く。
感想
やはり鬼には弱点があった。
特に意外というわけでもない、むしろ当たり前と言える場所だったように思う。
弱点が判らない場合、目はとりあえず優先的に狙ってみる部位だと思うんだけどな……。
ただ、それを導き出したレイの思考の過程はさすが、と言える。
オジサンがなぜわざと殺さないという行動が出来たのか。
自分たちを襲う鬼に限らず、これまで会って来た全ての鬼の姿に共通するものを思い出し、ソンジュとムジカといった知能が高めの鬼に関しては仮面をしていることもあった。
それらのヒントから思考を巡らせて、鬼に食われるギリギリで弱点を見出すことが出来た。
エマが一発で鬼の目に矢をヒットさせたことも突っ込むのは野暮ってもの。
レイ曰く、その後は追ってくる鬼の目に向けて撃った弾も何回も外したと言うし……。
今回は、オジサンは皮肉抜きで素直にエマとレイの事を褒めているように見える。
何だかんだ言って、この旅が終わるころにはエマとレイだけではなく、子供全員の事を認めて仲間になりそうだな。
もしくは、エマとレイを庇って死ぬか?
とりあえず現状では、レイやギルダが心配したような、隙を突かれてオジサンに殺されるような展開には発展しなさそうに思える。
といっても、今回みたいなオジサンの「遊び」の機会はまだまだありそうな気配だけど……。
まだ最短で7日もある工程になるわけだけど、途中経過はあまり飛ばさないだろうな。
ソンジュとムジカと会って、地下道を通じてシェルターを目指していた時の5日間やゴールディ・ポンドを目指すまでの準備期間もは途中で省略されたけど、それは戦いが無かったから。
今回の危険な旅とは全くわけが違う。
こんな危険を凌ぎながら、オジサンもまだまだ油断できない相手だし、エマはともかくレイが追い詰められないか心配だな。
今はオジサンに悪態ついてるけど、こんな日が続いたら疲弊しそうだ。
別にレイが弱いというわけではなく、そもそもこの状況が過酷すぎると思う。
でもエマはなんだかんだで精神力が最強だから大丈夫かな。
エマの持つ銃口が4つある銃は、この旅で地味に重要な気がする。
”捕縛ネット”と”催涙”は使った。残弾数はまだあると思う。
まだ使ってない”閃光”は閃光弾、もしくはジャンプ的に言えば太陽拳だろう。
オジサン曰く「”音”だか何だか出せる」というのがちょっと判然としないな……。
でも今後使用される機能だろうからこの伏線は覚えておこうと思う。
案外重要な局面を打破する目的で使われるかもしれない。
以上、約束のネバーランド第62話のネタバレを含む感想と考察でした。
次回、第63話の詳細はこちらをクリックしてくださいね。
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