第114話 一つずつ
第113話のおさらい
2047年10月。
量産農園は5人の”侵入者”によって制圧されていた。
非常ベルが鳴っても、誰もその”侵入者”を止める者がいない。
4人は鬼をあらかた倒していた。
食用児としての恨みを鬼にぶつける男女は、他愛も無い会話を交わしながらリーダーの待ち受ける場所まで廊下を行く。
リーダーがいる場所に着いた4人。
そこでは量産農園で供給されている食用児が大勢繋がれていた。
意思がない人形のように座っている子供たちのひどい様子に引いている。
「外見は奇麗な建物だったが中は劣悪最底辺の量産農園だったか」
仲間のスキンヘッドが呟く。
リーダーにザジと呼ばれた、紙袋を被った人物が、リーダーに命じられて刀で子供の腕の拘束器具を破壊する。
そしてリーダーは、腕の拘束を解いた子供の前にしゃがみ、おいで、と声をかける。
「君達を助けに来たんだ おいで」
しかし子供はわずかに呻き声を上げ、虚ろな目から涙を流すだけだった。
哀れな姿の子供をひしと抱き締めるリーダー。
その光景に、連れて帰るか? とリーダーに訊ねるスキンヘッド。
リーダーは少しの間の後、装置を外したらこの子達は死んでしまう、とそれを断る。
ごめんね、と心の中で謝罪し、リーダーは全員の手足の枷を外してあげた上で、生命維持装置のスイッチを切るのだった。
量産農園を焼き尽くした一行は建物から出て、荒野を歩いていた。
リーダーは炎上している建物に振り返って呟く。
「農園を破壊し全食用児を解放しこの世界を終わらせる」
拠点らしき場所に帰ったリーダーたちは、ホールの二階で階下の大勢の子供たちから歓声を浴びていた。
「私は食用児の楽園をつくろう」
そのリーダーの演説に熱狂する子供たち。
「ミネルヴァ!! ミネルヴァ!!」
子供たちの歓声は止まない。
エマたちはルーカスから託された、電話のメモの解析を行っていた。
そこに残されている数字の羅列は、以前シェルターに入った時に使ったのと同じもの、つまりミネルヴァの神話の本の暗号だと気づく
go to the jaw of lion
”ライオンのあごへ行け”
初めはそれが何のことか分からない子供たちだったが、イベットがシェルターの地図にその記述があったことを指摘する。
「お寺と金の水の場所探しの時に見た!」
笑顔で頷いたエマは、西へ10日歩いた先にある荒野がミネルヴァが指定した場所だと答える。
そしてこれからみんなでそこを目指すことが決定するのだった+
旅立ちの前、エマたちは地下道に作った墓の前に立っていた。、
頭の中でユウゴやルーカス、失った仲間たちと別れをかわし、エマは決意していた。
(見てて 必ず世界を変えるから)
「行ってきます!」
エマたちは地下道を後にし、ライオンのあごを目指すのだった。
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第114話 一つずつ
3日目
”ライオンのあご”を目指すことで一致したエマたちは、目的地までのルートを決めるために地図を確認していた。
ルートを確認した結果、10日程度で”ライオンのあご”に到着できるのではないか、と見積もるエマ。
レイはエマの答えに異を唱えることなく、ああ、と相槌を打つのみ。
エマたち一行が”ライオンのあご”を目指して3日が経過していた。
明らかに疲労が溜まっている子供たちの様子に、集団を守るべく銃で武装しているドンは心配そうな視線を向ける。
ギルダもまた、集団が思ったよりも進まないことを気にしていた。
55人という大人数では小回りはきかず、食料や寝所を探すこと、確保することも簡単ではない。
エマは子供たちの中でも、イベットやマルクのような年少者にとっては、集団の進むスピードが特に早いと感じられているのではないかと心配していた。
しかしエマが心配していたのは年少者だけではなかった。
自分も含めてレイやドン、ギルダらは銃を構えて、常に鬼やラートリー家を警戒し続けていた。
さらに、フクロウ型のカメラの存在を知った以上、少し小鳥が鳴いたくらいであっても緊張した状態をキープし続けていた。
緊張感と疲労がエマたちに積み重なっていくが、エマは前向きに自身を鼓舞する。
(休むもんか 守らなきゃ 急がなきゃ)
(家族をこれ以上失わないためにも)
調達
ザルに獲れた食料を載せて確認するヴァイオレットとナイジェル。
ヴァイオレットはザルを見つめながら、季節が違うもんな、とあきらめ気味に呟く。
明るく、もう一回探してくる、と言ってその場を去ろうとするエマ。
そんなエマを呼び止めたのはGF出身の年少たちだった。
「僕達もごはん探しに行かせて」
エマとドンは色々な種類のキノコがある中で、食べられるものと食べられないもの判断に迷いながらキノコの収穫をしていた。
。
そうしてキノコのラインナップを見て、ロッシーはきのこの毒性を指摘するのだった。
マルクが毒の有無を簡単に見抜き、それを指摘する。
「一箇所からとっちゃダメなんだよね」
「そう! バレやすくなるからね」
そのやり取りに自分たちよりもきちんとしているのを実感し、エマとドンは驚きに顔を見つめ合う。
ギルダはイベットが足元の靴跡を見つめているのに気付き、何をしているのかと問いかける。
イベットは、足跡、と答えるのみ。
ガサ、という音が聞こえてきたのを合図に、イベットは何者かのあとを必死に追いかける。
ドンはマルクとイベットを追いかけていた。
音がしたのはサルのせいかも、と言うマルクに、ドンはサルが食えるのか、と驚く。
それを否定し、イベットは以前ユウゴに言われたことを重し出していた。
「動物は食べ物のある場所を知ってる」
「もしサルなら…サルが食べるものなら人間も大抵食べられるってユーゴが言ってた。」
イベットたちは頭上の木にいるサルを見つけていた。
サルを見て喜ぶイベットとジェミマ。
「やった!! 大当たりだ……!」
サルは去り際に一つ木の実を落として逃げていく。
その落とし物を拾い上げ、ロッシーはお願いする。
「ありがとう 少しもらうね」
山の幸がザルに山盛りに積まれている。
驚きの表情で口を開けるエマとドン。
ジェミマはエヘヘ、と笑う。
そして、 何十人分の調達は私たちのほうと得意答えるのだった。
「この二年間で 色んなことができるようになったんだよ」
ジェミマはエマたちがシェルターを留守にしている間、ずっとユウゴやルーカスに協力することをを教わっていた。
そして脳裏にユウゴやルーカスから学んだ日々を思い出す。
「私達 旅もへっちゃらだよ」
イベットたちは誇らしげに続ける。
「全員ユウゴとルーカスの弟子だもん」
そしてエマに近付いていき、彼女の頬に軽く手を当てる。
「私達がんばるから」
イベットと抱き合うエマ。
「しんどかったらエマたちもちゃんと休んでいいんだよ」
その言葉を聞きながら、エマは自分の不明をひそかに反省する。
(当たり前だ 私達が旅をしていた1年ちょっと、この子達も成長していたんだ)
お前なら、お前達なら、とユウゴの言葉を思い出すエマ。
(そうかあれは…そうだよねユウゴ)
8日目
旅は8日目に入る。
当初は10日での到着を見込んでいたエマとレイだったが、その10日以内でゴールを目指すにはかなりしそうだと感じていた。
「でも全員無事で、全員生きてる」
全員、現在の無事に生きていることを喜ぶエマ。
そしてここまでは割と上手くいっており、素人相手にまず負けることはないと考えていた。
エマは、自分も不安であったことをレイに告白する。
ユウゴを失い、さらにアンドリューが口走ったフィルに関して何もわかっていないことにエマは悩んでいた。
フィルが無事なのか、そもそも2ヶ月も時間があるのか、今すぐ助けに行くべきではないかとエマは考えていた。
焦ることなく、目の前のことからクリアしていく、と結論をの述べる。
「不安になったって世界は何一つ変わらない」
「できることから すべきことから一つずつ」
感心していたレイだったが、すぐに何かの気配に気づく。
エマとドンを伴って向かった先には既に鬼の気配がある。
鬼は見慣れない誰かを取り囲み、食べようとしている。
「え」
レイはその光景を前に、唖然としていた。
(人!!?)
感想
新キャラ登場
服装が特徴的だなぁ。
エマたちの恰好がリアルでも着ていて全くおかしくないのと比べれば、彼ら新キャラの服装から、その文明度は低めであるように推察できる。
おそらく彼らも食用児なのかな?
少なくとも”支援者”とは思えない。
個人的には”支援者”は鬼を簡単に撃退できる程度の戦闘力があるイメージなんだよね。
”支援者”はきっとラートリー家との対立で、特に対人における戦いにはある程度慣れていると思う。
彼らが食用児だとしたら、エマたちのように高級農園から逃げてきたということだろうか。
前回出てきたような量産農園で生まれ育ったなら、筋肉が弱り切って動けないだろうし、意思や自我もまともに育ちそうもないから彼らのように正気で活動しているイメージがない。
そういう意味では、やはり高級農園出身かな。
しかしミネルヴァのメッセージに気付けるほど利発ではない、いわば”普通の子供”寄り?
だからミネルヴァの用意していたシェルターの存在すら知らないとか。
まぁそもそも、ミネルヴァが本に残したメッセージに普通に気付けるエマたちやユウゴたちがあまりにも賢すぎるというだけなんだけどね……。
そういえばソンジュが他にも農園を逃げ出した食用児の存在を匂わせていたような気がする。
ここに来て彼らが新しい仲間になるとしたら、果たしてエマたちに新しく何をもたらしてくれるのだろうか。
彼らの装備から、それほど文明的の進んだ暮らしはしていないように推察できる。
前回の”楽園”の住人であったなら、服装及び装備はエマたちに近い文明度を感じさせるだろうし、今回襲われてピンチの二人は彼らとは別の集団に属していると思っていいと思う。
おそらく近隣に何か条件が重なって鬼の襲ってこない安全な場所があって、そこに集落を構えているとでも考えるのが妥当ではないだろうか。
今後はまずエマたちは彼らを助けるだろう。
そしてその礼として集落に案内されたエマたちは、そこに年少組を始めとした仲間の大半を逗留させて、少数精鋭で”ライオンの口”を目指す、という流れになるのかな。
地下道を出発してから8日間は何とか犠牲を出さずに済んだけど、今後、55人もの大人数でこのまま旅を続けた場合、鬼やラートリー家に襲われる可能性は高いといってよいだろう。
ひょっとしたら新キャラやその仲間たちと最初はモメたりするかもしれない
でも今回の新キャラの登場は間違いなくエマたちの今後にとっては益になると思う。
エマたちはまだ新キャラを発見した驚きが優位だけど、鬼を撃退したあとに彼らと仲良く会話する光景が目に浮かぶ。
ラートリー家から派遣された部隊にシェルターを奪われ、さらに手負いのアンドリューに何人も殺されるという悪夢のような重苦しい展開が続いていたが、今回、久々にエマたちに希望の光明が射してきたかな。
次号、襲われている彼らをエマたちは速やかに手持ちの銃器で救うだろう。
そして、果たして彼らがどこでどうやって暮らしているかを知れるわけだ。
それが楽しみだなぁ。
これでまた前回に引き続き、鬼の世界がわかる。
どんどん物語を構成する世界の細部が埋められていくのは楽しい。
成長
GF組のチビっ子たちは思ったよりも成長していた。
エマは驚いていたけど、考えてみればシェルターから離れていた期間が長ったっけ。
黄金の水や寺院の場所を求めて、レイやドン、ギルダらとあらゆる場所を捜索してまわっていたはず。
よく言われることだけど、子供の成長は早いということか。
しかしチビっ子たちはただ遊んだり、はしゃいだり、ふざけたり、イタズラしたり、という行動が当たり前の年頃のはずなのに、落ち着いてるよなぁ。ユウゴやルーカスを亡くしたことで精神的にバランスを欠いていてもおかしくないのに……。
ユウゴやルーカス、そして仲間を失うというトラウマレベルの体験をしたにもかかわらず、彼ら、彼女らは精神的にはかなり安定しているように見える。
彼らは鬼の世界における過酷な現実を自覚し、その上で生き抜くためにはどうしたらいいか、という行動が染みついているようだ。
まだ幼く、彼らの年齢で本来あるはずの無邪気さを、彼らの驚くべき成長っぷりがいくらか打ち消しているところに、この世界や、彼らの置かれている状況の過酷さを改めて思い出させる。
子供が無邪気に生きられない世界ってイヤだよなぁ。
戦地で生きている子供が随分と大人びて見えるのに似てる。
ジェミマやイベットたちチビっ子は自分にできる範囲でみんなに貢献していた。
この”食料調達”という、人間の生命を左右するような役目を立派にこなす様は実に立派だ。
これもユウゴやルーカスが遺した遺産と言ってよいのかもしれない……。
彼ら、彼女らが賢いのはもちろんだけど、でもみんなの役に立ちたいと思わなければこんな成長は出来ないだろう。
単に賢いだけではなく、何よりいい子たちなんだよなぁ。
アンドリューが口にしてからそのままその後が明かされないフィルに関しては、一体無事なのだろうか。
フィルがどうなったら気になる。アンドリューは、一体何を言おうとしていたのだろうか。
それが明かされるのも楽しみ。
以上、約束のネバーランド第114話のネタバレを含む感想と考察でした。
第115話に続きます。
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