第97話 望む未来
目次
第96話のおさらい
重体のエマを救う為、危険を冒してシェルターまでの険しい近道を行くオジサン。
エマ、レイ、オジサンが出て行ってから6日目の朝を迎えたシェルターに、エマを背負い、ボロボロの姿で疲労困憊なオジサンが辿り着く。
すぐさま治療の為に食堂のテーブルにエマを横たえるオジサン。
しかし、手発前にエマやレイの無事を巡って互いにけん制し合っていたギルダから、レイを殺し、エマも瀕死にさせたとの誤解を受け、今にもシェルター自壊スイッチを押されそうになり焦るのだった。
オジサンは声にならない声で叫んだあと、今はそんな場合ではないと必死にギルダを宥めようとする。
ギルダは既にレイは死に、エマも同じく息絶えようとしていると思いこみ、泣きそうな表情でスイッチを押そうとしている。
その時、アンナが急いでエマの脈を確認し、徐脈ながらもエマが生きていることを伝え、その流れに乗ってオジサンはエマと同じ血液型のドンとドミニクに血液の提供を依頼し、治療の準備をギルダやアンナに呼びかけるのだった。
その夜、レイたちは森の中で交代で休んでいた。
レイと見張りを交代した子供は、エマに助けられたのでその礼を伝える為にもエマには助かって欲しいし、自分たちもシェルターに辿り着きたいと口にする。
自分もエマに助けられた、と他の子供たちも次々の声を上げるの光景をレイはじっと見つめ、口元を綻ばせる。
ベッドの上で眠るエマ。その口元には呼吸器、腕に点滴がついている。
目を開くと、エマはハウスにいる感覚に囚われていた。
夢心地の中、エマのベッドの周りと大勢の子供たちが囲んでいることに気付く。
ハウスの面々だけではなく、ゴールディポンドでの激戦を共にしたメンバーたち、テオまでもがエマを取り囲み見守っていたのだった。
エマが意識を取り戻した事に快哉を叫ぶ子供たち。
エマはゴールディポンドからの逃走を強行した面々が皆無事なのかを気にしていた。
サンディとポーラはまだ動けないものの、全員生きてシェルターに辿り着いたとテオが答える。
おかえりエマ、と万感の想いを込めて口にするギルダ。
エマは、ただいま、と満面の笑顔で返す。
そして、その輪から少し離れたところに立っていたオジサンに気付き、危険を冒してまで自分を助けてくれたことに礼を述べる。
オジサンは口ごもり、言葉を探した後、俺こそ色々スマン、とこれまでの自分の態度を謝罪するのだった。
「改めまして私はエマ オジサンは?」
エマからの問いかけにオジサンは笑顔で答える。
「俺の名はユウゴ ユウゴだ」
エマは猟場を脱出して以来、4週間目に意識を取り戻したことを知る。
レイ達もまた、野良鬼に追われたものの出発から3週間で無事シェルターに帰還出来ていた。
エマは4週間も寝ていたことを惜しいと感じていた。
そして、ギルダにハウスの子供達を招集するように頼む。
「『望む未来を叶えなさい』」
エマは集まったメンバーを前に、ペン型端末を手に持って話し始める。
「ミネルヴァさんはそう言って食用児に情報を遺してくれた」
「フィル達を連れ戻る 私の計画を聞いてほしい」
第97話 望む未来
GPから持ち帰った情報に驚く子供達
シェルターでゴールディ・ポンドにミネルヴァがいるかもしれないという情報を得て、実際にそこに行って回収してきたウィリアムの残した情報に接する子供達。
子供達はその情報量と内容に圧倒されるかのように驚きの表情をしている。
「あったんだ…本当に…」
ナットはそれだけ言うのが精いっぱいな様子で呟く。
「ミネルヴァさん死んじゃってたの?」
アリシアとクリスティが泣く。
トーマとラニオンは人間の世界と鬼の世界が池の上のエレベーターで行き来が可能という情報に驚いている。
「まさか私達が育ったGFに出口があったなんて……!」
驚くアンナ。
ドンは記載されている情報の密度と質に驚き、それを順番に指摘していく。
支援者との連絡のとり方に注目するギルダ。
連絡をとれたら人間の世界に行けるという事なのかと続ける。
ドンは、支援者と連絡をとり、GF設計図を活用してフィル達を助けた後、そのままGFから人間の世界に行ける、つまりすぐに人間の世界に行けるということなのかと確認するように口にする。
ああ恐らく、とレイ。
「けどそれだけじゃ危ない」
不思議そうな表情をしている子供達。
「ラートリー家だ」
ミネルヴァ、つまりウィリアム=ラートリーの一族が代々人間と鬼との間で交わされた約束を守って食用児を鬼に食べさせてきた。
ミネルヴァを殺した裏切者はもちろん、一族全体で食用児の自由を許さない、とレイ。
それって、とラニオンとトーマが先を促す。
「ラートリー家とミネルヴァさんを殺した裏切者が全力で私達を邪魔しにくるってことよ」
ギルダはレイの主張を整理する。
レイは仮にこの状況下で人間の世界へと逃げたとしても、自分たちの身が安全とは限らないと続ける。
農場の人間の世界に続く”行き来の道”の管轄も恐らくはラートリー家であり、何より人間の世界において自分たち食用児のことが知られていなかった場合、食用児の存在は果たして受け入れられるのか、と懸念材料を挙げるレイ。
”約束”を破ることで、鬼達からも追われるかもしれない、と言い、最悪、と前置きする。
「俺達が二世界の戦争を再び引き起こすキッカケになっちまうことも…」
最悪の状況を想像し、怯える子供達。
エマの選択
「気付かれない人数で秘密裡に逃げるか 食用児全体で鬼と全面戦争を起こすか」
エマがここまで出てきた情報を突き詰めることで選べる究極の二択を提示する。
エマは戦争は嫌だし、そもそも自分たちが目指しているのはGF全員の解放であり、気付かれずに逃げることは不可能だと自分の考えを口にする。
「私は家族もGPで出会った仲間も誰一人失わずみんなで逃げたい」
「それもただ逃げるだけじゃない 笑って暮らしたいの」
そしてエマはGPで同じような境遇の食用児がいることに言及し、その人達も放っておけないと続ける。
”私の望む未来”。
「私は全食用児を解放したい」
GF以外の高級農園、ユウゴ達のGB、オリバー達のGV、GR、アダムの新農園Λ(ラムダ)、ソンジュから聞いた量産農園、鬼の世界に存在する全ての農園をなくし、食用児のいない世界の構築を主張する。
「追われない世界にしてから鬼の世界を抜け出したい」
終われない世界? と先を促され、エマが続ける。
「その為に”七つの壁”を探し見つけ出して(表現不能)と新たな”約束”を結びたい」
七つの壁……、とドミニクが呟く。
ドンは、それがムジカが言っていたキーワードだと指摘する。
ギルダは(表現不能)も、シスタークローネが口にしていたキーワードだと思い出す。
「新たな……”約束”…」
ラニオンが該当部分を読み上げていく。
「『(表現不能)は全ての鬼の頂点に立つ存在 ”七つの壁”を越えた先にいる』」
「(表現不能)と約束を結び直せば鬼のいない世界へ安全に逃げられる…?」
ミネルヴァでさえ”七つの壁”に行った事がない、(表現不能)も会ったことがないとナットが別個所の情報を口にする。
「それに結び直すってどんな”約束”を? どうやって?」
ナットは、そんな大それたことが出来るのか、と弱気な様子で口にする。
それについてはヒントをもらった、と言い、ほらココ、とある情報をエマが指さす。
「『交わされたもう一つの”約束”…』」
ハッとなり、そうか、と呟くレイ。
どういうこと? とアリシアが問いかける。
レイの説明を受ける子供達。
その説明の全てを聞いて、衝撃を受ける。
エマが子供達に意思を問う。
この選択肢は遠回りであり、大がかりであり、簡単ではない。
それでもついて来てくれる? とエマは問いかける。
一瞬の沈黙の後、ニカッと笑う子供達。
七つの壁を探すことで一致し、盛り上がる。
子供達との意思の統一を経て、レイは5つのタスクを読み上げる。
・”支援者”に連絡をとる
・”七つの壁”を探す
・(表現不能)に会う
・”約束”を結び直す
・フィル達を迎えに戻り人間の世界に渡る
「ここまでをできるだけ早くどんなに遅くても2年以内に」
絶対やる! とエマ。
レイが、まず支援者との連絡をとれるのか確かめて、と口にするのを、待って、と止めるエマ。
ユウゴ達に今の話を全部話して意思を聞いてくる、とギルダ達を見ながら松葉杖をついて食堂を出て行こうとする。
協力
「あっエマ…!」
何かに気付いたギルダがエマを止めようとする。
目の前に立ちふさがる何かにぶつかるエマ。
「聞くまでもねぇ」
そこに立っていたのはユウゴだった。
「最高じゃねぇか 食用児なんかいねぇ世界 やってみろ」
笑顔でエマを見下ろす。
俺ものった、とナイジェル、ヴァイオレット、テオが続く。
森での収穫物をエマ達に手渡すユウゴ達。
「……いいの?」
エマはユウゴやルーカス達に関して、先にこっそり逃げる選択肢もある、と続ける。
ユウゴは天を仰ぎ、命の危険だらけで相当無茶だと口にする。
先になんて逃げたくない、とテオ。
水臭いぞ、と笑うナイジェル。
今度はオレ達に力にならせてよ、とヴァイオレット。
「一緒に人間の世界へ連れてってくれんだろ?」
オジサンは楽しそうに笑いながらエマに問いかける。
(オジサンも行こう一緒に 人間の世界へ)
かつて自分がユウゴに向けて言った言葉を思い出すエマ。
「エマについていく」
ルーカスが現れ、みんな同じ思いだよ、と傍らを指さす。
そこに立っているのはGPから逃げてきた他のメンバーたちだった。
オリバーが笑顔でエマと握手をする。
ルーカスがナイジェルとレイに何かを話している。
4人は揃って盗み聴きしてたの? といたずらっぽくユウゴに問いかけるジリアン。
ユウゴは、偶然だ、と繰り返し、ムキになってジリアンの指摘を否定する。
食堂は明るい空気に満ちていた。
それを感じながら、エマも笑顔で周りを見回す。
そんな中、エマが思い出すのは今もGFで自分たちを待っているフィル達のことだった。
(フィル…待っててね)
各々の思惑
森の中。
馬の様な生き物を連れたソンジュと、その横をムジカが一緒に歩いている。
ムジカが立ち止まったのを、どうした? と問いかけるソンジュ。
ムジカは口元に笑みを浮かべた後、いいえ、とだけ答える。
エマはムジカからもらったペンダントを手に取り見つめる。
(ムジカ 私頑張るよ)
ペンダントを右手に握り、心の中で誓う。
ノーマンは自室でテーブルにつき、真剣な表情で眼前のモニターに向かっている。
ピーター=ラートリーは食用児の収められた透明の入れ物を前に電話をしていた。
電話口の相手は、バイヨン卿の遺体を見つけた、と報告する。
「彼の家来達でもみつけられなかったんだろう?」
どこにいた? とピーター。
地下壕深くに埋もれていたという電話口の相手からの答えに、それで、と先を促す。
「食用児の死体は未だ一人も見当たりません」
「おかしいな 卿らは狩りをしに来ていたはずなのに」
ピーターはGPからの引き上げを指示し、電話口の相手に指揮を任せ、周辺を捜索しろと言って電話を切る。
ピーターはGFからの脱走後、僅か半月後にGPの破壊装置の発動が起こったことに関連性を感じていた。
「偶然かな 兄さん」
「どうであれ僕が逃がさないよ 食用児はこの世界に必要なんだ」
感想
96話までが壮大なプロローグだったのか!
これまでの話が壮大な物語のプロローグに過ぎなかったと思えるような一話だった。
この先、マジで話が長そうだなあ。
GB(グローリーベル)、GV(グランドヴァレー)、GR(グッドウィルリッジ)、新農園Λ(ラムダ)、そしてソンジュの言及していた量産農園の全ての食用児を解放した上で人間の世界に行く。
その為に七つの壁を見つけ出し、それを越えて鬼のリーダーである(表現不能)と新たな約束を結ぶ。
果たして、七つの壁を越えた先にいる鬼のリーダーと約束を結び直すことで全ての農園が一気に解放されるのか?
もしそうではなかった場合、最悪少なくとも4つの農園を自力で解放しなくてはならないということになるけど、まさかそんなことは無いか。そもそも量産農園の子供なんて自分の意思があるかどうかも分からないらしいし困難にもほどがあるでしょ。
でも、エマたちには悪いけど、そっちの方がワクワクする(笑)。
そうなるとノーマンとはいつ再会するんだろうな。
ノーマンがいるのはラムダだと思うんだけど、エマ達はそこに向かうことがないわけだからノーマンが脱出するのに期待するしかないのか。
しかしなー、鬼のリーダーが約束を結び直してくれるなんてそんなことがあり得るのだろうか。
そこらへんは『交わされたもう一つの”約束”』と、”ヒント”が併記されていたみたいだけど、これはいよいよ大変なことになってきたな。
ウィリアムが言っていた”望む未来”の選択をしたエマに、ノータイムでついて行くと他のすべてのシェルターのメンバーたちが賛同した。
これにはちょっと感動した。いかにもジャンプ漫画の王道感がある。
当初は敵対していたユウゴも力強くその選択を快諾して協力する気満々というのもいい。
一気に仲間が増えたことでメンバーを分けて目の前の障害を攻略していくシーンも出て来るんだろうな。
オリバーとか人を統率できるメンバーも増えたし。
分散した戦力で同時に攻略しなくてはいけないという状況は大概苦しい展開だったりするからそういう状況を切り抜けるカタルシルが欲しい。
ノーマン編が見たいけど……!
最後、おそらくは眼前のモニターを通じて熱心に学習しているっぽいノーマンが描かれている。
その表情は鬼気迫るものだった。
多分まだノーマンのサイドに動きがあるのはもう少し先なんじゃないかな。
早く何かしらの動きが見たい。気になってしょうがない。
でも極論すると、ノーマンが動くことはすなわちエマ達との再会に近づくということと言って良い。
施設を調べるにしても、脱出するにしてもそれはエマ達との再会に繋がっていく。
辛くともノーマンの死を受け入れたエマ達が、実はノーマンが生きていたことを知った時の喜びのシーンは、今現在、この物語におけるメインディッシュの一つと言えるから、ノーマンとの再会に関してはもっともっと焦らして欲しいところ。
七つの壁に挑戦している途中、苦境に立っているエマ達を救う形で劇的な再会を遂げるとか熱い展開を希望したい。
ムジカの笑み
ムジカが笑ってたけど、これひょっとしてエマに渡したペンダントを通じて盗聴してた可能性がある?
目みたいな形状をしているし、暗示的ではある。
もしそうだとしたら、ムジカの笑顔からは心からエマたちを祝福する明るさが感じられないのは何でだろう。
あんなにエマ達に優しくしてくれたのに……。
そういえば七つの壁というキーワードをエマに教えたのはムジカだった。
ひょっとしたら結局はエマ達が最終的にはそこを目指すことを分かっていたのかもしれない。
だから盗聴していなかったとしても、エマ達が生きている、あるいは鬼に捕まっていない限りは自分の思惑通りに動いていると思って笑っていただけなのかも。
盗聴していたとして、ソンジュに報告するわけじゃないんだなあ。
暴走する巨大な野生鬼から逃げるエマ達の前に現れた時もムジカはちょっと怖い感じで描写されていたけど、あれは伏線だったのか。
ムジカが結構重要なポジションっぽく感じてしまった。ここまで思わせぶりな描写で何でもなかったということはあり得ない(笑)。
間違いなくこの先ソンジュとムジカはエマたちの前に現れるはずだ。
それが味方としてか、それとも敵としてかは分からない。
生きていたノーマン、目的が分からない果たしてソンジュとムジカ、エマ達の存在にクローズアップし始めたピーター=ラートリー。
今回、七つの壁を越えて鬼のリーダーに会うという大目標が設定されたことで、97話までに配置されてきた様々な要素が、これからいよいよ物語を活発化させる為に働き始めるという感じがして、マジでワクワクした。
ぜひこの壮大な物語を出水先生と白井先生には描き切って欲しい。最後までついていく所存です。
以上、約束のネバーランド第97話のネタバレを含む感想と考察でした。
第98話に続きます。
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