第120話 形のない怪物
目次
第119話 邂逅のおさらい
再会を喜ぶエマとノーマン
ハヤトとジンの先導により、”楽園”にやってきたエマたち。
ミネルヴァの部屋に通されたエマは、ミネルヴァを一目見て、それが既に鬼に食われて死んでいたものとばかり思っていたノーマンであることを知る。
ノーマンなの? とエマの涙を流しながらの問いかけに、ノーマンは今にも泣きそうな表情で、しかし笑顔を浮かべて頷く。
「エマ」
それを合図に二人は駆け寄っていく。
エマの脳裏に、ノーマンを救えなかったこと、そして自分たちもまた、ここまで来るまでに何度もくじけそうになってきたことが去来していた。
(私 頑張ったよ 諦めないで頑張ってこれたよ ノーマン)
涙で顔をぐしゃぐしゃにしながら、エマはノーマンの胸に飛び込み、その体をひしと抱き締める。
今自分が直面している現実に対し、嘘みたい、と繰り返すエマ。
そしてエマはノーマンの顔を両手で掴んでその顔を見上げながら、なぜ出荷されたのにここにいるのか、と一番の疑問をぶつける。
それに対しノーマンは、自分だけは別の農園で鬼に飼われていた、と簡潔に答えてみせる。
そしてエマにこれまでのいきさつを訊ね返そうとしたノーマンは、エマの左耳がないことに気づいて絶句する。
左耳はハウスに置いてきた、とエマ。
しかし間髪入れず、脱獄はできた、レイも連れてきたと笑顔で続ける。
うまくいったんだね、と感慨深い表情で応えるノーマン。
ノーマン、仲間たちとの再会
エマはミネルヴァ改めノーマンの部屋にここまで苦楽を共にしてきた仲間たち全員を連れてきていた。
仲間たちは笑顔や、あるいは驚きの表情でノーマンを見つめている。
「今の私の仲間!!」
嬉しそうに、そして誇らしげにノーマンに仲間を紹介するエマ。
「すごいや 増えたなぁ 大家族だ!」
ノーマンの姿を前にして、どういうこと? と戸惑うドン。
てっきり”ミネルヴァ”だとばかり思っていたラニオンもまた戸惑っていた。
ヴァイオレットはノーマンが写真で見た子供だと気付いていた。
「22194 22194」
アダムはノーマンを見て、彼のナンバーを繰り返す。
「生きてたの!? ほっ本物!?」
ナットが涙を流し訊ねる。
それをきっかけにしたように、子供たちがいっせいにノーマンに駆け寄っていく。
笑顔でその体を抱き留めるノーマン。
感動の再会を目の当たりにし、オリバーやジリアンが笑顔を浮かべる。
よかったなあ、と泣くナイジェル。
レイがノーマンの前に立つ。
ノーマンはレイを見つめて、感慨深げに一言、その名を呟く。
レイはそんなノーマンの顔に、突如、問答無用で一発平手打ちをする。
驚愕するエマたち。
「酷いなぁ 挨拶もナシに報復かぁ」
ハハハ、と床に座ったまま笑うノーマン。
「いいモノ見れただろ」
レイは口を真一文字にしてそんなノーマンを見下ろしていた。
「ああ…おかげでな」
しかしそう返事をすると見る見るうちにその表情が歪み、目から涙が流れていく。
「生きててよかった…!」
ノーマンとエマを同時に抱き締める。
この状況に、なんで私まで? と脳裏でツッコミを入れるエマ。
「お前ももう二度と死のうとすんじゃねぇぞ馬鹿ノーマン」
「うん…了解 馬鹿レイ」
その光景を仲間たちが笑顔で見つめる。
疑問
エマたちのこれまでの話を聞いたノーマンは、みんな本当によく頑張ったね、と労いの言葉をかける。
さらにオリバーたちGVの面々にも、会えて嬉しい、と続ける。
そして結びに、エマたちが受けた襲撃に関して、もっと早く察知できなかったことを謝罪するのだった。
悪いのはラートリー家だ、とジリアン。
ギルダは、これまでノーマンがどこにいたのかと訊ねる。
それに対し、Λ(ラムダ)7214、食用児の実験場だと答えるノーマン。
ボタンを外し、胸元のマークを見せる。
子供たちは、そのマークがアダムの胸元に入っているマークと同じだと気づく。
そこからどう出てきた? というレイの質問に、ノーマンは簡潔に答える。
「脱獄した」
共犯者を見つけて、ミネルヴァの支援者”スミー”の力を借り、ラムダを壊してきたのだと説明する。
さらにノーマンは、支援者はシスター・クローネにペンを与えた人物なのだと補足し、しかし彼は殺されてしまった、と続ける。
ピーターによる粛清で最後の支援者だったスミーが殺されたことで支援者は全滅してしまったのだという。
しかしノーマンはスミーが死ぬ前に、彼の情報と現在のアジトを始めとしたネットワークを受け継いでいたのだった。
そのノーマンの説明を聞き、エマたちはこのアジトの存在に納得するのだった。
ノーマンの話を聞きながら、ドンは改めてノーマンが一食用児にもかかわらず半年で大勢の食用児を救ったことに驚愕していた。
ミネルヴァを名乗って放送していたのも、そうすればいつかエマたちに辿り着けると思っていたからだとノーマン。
さらに自分がミネルヴァを名乗っていたのはそれ以外にも、アジト”楽園”を作る、人脈の使用、ラートリー家への脅し、鬼への宣戦布告など、あらゆる面において都合がよかったためだと説明する。
驚きの内容に絶句するエマたち。
「なあノーマン 聞きたいことが山ほどある」
その沈黙をレイが破る。
レイは、現在気になっていることを色々列挙しつつ、その前に一つ聞かせてくれ、と切り出す。
ノーマンが農園を破壊し、”楽園”を作って、何をしようとしているのかと問いかける。
ノーマンはその質問に対し、それを答えるには話しておかなければいけないことがある、と前置きし、エマたちに質問を返す。
「みんなは知ってる? なぜ鬼は人間を食べるのか 食べなければいけないのか」
「”鬼”とは何なのか」
第119話 邂逅の振り返り感想
ノーマンにも色々あった
ノーマンもエマたちと同様、ここまで来るのに本当に色々あったようだ。
やっぱり、天才ノーマンといえども一人で、全くの一からここまでを築くことはできないわな。
ラムダからの脱出はきちんと話数を割いて描写されると思っていたけど、ノーマンが既に外にでて活動しているわけだから、当然それらは全て終わった状態ということになる。
ここを本編でやらないのはもったいない気がする。
テンポが良いのはいいけどね。
エマたちの時間を一気に進める前に、ノーマンが支援者の助けや共犯者を得て、脱獄を決意するくらいまでやってくれても、ミネルヴァがノーマンだったという衝撃は変わらないと思うんだけど……。
小説など、外伝扱いとしてその辺りが詳しく語られる可能性はあるか。
ノーマンの脱獄編は本編では詳しくやらないのだろうけど、設定や話の流れ自体はきちんと作られていそうなんだよなぁ。
だから期待できるんじゃないかと思う。
最近は小説だと読み通すのがきつい…。でも気になるから出たら読むと思う。
ラムダ脱獄
やはりノーマンが囚われていたのはラムダで、そこは食用児の実験場だった。
本物のミネルヴァに助けられたのではなく、スミーという支援者の助けで共犯者と共に脱獄したと。
多分、その共犯者に少なくともあの側近の4人が含まれているのだろう。
もしかしたらハヤトもそうなるのかな?
人体強化されて、鬼を圧倒できる力を身に着けるとかあり得るのか? という疑問もある。
でも、ただ単に鍛えただけというのはどうもしっくりこないんだよね……。
そんなのでほんとに鬼と戦えるのかな。
彼らは農園を潰すにあたっての主戦力っぽいし、はやくあの側近たちに触れて欲しいわ。
感動の再会
死んでいたと思っていたノーマンとの再会。
前回、ひょっとしたらノーマンにはエマ以外の子供たちと顔を合わせる気が無かった、もしくは立場上合わせることができなかったという可能性を憂慮していたけど、全然問題なかった。
思ったよりも再会が早かった印象だ。
ノーマンとの再会は、正直もっと引っ張るかと思った。
やはり先に述べたように、ノーマンサイドとしての話の展開が欲しかった。
そして徐々にお互いに接近していき、ついに再会する、みたいな熱い展開があれば……。
テンポが良くていいけどね。
鬼
次回、物語の核心である”鬼”に関して重要な内容が明らかになりそう。
鬼とは何なのか、ってかなり根本的だと思う。
その答えの一端として、人間を食べなければいけない、と既にノーマンが明らかにした。
鬼が食用児を求めるのは、単に食の嗜好のためだけではなく、もっと鬼の生存に関わる重要なことだったということか。
鬼には普通に知能があるタイプもいるし、鬼にとって生きるために必要じゃなかったら、”約束”が結ばれる以前、人間との骨肉の争いに発展しないよなぁ。
ある程度の知能があるなら、自分たちが死ぬ危険を冒してまで、単なる嗜好の為に人間とぶつかり合うことはない気がする。
人間以外のものだって食べられるっぽいし。
人間と言う食材を通じてしか摂取出来ない鬼に必須の栄養素があるのかな?
おそらく、そんな簡単な話ではないだろうな。
ノーマンから語られる”鬼とは何なのか”の答えがすごく気になる。
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第120話 形のない怪物
正体
鬼とは何なのか。
そのノーマンの言葉を子供たちは不思議に思っていた。
そういう怪物ではないの? と子供たちが疑問を投げかける。
鬼はヒトを食べ続けなければ姿形を保つことができない、形のない怪物なんだ、とノーマン。
ノーマンは、鬼は最初から現在のような姿形だったわけではなく、元々は細菌に似た何かであったと述べる。
細菌は分裂で同じ個体を増やしていくが、鬼は、突然変異、あるいは他の生物の遺伝子を取り込み、その特徴を肉体に反映させる”遺伝子の水平伝播”によって現在のような進化・変容を遂げてきたのだという。
つまり、鬼は、捕食することでその遺伝子を取り込み、形質を受け継ぐ形で進化するのだった。
鬼はそれを繰り返し、様々な生物の遺伝子からあらゆる形質を手に入れていった。
その過程で様々な形態へと進化し、ついにヒトを食べることでヒトの姿形、高度な知能、それに伴い言葉や文化までも獲得したのだった。
鬼にとって人間は最大の好物。
そして人間にとっての天敵は鬼となった。
鬼は人間には想像もつかない速度で進化し、形を変えていく。
そんな圧倒的な存在に対し、人間は鬼、怪物、悪魔、果ては神などの名で呼称したのだった。
しかしそんな彼らも所詮は一生物に過ぎない。
その速過ぎる進化という特性にあったのは利点だけではなかった。
鬼は食べ続けなければ形質を保つことができない。
個体差があり、食べなければ元の姿に戻るわけではない。
しかし少なくとも人間を食べずにいると、人の姿形はもちろん、知能も保つことができない。
故に1000年前の”約束”があってもなお、鬼は人間の味や知能を求めて、人間を食べ続けているのだった。
「それが鬼の正体だよ」
ノーマンが結論する。
エマはあまりの内容に絶句していた。
仲間たちはノーマンの話を聞いて、鬼に色々な形があること、農園をつくって食用児を養殖する理由を理解するのだった。
鬼を絶滅させる
レイは、細菌のような単純な構造ではなく、複雑な生物と化しても柔軟な遺伝子組み換えが可能なんて、と呟く。
それに対しノーマンは、ありえない、まさに脅威だよ、と応じる。
しかしノーマンは、だからこそ食べたらすぐに遺伝情報が書き換わる、極めて不安定な生き物であり、農園を潰して人間が食べられなくなればいずれ鬼は滅ぶと続ける。
その言葉に反応を示す子供たち。
ノーマンは、鬼たちが”約束”以後1000年の間に、粗悪な量産肉を食べ続けてきたことで下級鬼の形質保持能力が近年、輪をかけて弱まってきているとして、早い個体であれば半年ヒトを食べないでいれば知恵を失って野に返るだろうという推測を口にする。
野良鬼みたいになるということか、という子供たちの質問を肯定するノーマン。
そして、質の悪すぎる量産肉やそれに対する下級鬼の不満が鬼の社会で問題となっていると付け加える。
ノーマンが農園を潰す狙いは、鬼を野良鬼にすることだとエマは理解する。
しかしギルダは、全ての農園を潰すことが食用児に可能なのか、と疑問を呈する。
ノーマンは、できるよ、と即答する。
「エマ ザジを見たんでしょう あの子の力を」
エマはザジの驚異的な鬼に対する戦闘能力を思い出していた。
ザジは、エマには振りほどく事すらできなかった鬼を、一撃で三体も斬り倒していた。
「ラムダの実験の副産物だ ザジはラムダで生まれた」
その言葉に、ノーマンとアダムがいたところだと子供たちはピンと来ていた。
希望を示すノーマン
鬼が多種多様な高級肉、あるいは良質な量産肉といった、食欲を満たしながらも実用的な、今、鬼が求める人肉を求めて鬼の5つの貴族とラートリー家が手を組んで作った、実験場、それが試験農園Λ(ラムダ)7214だった。
繰り返される投薬、実験。
その過程で筋肉や神経系の感覚に異常な発達、変則的な成長を遂げた個体が偶然に、次々と発生していた。
それがザジやハヤト達ってことか、と呟いたレイ。
ノーマンはそれを肯定する。
ジンやハヤトはラムダではなく、その系列の新型量産農園生まれだと付け加えるのだった。
ドンは、ハヤトの俊足に言及する。
ジンにもなにかあるのか、という他の子供の声が続く。
アダムの怪力や回復の早さもまた、実験の影響なのかと疑問が解けていく。
レイの脳裏には、猟場での戦いでアダムがレウウィスを遠くまで投げ飛ばした時のことが浮かんでいた。
「この力は鍛えれば鬼にも勝る戦力になる 皮肉にも全て鬼がくれたんだ 高級食用児の知恵同様にね」
ノーマンは、彼らのような”イレギュラー”確保のためにも、まずはラムダとその系列農園から解放していた。
そして、現在は、アジトにいる仲間の何割かは言ってみれば”未来のザジ”なのだという。
「ラムダの檻でずっと考えていた」
ノーマンは、エマがハウスで言った言葉を思い出していた。
(「ないならつくろうよ 変えようよ未来」)
エマならば家族みんなで笑って暮らせる未来のため、全食用児を救う道を望む。
ノーマンはそう言って、エマの顔を見る。
エマはその視線に笑みで返す。
子供たちの間にも、笑顔が広がっていく。
ノーマンは、自分もまたエマの理想の実現を望んでおり、みんなと一緒に生きる未来を実現するための最善の方法は何か考えたと続ける。
「これが僕の答えだ」
「策は既にある」
「武器戦力その他手配準備はできている」
ノーマンは、人間の世界への逃亡よりも、最も確実に全食用児を救う方法として、、鬼の絶滅を主張する。
「大人になれない世界(ネバーランド)はもう終わり」
「鬼世界に全食用児の楽園を築こう」
ノーマンの言葉を受けて、子供達はみな笑顔を浮かべる。
しかしエマはどこか浮かない表情を浮かべていた。
第120話 邂逅の振り返り感想
衝撃的内容
鬼の正体。実に意外だった。衝撃的な内容で面白かったわー。
元々はただの細菌のような存在だったとは……。
これで鬼がどこか人間に似ていた理由がつながった。
そもそも鬼が人間の言葉を話し、理解するだけではなく、文化や宗教まであるのはあまりに人間に近すぎると思ってた。
人間の知能を受け継いでいたから、人間の人間たる所以であり特徴ともいえる言葉や文化を解して当然といえば当然だ。
鬼にとって人間は美味であり、形質や知能を保持し続けるためには人間を求め続けなければならない。
人間の天敵だ。
でも逆に言えば、人間を食べられないと知能を失ってしまう。
つまり、人間が結束すれば鬼を滅ぼせるわけだ。
でもなぜラートリー家は鬼に協力し続けるのか。
いや、鬼に取り入ってきたからこそラートリー家は繁栄してきたからなのか。
だとすれば人間の欲は恐ろしい……。
”イレギュラー”
ザジのラムダ出身は予想通り。
しかしハヤトやジンがラムダ系列の量産農園出身だったとは……。
おそらくノーマンの側近3人も同じだろう。
彼ら、彼女らにはどんな力があるのか。ザジほどではなくとも優れた戦闘能力があるようだし、人間側にとって心強い味方であることは間違いない。
あと、ノーマンはラムダで将来の研究者候補として連れて来られたのか?
まさかわざわざ高い知能を持った食用児を被検体として使わないだろう。
もし被検体として、何らかの実験や投薬を受けたなら特殊な力を得ていたりするのか。
もしそうだったら、心配なのはそれによって生じるデメリットだ。
鬼の驚異的速度の進化のデメリットが生物としての不安定さだというのと同様、”イレギュラー”にも何らかのデメリットがあってもおかしくない。
肉体の力を限界まで引き出したような動きをするなら、そこに生じるのが恩恵だけとは思えない……。
今回の話のラストでエマが浮かない表情だったのも、それに思い当たっていた可能性はないか?
ノーマンは、既に鬼を絶滅させるためのあらゆる準備は万全だという。
彼の性格上、それは強がりでも自信過剰でもないだろう。
ここから食用児による鬼への大攻勢が始まる……と思いたい。
でもこのままスムーズに鬼を絶滅に向かわせることができるとは思えない。
上手くいっていると信じて疑わないというのは、かなり危うい状況だと思う。
完璧に運んでいるはずの作戦が、思わぬ形で崩れると、その精神的なダメージが計り知れないだろう。
今回は、エマのラストの表情が気になった。
この表情の意味は、ひょっとしたら彼女だけが現在の食用児側の抱える不安点、あるいは致命的な何かに気づいているということなのかもしれない。
以上、約束のネバーランド第120話のネタバレを含む感想と考察でした。
第121話の詳細はこちらをクリックしてくださいね。
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